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2004.10.27

オスカー・テマル(Oscar Temaru)を殺してはいけない

 世界のニュースをそう詳しく知りたいというものでもないのだが、私は沖縄での暮らしが長かったせいか、植民地化された島国になんとなく関心を持ち続けている。気になるのはタヒチだ。タヒチの大統領選挙をめぐって大きな社会混乱が起きている。このニュースはほとんど日本では報道されていないようなので、概要から書くべきなのだが、私自身、この問題をよく理解しているわけでもないので、取りあえず、自分の関心から書いてみたい。
 「タヒチ大統領」という呼称を使ったが正確ではない。またタヒチは国ですらはない。ナウル(参照)ですら独立国なのにタヒチは未だにフランスの植民地のままである。正式にはフランス領ポリネシアだ。その中心となるのがタヒチ島。植民地のままで独立してないのだから「大統領」なんて存在しようもない。統治機構の頂点にいるのは「正確」に言えば「行政長官」である。
 ところが、タヒチ大統領と言われることもある。例えば、原水協(原水爆禁止日本協議会)の2004年6月17日「祝:オスカー・テマルが仏領ポリネシアの新大統領に」(参照)にはこうある。


 タヒチ島を中心とするフランス領ポリネシアの新大統領にオスカー・テマルさんが選ばれました。
 ガストン・フロス前大統領は、フランスのシラク大統領とも親しく、モルロアやファンガタウファ環礁でおこなわれた核実験を推進し、20年にわたってポリネシアを支配してきました。95年にフランスが核実験を再開した際には、モルロア環礁で泳ぐパフォーマンスをして見せ、フランスの核実験はクリーンだ、などというプロパガンダをしてきた人物です。

 この記事は今年の6月の時点でテマル大統領の誕生を祝したものだ。フロス前大統領は91年から今年までこの任にあった。
 現在進行中の事態の発端は、新しいテマル大統領が廃されて、4か月ぶりに以前のフロス大統領に戻ったことだ。この点については、日本では現地からではなく、シドニー共同による報道がある。例えば、毎日新聞「仏領ポリネシア:反独立派のフロス氏が行政長官に復帰」(参照)ではこう伝えた。

南太平洋のフランス領ポリネシアの領土議会(定数57)は22日、テマル行政長官に対する不信任案可決に伴う行政長官選挙を実施、反独立派のガストン・フロス前行政長官(73)を賛成29、反対0で選出した。

 不信任案可決が反対なしということではない。28人はボイコットしたのだ。それなりの思いがあった。この状態で不信任案は正しく可決したと言えるのだろうか疑問だ。いずれにせよ、行政長官選挙、つまり実質再度の大統領選挙で、フランス支配下の自治を主張する人民連合のフロスが投票で返り咲いたのだから、これでよしということにしたい勢力がある。
 それにしても、なぜ4か月でテマル政権は転覆したのだろうか。これは別ニュースで補うと、テマル大統領が、フロス行政長官時代の会計検査を命じたことに、フロス勢力が反発したことがきっかけらしい。
 それでも、この間、国民側にテマル大統領に目立った不満があったかといえば、社会不安やそれに伴う事件は起きていない。デモやストライキもなかった。
 もっとも、結果的にフロスにも投票が集まったことを見れば、国民の状態は議会同様に拮抗して割れていたのだろうは推測できる。だから、テマル政権を国民すべてが支持していたわけではない。
 だが、テマル大統領が議会の不信任投票で罷免された16日に大規模な民衆デモが起きた。タヒチ島で一万五千人近く、他島で数千人がデモに参加した。BBC"Tahiti crisis sparks mass protest(タヒチ危機で群衆の抵抗た高まる)"(参照)は18日の時点でその状況を伝えている。

A political crisis has escalated in French Polynesia, where at least 15,000 people have staged the Pacific territory's biggest ever protest rally.
【試訳】
フランス領ポリネシアで政治危機が高まってきている。少なくとも一万五千人もの民衆が太平洋地域の植民地でかつて無い規模の反対運動に参加している。

 テマルとしては、一旦大統領に選挙されたのに、植民地制度の議会で罷免できるわけがないとしているようだ。私はそれが普通の大統領の意識というものだと思う。
 テマルへの国際的な支援層は厚いことは、先の原水禁のページからも伺える。

新大統領のオスカー・テマルさんは、長年、核実験反対運動を続け、原水禁大会にも参し、フランスの核実験被害を訴えて日本の反核運動がポリネシアの核実験被害問題に関わるっかけの一つをつくりました。非核・独立・太平洋運動の立て役者の一人でもあり、ポリシア--マオヒの人々のフランスからの独立を求めてきた政党、タビニ・フイラーティラ(ポリネシア解放戦線)の党首、タヒチ第2の都市ファアアの市長でもあります。95年には、核実験再開反対の大運動を組織し、世界の注目する中でミスター・反核実験と呼ばれていました。

 私も率直に言うとテマル支持なのでこうした心情を共感する。その分だけ、事態が気になる。
 現状では混迷を深めているようだ。26日のBBC"French Polynesia crisis mounts"(参照)では、テマルのハンガーストライキを伝えている。

French Polynesia's former President, Oscar Temaru, has gone on hunger strike to protest against his ousting.
【試訳】
フランス領ポリネシアの前大統領、オスカー・テマルは、彼の追放への抗議としてハンガーストライキを続けている。

 また、ダルフール危機情報などで最近参照することの多いロイター・アラートネットでは"Ousted French Polynesia leader starts hunger strike"(参照)で伝えている。

The ousted leader of French Polynesia began a hunger strike on Tuesday to protest against his removal and try to prevent an ally of French President Jacques Chirac from taking office.
【試訳】
フランス領ポリネシアで追放された政治指導者が、その追放とフランス大統領ジャック・シラクの同盟者たちをタヒチ政府から排除することを訴えて、火曜日からハンガーストライキに入っている。

 私はテマルは本気だと思う。本気というのは、彼はタヒチ独立に人生を賭けた人間だし、ここが彼の人生の最後の山場になると決意しているに違いない。だめなら死ぬ気だなと思う。国際社会は彼を殺すような状況にしてはいけない。
 ここでフランスのシラク大統領が出てくるのは宗主国ということもだが、この追放劇に、フランス本国からの政治工作が疑われているからだ。BBCは次のようにほのめかしている。

The new leader, Gaston Flosse, is a close ally of French President Jacques Chirac. Mr Temaru has accused France of political manoeuvring, but Paris has denied any involvement.
【試訳】
新しい指導者ガストン・フロスは、フランスのシラク大統領の強い同盟者である。テマルはフランスの政治工作を非難しているが、フランス政府はその関与を否定している。

 この問題を力でねじ伏せることは、より多くの禍根を残すことになるだろう。
 だが、と、少し奇妙な思いにかられるのだが、このニュースは人権意識が高いといつも思っていたVOA (Voice of America)に現時点でもないようだ。米国のニュースサイトでもあまり報道されていないように見える。所詮、フランスの国内問題だというのだろうか。とすると、この問題は、テマルを弾圧することで取り敢えずの収束とするといった国際的な暗黙の合意がすでにあるのだろうか。もちろん、日本国内でもこの問題は、ほとんど取りあげられていないように見える。
 さて、ここで変な話にずっこける。タヒチ危機について調べているうちに、奇妙な別のニュースがYahoo!で見つかった。"EnCana says Tahiti joint venture could produce 30,000 barrels a day"(参照)がそれだ。標題を試訳すると「エンカナによれば、タヒチのジョイントベンチャーは一日三万バレルの石油を生み出す」とのこと。これはなんだ?
 実際に石油の埋蔵がありそうなのは、メキシコ湾内のようではある。タヒチとのジョイントベンチャーというのがどういう意味を持つのかわからない。ついでにメキシコ湾内での石油開発のニュースをざっと見ていると、えっ?みたいな埋蔵量が想定されているようでもある。
 石油というとやはり陰謀論でしょ、みたいにすると話が面白いのだが、当方には想像力というものがない。
 現在の原油高が無茶苦茶にサウジを潤して(そして実際はサウジにつながっている政治グループを利して)、反面、中国をきりきりと締め付けている。しかし、こんな高値が続くわけもないし、その気になれば、地球はまだまだぶちゅーっとあちこちで石油を吹き出すようでもある。
 タヒチのジョイントベンチャーというのが、タヒチ危機やフランスの思惑に関わっていないといいと思うが、そこはまるでわからない。
 でも、なんか変だなとは思うし、率直に言って、フランスにきな臭い感じがする。

追記(2005.5.5)
その後この問題を十分にフォローしてこなかったが、いろいろな経緯もあって、テマルは行政長官に復帰した。エントリについていだいたコメント、及びトラックバックに有益な情報があるので参考にしてほしい。

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コメント

タヒチといえば、「衣食足りて、礼節を知る」を身にしみて感じた地でした。人間が全然あくせくしてなくて「暖かいところはやっぱり違うな~」なんてトンチンカンな感心をしつつ、地上の楽園だとうそぶいたりしてたのですが、よく考えればフランス領。あんな遠いところに権利持っててどうするんだ!っと思ってたらやっぱり裏があるのですね。フランスはあっちもこっちも黒い噂多すぎです。
それにしても、このご時世に旧植民地を抱えた国がたくさんあるのにびっくり。

投稿: あさ | 2004.10.27 17:10

テマル氏の肩書きは「政府主席」あたりが妥当かと思います。

投稿: うり | 2004.10.30 00:25

2004年6月から約8ヶ月に渡って、このすったもんだ劇が繰り返された。議会の票の取り合いや既得権益を守ろうとどっちにつくか・・・という日本でもよく見られるシーンがここタヒチでも垣間見られた。南太平洋地域で多くの国が貧しいながらも独立への道を果たしている中、このフランス領ポリネシアは目が離せない。

投稿: Rapita | 2005.04.29 13:54

Rapitaさん、こんにちは。該当エントリを書いたころはかなり深刻な事態だと思い、ご覧のとおり大げさに書いてしまいました。現状、持久戦的な様相のような印象を持っています。

楽園タヒチ/RAKUEN TAHITI by Rapita
http://blog.livedoor.jp/rapita37/
拝見しました。現地ならではの情報、楽しいこと深刻なこと、いろいろ教えてください。

投稿: finalvent | 2005.04.30 13:34

タヒチのオスカー・テマルについてのその後の経緯をフォローする機会がなく申し訳なく思います。

現状については、このエントリにトラックバックをいただいた「ラテンなニュース」さんの”仏領ポリネシアのオスカル・テマル(オスカー・テマル)新行政長官がパリ公式訪問”に手際よくまとまっています。

投稿: finalvent | 2005.05.05 20:18

> 不信任案可決が反対なしということではない。28人
> はボイコットしたのだ。それなりの思いがあった。この
> 状態で不信任案は正しく可決したと言えるのだろうか
> 疑問だ。

 タヒチの選挙は、比例代表制です。
でで、党は2党プラスおまけしか無い
状態です。
オスカーが不信任を食らったのは、
オスカー派28議員
ガストン派29議員
だったからです。
で、国会も過半数があると決められ
るので、与党しか出てない事の方が
多いですよ。

投稿: はま | 2005.09.07 02:15

ひょっこりたまたまとんできたのですが、英語報道だとpresidentなので、「領域大統領」という言い方でどうか、と。古典「モルロア」(ダニエルソン著淵脇訳)でもそうなっているし。あと2008年1月選挙でテマルはフロスと組んで、フロス派から分かれたトンサンを落とし、フロスを領域大統領に担ぎましたよ。自分はテマルもある種政治ゲームの魔力にとりつかれていると思います。

投稿: ひょっこり | 2008.03.14 18:35

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