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2004.09.07

白露に彼岸花

 今日は二十四節気の白露(はくろ)。早朝には草の葉に白い露が宿るという。七十二候では初候「鴻雁来」(こうがん きたる)として雁が飛来し始めるというが、それはない。それは中国の話。日本の鴻雁来は寒露。
 今年は残暑も厳しいので、秋の気配が感じられるのはまだ先かと思っていたら、川縁に彼岸花が咲いていた。なるほどもうしばらくすると彼岸には違いない。暑さ寒さも彼岸までということになるのだろう。

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アマバルの
自然誌
 東京に戻って約二年になる。その前の八年間の沖縄暮らしでは、海が臨めるところに居を求め転々とした。池澤夏樹の言うところの「アマバル」にも暮らしたが、そのころの借家の一つに、彼岸花が美しく、強く印象に残っている。沖縄で彼岸花かと感慨深かった。借家には老婆が十年以上も一人住んでいたらしく、彼女が植えたものに違いない。他にも季節ごとに各種の植物が現れ、まるでそれが彼女の遺言のようにも思えた。彼岸花は、死人花、幽霊花の異名もあるので、彼女の人生と合わせて、なにか小説のネタにでもなりそうだなとも少し思ったが、当方文才はない。
 彼岸花は、ヒガンバナ科ヒガンバナ属。ラテン名は、Lycoris radiata。あれ?リコリス?と思うかもしれないが、紫色のジェリービーンはlicorice。別物だ。赤はジンジャーだね。
 彼岸花は曼珠沙華(まんじゅさげ、まんじゅしゃげ)ともいう。いかにも仏教めいた字面のとおり、法華経の摩訶曼陀羅華曼珠沙華による。摩訶はメガと同源の語でデカイということ。曼陀羅華は中野の古本屋。残りがこの曼珠沙華というわけだが、説明にもなっていないか。法華経は経典といってもなかなかドラマ仕立てなので現代語訳で読んでも面白いもので、読むとわかるが、法華経とは、いわゆるあのお経ではなく、SFXのように宇宙に出現する真理のメモリアルのようでもある。「銀河鉄道の夜」の最後の十字架のようでもある。その出現の前触れに、ヨハネの黙示録の光景のように、吉兆として法華六瑞という六つの印が天に現れる。その一つが四華という四つの花。曼珠沙華はその一つの花にたとえられている。ってな、壮大な趣味はいかにも江戸時代らしい。英語ではRed Spider Lily、赤蜘蛛百合、とも言われる。そんな感じもする。植物としてはアマリリスの一種だ。らりらりらりらーである。
 彼岸花の由来は中国大陸からだと言われているが、大陸には現存しているのだろうか。彼岸花は史前帰化植物の一種とも言われ、縄文時代から延々と日本に住み続けていた。しかも彼岸花は縄文時代のままであるに違いない。というのも、彼岸花には種はできない。親の球根に付随して子球根ができて増殖する。が、子球根といっても交配はないので、遺伝子は同じ。彼岸花こそが日本人の来歴を知っているに違いない。
 彼岸花は有毒植物でもある。毒成分はアルカロイドのリコリン(lycorine)やガランタミン(galanthamine)だ。毒性が強いわけでもないが、一応気をつけるにこしたことはないだろう。古代人はこの毒性に目をつけて墓場の守りに植えたり、田畑の動物除けに植えたのかもしれない。
 毒は球根が強い、この球根(鱗茎)は、漢方では石蒜(せきさん)と呼ばれ、適量を去痰剤に処方することもある。しかし、アルカロイドは水溶性なので水に晒して毒抜きもできる。毒を抜いて残りの澱粉を食用にする地方もあるようだ。沖縄のソテツのようなものなのだろう。とすれば、多分、うまいに違いない。毒キノコと言われるベニテングダケも私は喰ったことあるが、うまかった。なにか、こう、毒とわかっていてもうまいんじゃないかというものに、人間は惹かれるような気がする。


【追記2004.09.20】

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毒草を食べてみた
 「毒草を食べてみた」に彼岸花の毒性について興味深い記載があるのを書くのを忘れていた。追記したい。

 毒性は、煮たり炒めたりして熱を加えても変わらない。それなのに、昔の人は飢饉とはいえ何だってこんな毒草を食べたのだろう。
 その答えを出してくれたのは、球根を粉にして蒸したものをヘソビ餅だと教えてくれた能登のおばあさんだった。明治三二年生まれの彼女は、十六歳で伊勢から嫁ぎ、かつては旧家だったであろう、海にのぞむ大きながらんとした家にひとりで住んでいた。
(中略)
 日本海の荒涼たる風景をひとりぼっちで眺めながら、彼女はときおり故郷を思い出してヘソビ餅を作るのだという。
(中略)
 ヘソビ餅は、この粉と同量の水を鍋に入れ、とろ火でねっとりとした糊のようになるまで煮詰めていく。熱いうちに皿にあけ、冷やして固める。ほとんどくずもちの要領である。しかし、味つけは黄粉やアンではなく、きざみネギと、なめ味噌のような醤だった。

 余談だが、また本書には触れられてないが、デザートによく使うタピオカにも毒性があり、彼岸花球根と同様に水にさらして毒抜きしている。この例のように、毒抜きした澱粉はそれほど珍しい食品ではない。

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コメント

 お久し振りです。
 彼岸花ですが熱冷しにも使へます。球根を摺り潰してペースト状になつたのを手拭に塗付け足裏に当てヽ冷すんですが此れァ又実にソノ、脳天に迄怖気が来る感じがしますね。但し今出来の「12時間冷却」なんていふのには負けますし、或程度熱を吸つて温つた時のむにむにした不快感は(以下自粛)。旨いかどうかは、サァ、…存じませんが。

投稿: wachthai | 2004.09.08 03:33

wachthaiさん、ども。これ話には聞いているのですが、どのくらい使われていたものか気になります。そういう用途が農村にあったのか、とも。有毒植物なので現代人が誤用すると危険ですが。

投稿: finalvent | 2004.09.08 06:09


> 今年は残暑も厳しいので、秋の気配が感じられるのはまだ先かと思っていたら、川縁に彼岸花が咲いていた。

 そうですね、一年前の今頃、文京区小石川植物園でステレオ写真で撮ったのを思い出しました。( http://homepage3.nifty.com/01117/3dcam.htm )
 あの頃は、ちょっと散りかけでした。

>というのも、彼岸花には種はできない。親の球根に付随して子球根ができて増殖する。が、子球根といっても交配はないので、遺伝子は同じ。彼岸花こそが日本人の来歴を知っているに違いない。

 最近放送大学で聞いたのは、ヒガンバナは交配する種と、しない種があるということでした。日本にはどちらが多いと言ったかな……交配しない方だったかな。
 シダ類にそのように2種類あるものが多いと、シダ専門のその教授は説明していました。われわれが学校で習った、シダが胞子で子孫を作る時期と、配偶子で子孫を作る時期が交互にくるというのはかならずしも正しくはないと言っていました。

 なぜヒガンバナに関することに耳をそばだてたかというと、しばらく前から、デスクトップミュージックで「曼珠沙華(まんじゅしゃか)」という、山口百恵さんのアルバムタイトル曲を作りかけているからです。その資料にと、写真も撮影したのでした。
 

投稿: しみづ | 2004.09.08 07:55

しみずさん、こんにちは。ちょっと調べ直したら、彼岸花も交配がありうるようですね。面白いなと思いました。山口百恵はなつかしいですね。高校のとき彼女のDJはかかさず聞いてました(DJもやっていました)。

投稿: finalvent | 2004.09.08 10:18

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