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2004.09.05

北オセチア共和国学校占拠事件

 北オセチア共和国学校占拠事件は陰惨な結果に終わった。全貌が明らかになるにつれ、喉が詰まるように苦しい思いがする。なにより子供たちの被害を知ることはつらい。死者数の公開は今後さらに増えるとも予想されている。
 この事件をどう見るべきか。すでにいくつか典型的な視点がある。いわく、テログループたちとのねばり強い対話が必要だった、背景にあるチェチェン問題を解決することがこうしたテロを防ぐことになる、ロシアの強権的な秘密主義は許せない、治安部隊の突入は失敗だった…といったものだ。しかし、実態を知るにつれ、そうしたいかにも正義じみた主張は虚しくなってくる。
 テログループたちとは対話の余地はなかったと思う。高い気温にも関わらず子供たちに水すら飲ませなかったのだ。食物がなくても人間はかなり大丈夫なものだが、水がなければ三日でアウトだ。前回の劇場テロとは違う。最初から莫大な被害を起こしてテログループはトンズラするつもりでいたようだ。
 チェチェン問題を抜本的に解決せよというのは、この問題の識者からの指摘に多いが、識者は知に溺れるの図ではないかと思う。現状のチェチェン大衆はテログループを支援していない。独立への思いはあるにせよ、現状を受け入れつつあることは、今回の選挙の支持率を見てもわかる。問題は複雑だが、現実的には大衆の生活を徐々に改善していけばよいだろう。スターリンの弾圧を受けた民族はチェチェンだけではない。
 ロシアの強権的な秘密主義はたしかに問題だが、秘密主義をやめることが今回の事件をよりよく改善する方向に寄与したかは疑問だ。むしろ、今回プーチン大統領は国連にきちんと支援を求めている。こうした事態にどのように情報を制御するかは、指導者に任される問題だろう。
 治安部隊の突入が失敗だったとも言いづらい。大半の犠牲は爆破によるもであり、この爆破は治安部隊の活動に誘発された可能性があるとしても、当初から仕組まれていたものだからだ。ひどい言い方だが、プーチン大統領にしてみれば、人質の生存も大切だが、今回のテログループを確実に殲滅することも等しい課題であったに違いない。その配慮との強行のバランスから見れば、治安部隊の行動の成否はほとんど運に任されていたように見える。
 と、いうように私は自分の頭のなかで詰め将棋をしてみる。チェックメイト…いや、そうだろうか。どこかに忘れていた退路はないのか。
 もしあるとすれば、チェチェン共和国に隣接する北オセチア共和国の治安強化だろう。今回の事件でもどうやらテログループは周到にテロを準備していた。周到であれば周到であるほどそれを阻止するチャンスもあるに違いない。いずれにせよ、テロ対策が強化されるだろうし、当然、生きにくい生活の雰囲気も漂うだろう。それこそ、実は日本人が未だ経験していないものだ。
 北オセチア共和国は、ロシア連邦を構成する共和国の一つだ。すでに述べたように東にチェチェン共和国に隣接する。共和国としの民族自治は、国名の由来でもあるオセット人によるとされている。が、人口構成を見ると、オセット人53%、ロシア人30%、イングーシ人5%(参照)。日本人から見れば、オセット人とロシア人の区別は付かないが、それはアメリカ人が日本人と韓国人、中国人の区別がつかないのと同じで、彼ら自身は、違いはっきりわかっている。同じロシア正教徒であると言っても、言語も文化も違う。古代スキタイを嗣いでいるとも言われる。北オセチア共和国のロシア人は多分にかつての支配者であろう。今回のテロもロシア人の捲き沿いを喰らったと思っているに違いない。マイノリティのイングーシ人はチェチェン人と民族的には同じ。ロシアに抵抗しなかったグループを便宜的にそう呼んだといってもいいようだ。
 ロシア連邦を構成する非ロシア系民族の多い各共和国では、表立つことはないにせよ、プーチンへの批判は出てくるだろう。ロシア人はさらにプーチンを支持するのではないか。プーチンを批判することはたやすい。しかし、このカリスマティックな大統領が折れれば、ロシア連邦にアノミーが起こるだろう。
 英国紙テレグラフは、「プーチンはこの悲劇に動じない」"Mr Putin will not be moved by this tragedy"(参照)と語ったが、彼は自国への愛からこの悲劇を嘆くことが許されていない。

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「時事」カテゴリの記事

コメント

 3日も人質が飲まず食わずでいたことを考えれば、突入の判断は仕方なかったとは思うけど、一つ気になるのは、突入前は300〜400人と言われていた人質の数が、実際には1000人を超える数だったという点ですね。なんでこんな間違った情報が流れたのか、ちょっと分からないです。

投稿: Baatarism | 2004.09.05 17:13

今回のこの一件は、ロシアをアメリカ側に接近させるように思いました。
米欧対立が深刻化していく中で、ロシアの立ち位置は非常に重要になってきてるんではないでしょうか?

余談ですが、最近の都市部のアメリカ人は、日本人、中国人、韓国人の見分けがつく人が増えているそうです。
僕は、東欧の人の違いがわかるのが密かに自慢です。

投稿: nom | 2004.09.05 18:51

Baatarismさんはじめまして。
人質の犠牲者数の発表は軍事アナリストの神浦元彰氏によれば、ロシア側の情報コントロールではないかと言う分析がなされています。
曰く、最初から莫大な犠牲者数を発表するよりも段階的に犠牲者数を増やしていった方が、だんだんショックに慣らされるのと、全体の数よりもその差分をニュースが取り上げるので(取り上げさせて)、受け手の反発やショックが少なくなると言う意図に基づいてなされているという事です。

J-RCOM(神浦氏のサイト)
http://www.kamiura.com/index.html#MENU

投稿: エフ | 2004.09.05 23:53

すいません。上のコメントですが、人質の総数の話のレスなのにちょっと論点がずれていました。

投稿: エフ | 2004.09.05 23:55

今回のテロに交渉の余地が少なかったことについては同意です。ですから強行突入も仕方なかったのかもしれません。けれど、突入をするにしてもそのタイミングは正しかったのでしょうか。また突入の仕方自体もベストなものであったのでしょうか。そのあたりの具体的な事情について素人である私達が報道される情報のみから判断することは困難であり、ロシアの対処の仕方について是非を議論することは無意味な気もします。

投稿: aquarium | 2004.09.06 01:09

こんにちは。

このニュースをCNNでリアルタイムに見てたんですけど、
2日以上放置されていた遺体を片付けるために救助部隊が入って
その撤収が終わりかけた頃に武装グループが仕掛けてあった爆弾を爆発させ
銃撃戦が開始、そのどさくさに紛れて逃走を図った人質の子供達に発砲したために
仕方なく治安部隊が応戦した、というのがこの悲劇の始まりだったようで。
ともかく犠牲になった子供に泣き崩れる母親の映像見ていると虚しくなります。

ところで、アメリカではそのニュースよりも
フロリダにハリケーン上陸のニュースの方が扱いが大きいようで、
普段US版とInternational版の混成編成のCNN日本版が
殆どの番組がInternational版に差し替えになったという有様でして…
共和党大会と韓国核疑惑を完全に吹き飛ばしてしまった
ハリケーンと人質事件という感じでしょうか。

投稿: ( ・∀・)つ〃∩ ヘェーヘェーヘェーヘェーヘェー | 2004.09.06 04:03

お久しぶりです。以前はてなのほうに民間軍事会社関連でコメントさせていただきました。
疑問に思った点をまたコメントさせていただきます。

>独立への思いはあるにせよ、現状を受け入れつつあることは、今回の選挙の支持率を見てもわかる。

この選挙(また前回も含め)の結果について私は信頼できないと思います。OSCEの委員も「非民主的な選挙だった」と述べていますし、英米の主要新聞も正統性に疑問を呈している論調です。finalventさんはこの点どうお考えですか?

しかし別にロシアの傀儡だろうがいいのです(私が言っていいことではありませんが)。これが戦争の流れの大きな転換点となりうるならば。だが前回の選挙後にも状況は何も変化していないように見受けられます。

つまり

最後にこれはただの印象論ですが、先頃の劇場占拠事件などと比較し、前準備の周到さなどの点でかなり毛色の違ったものを感じます。ただ事件の推移については映像で確認してない(できない・したくない)ため、誤解している点もあるかもしれません。

コメントというより疑問点を放り投げただけになり失礼しました。

投稿: Gomadintime | 2004.09.06 10:17

すみません。間違って送信してしまいました。
「つまり」は無いものと考えて下さい。
もう少し勉強して、考えがまとまったらまた書きます。

投稿: Gomadintime | 2004.09.06 10:20

 傀儡であれなんであれ、強力な政治力を確立した政権がないことには地域的な(今ではそれがグローバルに直結するという難題ですが)安定はないでしょう。貧困であっても強力な政権があればテロのような問題は起こらないんですし。その反面教師がアフガンであり、このチェチェンもその範疇に入るのかなと思います。

投稿: Keaton | 2004.09.06 10:25

 Gomadintimeさん、ども。チェチェンがロシアを受け入ているかという件についてはご指摘のとおり異論はあるかと思います。たしかにあの選挙の正統性は疑わしいものです。85.24%高投票率には不正なダブリがあることもわかっています。それでもアルハノフ73.48%という大勢は、彼がロシアにとりつけたチェチェン原油の輸出利益現地復興注入などの支持が強いとみていいように思えます。むしろ、今回のテロは大衆から乖離した窮鼠猫を噛むのように見えます。民衆は疲弊しすぎ、暫定的な安定を求めているのではないでしょうか。
 またそう見ていくと、問題はチェチェン内では復興の成否です。とすれば、チェチェン内部で動乱・要人暗殺などもあるでしょうが、今回隣国という形で外部に出てきたこと、また、当初から交渉の余地のないこと、アラブ人の関わりなどから、名実テロの様相を示したように思います。つまり、チェチェン問題という枠から逸れつつあります。
 ただ、率直に言うとテロ勢力というのを実体的に見ていいのかは自分でも疑問があります。変な言い方ですが、丸腰とも言えるアテネオリピックにテロがなかった。なぜなのか。国際テロは意外にきちんと統制されているのではないかという印象がありますね。
 あと、ちょっと話がそれますが、EU対米国の対立、そして中国やブラジルなどの台頭という新しい世界のなかで、ロシアはその構図に追いやられないように切迫しており、プーチンとしてもここでロシアを大きな極としてかなりの無理があっても維持したいのだろうと思います。強行はそういう点からしかたないのかという冷ややかな理解もできます。

投稿: finalvent | 2004.09.06 13:14

CNNの報道によると、武装勢力はこのような事態になるのが目的で今回の事件を仕組んだのでは、という話が出てきているようです。
初めから大量殺戮が目的とは、この事件は相当不気味ですね。
日テレの「ザ・ワイド」では、武装勢力の中に黒いベールの女性が複数居たことを伝えてました。
そういえば、例の劇場占拠事件でも最近の飛行機連続自爆墜落事件や地下鉄の駅の爆破事件でも、女性テロリストの関与が言われています。
アラブ系や白人のテロリスト(アルカイダ関与?)とチェチェン・ゲリラ(女性が多い)の結びつきは、この先テロが更に強硬化していきそうで恐ろしいですね。

投稿: ( ・∀・)つ〃∩ ヘェーヘェーヘェー | 2004.09.06 14:57

プーチン(ロシア国民)はこの事件で、チェチェンテロリスト一掃しか選択肢はなくなったのではないか。

投稿: Cyberbob:-) | 2004.09.06 15:24

テログループがしたことは絶対に擁護されるべきことではありませんが、この事件の背後をもう少しみてみると、また感想が変わってくるのではないでしょうか。わたしにはロシア政府への怒りの方が強いです。

このあたりを一読されることをお勧めします。
http://www2.diary.ne.jp/user/61383/
http://chechennews.org/log.htm

投稿: Hiro | 2004.09.07 02:44

ニュースで取り上げられない現地情勢があったので非常識かもしれないけど、勝手に全文引用します。

http://groups.msn.com/ChechenWatch/page29.msnw?action=get_message&mview=0&ID_Message=1429&LastModified=4675487713612252421&all_topics=1
ベスランの悲劇の現場、学校体育館天井に仕掛けられた爆弾は、犯行の数日前に仕掛けられたものだとロシア当局は言明している。ところでベスランは、カフカス地方随一の軍事基地のある町で規制が厳しく、イングーシ人、チェチェン人の就労を一切認めていない町である。このことは、占拠グループが実は地元のオセチア人だったのではないかという説の補強材料となる。また、ここに一見して判る容貌のアラブ人、黒人が、容易に立ちいれない町であることも明らかだ。

投稿: katute | 2004.09.07 11:21

 finalventさん、ご回答ありがとうございます。
 わからないことはまだ多々ありますが、今回の事件に関し選択肢がほとんどなかったのはその通りだと思います。
 また一般市民が疲弊しているというのもそれは当然ことだし、経済復興が必要なのもその通りです。
 ただ、人口100万人以下の国で20万人以上がこの2回の戦争で死んだと聞きます(ここは調べてもいまいちはっきりしませんでしたが)。こうした事情があるなか、ロシア側の方針の転換なしに安定が訪れるとは私にはどうしても考えられません。

 最後に「うんこを投げる」ような形になってしまいますが、正直finalventさんのダルフール問題とのスタンスの違いが理解できません。なぜチェチェンについてはこれほど冷めているのでしょうか?

投稿: Gomadintime | 2004.09.07 17:36

Gomadintimeさん、こんにちは。うまい回答にならないかもしれませんが、試みてみます。

まず、一番の認識はチェチェン問題は穏健派を支援することで取り敢えず安定に向かう可能性があると見ています。また、プーチンはそれなりに穏健派を支援する動きも見せています。逆に言えば、今回のような過激派の活動は現状から取り敢えずの安定を得たいチェチェンの民衆に益しないだろうと思うのです。

しかし、その益するというのは独立ではありません。彼らが真意では独立を望んでいることはわかります。それをあえて否定するのは、独立を望むのはチェチェンだけではなく、スターリンの残した傷跡は多民族に及び、南北分割されたオセット人にも及んでいるからです。その複雑なパンドラの箱を開いて現状のロシアが解決することは難しいでしょうし、私としては世界の大きなパワーの均衡としてロシアを今潰すことは危険だと考えています(核管理の問題もあります)。

また、今回の事件で過激派はチェチェン独立よりもイスラム大帝国を志向しているのではないかという疑いもあります。

ダルフール問題とこの問題の関わりの違いは、ごく単純に言えば、日本にはチェチェンシンパはいるのにダルフール問題に関わるNPOが見えないことです。日本に支援組織が存在するのであれば、私は引いて小さな支援に回りたいのです。

ダルフールの問題も背後に世界のパワーの関わりがあり、しかもそれが明確に見えない現状、深くコミットしたいとは思いません。しかし、少なくとも日本が虐殺の裏にいるスーダン政府を支援するようなことがあっては危険です。そのことを知ってしまった以上、ダルフールの実態と日本の関与をできるだけ知らせる必要があると思うのです。

また少し放言に聞こえるかもしれませんが、ダルフールの難民規模は100万人単位に及びます。死者の数字は明かではありませんが、万の単位になるでしょう。それに比較すればイラク戦争すら脱貧困国の政治・外交問題の小競り合いに過ぎません。今回のオセチア事件では200人ほどの子供がテロの被害に遭いました。ダルフールでは恐らく万単位の子供が殺戮されているように思えます。

ダルフールの問題は自分にとってはたまたま関わった問題です。しかし、わずかなその関わりの声が日本から出ることを世界が望んでいたようにも思えます。ブログがなんらかの可能性があるなら、その一つの例題となるべきなのだろうと思いました。

投稿: finalvent | 2004.09.07 18:43

人質に水を与えなかった話ですが、与えなかったのではなく、与えられなかったのでは、という話が、出ていました。ロシア側が早々に交渉を打ち切ったために(そもそも交渉する気があったのか不明ですが)そうなったのではないかということです。
http://www.kamiura.com/new.html

犯人グループの中にチェチェン人はいなかった、という証言もあるようです。ロシア当局が猛烈な情報操作を行っていることだけは確かなようです。

投稿: Hiro | 2004.09.09 13:24

米国→グルジア→チェチェン独立派ラインに関する情報を見つけました。
なおリンク先にも書かれていますが、これは米国が事件と関わっているという意味ではないのを念頭に置いて読んでください。
http://backno.mag2.com/reader/Back?id=0000012950

こうしてみるとどの国も自国の利益の為の政治手段としてテロ問題に関与しているのが、問題をこじらせている元凶だという気がしてなりません。

投稿: エフ | 2004.09.17 01:09

エフさんが紹介したサイトを読んでると、
アメリカ→グルジア→チェチェン独立派
アメリカ→パキスタン→タリバン(9.11以前)
が似たような構図に見えてきますね。
どっちも中央アジアからの石油パイプラインが絡んでいるところも同じです。
ただ、チェチェン独立派がイスラム原理主義色を強めていることを考えると、いずれチェチェン独立派もタリバンと同じようにアメリカの敵と見なされる可能性はあるでしょうね。

投稿: Baatarism | 2004.09.17 13:53

チェチェンのバサエフ司令官、学校占拠などで犯行声明
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20040917i407.htm
あっさり認めましたね。

投稿: ( ・∀・)つ〃∩ ヘェーヘェーヘェーヘェーヘェー | 2004.09.18 03:36

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