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2004.09.30

胡錦濤政権はたぶん国内格差を深めるだけだろう

 先の中国共産党十六期中央委員会第四回総会(四中総会)で江沢民党中央軍事委主席が辞任し、後任に胡錦濤総書記が就任した。中国の国家権力は軍にあるので、これで名実共に胡錦濤が中国の権力を掌握したように見える。日本人の多数は、これで江沢民の反日政策が終わってくれるのではないかと期待していることだろう。だから、江沢民の権力が本当に失墜したのかが気になるところだ。現状では概ね権力移譲は完了したようにも見える。もともと、江沢民は中国内での権力基盤が弱かったために反日政策を推し進めてきた経緯もあるし、鄧小平は江沢民を抜擢したものの彼らの基盤となる上海閥を警戒していた。そうした声は中国国内でなお支持されているようにも思える。
 胡錦濤主導のもとで中国がより普通の国になってくれるものなのか、現状ではそれほど悪い兆候はない。台湾侵攻の演習もほどほどで中断したし、国連のスーダン政府制裁についても真っ向から拒否権をふるうという非常識な行動は出ていない。天安門事件ではその本質を暴露したかのような人民解放軍内も、さらに世代交代が進み、エリートには米国など世界情勢をよく理解している層もあるのだろう。
 むしろ問題はそのあたりなのかもしれない。当たり前と言えば当たり前なのだし、江沢民時代でも対して変わらないことではあったが、党中央軍事委員会は胡錦濤を除き全員軍人である(以前は江沢民と胡錦濤の二人が文民だった)。しかも八人制から十一人制になった。統帥権は当然胡錦濤にあるとしても、中国も建前として取る文民統制が実現できるかについては、軍内の胡錦濤閥の権力争いにかかっている。
 胡錦濤政権の課題は彼自身が明確にしているように、まず、国家内の腐敗・汚職の刷新がある。しかし、この問題は表面的な制度面では前進は見られない。産経系「中国共産党、四中総会『決定』全文発表 体制改革見送り」(参照)の観測は正確だ。


中国共産党は二十六日、先の十六期中央委員会第四回総会(四中総会)で採択した「党の執政能力建設強化に関する党中央決定」の全文を新華社通信を通じて発表した。腐敗問題などで失った国民の信頼を回復、複雑な内外情勢に対応できる体制確立に「党の指導方式と執政方式」の「改善」が必要とし、制度上の抜本改革は見送られた。胡錦濤総書記の当初構想は大幅に後退したようだ。

 こうした対応は東洋的というか日本も似ているのだが、訓戒と厳罰、つまり、見せしめを派手にやるというのが常套だ。そうなるのだろうか。
 こうした対応を手ぬるいとの批判もあるのだろうが、私はしかたないだろうとも思う。二つ理由がある。一つは、この不正の構造が事実上中国国内格差の問題が噴出する防御の機能を持っているだろうということ、もう一つは汚職・腐敗はものの見方であっていわばこれは当たり前の人事の権力システムだろうということだ。そして、このシステムこそが軍であるかのように見える軍産共同体としての人民解放軍の正体だろう。
 統計に当たっていないので失当かもしれないが、むしろ、人民解放軍は産業部門で巨大化しているように思う。軍転用から始まった港湾、鉄道、空輸、通信、さらに、開発研究、工場、病院、観光まで各種の分野でコングロマリットになっている。これらの利潤が人民解放軍を通して共産党の維持メカニズムになっているのだが、これも中国というのはそういう国というだけに過ぎない。
 問題があるとすると、これらのコングロマリットは当然内需もあるものの、日本や韓国のように、ウォルフレンが言うところの新重商主義の施策を取っていることだ。このため、政府は為替安定のために、やはり日韓のように膨大なドル買いを通して為替介入を行っている。中国は現在人民元の対ドル・レートを1ドル=8.28元で事実上固定するペッグ制を採用したままであり、米国はこの結果中国の輸出製品が不公正に割安になっていると見ている。
 これはG7で明確な問題となる。「G7で中国に柔軟な為替制度採用を要求=米財務長官」(参照)からスノー米財務長官の発言を引用する。

 同長官は「わけわれは通貨(人民元)に関して中国に圧力を掛けるつもりだ」と言明。「中国は(この問題で)前進しているが、余りに遅い。われわれは満足しておらず、彼らとの1時間の話し合いの中でこのことをはっきりさせるつもりだ」と強調した。

 しかし根の問題は中国のドル買いにあるのだろう。Newsweek"The Almighty Yuan(日本語版では「中国『為替操作』の支配力」)"(参照)の指摘が急所を突いている。

The Chinese have got the U.S. by the throat," says William Barron, managing director of Deutsche Asset Management in London. "When China stops buying dollars, the age of cheap capital is over."

 中国がドル買いを止めれば、米国の資本調達は行き詰まる。長期金利は急上昇するだろう。まさに米国の「喉元(throat)」を中国が抑えている。余談めくがこうした中国による米国への影響力が、昨今の台湾の軍事化の焦りに関係しているようにも見える。
 と、いうわけで、胡錦濤がかりに制度上、中国の全権を握ったとしても、たぶん、彼自身の権力行使という点ではなにも出来ないのではないか。日本人の嫌がる反日政策も、こうした中国の軍産構造とマクロ経済に従属して変わるだけだろう。むしろ、中国は国内内部の所得格差などの問題に対応する機構すらないのだから、より大きな矛盾を抱え込んでいくだけかもしれないとも思う、別に中国を嫌悪して言うわけではないのだが。

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コメント

解放軍ビジネスってどうですかね。
無責任体制になっているんじゃないですか?

投稿: (anonymous) | 2004.09.30 20:08

中国がドル買いをやめれば、自然と中国の対米黒字額も減り、日本の貿易黒字及び円安介入の容認範囲が増えるかも、というのは駄目でしょうか?

そして所得格差ですが、人の移動が管理され、擬似的に国境線が引かれているような現状では、他の工業先進国が思うほどには国内矛盾となっていないかもしれません。地球上の様々な地域、国で巨大な所得格差があっても、それなりに秩序が得られているように・・・・・

投稿: カワセミ | 2004.09.30 21:18

カワセミさん、こんにちは。

中国のドル買いは日本を含めた新重商主義国家の問題でもあり、底流としては難しいように思います。というか、日本がダメ過ぎ(内需失敗)。

格差については、ご指摘の部分は言えるだろうとも思うのです。が、これについては、「民工潮」の問題が関連しています。エントリいずれ起こそうかとも思っています。

蛇足ながら、
民工潮
http://www.panda.hello-net.info/keyword/ma/minkou.htm

投稿: finalvent | 2004.10.01 06:50

中国の軍、党、政府の権力分散体制って、戦前の日本の体制と似たものを感じてしまうんですよね。この先、無責任体制にならなきゃいいんだけど。
全体をまとめられる権威を持った、「元老」に相当する人間(中国で言えば革命世代の指導者)がいなくなったいう点では、今の中国は大正時代の日本に相当するのかな?

投稿: Baatarism | 2004.10.01 10:00

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受信: 2004.10.03 16:30

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