« 某市場の動向によるとブッシュ好調 | トップページ | 「郵政民営化実現内閣」というのだが、なにが本当は問題なのか »

2004.09.27

少子化を食い止めるオランダ・モデルは主婦をなくして労働者にすること

 昨日夕食の支度を始めるころ、朝食用のパンがないことに気が付き、急遽小麦を練り始めたものの焼き上がりは10時。そして9時には手持ちぶたさもあって、たまにはニュースでも見るかとテレビをつけると、NHKスペシャル 「63億人の地図 第7回出生率~女と男・支え合う未来へ~」(参照)というのをやっていた。出生率がテーマらしい。たるそうなので、見ることにした。話は、日本より深刻な課題となっている韓国のようすと、この問題を克服したかに見えるデンマークの事例を取り上げていた。少子化に悩む日本としては、成功したデンマークの例が気になるでしょう、といった色目のちらつく奇妙な番組だった。話のアオリを引くとこうだ。


 一度は落ち込んだ出生率を回復させたデンマークは、出生率1.79。60年代、経済成長と共に生じた労働力不足を補おうと、国を挙げて女性の社会進出に取り組み、保育施設の充実や男性の育児参加を促してきた。その結果、世界で最も男性が家事労働をする国となったうえに、所得でも女性は男性の7割以上と世界一になった。つまり、男女が協力して女性の社会進出を実現させた時、出生率が上がったのである。
 一方、先進国で最も出生率が低いのは韓国の1.17。保育施設の不足や男性の育児参加が進まないこと、さらに重い教育費の負担など、日本と同じような原因が指摘されている。番組では、出生率の地図から、男と女が平等に社会に参加する、男女共同参画社会のあり方について考えていく。

 パンの焼き具合のほうが気になって、番組は上の空で見ていたこともあり、私の理解が至らないのかもしれないのだが、NHKの言い分はこうらしい。つまり、日本は男女共同参画社会の建前はできているが、その実質が伴っていないから女性への負担が大きく、それで出生率が上がらないのだ、と。
 NHKの言い分にもう一点加えると、成功例のデンマークのケースということでもあるが、「所得でも女性は男性の7割以上と世界一になった」というカラクリ、つまり、柔軟な労働制度が重要だというのだろう。
 番組では、デンマークのすげー重税について隠してはいないものの、国民の幸福度は高いからよいのだと誘導していた。みなさまのNHKとしては、日本の実質的な重税の一端である受信料も幸せならいいじゃないということなのかもしれない。ま、そのあたりは、選択の問題だというのはある。
 番組ではアメリカの状況についてはなぜか触れていなかった。アメリカの出生率はそれほど深刻な状態ではない、が、記憶によるのだが、問題を白人に限定すると日本や韓国と類似の状況であったはずだ。アメリカで出生率がある程度維持されているのはヒスパニックのセクターによる。そしてそのヒスパニックのセクターの増加は基本的には移民を受け入れる国策によるもので、この移民政策という点では、オーストラリアが現在非常に意識的に取り組んでいる。
 私の考えでは、大雑把過ぎるのだが、少子化なんて問題はどうしようもないのだから、移民を受け入れる制度や社会のほうを論じるべきだ、なのだが、あまりこうした議論は受けがよくない。
 米国もすでに、「文明の衝突」で物議を醸したハンチントンがまたまた物議の「分断されるアメリカ」で縷説しているように、アメリカのナショナル・アイデンティティーの理念型(白人であるという人種、イギリス系の民族性、民主主義の信条、プロテスタントの宗教・文化)から逸脱するヒスパニックの勢力が今後アメリカ国内の問題となりうる、のだろう。余談だが、まぬけと言われるブッシュだがあれはあれでスペイン語がなかなかさまになっているようだ。
 移民の話はなかなか日本人には違和感があるし、これはこれで別次元の話と言えばそうかもしれないので、さておくとしよう。で、他に、なんとなく私は二点違和感が残った。
 一つは国家の規模の問題だ。デンマーク王国の人口は538万人(参照)。都市東京にはるかに及ばない。日本の地方のレベルで言うと、四国の人口が360万人ほど。デンマークは四国の倍はない。つまり、その程度規模の国家の施策が日本に当てはまるものなのだろうか。もっともデンマークもEUの地方となるわけなので、そのあたりの国家と産業の規模の関係は、かなり複雑なのかもしれない。
 もう一つは、なんだかんだと言っても、このデンマークの施策は主婦撲滅政策だということ。それが悪いわけでもない。恐らく日本の先鋭的な官僚はそれを理念としているような気がする。私がなんとなく思うのは、と、これを言うと非難を浴びそうだが、日本女性の晩婚化は、小倉千加子「結婚の条件」で暗示するように、労働環境より、裕福な主婦となる願望が大きいのではないか。フェミニスト小倉あたりが、デンマークのようになれと日本の変化を求めていなさげなのも、そのあたりの現実を知っているからかもな、と思う。
 と、このあたりで、別の疑問に思いが移るのだが、日本の社会はそこまでして、つまり、主婦を撲滅して労働力に変換するほど、生産力を必要としているのだろうか?
 すでに日本の労働は第三次産業が主体だ。つまり、サービス業。しかも、労働時間という点では、ネット世界の実感だとすげー過労だとはいえ、日本の全体の表向きのところではすでに週休三日に近接している。労働状況の基本としては、この日本社会はそれほど労働力も必要としていないし、生産力も求められていない…のではないのか。
 デンマークではないが、類似の施策を取るオランダの場合、労働力は夫婦換算で「1・5モデル」と呼ばれている。片方が1でもう片方が0・5だ。フルに2としない分を家族維持に向けているという含みがある。日本の場合は、表向きは男が1ということだ。だが家庭単位では日本では成人した子供がパラサイト化しているので、1+0・2くらいかもしれない。もっともパラサイトの労働力は現状では家庭単位の労働力には換算されていないかもしれないのだが、が、今後、パラサイトが老人の介護にあたることになるので、老人の社会保障換算0・4+パラサイトのパート0・3くらいになるのだろう。
 雇用の形態からすれば、デンマークやオランダのモデルではいわゆる正社員概念も解体されるのは当然、男性もパートタイムとなりうる。随分先行的だなという思いと、いや顧みれば、日本でも実際、若い世代ではそうなっている事実はある。
 どうも要領を得ない話になってしまったが、日本の少子化というのは別に問題でもなんでもない、ただの日本社会の変質ということではないだろうかと思えてきた。
 女性にとって裕福な主婦になりたいという社会階層的なドライブ(欲望)をなくして、あるいは男性にとってビジネス欲(出世とか)をなくして、まったりと夫婦でパートをしながら子供を産んで育てることができる確信ができれば、あとは子供を持とうが持たなかろうかは、もはや国家が介在する問題ではない。その結果として、新しい日本という縮退する国家の相貌があっても、それはそういうこというだけなのだろう。

|

« 某市場の動向によるとブッシュ好調 | トップページ | 「郵政民営化実現内閣」というのだが、なにが本当は問題なのか »

コメント

デンマークでは?
論旨は変わらないと思いますが。
私も後半を少し観ただけですが、67%が税金なんてコメントはびっくりです。

投稿: やんばる原人 | 2004.09.27 15:45

やんばる原人さん、こんにちは。ご指摘ありがとうございます。そういえばと思って、オランダの資料を見ていて勘違いしました。ちょっとこの勘違いがエントリ全般にわたっていたので、del-insでなく書き換えました。ご指摘のとおり、論旨は変わらないので、見逃してくださいませ。

投稿: finalvent | 2004.09.27 16:26

アメリカの出生率ですが、白人女性に限定しても1.9とかそんな数字だったと思います。以前耳にした範囲ではレーガン保守革命以来というような話でしたが。

イメージと違ってアメリカでは福祉政策で出すところでは出しており、州によって状況が違うかもしれませんが、未婚の母が働かず食っていけるのは当たり前らしいです。

ミもフタもないですが、日本でもお金の話に帰着するのではないでしょうか。生産力も労働力も不要でしょうが、収入は必要なのは悩ましい話です。今の若者は生きるだけで必死みたいで、ここ数年くらいの大学生は昔と違って勉強してるみたいですね。

投稿: カワセミ | 2004.09.27 20:35

この本によると、出生率が上がろうが、多少外国人労働者を入れようが、女性や高齢者の就労率が高まろうが、この先日本は急速な人口減少と経済縮小を経験することになるみたいですね。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532350956/249-4324738-4887552

投稿: Baatarism | 2004.09.27 23:56

先行き不透明な状態では今を生きる以外に子供を育てるとか以外にも長いスパンの計画は立てる気が起きないし立てても無駄なのではないだろうか。「できちゃった」婚というのはそうした表れではないか。何か子に託す引継ぎを必要とする特殊職業の人は相変わらず統計的傾向と関係なくありつづけるだろうが。あるいは宗教とか・・

投稿: (anonymous) | 2004.09.28 05:56

以前米国アフリカンの「国家内国家」運動のニュースがあったが、結局文化的に近縁なものどおしが、メリットデメリットをふくめて自足的にコミュニティー運営してゆくのが正しい姿だと思う。
目先の経済利益で移民を導入しても中期的に社会コストが高く付くのは実証済みだし、そもそも多くの日本既婚夫婦自体、ほんとうは3人の子を持つことを望んでいるのだから、そう言う意味ではやはり条件整備の問題と捉えて良いと思う。

なお、一部の移民賛成派、地球市民派、人権派、はこんなことをいう人たちなので、ますます疑いの目を持ってしまう。。。

===

外国人がたくさん日本国籍を取ったほうが、早く天皇制は潰れると思います。というのは、この先もどんどん外国系市民が増えます。ある統計では、一〇〇年後には五人の内三人が外国系になるといいます。そうなれば、日本で大和民族がマイノリティーになるのです。だから、私はあと一〇〇年生きて、なんとしても日本人を差別して死にたいです。これが夢です(笑)。そういう社会が来たら、その時に天皇なんていうのは小数民族の酋長さんみたいなものになります。

こうした素晴らしい戦術があるのに、それを、今の左派のように、日本国籍を取ったらダメだということをやっていたら、いつまでたっても天皇制は温存されたままではないですか。
http://members.jcom.home.ne.jp/j-citizenship/siryousyuu7.htm

===

おなじ考え方を韓国朝鮮で適用すると、まず韓国朝鮮が中国になってしまうんだけど、そこまでは考えないようですね。
あいかわらずダブルスタンダードだ。

投稿: あすく | 2004.09.28 12:26

何人かのデンマーク人男性に聞いたことがあるのですが、未だにデンマークでも男性が昼間公園で子供を遊ばせているといい顔をしない人がいると聞きます。それと女性の所得水準は同じ仕事をしていても、男性のそれより低いということは往々にしてあるとも。
大会社でも日本でいう人事権やお金を動かすことのできる権限をもった部長クラスの女性なんて会ったことがあるのは一人だけ。私自身のせまーい体験ですので、たまたまなのかもしれませんが。
うーん、こうしてみると日本の社会福祉に対する北欧幻想ってのはアメリカンドリームと似たようなものかなぁって感じます。

投稿: ヤシマ | 2004.09.28 13:16

ここ、読んでるのって男性が圧倒的なのかな。
実際働きながらの子育ては今でも大変だしお金もかかります。仕事休めないし、辞めれば復職できるか不安で、子どもを持つ勇気が出ないまま、歳を重ねている女の人は多いんです。(私もです)
バブル末期の頃、3人の子育て真っ最中の知人無職既婚女性が、「大変だけど、お金がかかるようになると夫の収入もちゃんと上がるのよね」なんて言っていたのを思い出します。コマダムもいいですが、お金あってのこと、収入が足りなければ共稼ぎとなります。
国政の少子化対策がいろいろ言われてますが、母親が子どもを産む(親が子どもを持つ)かどうかの積み重ねだってこと、考えてないような気がします。税金上げてもいいから、保育所とか育児休暇(名前だけじゃなくて実のあるもの)とか便利にならないかなあ。(切実)

投稿: あさ | 2004.09.28 13:52

finalventさん、こんばんは。

本エントリを拙文にTBさせて頂きました。内容は穴だらけだと思いますが、私の現時点の理解度、そして周りの関心を促すためのβ1ということでご寛恕下さい。

別エントリの話になりますが、MacOSXではDFP中楷書体とDFP教科書体がくにがまえとくちの区別をしてますね。京極夏彦が使っているヒラギノ明朝がサイズの大小だけだったのはちょっとしたショックでした。

投稿: Giraud | 2004.10.05 23:45

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/657/1533735

この記事へのトラックバック一覧です: 少子化を食い止めるオランダ・モデルは主婦をなくして労働者にすること:

» 少子化とか移民とか、そしてちょっと年金とか:β1 version [月ナル者]
 少子化は本当に問題なのかと私は常々思うわけだ、いや私が30過ぎても独身で少子化 [続きを読む]

受信: 2004.10.05 22:29

» 不況と少子化 [それでも地球は回る]
極東ブログ: 少子化を食い止めるオランダ・モデルは主婦をなくして労働者にすること NHKスペシャルで、他国における少子化への取り組みを放送していた。 見た人... [続きを読む]

受信: 2005.01.26 03:50

« 某市場の動向によるとブッシュ好調 | トップページ | 「郵政民営化実現内閣」というのだが、なにが本当は問題なのか »