レバノン大統領選挙がシリアの内政干渉で消える
米国大統領選挙と同様11月に予定されていたレバノン大統領選が消失しそうだ。レバノン内閣は、ラフード現大統領が選挙をせずに任期を三年間延長するという憲法改正案を国会に提出した。今日あたり可決するのだろう。ニュースはVOA"Lebanon, Syria Criticize UN Draft Resolution "(参照)に詳しい。
言うまでもなく、ラフード大統領下のレバノンはシリアの傀儡である。レバノン内戦(1975-89)の初期、1976年以降、アラブ首脳会議の決定ということでシリアが「アラブ平和維持軍」という名目で派兵したまま一万五千人もの部隊を駐留させ、レバノンの内政干渉を続けている。なお、フィナンシャルタイムズ"Syria's own goal"などでは二万人としている(参照)。内戦の詳細は、Wikipediaの「レバノン内戦」(参照)に詳しい。
シリアも明からさまにふざけたことをやってくれものだというのが欧米の一般的な認識だ。レバノン憲法では、大統領任期は1期6年で連続2期の再選は認められない。しかし、選挙は直接選挙ではなく128人の国会議員で行うので、その理屈からすると、国会で憲法改正案が通るなら同じことと言えるのかもしれない。が、レバノン国民の民主化の願いは潰える。
この事態を受け、米国、フランス、イギリスが主体となり、国連安全保障理事会を通じて、シリアによるレバノン内政干渉中止決議のドラフトが作成された。が、制裁は無理だろう。ダルフール問題ですらスーダンへの制裁はロシアによって覆された。レバノンの件では中国系の報道をみると、これらを欧米の内政干渉として牽制する向きが多いようだ。中国もこの件についてはシリア側に立つことになるだろう。
国連安保理を経由する以外にも、米国、フランス、イギリス、さらにはドイツもそれぞれ独自の外交を展開しつつある。特に米国の場合、中東担当バーンズ国務次官補がシリアに訪問する予定だ。シリアはフセイン下のイラクほど反米に固まっているわけでもないので、こうした米国側の圧力で大統領選が実施されるかもしれない。
冷酷な見方をすると、米国の本音はそれほどシリアへの敵視は少ないのではないかとも思う。極東ブログ「シリア制裁発動」(参照)でも触れたように、すでに発動された米国のシリア制裁も及び腰ではあった。対イスラエル的にそれほど物騒な騒動を起こしてくれるなというあたりが、同じく大統領選挙を控えている米国の内情ではないか。ニューヨークタイムズ"Lebanon's Lost Sovereignty"(参照)の糾弾のトーンもそれほど高くはない。
フランスはレバノンの宗主国という面子があり、またイギリスも歴史的にこの地域に関わってきた経緯もある。欧米側の反応にはレバノンに多いキリスト教徒への配慮もあるかもしれない。
事態にはなんとなく落としどころが見えるのだが、そこに落ち着くかどうかが、しばらく注目すべき状態だ。
ところで、国内でのこの問題の扱いは軽い。かろうじて毎日新聞が扱っている程度のようだ。9月1日から日本でもGoogleのニュースサービスが開始されのでレバノンで検索してもたいした情報はない。情報統制があるとも思えないのだが、よくわからない。
ついでにJANJANの姿勢も批判しておきたい。レバノン大統領選挙を扱った記事「カルロス・ゴーン 期待のレバノン大統領候補」(参照)は、問題の本質にせまらずただのお笑いに仕立てて終わっている。JANJANはスーダン・ダルフール問題でも当初は剥きだしの反米といった姿勢だけだったが、オールタナティブなジャーナリズムを志向するならそれなりの水準の見識を示して欲しいと思う。同様に天木直人にも期待したい。彼はココログのブログ「天木直人・マスメディアの裏を読む」(参照)のプロフィールにはなぜか記載されていないが、2001.3-2003.8の期間駐レバノン国日本国特命全権大使であったはずだ。レバノンの内情に詳しいはずなので、なんらかの言及があってしかるべきだろう。
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