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2004.09.02

ミサイル防衛という白痴同盟

 中国人民解放軍が台湾を威嚇するために台湾海峡沿い東山島で行っていた軍事演習が突然中断した。これを受けて、台湾側での対向軍事演習も中断。まずはよかったが、潜在的な問題が解消に向かうわけではない。中国側はこの機に、米国による台湾への武器輸出が台湾の独立気運を高めることでこの地域の平和を脅かしているとして、武器輸出を中止すべきだとアナウンスした(参照)。最初に脅しをかけておきながらなに言ってやがんだと思うが、台湾独立云々は論外としても、台湾が米国から大量の武器輸入を行っているのは確かだし、今後も軍事費は増えるだろう。と、他人事のように言える日本でもない。
 中国はこうした問題では滑稽なほど自分勝手なことだけほざくものだが、事態は笑って済ませる段階を越えているかもしれない。VOAニュース"Pentagon Report: Asia Tops World Arms Purchases"(「ペンタゴン・リポート:アジアは武器購入の最上位顧客」)(参照)を読んで気が沈んだ。ネタ元のレポートは"Conventional Arms Transfers to Developing Nations"である。


A just-released study by Congress finds Asia has eclipsed the Middle East as the world's largest buyer of weapons, with Russia and China the region's largest providers.

While the United States remains the world's biggest arms provider, this new report from the research service of the Library of Congress finds that Asia is now the world's biggest buyer.


 もはや世界で武器購入のお得意様と言ったら中東を抜いて今やアジアがトップということだ。世界規模で見るなら最大の武器販売国は言うまでもなく米国だが、この地域に限定すると中国とロシアが最大の販売国になるというのだ。
 特に中国がひどいという印象を受ける。

A recent report by the Pentagon concluded Beijing has embarked on an ambitious, long-term effort to modernize its military through purchases of advanced technology, intended to bring its military more in line with those in the developed world.

 中国は兵器を売りつつ、自国では最新の軍事技術の購入を行っている。なに考えてんだ中国と思って、同ニュースを中国側で見るとチャイナデイリーに"US still dominate arms market, but world total falls"(参照)がある。こちらのニュースでは、力点は米国が武器市場を独占していることに置かれ、中国国内の状況には触れていない。そんなものなのだろう。
 こうした状況に日本も他人事ではないのは、端的に言って、れいのミサイル防衛システムの購入があるからだ。ちょうど一年前の読売新聞の記事だが「ミサイル防衛 唐突さ否めない概算要求の計上」(2003.8.30)にはミサイル防衛システムに対する予算として、こうあった。

 防衛庁が導入を計画しているのは、米国が二〇〇四年から二〇〇五年にかけて米本土に配備するシステムで、イージス艦発射型の「SM3」ミサイルと、地上配備型のパトリオット「PAC3」ミサイルを組み合わせる方式だ。
 これは、日本に飛来する弾道ミサイルをSM3が大気圏外で迎撃し、撃ち漏らした場合、着弾直前にPAC3で迎え撃つ二段階方式。同庁は二〇〇七年度中の実戦配備に向け、来年度予算に自衛隊のイージス艦とパトリオットの改修費、ミサイル本体の取得費など千三百四十一億円を計上した。配備までには最低五千億円が見込まれている。

 それで日本がミサイル攻撃から防御できるなら高い買い物ではない。が、ミサイル防衛システムなんか機能しっこないのだ。この問題はここでは詳細には触れない。私が依拠しているのは、"Union of Concerned Scientists"による"Technical Realities: National Missile Defense Deployment in 2004"(参照)だ。

The ballistic missile defense system that the United States will deploy later this year will have no demonstrated defensive capability and will be ineffective against a real attack by long-range ballistic missiles. The administration's claims that the system will be reliable and highly effective are irresponsible exaggerations. There is no technical justification for deployment of the system, nor are there sound reasons to procure and deploy additional interceptors.

 私はこの科学者の言明を信じている。だから、ミサイル防衛システムなんてものに取り組むやつらは、ばかじゃないのか、と思う。
 これをきちんと言明したのは、カナダ自由党のキャロリン・パリッシュ閣僚だ。先月25日のことだ。きちんと、ミサイル防衛を白痴(idiot)だと言ってのけた。カナダでは連日の話題になったが、一例として、"'Coalition of idiots' backs missile defence: MP"(参照)によれば、パリッシュはこう言及した。

"We are not joining the coalition of the idiots," Parrish said at a small anti-missile-defence rally outside the Parliament buildings.

 発言は「私たちカナダ人は白痴同盟なんかに参加しませんよ」ということだ。"the coalition of the idiots"は、もちろん、イラク戦争の有志同盟(Coalition of the Willing)をもじったものだ。
 この発言はお下品ということで物議をかもした。が、もちろん、米国とカナダのこういう側面の険悪な感じは、サウスパークを見るまでもなく日常的なものなので、米国人側はそれほど意に介していない。カナダ側としても、本音ではキャロリン・パリッシュの暴言を責めているふうでもない。Eye Weekly"Politically incorrect"(参照)が笑える。

George Bush is a moron (if not clinically, then at least in the common usage of that word). Dick Cheney is a greedhead. The American government is run by a bunch of rich assholes, for the benefit of a bunch of other rich assholes. Missile defence is an idiotic idea.

None of the above is particularly newsworthy, as far as I can tell, and despite my blunt phrasing, I'm unlikely to be challenged very vigorously on any of the above assertions because for a substantial chunk of Canadian society, these ideas are simple, uncontroversial and accepted.


 ちょっとお下品過ぎるので訳せないが、そういうことだ。
 私は米国全体を見ればばかの集まりとはまるで思わない。イラク攻撃を行った「有志同盟」についてもそれほど批判的ではない。
 ただ、ミサイル防衛に血道を上げる国はパリッシュが言うように白痴同盟だと思う。そして、一点の疑いもなく、日本は白痴同盟の構成員だ。

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「時事」カテゴリの記事

コメント

これに関しては色々な意見がありますが、必ずしも無用なものではないと思います。まず戦略ミサイル防衛ですが、これはレーガン政権時代のスターウォーズ計画同様、政治的道具としての機能を期待していると言うことではないでしょうか。
すなわち、一定以下の技術水準であっても、それが仮想敵国国内の意思決定プロセスにおいてある水準以上抑止方向に作用すれば価値ありということです。

また、戦域ミサイル防衛に関しては、戦略ミサイル防衛と異なり欧州諸国も必ずしも反対でないようです。途上国やたまたまいくつかを入手したテロリスト対策なら技術的にも有効な範囲とみなされているようです。

そして両者の間で技術的に関連があるので、全体として推進されているとみるべきでしょう。

投稿: カワセミ | 2004.09.02 21:35

いつも興味深い記事を書いていただきありがとうございます。

先生のおっしゃるとおり、「ハクチ同盟」だとは思いますが。。。それでも、いくつかのメリットが存在すると思います。

1)攻撃ミサイル配備の阻止
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
防御不可能ということになりますと、必然的に対抗上、日本に
先制攻撃用の核ミサイルを配備しなければいけないという
ことになると思います。それ以外に日本人民を守る手段が
無いということになりますので。
 ただ、個人的には昨今の原子力発電のお粗末さを考えると
日本が安全に攻撃用核ミサイルを管理できるか?という話にもつながりますので、出来れば避けたいと。

2)ミサイル技術の向上
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
開発が継続していけば、いつかは当たる確率は増えるかも知れません。ある程度まで技術が出来たら、実際に使用しながら、
アルゴル・パラメータの変更が必要なので。。。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一つ気になっているのですが、YF-12にはジーンズ(すいません、うる覚えで)空対空核ミサイルが搭載可能でした。
配置されるアンチミサイルーミサイルに核搭載すれば、
実現可能なのかも知れません。ハクチでなく。。。
そして、それは……絶対に公表されないでしょう。

以上、失礼します。


投稿: kekeke(y) | 2004.09.03 00:02

宇宙関係は多少、関わったことがあるので一言コメントしますが、finalventさんが書かれたようにミサイル防衛システムの有効性には疑問があります。
たしかに政治的道具としての有用性はあるのかも知れませんが、その割にはコストが高すぎると私は思います。
(日経新聞などの記事によればミサイル防衛の為に、900億から1000億円の予算が今年度の予算に計上された)
それと、防衛用の迎撃ミサイルなどばかりに目が集まっていますが、肝心のそれを制御するシステムや探知システム等はかなりお寒いままなのが問題です。米・露などは複数の早期警戒衛星を軌道にあげて、ミサイル発射時の赤外線をいつでもチェック出来るシステムが構築されていますが、日本ではこの前の偵察衛星打ち上げ失敗で、軌道上にある監視衛星はたったの1機、しかもこれは地上を細かくスキャンする為の衛星で、ミサイル発射を監視するものではありません。

投稿: エフ | 2004.09.03 01:41

こんにちは。
ミサイル防衛をどう評価するかは置いておいて、お下品発現について。そうなんですパリッシュを責めている(恥だとか政治家ならどうしたとか)という感じがカナダで認められないというのはなかなか興味深いです。一応のように、こういうことを言うべきではないという方向からお前が馬鹿だと新聞に投書しているのを1件見ましたが、新聞がバランスで載せたって気がします。ただ、感情的にではなくて北米防衛圏構想をやった体験から考えて、こんなのってなんか役に建つのか?主に実務部隊を考えて、人びとがのってこないような感じがしてます。遠くから見ると理論ですが、近くでみるとそれもひとつの人の労働ですからね。

もしご興味があればその日の日記です。粗い話ですが。
http://d.hatena.ne.jp/Soreda/searchdiary?word=%A5%D1%A5%EA%A5%C3%A5%B7%A5%E5&.submit=%B8%A1%BA%F7

投稿: Soreda | 2004.09.03 09:56

2ちゃんねるの軍事板だと日本のMD導入はとち狂った決定だという論調が主流みたいですね。MDそのものの有効性もそうですが、導入コスト捻出に伴う通常戦力の大幅削減によって日本の防衛が危機的状況に陥るのではないかと激しい批判が巻き起こってます。折りしも防衛計画の大綱も改定されるところですし、このtransformationの結果自衛隊がどのような姿になるのか、またその前座として来年度予算の折衝結果もどうなるのか、住人一同やきもきしながら見守っているようです。

参考までに。
【新防衛大綱】安全保障と防衛力に関する懇談会
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/army/1089825274/

投稿: だい | 2004.09.03 10:01

確かに白痴ですね。
実際に運用時の有効性に疑問が残るし
予算的な問題もありそうで

ここは一つ、MD予算は別口で用意したらどうでしょう
MD配備は、中国に対する心理的はったりとして有効だと思う
運用時の有効性を冷静に判断すれば白痴だけど。

投稿: きん太 | 2004.09.06 06:14

MDを批判するのか簡単ですが、そもそもMDに頼らざるを得ない状況が日本には有るのを忘れてはならないと思う

すなわち「日本には大陸まで届く弾道ミサイルや爆撃機がない」ということ
日本に核ミサイルでもあればMDに力を入れずに済むんですから

投稿: waha | 2007.12.28 01:32

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