中国との国境も近い北朝鮮北部の両江道金亨稷郡で9日、大規模の爆発があった。日本では昨日の正午前ころからNHKを初めぽつぽつと報道が始まった。NHKは核実験の可能性については一切言及していなかったが、ちょうど前日11日付け(但し米国東岸時)のニューヨークタイムズが北朝鮮は近日中に核実験をするだろうとする解説記事"Reports May Indicate N.Korea Nuclear Test - NY Times"(参照)を出していたこともあり、この爆破が該当するのかが欧米のジャーナリズムの中心的な関心となった。
核兵器実験ではないとする見解は昨日の3時ごろからぽつぽつと出始めた。理由は納得しやすい。大きく2点ある。(1)核実験なら特有の地震波が検出されるものだがその報告はない、(2)近隣の極東地域で放射能が検出されたという報告はない。
これらの理由は爆破が核実験ではないと説得するための材料としては良質なもので、ニュースが出て一夜明けたのち、日本国内では不可解な爆破だが核実験ではないだろうという安閑としてムードが感じられる。幸い、今日は新聞休刊日なので朝日新聞なども朋友に苦慮した社説を書く必要もない。
では、本当に核実験ではないのか? また、この報道の流れは何を意味しているのか?
私の現状の考えでは、核実験説は十分に否定されていない。むしろ、当初核実験への恐怖の影響に探りを入れたような報道に火消しをするような報道のありかたが、胡散臭い。特に韓国系の報道ではこの火消し報道が目立つ。隣接しているせいもあり社会不安を避けたいというのは理解できるが、この火消し情報は、昨今の韓国自身の核開発報道への火消しと同じような文脈に見えてしまうので、それだけでヘタレ感が漂う。韓国側の最たるヘタレは、どうもこの事態を韓国が把握していなかったと思えることだ。今回の事件で使える報道は朝鮮日報だけだな感が出てきたが、その「北は両江道爆発の真相公開すべき」(参照)ではこう伝えている。
国家安保会議(NSC)常任委員会は不審な大規模爆発が起きてから3日後に開かれている上、統一部長官もこの時やっと事実を知ったとされる。また、きちんとした衛星写真一枚すら確保できずにいると報じられているのが現状だ。とかく国民は安心できない。
韓国がまったくの蚊帳の外ということはないが、韓国国政に影響する情報(インテリジェンス)にすでに不全が起きているのは確かと見ていいだろう。このあたりの米国のやり口はぞっとするものがある。と、同時にこの蚊帳の外のボンクラに日本人も立つことは言うまでもない。外務省、ダメ過ぎ。
日本の外務省ダメ過ぎは中国側からの情報の扱いもある。もしかすると、外務省のチャイナスクールにはリークされていた可能性もある。というのは、今回の爆破事件は早々に中国で観察されていたようだ。日本国内では他紙に先駆けて報道した産経新聞「北朝鮮北部で大規模爆発 9日に中国国境近くで」(
参照)がわかりやすい。なお、同記事は初報道からリライトされているようだ。
韓国の通信社、聯合ニュースは12日、北京の消息筋の話として、中朝国境に近い北朝鮮北部の両江道金亨稷郡で9日、大規模な爆発があったと報じた。同ニュースは現場で直径3.5-4キロのきのこ雲が観測され、4月に平安北道・竜川駅で起きた列車爆発事故より大規模だとしており、核実験やミサイル爆発との見方も浮上。韓国政府や米当局者は核爆発や核実験の可能性に否定的だが、原因は不明で、日本含め関係各国が情報収集を急いでいる。
重要な点は、北京側では直径4キロほどのキノコ雲(mushroom cloud)の目視情報を得ていることだ。見ていたのである。ある意味で、今回の事件の重要なキーワードがこのキノコ雲(mushroom cloud)だ。補足としてABC"Blast, Mushroom Cloud Reported in N. Korea"(
参照)も引用しておこう。
"We understand that a mushroom-shaped cloud about 3.5- to 4-kilometer (2.2 miles to 2.5 miles) in diameter was monitored during the explosion," the source in Seoul told Yonhap. Yonhap described the source as "reliable."
一応韓国ソースとしているが北京側の二次ソースと見てよくその限定では、この情報が"reliable"(信頼に足る)という点が重要だ。
キノコ雲からわかる爆破の規模に注目したい。規模は私の記憶では広島原発の二倍の規模はある。目視者およびその報告を受けた中国側としては、最初の前提として核実験を想定したことは疑いえない。そしてこれが中国国境付近であることから中国への牽制の意図も想定しただろう。すでに極東ブログでもほのめかして書いたが、金正日は中国によって殺害され傀儡政権を打ち立てられることを極度に恐れている。
米国も当然ながらこの爆破を衛星から確認している。先のニューヨークタイムズの解説のように北朝鮮でいつ核実験が始まってもおかしくない状況にも入っている。
ここで重要な問題となるのは、9日から12日までの情報の隠蔽だ。これはそう無理な推理ではなく、北京とワシントン側が、核実験ではないだろうと推定するためのタイムラグだったと言えるだろう。そして、北京側とワシントン側は双方の思惑があって、情報の揺さ振りをかけたように思われる。このあたりの情報の二系の奇妙さを先のABCも注目している。
The Yonhap news agency carried conflicting reports from unidentified sources, with one in Washington saying the incident could be related to a natural disaster such as a forest fire. It also cited a diplomatic source in Seoul as raising the possibility of an accident or a nuclear test.
この揺さ振りで韓国の現実逃避的なハズシ感と日本の熟睡感が十分にプローブ(検知)できたのではないか。当然ながら、この二国は現状に対して十分な影響力行使を絶望と呼べるほど放棄している。余談だが、国内のネットの状況も同様に思えた。おそらく面白い陰謀論という切り込み隊長がいないせいでもあるのだろう。それと欧米系の情報を日本市民は十分い取り扱いできていないようにも見える。
話をある意味で原点に戻す。今回の爆破は核実験ではなかったのか? 当方が陰謀論の切り込み隊長のように取られかねないが、慎重に見る限り、核実験説は十分に否定されていない。私はどう考えてもそうだと思う。こんなとき、一番信頼できるのは、北朝鮮問題を独自に追及しているブログNorth Korea Zoneなのだが、その該当エントリ"Did North Korea Just Test a Nuke?"(
参照)にはこうある。
UPDATE III: Both Colin Powell and the South Koreans are downplaying the possibility that it was a nuke test, yet none of them seem willing to completely rule it out. What about the possibility that it was a failed nuke test, or the test of a fuel-air explosive (which would be similar to a low-yield nuke)? Furthermore, one should treat South Korean efforts--and those of our own State Department--to downplay North Korea's nuclear threat with extreme caution. It's probably only safe to say that we don't know the answer yet, and none of those in a position to really know are telling us.
重要なコメントなのだが、当面の要点としては、核実験ではない断言はできない、としていることだ。
別の言い方をすれば、奇妙な巡り合わせになったとも言えるニューヨークタイムズによる、北朝鮮の核実験準備の解説は十分に未だ有効だと言える。つまり、北朝鮮の核実験の可能性は、可能性という点でいうのなら、未だ重要な問題のままだ。
実際問題として、今回の爆破について北朝鮮がどのような言及をするのか、あるいはしないのかは重要な課題だ。陰謀論的に言えば、この間に口止めされている可能性もゼロではあるまい。冗談としてだが、ネットには"Korean Mushroom Cloud Was Nuclear Test, Says Kim Jong Il"(
参照)という情報もあった。
Officials with KCNA, the North's official news agency, said that Powell was "misinformed" and that they "possess evidence that positively identifies the explosion as having resulted from a nuclear weapon test." The evidence is considered to be conclusive, but, said one official, "Release of the materials at this time would constitute a national security breach."
いかにも北朝鮮が言いそうな雰囲気はある。もちろん、これを田中宇的に受け止めないでほしい。ただのネタだ。
最後に一点、現状では今回の爆破を核実験と見るのはやや無理があるだろう。しかし、それだけの破壊力が何によってもたらされたのかということも重要な課題だ。この点については前回の龍川爆発事故ですら事実上解明されていない。私の雑駁な推測を言えばミサイル燃料かなとも思うが、North Korea Zoneが可能性として示唆する真空爆弾ということがあっても不思議ではない。
【追記 同日15:22】
冗談の北朝鮮談話が紛らわしいのでリライトした。
【追記 同日19:34】
新華社から以下の報道があった。実態がなんであれ、中国が収める形にすれば国際問題としては半分は解決したようなもの。
北朝鮮外務省、先週の爆発が発電所建設の一環だったと確認=新華社(参照)
新華社の報道は、「北朝鮮外務省当局者は、先週、同国北部で発生した爆発が、発電所プロジェクトの一環だったことを確認した」という簡単なものだった。
【追記2004.09.21】
このエントリについて、ついに極東ブログもヤキが回ったかという感じの声が聞かれた。また、エントリをずたずたに編集してまで意図曲解している例もあるようだ。しかし、IAEA(国際原子力機関)のエルバラダイ事務局長は9月19日のCNNインタビューで、北朝鮮の核実験の可能性を100%排除することはできないと明言しており、依然、このエントリの視点に失当はない。CNNオリジナルは見つからないが、VOA"IAEA Chief Appeals to North Korea to Allow in International Experts"(参照)は信頼できる。
"I think I would like to go there. Our experts would go there. If North Korea would like to exclude that possibility [of a nuclear blast] completely, they would be well-advised to allow us and other experts to go and inspect that," he said. "As long as we are not there, I cannot exclude that possibility 100 percent."
また、邦文で読める補助的なニュースとして「IAEA事務局長『北の核実験可能性排除できず』」(
参照)がある。
国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は北朝鮮の両江(ヤンガン)道・金亨稷(キムヒョンジク)郡で発生したと伝えられた爆発事件は、核実験ではないと思われるが、その可能性を完全に排除することはできないと、19日明らかにした。