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2004.08.28

スーダン・ダルフール虐殺問題と日本、そして日本のブロガー

 微妙な問題なのでうまく書く自信がないが、書いておく責任のようなものを少し感じている。Googleでダルフール問題を検索する結果として極東ブログが上位にヒットするからだ。理由は、おそらくこの問題を日本語でした初期メディアの一つだからだろう。
 これまで極東ブログでは次の2つの記事を書いた。


  1. スーダン・ダルフール州の民族浄化(参照
  2. スーダン虐殺は人道優先で。石油利権の話はやめとけ(参照

 どちらも英文の参照を除けば、ダルフール状勢について日本語では十分な情報は提供していない。
 その後、誰の手によるものか、Wikipediaに「ダルフール紛争」(参照)が掲載された。掲載は遅きに失する感もあるものの、概ね正しく、政治的な偏向はほとんどない。
 極東ブログが当初問題のきっかけとした国境なき医師団にもその後スーダン内戦について特殊ページができている(参照)。アムネスティジャパンも、やはり遅きに失する感もあり背景説明も不十分だが、日本語の情報を掲載しはじめた(参照)。
 ダルフール紛争がどういうものであるかは、これらのページを参照するといいだろう。
 脇道に逸れるようだが、極東ブログでは、JANJAN「アフリカのスーダン 米国が制裁!?」(参照)を批判したが、その後、JANJANではこの問題について反米的な主張は控えてきており、8月以降の記事は概ね正しい。特に、「英国外相 人道危機のダルフール視察」(参照)での次の指摘は重要だ。

 スーダン政府の取り締まりは表(国連)向きのポーズに過ぎない。現地を視察した国連のプロンクス特使は23日、「殺戮は続いている」と明らかにした。

 端的に言うのだが、スーダン政府は全然信用できない。この点を重視するのは、来月スーダン政府が日本政府に経済援助でコンタクトを取ろうとしているからだ。
 話を端折って意見が粗くなるが、日本政府は人道支援とかぬかしてスーダン政府支援をやりかねない。そんなことをすれば、この信頼できないスーダン政府によってダルフールの人々はどのようになるのか、火を見るよりも明らか、と古くさい表現で言いたい。
 スーダン政府の裏には中国がいることは、極東ブログ「スーダン虐殺は人道優先で。石油利権の話はやめとけ」(参照)で触れた。日本外交のチャイナスクールがこれに迎合しかねない怖さを感じる。
 なにより人道支援が最優先だが、この問題には、米国、中国、アラブ世界、アフリカ世界を巻き込んでいる複雑な政治背景もある。ロシア非合法組織などは、スーダン政府に武器販売を行っている。
 人道支援の邪魔になる政治要素をどのように排除したらいいのかも、問われなくてはならない。恐らくこの関連で、日本の最近の報道では、大衆興行オリンピックの陰でダルフール問題の報道はかなり抑えられている。
 活発に活動しているかに見えるイギリスもある意味でやっかいだ。端的に言ってイラク問題で失政したブレアがダルフール問題で挽回しようとしている気配がある。対フランスでの顕示もあるのかもしれない。それでも結果さえよければいいのだが、どうもバランスがおかしい印象はある。米国と国連は、これも端的に言えば、ワシントンポストがいきり立つほど、手ぬるい。
 こうした中、ブログやネット・ピープルは、ダルフール問題に活発に動き出している。そのようすは、幸いにか、極東ブログでも見ることができる。先日の8月25日は「ダルフール良心の日」への呼びかけがあった。"Sudan: Day of Conscience August 25, 2004"(参照)がそれだ。
 また昨日、"International Sudanese Peace Meetup Day"(参照)の呼びかけを受けた。イギリスのIngridさんのコメント(参照)を転載する。

Hello finalvent, I found your blog in the sidebar at Passion of the Present. Thought you might like to see a copy, here below, of a report in the Sudan Tribune today. Also, someone just emailed me to say Meetup.com is reporting September 6 is International Sudanese Peace Meetup day... I don't know if it's coordinated by another group or this is just a monthly, smaller event. I'll treat Sept 6 as a global "virtual" meetup day and aim to do a post that links to you in Japan from England and to Passion of the Present in the USA and other blogs I know of in Canada, Australia, Malaysia. What about China and Russia -- do you know of any bloggers writing about the Sudan there? If I link to you, will you know via Technorati? Seems the bloggers in Malaysia don't get the pings when I link to them. Best wishes from England, UK.

【試訳】
finalventさん、こんにちは。"Passion of the Present"のサイドバーであなたのブログのことを知りました。下にコピーしておいたのを読んでもらえると思うけど、これは今日のスーダン・トリビューンのリポートです。私にメールしてくれた人の話だと、Meetup.comが9月6日のスーダン平和の対話デーをレポートするとのこと。これが別グループとの協賛なのか月例なのかわからないけど、とりあえず9月6日を、グローバル・バーチュアル・ミートアップ・デー(世界中の人がこの件で対話する日)としたいと思います。目的は英国からあなたの国日本にメッセージを送ってリンクをつなげること。アメリカのPassion of the Presentや、私が知っているカナダ、オーストラリア、マレーシアといった国のブログにも送ります。そこで相談だけど、日本中国とロシアでスーダンについて書いているブロガーはいますか? 私があなたのブログにリンクしたら、Technorati経由でわかるでしょうか? マレーシアのブロガーは、私がリンクしてもピン(ping)が打てないらしい。ということで、イギリスからよろしく。


 参照されている記事はこうだ。
 オリジナル:http://www.sudantribune.com/article.php3?id_article=5028


TOKYO, Aug 27, 2004 (Kyodo) -- Sudanese Foreign Minister Mustafa Osman Ismail will visit Japan Sept 5-9 for talks on the conflict in the African nation's Darfur region, ministry sources said Friday.

Ismail is expected to meet with Japanese Foreign Minister Yoriko Kawaguchi on what the United Nations says is the world's worst humanitarian crisis.

The Japanese government has suspended economic assistance to Sudan since 1992 on the grounds of human rights violations by the military junta and still does not believe that circumstances warrant a resumption of such assistance, the sources said.

But Japanese officials are willing to consider emergency or other humanitarian assistance if the Sudanese government makes some progress in resolving the conflict such as disarming militias, the sources said.

There has long been tension in Darfur between Arabs and black Africans.

Tens of thousands of people have been killed and more than 1 million have been displaced since February 2003, when African rebels rose against the government, which they say is persecuting them. Arab militias also started assaulting Africans indiscriminately. [end]

【試訳】
2004年8月27日共同 --  官邸筋によると、スーダンのムスタファ・オスマン・イズメイル外相は、来る9月5日から9日にかけて、アフリカの国であるダルフール地域の紛争について対談すべく、来日するとのこと。
 イズメイル外相は、国連が言うところの世界で最も陰惨な人道危機について、日本の川口外相と対談する意向だ。
 日本政府は、スーダン軍事政権による人権侵害を理由に1992年以降経済支援を中断しており、現状でもなお支援再開の状況が整っていないと見ているとのこと。
 しかし、日本側の政府担当者たちは、スーダン政府が武装解除など紛争解決への意欲を見せれば、緊急事態として人道支援を行うことも検討しているとのこと。
 現在ダルフール地区ではアラブ人と黒人アフリカ人との間に長期にわたり緊迫した状況が続いている。
 2003年2月以来、数万人に上る人々が殺害され、100万人が避難民となっている。2003年2月とは、アフリカ人勢力がスーダン政府に対して反乱を起こした時だ。アフリカ人勢力は、政府がアフリカ人勢力を迫害していると主張している。時を同じくして、アラブ人武装勢力もアフリカ人勢力に対して無差別的な迫害をはじめた。この段落はsilvervineさんの訳を借りました。


 誤訳、つまり、私の理解が違っている点があったら指摘して欲しい。つまり、私を助けて欲しい。
 さて、ダルフール問題にどう日本のブロガーは取り組むべきだろうか。私には単純な答えはない。大筋では、日本は人道支援を優先しなくてはいけないが、現状のスーダン政府を日本は受け入れてはいけないと考える。
 日本も国連下で活動すべきだろうとは思うが、現実問題として突き詰めれば、米軍に動いてもらうしかないのではないか。

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「ネット」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。

Tens of thousands of people have been killed and more than 1 million have been displaced since February 2003, when African rebels rose against the government, which they say is persecuting them. Arab militias also started assaulting Africans indiscriminately.

の部分の訳が少し違っているように思いました。「which they say is persecuting them」の「they」と「them」が何を指しているのか良く分からないのですが、恐らくどちらもアフリカ人勢力を指していて、「Africans say [the government] is persecuting the Africans」とでもなるのでしょうか? 全体的には、こんな感じでしょうか:

「2003年2月以来、数万人に上る人々が殺害され、100万人が避難民となっている。2003年2月とは、アフリカ人勢力がスーダン政府に対して反乱を起こした時だ。アフリカ人勢力は、政府がアフリカ人勢力を迫害していると主張している。時を同じくして、アラブ人武装勢力もアフリカ人勢力に対して無差別的な迫害をはじめた。」

finalvent さんはご存知でしょうが、一言でアフリカ人勢力とは言っても、様々な部族が存在します。スーダン政府に反旗を翻したのは、その中の少数(一部族?)ですが、彼らを集中的に取り締まることなく、無差別的に迫害をしているのも、問題の一端なのだと思います。

また、スーダン政府が行っているのは、人口的に多数派であるアフリカ人勢力を、少数派のアラブ人勢力による迫害に裏で手を貸している、というのが実態に近いようですが。これは finalvent さんの blog で拝見したのかな?

投稿: silvervine | 2004.08.28 20:52

おそらく編集時のミスだと思いますが、
What about China and Russia -- do you know of any bloggers writing about the Sudan there?
の部分が「日本で」となっていますよ。
中国とロシアというところに含意があると思うので一応確認させていただきました。

投稿: 22 | 2004.08.28 21:14

silvervineさん、22さん、ご指摘ありがとうございました。誤訳と手違いがあり、訂正を本文に反映しました。

投稿: finalvent | 2004.08.28 21:29

単に、石油を巡る大国間の代理紛争だと思ってたんディスガ、、、。

投稿: (anonymous) | 2004.08.29 06:09

おそらく編集時のミスだと思いますが、
Hello finalvent, please could you translate a round up of the comments into English -- especially the following comment re my question about bloggers in China and Russia are saying about the Sudan.

の部分が「日本で」となっていますよ。
中国とロシアというところに含意があると思うので一応確認させていただきました。
投稿者: 22 (8月 28, 2004 09:14 午後)

投稿: Ingrid | 2004.08.29 22:42

「スーダン外相が来日へ 政府、紛争早期解決求める」
って!

http://www.iwate-np.co.jp/newspack/cgi-bin/newspack.cgi?world+CN2004082701000511_1

投稿: じゃいあんとパンダ | 2004.09.04 07:51

じゃいあんとパンダさん、こんにちは。この問題は先にも触れたように非常に危険です。

外務省としては恐らくチャイナスクールが牽制するでしょうが、問題の本質はスーダン政府の欺瞞にあります。

以下をご参照ください。

スーダン政府は武装解除をしていない
http://wiki.fdiary.net/sudan/?%A5%B9%A1%BC%A5%C0%A5%F3%C0%AF%C9%DC%A4%CF%C9%F0%C1%F5%B2%F2%BD%FC%A4%F2%A4%B7%A4%C6%A4%A4%A4%CA%A4%A4

スーダン外相が来日
http://wiki.fdiary.net/sudan/?%A5%B9%A1%BC%A5%C0%A5%F3%B3%B0%C1%EA%A4%AC%CD%E8%C6%FC

というわけで、専用Wikiを立ち上げました。

スーダン・ダルフール危機情報wiki
http://wiki.fdiary.net/sudan/

投稿: finalvent | 2004.09.04 08:46

はじめまして。

私は米国で「ホテル・ルワンダ」が放映された数ヶ月前にアメリカ人の友人に聞いて初めてダルフールの惨状を知りました。その後、バングラディッシュに住んでいた知り合いの大学教授から、彼が実際に経験したその悲惨な現実を教えられて、己の無知を恥じる思いでした。

ダルフールについて調べていた時、このサイトを発見し、これから少しづつ勉強させて頂きたいと思っています。

ちなみに、私のブログにリンクさせて頂いたのですが、もし問題があればすぐに消去しますので、ご連絡頂けますか?

それでは、どうぞよろしくお願いします。

投稿: VK | 2005.07.13 19:46

VKさん、こんにちは。

リンクは自由です。どのような内容のページからでもリンクはご自由になさってください。

トラックバックについては、アフィリエイト誘導やスパムは削除することがあります。

投稿: finalvent | 2005.07.13 20:09

はじめまして。ダルフール虐殺について調べていましたらこのブログに、たどり着きました。自分はアメリカ、ボストンに在住しています。来週の日曜日ダルフール虐殺についてのデモとマーチングがあるのでできるだけ、状況を調べてから多くの人に来週参加してもらおうと思い呼びかけをしています。白い服を着用し数分地面に倒れるというデモです。このデモが、直接虐殺を止められるわけではありませんがワシントンDCにも近いボストンからなら少しでも政府に届くことを願ってするしだいです。映画ホテルルワンダをみてから、アフリカまたは。虐殺などの事件について調べだすようになりました。また新しい情報待っています。日本のページでこの事件に触れている記事があまりにも少ないので驚きました。ここは貴重な情報源です。

投稿: aua | 2007.04.23 05:17

こんにちは。
私のブログでダルフール問題の記事を書くのに、こちらを参考にさせていただきました。
とても詳しく書いておられるので、私のブログの記事からリンクを貼らせていただきたいと思います。
事後承諾のようで申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

投稿: nina | 2007.05.24 11:51

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