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2004.08.27

性犯罪者につける薬?

 標題は別のブログのテーマみたいだが、久しぶりにお薬系の話。ロイター・ヘルス"Anti-Addiction Drug Treats Teen Sex Offenders"(参照例)を読んでへぇと思った。標題を試訳すると「抗中毒薬が十代の性犯罪者に有効」となるだろうか。これからの社会は、性犯罪者をお薬で対処しようとする傾向が出てくるかもしれない。なお、典拠は"Journal of Clinical Psychiatry, July 2004."の"982 Naltrexone in the Treatment of Adolescent Sexual Offenders. Ralph S. Ryback "(参照)だ。
 余談めくが、"Sex Offender"に定訳語があるのかとgooの三省堂提供「EXCEED 英和辞典」や英辞郎をひくと「性犯罪者」とある。英辞郎の用例には"teen sex offender"まであったのはちょっと驚いた。翻訳の世界では定訳語化している感じがする。ついでに、日本特有の「痴漢」は英語でなんと言うのかと見ると、molesterあたりがよく出てくる。しかし、痴漢も"sex offender"だがなと思ってぐぐると「彩の国高校生英語質問箱第158号」(参照)がよかった。英作文のMLらしい。お題は、「チカンを見たら110番!」だ。そこで痴漢をこう説明している。


痴漢は、性的いたずらをする男を意味しますが、英語では男女の区別をする必要はありません。英語では“sexual offender”が適当です。なお、動詞“offend”の意味は次のようになっています。
 ・to make somebody feel upset because of something you say or do that is rude or embarrassing
この言葉を使って、次のように表現します。
 ・Call 110 to report (a) sexual offender.
看板では、不定冠詞を省略して、短くすることも可能です。複数形にしても構いません。

 ま、そういうことだ。
 話を戻して、「抗中毒薬が十代の性犯罪者に有効」だが、こうある。

Naltrexone, a drug that has been used to treat various addictions, safely controls sexual impulses and arousal in adolescent sexual offenders, new research shows.
【試訳】
各種の依存症に処方されるナルトレキソンだが、最新の研究で、青少年期の性犯罪者の性衝動や性興奮を安全に制御するのに役立つことがわかった。


Ryback states that use of naltrexone "provides a safe first step in treating adolescent sexual offenders. It is possible that the benefits observed here will generalize to the large population of non-socially deviant hypersexual patients."
【試訳】
研究者リバックによれば、ナルトレキソンの処方は、青少年期の性犯罪者に対して、安全でかつ最初に試みられる対処になるとのこと。また、同研究員は、今回の結果から、多数の反社会的な変質者に対しても効果を持つだろうと推測している。

 これを読んで私は、え?という感じがした。性犯罪者までお薬で対処、で終わりという社会になるのかと思ったからだ。
 しかし、しばし考えてみると、それが実際的ではあるのだろう。現実日本でもアメリカでも精神疾患者への対処は薬物による治療がメインだ。また、日本ではなんだかんだと実現されていないが、米国では性犯罪者については社会的に徹底的にマークすることで社会の安全を実現する方向に向かっている。このようすは、先の用語でちょっとふれた"sex offender"で検索するとわかっていただけるだろう。上位にsex offenderの検索サイトがぞろぞろ出てくる。
 それにしても、ナルトレキソン(Naltrexone:Revia)か、というのが次に私が思ったことだ。ナルトレキソンは、アヘン受容体拮抗薬としてアルコール依存症の治療薬として米国食品医薬品局に承認されている。日本での扱いはどうかとネットを見ると、意外にも、「プラセボ以上の有効性を示す証拠は認められない」とする見解が目立つ(参照)。このあたりは、どうも日本の精神医学会になにか事情がありそうだ。というのは、スタンダードな医療事典であるメルクマニュアル「第7節 精神疾患 薬物依存と嗜癖」(参照)にはこう記載されている。

もう一つの薬物、ナルトレキソンは、人々がもしそれをカウンセリングを含む包括的な治療計画の一部として用いるなら、アルコールへの依存を減らすのに役に立てる。ナルトレキソンは、脳内の特定のエンドルフィンに対するアルコールの効果を変化させることで、アルコールへの渇望と消費に関連する。ジスルフィラムと比較して大きい利点はナルトレキソンが人々の気分を悪くしないということである。しかし不利な点は、ナルトレキソン服用者は(アルコールを)飲み続けることができることである。ナルトレキソンは肝炎あるいは肝臓病がある人が服用すべきではない。

 メルクマニュアルの解説は今回の""Journal of Clinical Psychiatry"の結果を理解する上での補助にもなるだろう。つまり、性犯罪は、脳内の特定のエンドルフィンに対する効果、という可能性があるわけだ。
 もちろん、そんなことは嗜癖という点からすればあたりまえのことじゃないかとも言えるかもしれないのだが、私は嗜癖という概念はそうむやみに拡張すべきではないと考えている。逆に言えば、嗜癖についてもう少し丁寧な研究も必要だろうとは思う。というあたりで、たまたま「東京都精神医学総合研究所 - 薬物依存研究部門 - 部門業績」(参照)を見つけた。

性的障害(sexual disorder)の分類やその治療については、すでにいくつかの論文や成書が公表されており、これらの知見をもとに、議論を一歩進め、「嗜癖」の概念や視点から、様々な性障害の成因や治療について、再度捉え直しを試みた。特に、従来別個に論じられてきた、小児性愛やレイプなど「性犯罪」に類型化される逸脱行動と、「セックス嗜癖」あるいは「恋愛嗜癖」と称される逸脱行動を、統一的に理解することは可能であろうか。本論は、こうした問題意識に基づいて、様々な性障害への治療的アプローチについて、最近の動向をまとめた。その結果、Marlattらに代表される物質依存の認知療法理論や自助グループによるアプローチが、治療の現場に積極的に取り入れられ、めざましく発展している動向が判明した。

 専門家でもそういう模索が進められているのだろう。
 さて、私はこうした問題をどう考えるのか?
 もったいぶるわけではないが、ちょっと言いにくい。特に「十代の性犯罪者」というのは実はすでに日本社会にとって深刻な問題ではあるのだが、そこが踏み込みづらい。
 なんとか言える部分としては、こうした議論を社会が受け取るとき、すでに「性犯罪者」として処理済みになっているので、彼らを社会から疎外しているのだなということが気になる。そのあたりの問題意識はたぶん日本の識者にもあり、それがこの分野での薬物療法をためらわせているようにも思える。また、余談として言及した「痴漢」だが、それを結果的に許容する日本社会は、こうした性犯罪者問題の社会システム的な制御を内包していたのかもしれない。しかし、もはやそういう社会ではないことは確かだ。

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コメント

こんにちは、

Rybackの論文のアブストラクト
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=15291688
を見る限り、実施された試験はオープンラベルでプラセボ効果は排除されていないですし、平均投与量の160 mg/dayは依存治療の標準的な用量である50 mg/dayを大きく超えているのも疑問です。参加者は21名とかなり少数ですし、ナルトレキソンの作用の見極めはついていない印象を受けました(本文を読んでいないので断定は出来ませんが)。

ところでSSRIなど抗うつ薬の一部には性機能障害の副作用が知られています。これを逆手にとって性犯罪者を治療できないのかな、などと医者でない私は無責任にも考えてしまいます。性機能障害は性欲の減退と同義ではないのが問題ですが。

投稿: 龍蛇蟄 | 2004.08.27 21:34

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