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2004.08.25

中絶船、ポルトガルへ

 中絶関連の問題について極東ブログはぼそぼそと言及してきた。あまり関心はもたれていない。もちろん、このブログ自体もそれほど社会的な発言力を持つわけでもないし、私に明確な主張があるわけでもない。問題自体も非常にタッチーなので、最近は書くことに気後れしている。しかし、日本での情報があまりに少ないというか無視されているのかもしれないとも思うので、今回の"Women on Waves"の通称中絶船についても簡単に言及しておく。
 日本語の記事としては、CNN JAPAN「オランダの「中絶船」、ポルトガルに向け出航」(参照)が読みやすいだろう。


 オランダ・ヘルダー 中絶が厳しく制限されている国の女性達に、公海上で中絶処置を施すための船が23日、オランダの港からポルトガルに向け、出航した。ポルトガル沖の公海上に到着後、約2週間停泊し、望まない妊娠をしたポルトガル女性に対して、中絶薬の処方などを行う。
 船を派遣したのは、女性の権利向上と危険な中絶の根絶を目指す非営利組織(NPO)「ウィメン・オン・ウェーブズ」。これまでにも同様の船を、2001年にアイルランドへ、2003年にポーランドへ送り出している。

 ロイター系なのだが、対応するCNNの記事がよくわからない。ざっと見るとCNN"Abortion clinic sails to Portugal"(参照)かなという感じはする。こちらの英文記事もそれほど情報はない。
 BBC"Abortion ship sails for Portugal"(参照)もそれほど深くこの問題を扱っているわけでもない。というか、CNNもBBCも恐る恐る扱っているなという感じがする。
 日本人の感覚からすると中絶は中絶手術なのではないだろうか。日本の現場が率直なところ私にはわからない。が、CNNでもBBCでも中絶薬と書かれている。英語では"an abortion-inducing pill"だ。BBCの先のニュースではなんらかの配慮があるのだろうと思うが、掲載されている反対派の写真にきっちりRU-486(RU-666については洒落か)と書かれている。つまり、この問題はRU-486の問題でもある。この点、カトリック系の報道"Dutch abortion boat sails for Portugal"(参照)には明記されている。
 もっとも、RU-486だけの問題でもない。端的に言うのだが、こうした表立ったラディカルな行動がなくても中絶船が向かう国では事実上、国内法で禁じていても国外で中絶を実際に行っているのであり、その意味で、中絶輸出国でもある。また、当然、そうした闇の中絶によって命を落とす女性が少なくない。
cover
ピル
 RU-468もまたモーニングアフターも問題にならないかに見える日本にとって、この中絶船のニュースはやはり問題にならないのだろうとは思う。そして、この無関心は恐らく低容量ピルの問題でもあるのだろう。世界の先進国のなかでたぶん日本が突出してピルの問題が隠蔽されている。少し間違った発言かもしれないが、日本のフェミニズムにはイデオロギー的な偏向があり、この問題を正面から見据えていないようだ。それどころか結果的に政府側の協力となっている。
 なにが問題か。北村邦夫医師著「ピル」には、日本が低容量ピルを抑制している状況が対外的にどう見えるかという事例ともいることが描かれている。

 一方、人工妊娠中絶数は、ピルの使用者が減少しているときは増加し、ピルの使用が増加してときは減少を示しています。
 こうしたデータをみると、欧米における避妊にはピルが役割を確実に果たしていることがうかがえますし、日本においても、ピルの承認により若年層の人工妊娠中絶の減少が期待できます。
 そうした期待の高まる中、「産婦人科が承認を遅らせている噂がある。彼らは、確な避妊法の登場によって、中絶手術に伴う収入減を恐れているのではないか」といった質問が、外国のメディアから私に向けらることがありました。

 北村邦夫医師はその噂に否定的だが、対外的に日本がそのように見えることは確かだろう。なお、同書に指摘されていることだが、日本は先進国のなかでは中絶数が高く、しかも見えない部分も多いようだ。いずれ国際的な問題になるのだろう。見える部分だけだが、先の「ピル」にはこうある。

 世界と比較しても、わが国の全妊娠数(出生数+人工妊娠中絶数)に対する人工妊娠中絶数の割合は、九四年には二二・七%と二二・三%のスウェーデンを上回り、きわめて高い水準となっています(男女共同参画白書 平成一一年反)。

 こうした高い中絶率について、同書ではアラン・ローゼン・フィールド元コロンビア大学公衆衛生学教授は次のように言及している。

日本は政策が的を得ていないため、中絶率の最も高い国となってしまった。政治の役割は、薬剤の安全性と有効性を審査し、各個々人がそれによって自ら判断できるような情報を提供することです

 北村邦夫医師はこうした海外からの指摘を、日本では「中絶が非常に安易に選択できる国」と見えるためだとしている。確かにそうなのだろう。そしてそれゆえにRU-486も問題にはならない。
 話が逸れるが、ピル問題の背景にはさらにコンドームの問題がある。国際的にはコンドームは性病の予防具というのが常識化し避妊具でなくなりつつある。しかし、そうした国際的な常識は日本には浸透していないし、浸透する気配もない。この件について、具体的にコンドームについて思うこともあるのだが、自分自身が男性でもあり言いづらい面もある。

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コメント

 今、アメリカで過激な中絶反対運動を繰り広げてる団体が、他国の中絶も槍玉に挙げるようになり、まず日本に対して「中絶大国」とのバッシングキャンペーンを繰り広げる…なんて事態は考えられそうですね。
 しかし中絶率22.7%というのもすごい数字。少子化問題で騒いでる裏で、こんなに中絶があるというのも、大きな矛盾ですねえ。

投稿: Baatarism | 2004.08.25 17:03

私はアメリカ在住で、仕事をしながらラジオの公共放送をかけえいます。この中絶船の話題はラジオのニュースでも取り上げられていて、反対する団体の女性のインタビューで「合法でない中絶で命を落とす危険があること」を力説していたように思います。(ダラダラと聞き流しているので正確さに欠けますが。)自分が法的にも宗教的な面でも中絶を許されている国から来ていたことを思い出しました。
 個人的にはピルも薬物なので避妊のためだけに薬物を飲むのも女性側としては嬉しくない感じです。ピルを飲んでいるということがパートナーに知れたら、まず日本の男の人はコンドームを使ってくれなくなるような気がします。(どうでしょう?)そこもちょっとピルの普及に個人的に引っかかります。
 性病対策として今のところコンドームに代わるものがないというのが問題ですね。女性用コンドームというものがありますが非常に使いにくいという風評を聞いています。私はパートナーばかりに譲歩させるのも失礼かと思い、今度日本に帰ったら女性用を購入して試してみようと思ったのですが。(^_^;)
 極東プログさんの高尚な空間を乱していたらごめんなさい。

投稿: 蛸舟 | 2004.08.25 17:21

>>ピルを飲んでいるということがパートナーに知れたら、まず日本の男の人はコンドームを使ってくれなくなるような気がします

意味がわからないのですが・・・
不特定多数とか一夜の関係の場合なら理解できますが
特定のパートナーとなら問題ないと思いますが?

投稿: (anonymous) | 2004.08.26 00:38

相手がどんな相手と寝ているか、わかったもんじゃない、ってこともあるでしょう。

投稿: synonymous | 2004.08.26 00:58

コンドーム嫌がる男が多いから、
日本で中絶手術が多いんでしょう。
でも日本の現実じゃ、ゴムが一番だと思います。
ピルは副作用もあるし、胃の弱い人とかにはキツイデス。
長期の服用がないと効き目がないですしね。
ペッサリーは使いにです。
局部に塗るだけで、入ってきた精子を根こそぎ殺傷するような
避妊薬が出来たら、万歳なんですけどね。(副作用も痛みもなくね)
男性は高みの見物とまではいかないけど、
橋の上から濁流を眺めてるみたいな物言いにしかならないんですね。
人形じゃないんだから、ただ単に射精のはけ口としてのセックスはごめんです。

投稿: hiropon | 2004.08.26 09:34

 女性用コンドームといえば、10数年前にアメリカの大学のキャンパスで、レズビアンの活動家が使い方をスピーチし、利用を勧めているのを見かけました。だから、女性用は、アメリカのほうが出回っているんだと思っていました。避妊に低容量ピルがあったアメリカでは、コンドームは性病の予防策として脚光を浴びるようになったんですね。
 日本のコンドームのほうは、今ある避妊法のなかで失敗率が高いにもかかわらず、セックスの必需品として信奉されているようですね。日米のゴム製品を比較すると品質の差は明らかですが、それは長く続いたピル無認可と、なぜか薬でコントロールすることへの文化的(?)抵抗感と手をたずさえているように思えます。
 低容量ピルがなかなか認可されなかったのは、女性の婚外性交渉が「欧米並に」活発になってはならないという、為政者の意図が働いていたと思わざるを得ません。その間、ふつうの女たちは、自分の生殖能力、つまりセックスと妊娠の関連について、できるだけ考えないで来たのではないかと思います。
 女性は、男性の日々自分の性器を眼下に見下ろす形と違って、自身にそなわった性機能・生殖機能をコントロールしようという自覚が芽生えづらいように思います。妊娠して初めて自分の中に産む性が潜んでいると思い知るわけです。 しかも胎児は日々育っていくので、産む産まないの決断は家庭的・社会的な配慮のなかで怒濤の速さで行わざるをえません。
 メディアは未婚女性の中絶をよく話題にするけれど、既婚女性のバースコントロールのための中絶のほうがずっと多いそうです。中絶が容易にできるシステムは、もともと失敗率が高い上にコンドームの使用をいやがるパートナーを利するうえに、中絶した女性にうしろめたさと沈黙を課してきたのではないでしょうか。 一部の物を書く女をのぞけば、その経験を胸の内にしまったままにしてしまう。
 だから、子どもを作るのがまずい状況なら、2重3重の避妊法を取るしかない。事実を背負うのはどうしても女性だろうから、女性の方で避妊法の手持ちを繰り出せるといいんですが、これは教養や知識でなんとかなるものではなく、かかわりあいを持った女と男が互いに産み・産ませる性だという認識でいないと、なかなか難しいことだとは思います。
 結局、避妊は自然に逆らった滑稽な行為だからやりにくいのかな。中絶をふくめて、社会状況や文化がそうさせるにしても、自分たちの繁殖力をいろんな方法でおさえるって、一体なんなのでしょう。

投稿: じゃがりこ | 2004.08.27 03:27

*synonymousさん、そうです。いい大人同士だったら相手の自己申告なんぞ信用できません。
*hiroponさん、女性側の方で使用する「マイルーラ」というのはありますが、安全性について疑問の声があがっていた様に思います。まだ市販しているのでしょうか?
*コンドームも男性諸氏から相当に不評です。そこはよく理解して、コンドームを使ってくれるパートナーには感謝の気持ちも持ちたいものです。(でも性病予防の観念から見ると殿方はまず自分のためにコンドームを使っていただきたいものです。)
*ペッサリー、って何年ぶりかで目にしました。つまり普及していないということですね。女性用コンドーム同様開発の展望は暗そうですね。私はむしろコンドームを、装着した方がより楽しくなる!という方面で開発する方が活路を見出せるような気がするのですが。

投稿: 蛸舟 | 2004.08.27 03:44

>じゃがりこさん。私の探し方が悪いのかもしれませんが、アメリカで女性用コンドームを探してみたけれどみつけられませんでした。コンドームは私が行くジムのロッカールームや大学の洗面所に普通に自動販売機があります。

投稿: 蛸舟 | 2004.08.27 03:58

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» オランダの「中絶船」、ポルトガルに向け出航 [---ビタタマ---]
ブログでもコラムでも、よく取り上げてきた話の集大成みたいな話である。 誰が正しいとか、何がいいとか、 そういう理屈では片付かない、ルールを統一できない問題で... [続きを読む]

受信: 2004.08.25 12:31

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