父親が大丈夫なら子どもは大丈夫
つまらない話なのかもしれない。が、気にはなるので書いておきたい。以前、極東ブログ「女の子の喧嘩には科学的に見て特徴がある」(参照)でもネタ元にした、青少年期の医療を扱う専門誌"Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine"だが、最新号で"Combined Effect of Mothers' and Fathers' Mental Health Symptoms on Children's Behavioral and Emotional Well-being"(参照)という調査を発表していた。
標題を試訳すると「子どもの健全な行動と情緒に対して、母親と父親双方の精神的な傾向が与える影響」となるだろうか。憂鬱や不安など心的なトラブルを抱えている親が子どもの行動と情緒の発育にどう影響を与えるかという問題を、母親と父親のコンビネーション、つまり組み合わせで調べてみたというのだ。
結果は特に常識に反するものではない。
Conclusions
A father in better mental health may buffer the influence of a mother's poorer mental health on a child's behavioral and emotional problems, and these problems seem to be most severe for children who have 2 parents with poorer mental health. The form and intensity of pediatric approaches to mothers with poorer mental health may need to consider the mental health of fathers.【試訳】
結論
母親が精神的によくない場合でも、父親の精神が健全なら、子どもの行動や情緒に対する母親の悪影響を父親が緩和しうる。両親そろって精神的な問題を抱えている場合は子どもへの影響は深刻である。母親が精神的な問題を抱えている子どもの身心の健康について考慮する際、父親の精神的な状態も考慮する必要があるだろう。
そんなのあたりまえじゃんという感じだが、そうでもないのかもしれない。
母親に憂鬱や不安(適応障害もDSM-IVに定義されている心的な疾患なのでこれに入れていいだろう)など精神的なトラブルがある場合でも、父親の精神状況が安定しているなら、その子どもが行動や情緒の問題を起こすリスクは低いのだから、それほど状況を深刻に考えなくてもいいことになる。この背景には、より深刻な問題に対処せよという含みがある。およそ、大きな問題を扱うときにもっとも重要なことは、最重要課題と次点の問題を切り分けることだ。その意味で、父親が健全なら、子どもの問題は次点の問題としていいことになる。
この結果をみて、私はふと考え込んだのだが、日本では、「家庭」「母親」「父親」は確かに子どもの問題の重要なキーワードになるのだが、一義的には家庭であり、次に母親、そして三番目に父親だが、父親というときでも、「子どもには父性も必要」といったノリだなと思う。
それに対して、この調査が暗黙に示していることは、母親の精神的な状態を父親がサポートできるなら、子どもの行動・情緒の問題は回避できるという点だ。日本ではあまり指摘されて来なかったのではないだろうか? 自分が男なのでその立場に立つと、「男は父親として子どもに接するにはどうたら」という話ばかり聞かされてきた。
今回の調査は、ジャーナリズム側でも注目されていて、ロイターヘルス"For Kids, Dad Can Buffer Mom's Depression"(参照)のようにもう少し、あけすけなまとめになっている。こちらの標題を試訳すると、「お父さんなら、お母さんの憂鬱攻撃から子どもをまもる防御壁になれる」だろうか。こうしたタイトルにまとめられるということの背景には、米国の家庭では母親の憂鬱という大きな社会問題があるのだろう。そして、多分、日本でも同じなのではないか。
ロイターのニュースには研究者へのインタビューがあるのだが、これが少し興味深い。
Kahn explained that fathers may buffer the effects of mothers' poor mental health by supporting mothers and helping to take care of the children. In addition, healthy fathers may have good mental health genes, which they pass on to children, he added.【試訳】
カーン調査員によれば、父親が母親を精神的に支えることで、母親の精神的な状態が子どもに影響することを防げるようだ。また、健全な父親は、精神を安定させる遺伝子を子どもに引き継がせているのかもしれないとも言及した。
この追加の発言がちょっといただけないなという印象もある。
いずれにせよ、父親が家庭の精神的な支柱たるべく問われるということになっていくのかもしれない。
男である私としてはそれをどう受け止めるべきなのかなのだが、正直言って複雑だ。私の精神的な状態というのは、たいしたことない。端的に、だめでしょ、という感じだ。大半の男がそうなのではないかなとも思う。すると、精神的に安定した母親たるべき女性が求められる…となんだか冗談のような展開になってくる。
ただ、少し思うのだが、これは多分に私の偏見なのだが、男の精神的な健全さというのは、自分が男であるという意識に強く依存しているように思う。それがもっと難しい問題なのかもしれない。
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コメント
ふ~む、と いろいろ考えさせられました。
そういう可能性は考えたことがなかったのですが、自分の周囲の見聞(数少ないながら)をさらってみると、なるほど、と思わないでもなく…
> 男の精神的な健全さというのは、自分が男であるという意識に強く依存しているように思う
全く同感です。
非ジェンダーフリー(笑)も、人間社会の知恵だったのではと考えている昨今です。
投稿: Shu UETA | 2004.08.03 08:27
加古川の事件も、真っ先に逃げ出したのは父親だったもよう。この父親に問題があったんではないかと言う気がしているのですが。
投稿: synonymous | 2004.08.03 09:09
最小限の単位が家族だとして、かつ、ジェンダーフリーだとして、考えれば考えるほど落ち込む話題の様な気がします。
>端的に、だめでしょ、という感じだ。
同意せざるを得ないが故にまたどん詰まりのように思えます。また、母親が鬱で父親が「健全」という発想も無理があるのではないでしょうか。相互に干渉しあわない男女関係は存在しませんからね。健全に同化していくのであれば良いのだけれど大概はお互いが心に負担を抱え、またそれが子供に影響を与えるってコトもありますよね。逆の場合も同じなような気がします。また一方で日本の社会的な構造も考慮に入れていかなければなりません。その辺のところは民族や宗教の違いもあって本筋から外れるような気もするけど。
もっとも、両親が健全であれば一番いいのですけどね。それでも問題は内包してしまう場合がある。両親が子供を一人の人格として常に捉えるってコトも大切だしね。なに言ってんだか、わからなくなってきましたが、この「論」はもっと発展させてみたらいいかもしれません。頑固オヤジと優しいお母さんって元々、居たんだろうか、までつい、思ってしまう今日の記事でしたYO。
投稿: 南無 | 2004.08.03 09:35
「健全」という言葉が最近はアヤシイというか、価値観が多様化している中で何をOKとするのか難しいですね。
なんにせよ、子供は親の背中を見て育つだろうから。ついでに言うと親になることが重く感じられます。これこそ病理かな?
> 男の精神的な健全さというのは、自分が男であるという意識に強く依存しているように思う
↑
そんな気がする!
男女差はジェンダー論にかかわらず、理由なくそう思って行動してるところに出る(笑)
性別でなく人間として行動しようと心掛けても、どこかで性別による価値判断が必要とされますね。
関係性の中で学んでいかなきゃならないんでしょうね。。。
投稿: 八葉 | 2004.08.03 13:07
ロイター版ニュースは、家父長制建て直しのための、新たな理論構築、みたいな感じですね。国家意識が強まると、家父長制意識も強まるんでしょうか。「戦前」的な概念が、いろんな新しい装いで、復活してくるな、という感じ。
投稿: 杞憂 | 2004.08.03 13:40
はじめまして。少し前まで父親は種付けの時しかいらないぜ、必要なのは『精神的に安定した母親たるべき女性』と思っていたものですが。
今の考えに基づきコメントしますと、子供の同性像と異性像のプロトタイプとして両親は必要なような気がします、それは子供にとって好ましいかどうかに関わらず。それと、
>父親が家庭の精神的な支柱たるべく問われる
にはとても応えられそうもないです。そこまで行かず、父親が母親を、母親が父親をリスペクトしあい、それをことあるごとに子供に語ると云うことで悪影響を軽減できないかな、と思っております。お父さんは偉いのよ、だとぼろの出る可能性が高いので、私にはお父さん/お母さんが必要なのよ、というかたちで。
とりとめないのでこれにて失礼します。
投稿: giraud | 2004.08.03 14:17
母親の憂鬱をどうするかは、親子関係というより やはり夫婦関係がキーでしょうかね。
奥さん憂鬱→奥さんの望む愛情表現を理解してこなそうとするも、男性には理解しきれず挫折→「ああ俺ってダメなんだな..」と妻子に対して無力感を持つ→家庭と一歩距離を置いて接するようになる→それ見た奥さん、さらに憂鬱・・・てな悪循環が起きていそうな気が。
だけど男性はあくまで男性としての感覚で妻子に愛情を注げば、本当はそれでほぼOKなんじゃないでしょうかね。男女の感覚の相違で細かいケンカはたくさんあるだろうけど、大事にはなりにくいのではないかと。
子供にとってもその方が良いんじゃないかな。いくら子育てに参加してくれても、まるで母親が二人いるみたいになったら、子供はシンドイですもん。
と、クチでは簡単に言えても、日本の男性、特に中年サラリーマン諸氏は、ウチの宿六(死語)とか見ていても、精神的にいっぱいいっばいになってるんですよね。家族をかまう余裕そのものが持てない。現実はなかなか難しい..。
投稿: chika | 2004.08.03 16:38
これはただの雑談だな。
被虐待児童を多く見ていれば分かる。
男はモラルの低い奴が多いから、妻や子供に攻撃性を向ける事で、ウサを晴らす奴も多い。
だから父親の精神に問題が有ると、より深刻な事態になる。
それに比べて女の精神に問題が有っても、それが周囲(家族)への攻撃性へと転嫁される確率はぐっと低くなる。
・憂鬱な顔で塞ぎ込むだけの母親
・妻子を殴ってウサを晴らす父親
どちらがより有害かは考えるまでもない。
犯罪者の95%が男。
この数字が全てを物語っている。
投稿: | 2012.12.08 21:42