« オリンピックと身体 | トップページ | [書評]沿海州・サハリン近い昔の話―翻弄された朝鮮人の歴史 »

2004.08.18

ロシアのプルトニウムと日本の関わり

 今朝の朝日新聞社説「核の闇市場――アジアで封じ込めを」は奇妙な感じがした。主張内容には標題以上のことはない。当然、反対する人もいないだろう。奇妙な感じというのは、なんだか見当識障害のような印象を受けたからだ。なんでも朝日新聞を批判したいというのではないが、まず簡単にコメントしたい。気になるのは二カ所ある。
 まず結語が常軌を逸していると思う。


核の拡散が起きるのは、保有国が核を手放そうとしない一方で、その保有国をまねようとする国や集団が絶えないからだ。この矛盾を解くには、核の廃絶に向けて世界を動かすことだ。それも、日本の不拡散外交の核心である。

 単に反米というだけのことかもしれないのだが、問題はそんな単純な理想を掲げることでは解決しない。一度できた核兵器は念力で消失するわけもない。きちんと解体する作業が必要になる。そして、現状の世界にまず重要なのは、ソ連の核兵器の解体だ。ソ連から継承したロシアの核弾頭解体によって、余剰プルトニウムが50トン出てくる。これがどのくらいとんでもない量かというのは、長崎原爆からでも類推できる。長崎に投下された原爆はウランタイプの広島原爆とは違い、プルトニウムを使っていた。当時の技術で6.1キログラム。同程度の破壊力で現在北朝鮮が開発しているのだと、2.5キロほどで足りるようだ。
 朝日新聞が叫ばなくても、すでに世界は動いている。2002年のカナナスキス・サミットでもこの解体のために、先進七か国が10年間で最高二百億ドルの援助を行うという目標を掲げた。もっともこれがうまく行っているとも思えないが。
 もう一点、気になるのはこれだ。

 アジアの国々が輸出管理を徹底し、闇市場を封じ込めていくうえで、日本の果たせる役割は大きい。非核三原則を持ち、武器の輸出を事実上禁じてきた国として、不拡散の大義を堂々と主張できる立場にある。加えて、アジアで最も厳しい輸出管理政策をとっており、そのノウハウを伝えることもできる。

 日本はそんなに偉いのだろうか? 私はあまりそう思えない。日本のプルトニウム管理はむしろずさんに思える。例えば「核燃機構の不明プルトニウム、問題なしと判断・文科省」(参照)など、これで問題解決なのだろうか。

核燃料サイクル開発機構の東海再処理施設(茨城県東海村)で、1977年から2002年9月末までに累計206キロのプルトニウムが行方不明になっていた問題で、文部科学省は実際の不明量は59キロで、測定・計算上の誤差と見なして問題ないとの報告をまとめた。

 この日本の文部科学省は、ソ連の核兵器解体に関係し、余剰プルトニウム処理に乗り出している。読売新聞2004.3.19「核兵器解体後の平和利用 余剰プルトニウム処分へ新技術 文科省、露と共同開発」をひく。

 核兵器のプルトニウムは純度が高く危険なため、原発用燃料にするには、核分裂しないウランなどを混ぜる必要がある。焼き固めて燃料にする従来の方法はコストが高いため、文科省傘下の核燃料サイクル開発機構とロシア原子炉科学研究所が二年前から、粉状の燃料を詰めて使う実験をロシアの原子炉で行ってきた。
 昨年末までの初期試験では、余剰プルトニウム約二十キロを含む新型燃料を燃やし、安全性に問題がないことを確認できた。今年から、一度に使用する新型燃料を七倍に増やす本格試験に入り実用化を目指す。

 実験は国内ではないので実態が掴みづらい。これらについて、まったく情報が隠されているわけではない。例えば、「余剰プルトニウム処分に関する日ロ協力について」(参照)。だが、わかりづらいのは確かだ。
 話が散漫になってきたが、先日のMoscow Times"Nuclear Security Is a Myth"(参照)では現状ロシアのプルトニウム管理に疑問を投げかけていた。真偽についてどうコメントしていいのか、率直に言うとわからないのだが、ロシアにはまだ500トンもののプルトニウムがあるというのだ。

There are other highly disturbing facts. I have obtained a document, signed by the head of the old Nuclear Power Ministry in November 1997, stating that over 500 tons of weapons-grade plutonium and uranium are stored in Russia in conditions that "do not conform to international safety standards." More than 20,000 nuclear weapons could be produced from 500 tons of weapons-grade material.

 Moscow Timesはこれらのプルトニウム管理に欧米の力を借りるべきだと言う。

If nukes get loose, Russia will be the first to suffer. Russia urgently needs Western aid and technology to help build a modern security and nuclear material control system. Just telling the world that everything is hunky-dory won't get the job done.

 核問題に呪縛されたようにナーバスになるべきではないと思うし、ロシアの核の問題はアジアの核の闇市場とは別問題だと言えないこともない。だが、朝日新聞のように、日本が核不拡散の大義を堂々と主張できるとはとうてい思えない。そして、潜在的な問題は、たぶん、ロシアにあり、すでに日本も深く関係している。

|

« オリンピックと身体 | トップページ | [書評]沿海州・サハリン近い昔の話―翻弄された朝鮮人の歴史 »

「時事」カテゴリの記事

コメント

初めての書き込みで失礼します。上の記事、いかにも朝日らしくて楽しいですね。
ただ核削減については緊急課題の一つでしょうし笑えないか。核廃絶理想を強制して押しつけるよりも(CO2や地震警戒値のような)保険商品・金融格付けの市場として組み込んでいったほうが実際効果はありそうに思います。安全性のコストが利益還元される「前向きな核制御競争」みたいな。
だがまあそういった論調をあまり見かけないもので。公にはですが。こちらこそが問題の本質だったりして。

投稿: yu | 2004.08.18 16:05

>日本が偉そうなことを言えない。

全く同感ですね。
核拡散は北朝鮮の問題も絡むので、ちょっと勉強中ですけど、なんだか全てが笑い話の中で展開しているような………。
世界最大の核保有国がリーダーシップを取る時点ですでにギャグ?という感じがしますね。

投稿: 柳学洙 | 2004.08.18 19:49

様々な問題があり、朝日のいうようなお題目を並べるだけではいかない、とのご指摘は当たっています。ロシアの抱えている核物質ですが、それをどう管理するかという問題と、どう始末を付けるかという点と二つの面があります。後者についてはエントリに書かれていたような例が示すとおり、まだ研究開発段階です。まずは管理が大事です。冷戦崩壊後、西側並みの核物質計量管理技術を、ロシアの施設に国際的支援で確立しようという計画が進んでいるはずです(はずというのは現状をよく知らないからです)。日本は外務省が金を出し、当時の科技庁やその他関連機関がソフトやノウハウ、そして専門家を出して支援するプログラムが動いています。引用されていたロシアの新聞情報がいっているのは、このシステムがまだ十分末端まで整備されていないことをいっているのでしょう。日本の計量管理技術と人的資源は優秀で、お題目の段階を越えて実質的な寄与を進めていると聞いています。近況をそのうちに詳しい人に聞いておきましょう。核燃料サイクル機構の再処理施設での核物質の不明量(muff)問題(プラントのあちこちに回収できないものとして残るもの)はかつてありました。プラントの設計時からこの問題に対する対処が不十分であることが、日本の原子力専門家からも指摘されていました。国際査察でその通り問題視されたのでした。これはその後改善されました。

投稿: アクエリアン | 2004.08.19 09:50

片岡さんから以下の投稿(全文)がありましたが、該当サイトはアダルトサイトのようなのでオリジナルは削除しました。問題があればご指摘ください。

>> ttp://russian.ioring.com/
>>投稿者: 片岡 博 (9月 15, 2004 01:47 午前)

投稿: finalvent | 2004.09.15 07:09

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ロシアのプルトニウムと日本の関わり:

» 息巻いてみる。 [東風春秋]
本当は昨晩あれこれと書いたのだけれども、書くほどに泥沼になると気づいたのでここは [続きを読む]

受信: 2004.08.19 00:33

» [国際]核不拡散政策と日本 極東ブログ [反資本主義活動等非常取締委員会]
最初にちょっと指摘だけ >> 長崎に投下された原爆はウランタイプの広島原爆とは違い、プルトニウムを使っていた。当時の技術で6.1キログラム。同程度... [続きを読む]

受信: 2004.08.19 19:05

« オリンピックと身体 | トップページ | [書評]沿海州・サハリン近い昔の話―翻弄された朝鮮人の歴史 »