米軍機、市街地墜落の意味
沖縄県宜野湾市の沖縄国際大構内に、米軍CH-53D大型輸送ヘリコプターが墜落したのは、13日の金曜日、午後2時20分ごろ。あれから3日近く経過したが、沖縄県警はいまだ現場検証ができない。ここは本当に日本国領土なのだろうか。日本側の事故検証ができないのは、米軍の同意が得らないからなのだが、なぜそんな同意が必要なのかというと、日米地位協定があるからだ。事故機は米軍財産にあたるので、現場検証には米軍の同意が必要とされるというのだ。沖縄国際大学は日本の財産ではないのか。ようするに、日米地位協定がまたもしょーもないネックになっている。沖縄人のレファレンダム(referendum)といえる住民投票によって、日米地位協定改定が希求されたのに、依然、日本国政府はこれを無視したままである。
事件は本土側にも報道されたが、ベタ扱いに近い。プロレスとさして変わりない大衆興行であるオリンピックでメディアの時間枠が埋まっているせいもあるのだろう。住民被害もなく、大惨事という印象を与えないせいも大きいかと思う。
自分も長く沖縄県民であったから思うのだが、沖縄県民には、おそらく二つの思いがよぎったことだろう。一つは、またかよ、である。1972年の本土復帰以降、沖縄県内で発生した米軍機の墜落は今回で41件め。年に一回は落ちる計算になる。しかも、今回のCH-53Dは1985年、1999年に、沖縄本島北部国頭村で墜落したことがあり、2回ともきちんと4人死亡した。今回は乗員3人。1人は重傷だが、2人は軽傷に終わった。よかったねと言えるわけもない。事故地域は人口の多い住宅地なのだ。
それが二点目の思いにつながる。普天間飛行場自体、危険極まりない存在だということだ。今回の墜落が、沖縄国際大学近くの保育所やマンションであれば大惨事となった。沖縄県民は誰でもいつかその大惨事が起こると予想している(この感覚が本土人に伝わらない)。もちろん、米国側も予想している。昨年来沖し、普天間飛行場の上空を視察したラムズフェルドも巷にいわれるほど、おばかではない。状況を理解している。日本政府もある程度は理解している。次に事故が起きれば、すべては終わる。
普天間飛行場というのは、実に破廉恥な米軍基地である。回りを住民の居住区が囲んでいる軍事基地などという存在自体がふざけている。米軍側でも言い分もあるかもしれない、後から住民が住みだしたのだ、と。ふざんけんな、である。日本軍の駐屯地ではあったが、本土空爆用の滑走路を作ったのは米軍。戦争が終われば、こんなもの無用になるはずで、しばらく放置されていた。空軍下だったので、嘉手納基地に統合されるはずだった。ところが1960年に海兵隊へ渡され、以降海兵隊の既得権となった。4軍がまともに統制されるなら、さっさと閉鎖されていい基地であり、Stars and Stripes紙が"Base targeted for closure:閉鎖目標基地"(参照)と表現するのも当てこすりではない。
このニュースが本土側でベタ扱いなのは、土地勘が働かないせいもあるのだろう。沖縄中部の地図を見るとすぐにわかるように、普天間飛行場は沖縄国際大学に隣接している。今回の事故機も、琉球大学西側から北上し、あとわずかで普天間基地内に入ろうとしていたようだ。地域をより詳細に見ると、住宅地であることがわかり、ぞっとする感じももう少し伝わるのではないか。
墜落地点付近にはマンションが多いことがわかる。まさに住宅地域だ。小学校や保育所(幼稚園)、また、県民なら日常なじみの「かねひで」も近い。沖縄の普通の生活地域だ。琉球大学生による写真撮影「写道部」(参照)が現場の雰囲気をよく表している。一覧(参照)中、特にこの写真(参照)のコメントがいい。
駆けつけた人々。つーかこの高さのマンションによく激突しなかったもんだ。
墜落機の進入経路には背の高いマンションやアパートが並んでいる。
隙間を縫って大学の壁面に衝突したのは奇跡的。
実際のところ奇跡的だったのかはよくわからない。その他、現場を見ていた人の話を総合すると、墜落以前に沖縄県警のヘリが危険を察知して待避のアナウンスをしていたようでもある。また、事故機はしばし、ふらふら空中を旋回していたらしい。落ちる場所を探していたのかもしれない。シェル給油所は絶対にさけるポイントだったことだろう。事故機の乗員たちに死傷者が出ていないのも、ある程度自分たちの命は助かると踏んでいたのだろう。
米軍の現場レベルでは今回の事故をそれほど重視していない。というのも、普天間飛行場の海兵隊は15日には通常通り、C2A輸送機のタッチ・アンド・ゴー(離着陸訓練)をやっている。あるいは、事態の政治的な意味が、まるでわかっていないのだ。
今回の事件は国際的には注目されていない。本土が側が初動ベタ扱いという点では、1995年の少女レイプ事件でも同じだが、あの時は国際的なリアクションがあった。私はすでにインターネットのニューズグループなどを見ていたが、レイプ犯が黒人であるということまで早々に議論されていた。少女レイプ事件や服部君射殺事件でもそうだが、米国内で潜在的な問題意識があれば、事件の様相も変わる。日本政府や日本マスメディアは国際世論に弱い面がある(すべてそうではないが)。しかし、今回の事故は米国民には特に関心をひかない。例外的に新華社が若干関心を持っているようだが、つまり、そういう政治の枠に収まってしまう。
沖縄を含め、反基地運動グループの動向は、皮肉でいうのではないが、組織が硬直化しているのか反応は遅いだろう。プロ市民動員の割り当てには準備がいるのではないか。インターネット時代の情報戦にも弱いことは先日のイラク日本人人質事件でもわかった。
日本政府側の表面的な対応はこのままうやむやだろうか。利権もあるため、自民党は辺野古代替基地をいまだ推進しようとしている。愚か者としかいいようがない。潜在的に日本の国家危機でもあるというのに、政府内に沖縄を知るタマがこの10年で自民党から消えてしまった。梶山静六が死に、野中広務が引退し、事実上岡本行男が失脚した。山中貞則も死に、福田康夫も失脚した。つまり、そういうことがすでに危機なのかもしれない。
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コメント
77年の横浜米軍機墜落事故を思い出しました。あの事故(むしろ事件と呼びたいですが)では死者もでましたね...
投稿: 章 | 2004.08.16 16:06
在外米軍7万人超を削減=過去最大の再編、16日に発表−米大統領
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040814-00000637-jij-int
投稿: wq | 2004.08.16 17:07
沖縄に長年住むものとしても、この事件の衝撃は大きかった。
頭ではもちろん普天間基地の危険性は十分すぎるほどに認識はしていたが、
基地があまりにも生活圏に近すぎて、慣れっこになっていたというか、
実感として「危険性」を認識してはいなかった。
そういう意味で、心底からの恐怖を改めて感じさせてくれた事件であった訳だが。
恐怖に怯えて泣く小学生と、戦慄か心神喪失かで固まった表情のまま
立ち尽くすオバーの表情が印象的だった。
ローカルテレビ局の報道特番で軍事ジャーナリストが「こんな危険な基地を
どんな方法でも良いから今の場所からとりあえず撤去するための
現実的な行動を取ってこなかった沖縄県民も悪い」とコメントしたのも、
まさにその通りと痛感させるものだった。
形ばかりのデモ、何の意味も無い基地撤去呼びかけイベント。
近年の沖縄の闘争はそんなものばかりだった。
みんな感覚が麻痺して、口先ばかりで本心からの基地撤去は
唱えてこなかった。
今回のことで沖縄県民は目を覚ますだろう。
問題はここでも述べられている通り、沖縄を知る政治家がいないということだ。
尾身氏や細田官房長官は沖縄族であるが、それは亡くなられた山中先生や
小渕先生、失脚した野中先生とは違って、暗に利権のみを視野に入れただけの人間だ。
山中先生や小渕先生も利益誘導という意味では褒められた政治家ではないが、
少なくとも沖縄に対する愛情があった。
今後の沖縄の課題は、いかにして心から沖縄を愛してくれる有力政治家を
育て上げるかということになるのだろう。
投稿: くれふ | 2004.08.16 17:11
あと事件直後、現場確認に向かったのだが、何故に県や宜野湾市、大学当局の人間までが米兵に暴力を振るわれながら立ち入りや写真撮影を拒否されるのか?
あれは地位協定にすら即していない。
しかも阻止時に露骨に暴行を加えてきた訳だが(こちらは無抵抗にもかかわらず)、あれは日本の刑法に抵触するんじゃないのか?
近づこうとしただけで軽く殴られたり押し飛ばされてして怪我をしたんだが、これは診断書があれば訴えられるのか?
日本は未だにアメリカの占領地なのだと悟った。
投稿: くれふ | 2004.08.16 17:43
この事件で死傷者が出なかったことは幸運だったけど、
それ以外はとんでもない事件ですね。
特に事故後の米軍の対応は怒りすら覚えます。
橋本が辺野古移設なんて筋の悪い構想を打ち出して、
それが案の定頓挫したせいで、こんな事故も起こったんでしょう。
早く嘉手納基地統合に計画を変更すべきですね。
投稿: Baatarizm | 2004.08.17 10:42
I completely agree that Japan should have complete sovereignty regarding Japanese territory. The current situation, over half a century after WWII, is ridiculous.
投稿: Karlo | 2004.08.18 06:52
karlo-san, domo. The crashed CH-53D (D type) is almost out-of-date, and seemed to be transferred from Iwakuni base. Marine now uses new CH-53E (E type) in the battle field. I guess the director of Futenma base can not weigh the risk of degradation.
投稿: finalvent | 2004.08.18 09:21
久しぶりに、コメント致します。
今日(18日)の読売新聞の写真によると米軍は機体回収のさいにガスマスクを着けて作業しているみたいです。
(手元にないので未確認です)
なんかありそうな感じがします。
投稿: エフ | 2004.08.18 10:07
すいません修正です。
ガスマスク→黄色い防護服とマスク
投稿: エフ | 2004.08.18 10:18
>ガスマスクを着けて作業
あれは揮発した燃料が有害だからですよ。
見慣れない人には勘繰りたくなる様な格好でしょうが、あの格好は航空機消火作業の基本的な格好です。
沖縄で米軍機が墜落するのは年に1回程度ですが、火を噴いて堕ちずに基地に着陸するのは年に4~5回はあります。
そのたびにあの格好で消火してますので、沖縄ではかなり見慣れた姿です。
投稿: くれふ | 2004.08.18 17:43
おひさです。
琉大の入試の時(80年代初頭)、会場が国際大だったんですが、試験中でも構わず上空通過していきますねえ。
とんでもない場所に来ちまったと思ったもんです。
そして、本土では誰に言っても信じてもらえなかった…
起こるべくして起こった事故、って感じがしますね。
ま、どのレベルの事故になれば本土で報道されるのかわかったのが、今回の最大の収穫だった気がします。幼稚園バスに催涙弾投げても、装甲車が民家押し潰しても報道されんかったのだけど…。
投稿: エスねこ | 2004.08.21 22:06
最近になってこんな報道が出てますね。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040904-00000013-ryu-oki
ヘリの回転翼安定装置と氷結探知機にストロンチウム90が使われていたとか。
防護服やマスクはこのためだったのかも。
投稿: Baatarism | 2004.09.05 20:55
現場封鎖は合意違反/本紙入手の「緊急措置要領」ヘリ墜落対応/82年米軍含め制定(沖縄タイムス9月11日朝刊)
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200409111300.html#no_1
投稿: ひ | 2004.09.17 03:33