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2004.08.02

サウジ王家のムーア批判の背後にありそうなもの

 たいした話でもないのだが、サンデー・テレグラフによる駐英サウジ大使インタビューが少し気になった。ロイター「駐英サウジ大使『ムーア監督は華氏911で事実をわい曲』」(参照)が概要を伝えている。


[ロンドン 1日 ロイター] 1日付の英サンデー・テレグラフ紙がトゥルキ・ファイサル駐英サウジ大使の話として伝えたところによると、マイケル・ムーア監督はドキュメンタリー映画「華氏911」を制作した際、サウジアラビアに現地取材をしなかったとして事実を歪曲したとの見方を明らかにした。

 話の要点は2つあり、一つは、ムーアの法螺話への批判だ。ムーアは、米同時多発テロ発生直後に民間機がすべて離発着中止となったのに、サウジ王族とビンラディン家族が国外に脱出したとしているのだが、これは法螺じゃないか、と。ただ、その根拠はサウジ側ではなく、先日の米国の報告書によるものだ。余談だが、ブッシュのイラク攻撃も不確か情報に基づいて誤ったのだが、それを批判するムーアが同じレベルでどうすんだよと思うが、ムーア万世によっておろかな知識人がフィルターアウトしてよかったのだろう。
 もう一つは、ムーアにサウジへのビザを支給されたのに、同地を訪問をしていないという指摘だ。これはオフィシャルには初めてかもしれない。ムーアは手を抜いたというより、サウジの真相には関心なかったんだな、やっぱり、という感じがした。
 話はそれで終わりではあるのだが、元になっているサンデー・テレグラフ"Saudi royal family lambasts Michael Moore for twisting the truth in his 9/11 film "(参照)は、事実は同じだが、少しトーンが違う。まず、トゥルキ・ファイサル駐英サウジ大使の意味を確認している。

Prince Turki al-Faisal, the Saudi Arabian ambassador to London and a half-brother of Crown Prince Abdullah, was in charge of Saudi intelligence at the time of the 2001 terror attacks.

 トゥルキ・ファイサル駐英サウジ大使は名前を見ればわかるが、王族であり、アブドラ皇太子の異母兄弟である。つまり皇子でもある。サウド家の権威ある代弁者でもあるし、諜報にも関連していたとある。英大使というだけでなく、この件でのもっとも重要な人物だと言えそうだ。
 インタビュー後半では、焦点をサウジのありかたに当てている。つまり、テロとどう取り組むかだ。なお、サウジこそがアルカイダの温床であることの説明は今日は省略したい。

The Saudi security forces are currently involved in an intensive operation to track down the last remnants of an al-Qa'eda cell that has been responsible for a number of devastating terror attacks in the kingdom.


'We have made significant progress in fighting al-Qa'eda in Saudi Arabia,' he said. 'Of the 26 known al-Qa'eda hardliners in the kingdom, we have killed or captured more than half of them.'

 前段は保守系のテレグラフらしいまとめで、後段はトゥルキ大使の発言である。サウジはテロ撲滅に邁進しているとでも言いたいのだろう。
 だが、事実は少し違う。このあたりは、7月27日のフィナンシャルタイムズ"The House of Saud must pursue reform"が素朴に描いている。

Saudi Arabia's hopes that a month-long amnesty decreed by King Fahd would break the resolve of the al-Qaeda franchise operating to increasingly deadly effect in the Arabian peninsula have been disappointed. The time for the Islamist terrorists to give themselves up has expired and only six have done so.


Crown Prince Abdullah, the kingdom's de facto ruler because the king is incapacitated by a stroke, has promised a pitiless campaign against the would-be insurgents. That seems to have begun, not least with the detention of the wife and children of Saleh al-Awfi, the new leader of the Saudi jihadis who is still on the run.

 サウジの対応はうまくいっていない。テロ的な聖戦主導者の妻子の拘束までしている。当然、サウジ側にも焦りがある。先日のイラク派兵もその対応ではあるのだろう。
 フィナンシャルタイムズの示唆はやや皮肉めいている。

The Saudi authorities will need to strike a careful balance. The local al-Qaeda chapter wants to lure them into an indiscriminate crackdown that will widen its constituency of supporters. At the same time, the House of Saud, after a long period in denial, now knows beyond doubt that Osama bin Laden and his followers seek its overthrow.

 サウジ国家とビンラディンのようなラジカリストの関係はそう簡単に分断できるわけでもないのだが、やりすぎるなよというわけだ。そう言われてもねといった感じだし、フィナンシャルタイムズの提言はといえば、富の再配分をきちんとしろというくらなもので、非白人の私などにはこうした言及に人種差別的な蔑視の印象も持つ。
 話をトゥルキ大使のインタビューに戻すが、もう一点気になる発言がある。

'There is no doubt that as a result of the Iraq war it is easier for al-Qa'eda to sell their point of view to potential recruits. Al-Qa'eda has become stronger and more active since the Iraq conflict.'

 サウジの公式見解と見ていいのだが、イラク戦争によって、アルカイダはより強力となったというのだ。あれまという感じだ。
 ちょっと説明を省くが、アルカイダの求心性はその財源とともに低下していると評価していいだろう。テロの続発は基本的には小規模であり、中東圏の国家利益とも合致した反米勢力である。
 このサウジ側の発言は、ブッシュとサウジの仲が割れていると見ていいのではないか。あるいは責任のなすりあいである。長期的に見れば、ムーアの浅薄な見解とは裏腹に、サウジと米国の関係は緊張が続く。
 ただ、ブッシュが再選されるとこれも流れは少し変わるだろう。ムーアを批判しておきながら、同レベルの放言もなんだが、オクトーバー・サプライズ(October surprise)は、原油価格の低下ではないのか。しかもサウジと結託しての。

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コメント

考えてみれば、民主主義、キリスト教、
資本主義、商業主義、ポップカルチャーなど、
アメリカを象徴する様々な要素は、ことごとく
サウジアラビアとは相容れないもののように
思えますね。
これほどまでに異なるアメリカとサウジアラビア
という2つの国が、石油を通じて強い関係にある
というのも、国際関係の皮肉の一つでしょう。

あとこの記事で知ったのですが、サウジアラビアで
「華氏911」を上映しようにも、そもそも映画館が
存在しないというのはトリビアかもしれません。
http://www.sankei.co.jp/news/040802/kok047.htm

投稿: Baatarizm | 2004.08.02 17:47

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