緑のある環境がADHD(注意欠陥多動性障害)を緩和する
ADHD(注意欠陥多動性障害)が日本でも注目されるようになってきたが、今日のロイターヘルスに、子供のADHD改善について、興味深い研究が紹介されていた。ある意味で、常識的なことかもしれないのだが、緑のある自然に触れることで子供のADHDが改善されるというのだ。
記事と研究の紹介の前に、ADHDについては、東京都福祉保健局の解説(参照)を参考に少し補足しておこう。
ADHD(attention-deficit hyperactivity disorder)は、注意欠陥/多動性障害と訳されるように、注意力の障害と多動・衝動性を特徴とする行動障害だ。一般的な症状としては、注意障害(注意が持続できない、必要なものをなくす)、多動性 (じっとしていない、しゃべりすぎる、手足をそわそわ動かす、離席が多い)、衝動性(質問が終わらないうちに答えてしまう、順番を待つことが苦手、他人にちょっかいを出す、などがある。
診断については、現在、極東ブログでおなじみのDSM-IVに加え、ICD-10がある(参照)。私自身もADHDの傾向があるが、それ以外にも私の人生にはわけあって、この問題がMBD(微細脳機能障害)と言われていた時代から関わりがあった。当時はこれが脳構造の欠陥とみなされていた。現在でもその系統をひいた解説も多い。また、学習の側面では、LD(Learning Disorders/Learning Disabilities)とも関係している。
ジャーナリズム的には、あまり正確ではない印象も持つが、読売新聞「医療ルネサンス」シリーズの「多動性障害・ADHDと向き合う」が読みやすく、ネットからでも読める。
この他、読売(岩手)「『困ったちゃん』で終わらせないで」(参照)のシリーズも実態を知るのに読みやすい。こちらのシリーズでは、大人のADHDについても扱っている。
日本ではADHDをどちらかいえば知能が劣ったものとして捕らえられているが、米国では、著名人にも多いという受け止め方もある(参照)。サバン症候群とは違うが、ある種の学習的な能力欠損は別の能力の補償かもしれない。誤解されるかもしれないが、ADHD傾向のある私も自分の脳味噌と47年付き合ってきたのだが、どうも他の人と脳機能が違っているようだ。単に人それぞれの違いというだけのことかもしれないのだが。
話を戻す。こうしたADHDの子供の症状を、植物のある環境が緩和するらしい。調査のオリジナルは"American Journal of Public Health, September 2004"の"A Potential Natural Treatment for Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: Evidence From a National Study -- Kuo and Faber Taylor 94 (9): 1580"(参照)。結論はシンプルだ。
Conclusions. Green outdoor settings appear to reduce ADHD symptoms in children across a wide range of individual, residential, and case characteristics.
【試訳】
結論。緑の植物がある野外環境は、各種・各地域のADHDの子供の症状を緩和し、鎮静するようだ。
ジャーナリスティックにはロイターヘルス"Great Outdoors May Ease ADHD Symptoms"(参照例)がわかりやすい。
野外の緑ある環境は、芝生でも裏庭でもいいらしい。
They speculate that daily doses of "green time," such as simply taking a greenery-splashed route when walking to school, or playing on grass instead of concrete, could aid in managing ADHD.
【試訳】
例えば、コンクリートで覆った公園より芝生で遊ぶことや、通学路に緑があるだけでもいい。研究者達は、そうした、緑の時間「グリーンタイム」があるだけでも、ADHDの症状を扱いやすくするとしている。
「グリーンタイム」という表現がいいと思う。また、もう一ついいキーワードがある。「注意疲労」だ。
Attention fatigue, though fleeting, shares characteristics with ADHD, the researchers note. Some studies, mostly in urban areas, have suggested that spending time in green spaces eases children's ADHD symptoms.
【試訳】
短時間とはいえ「注意疲労」もADHDの症状と関連している。他の都市部での調査だが、緑のなかですごす時間はADHDの症状を緩和しているようだ。
自然を好む日本人としては、緑の自然が人間の心を癒すというのは、ごく当たり前に受け止めるだろうと思う。その意味で、つまんない話なのかもしれない。しかし、実際に我々の現代の生活を、「グリーンタイム」と「注意疲労」というキーワードで見つめてみると、わかっていても、そこに大きな欠落があることに同意するしかないだろう。
辛口エッセイで有名な高島俊男先生も以前連載のエッセイで、緑の木立のなかを散歩するとすこぶる眼によいというようなことを書いていたが、多様な緑の色彩もだが視点が多様になっているのもいいのだろうと思う。我々は読書やパソコン作業では、注意を一点に集中する。慢性的な「注意疲労」があることは想像しやすい。しかし、自然の活動は注意をある程度分散しなくてはいけない。それが注意疲労の軽減にもなっているだろう。
個人的には、この調査を聞いたとき、私は高校生くらいまで木登りをしていたことを思い出した。実家の隣の空き地には、手頃な松の木があった。そこに私は猿のようによく登った。小学校六年生のとき、アマチュア無線の電話級の試験に合格して嬉しくて登ったことを昨日のように思い出す。ADHDっぽい少年の私は数多くの緑に支えられてきた。思い返すと、小学校から大学までずっと芝生だの雑木林のあるところだった。あの木々と草たちに感謝したい。
イーデス・ハンソンの「花の木登り協会」は復刻されないのだろうか。今の子供たちが木に登らないことをちょっと悲しく思う。
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