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2004.07.15

SARS隠蔽と戦った蒋彦永医師の状況は変わらず

 TIMEの目次をざっと見ながら、我ながらうかつだったのだが、蒋彦永医師の問題が硬直した状態のままであったことを思い出した。中国をある程度知る人間なら、彼は絶対に殺害されないことは確信できる。むしろ、政府側に拘束されているので安全かもしれない。むしろ、最悪な事態は、現在進行中の「学習」が効果をもたらすことだが、方孝孺の故事は彼自身はもとより、彼を糾弾する側も熟知しているだろう。むしろ、方孝孺の故事を知らない日本人も多くなったのかもしれないが、余談は慎もう。
 TIMEは蒋彦永医師と関係が深いので、気になって"Prisoner of Conscience"(参照)に目を通したのだが、特に重要な情報はなさそうだ。なので、概要については、読みづらい英語ではなく邦文記事「SARS告発の中国人医師、強制的に『学習会』」(参照)をひく。医師は、蒋彦永医師のことである。


 [北京 5日 ロイター] 昨年、中国政府が重症急性呼吸器症候群(SARS)感染状況を隠蔽(いんぺい)しているとして内部告発した医師が、1989年の天安門事件をめぐり、当局に身柄を拘束され強制的に「学習会」に出席させられていることが分かった。関係筋が明らかにした。

 この記事には触れらていないが、拘束の理由としては、米国にいる娘に会うために国外に出ようとしたのを阻止したという話もある。
 日本でまったく報道されていないわけではないが、あらためて調べ直すと蒋彦永医師については実に情報が少ない。AMNESTY INTERNATIONALでも"China: 15 years after Tiananmen, calls for justice continue and the arrests go on"(参照)では実名が上げられているが、国内のアムネスティ・サイトには見あたらなかった。見落としならいいのだが。
 日本のメディアがこの問題に及び腰なのは理解できないわけではない。率直なところ、私もこの蒋彦永医師の問題は、もちろん人権問題でもあるのだが、中国内での政治の図柄が読み切れないところがあり、躊躇する部分もある。
 例えば、ワシントンポストは"China's 'Honest Doctor'"(参照)では、次のように蒋彦永医師のヒーロー視を指摘しているが、こうした影響をそのまま評価していいものなのだろうか。

Second, and especially unfortunate for Beijing, is that Dr. Jiang fits the profile of an archetypal Chinese hero -- that of a conscientious scholarly official who puts himself on the line to tell the corrupt emperor the truth for the sake of the people and is ordered punished.

 Googleを引いていくと、マイトレーヤー観までありそうだ。例えば、"China's creating a new martyr"(参照)というニュースではこうだ。

China's leaders are taking a very big risk in detaining Jiang Yanyong, the 72-year-old military surgeon who became a national hero last year when he exposed the government's attempts to cover up the extent of the SARS epidemic. Their attempt to silence a popular critic could become the catalyst for a broad-based challenge to the authority of the ruling Communist Party. Even if they succeed in suppressing this challenge in the short run, they will have created a new and powerful martyr for the cause of democracy in China.

 記者が中国人の弥勒観を知っているかどうかわからないにせよ、こうしたヒーロー的な熱狂は、中国の場合、予想外の事態に発展しがちだ。
 というわけで、我ながら歯切れが悪いのだが、そのあたりの受け止め方の感性を日本人の私はよく共感はできない。
 なお、蒋彦永医師の問題となった書簡は、現代中国のサイトで邦訳で「蒋彦永医師 89年六四学生愛国運動の名誉回復の建議――今期全人代、政治協商会議への書簡」(参照)で読める。清明な文章で人の心を打つ。
 つまらぬ余談だが、かつては、日本の左翼もこうした清明な心を文章にする人々がいたことを思い出す。

【追記 04.07.21】
蒋彦永医師が解放された。詳細は以下。

ワシントンポスト "China Frees Dissident Physician"(参照

Jiang Yanyong, 72, a semi-retired surgeon in the People's Liberation Army who had briefly become China's most famous political prisoner, was returned to his apartment in western Beijing about 11 p.m. and appeared in good health, his wife, Hua Zhongwei, said by telephone Tuesday.

She said she and her husband had been ordered by the Chinese military not to speak to reporters, and she declined to discuss the circumstances of his release. But asked how she felt, she laughed and said, "You can guess by how I sound."


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コメント

11日の香港紙に蒋彦永氏の救出を求める署名運動のURLが掲載されていましたので、ご参考までに。
http://chinaway.org/jyy/
(簡体字、英語)

香港で蒋彦永氏が英雄視されているのは、
・大陸のSARS情報隠蔽は香港市民の生死に関わる問題であり、
彼のような告発者が現れたことは単純に有り難かった。
・インターネットで公開された「平反六四」書簡への共感。
・蒋夫妻の拘束には昨今の中港関係のねじれも原因するらしいと感じている人が多い。
といった要因があるように思っていました。
伝統的な清官廉吏像に彼を重ねている、という解釈なら理解できますが、
弥勒信仰云々が出てくると、だいぶ実感から遠いようです。

投稿: heung | 2004.07.15 14:39

heungさん、コメントありがとうございます。ブログの構成上、リンク部分だけ手を加えました。ご了承ください。

投稿: finalvent | 2004.07.15 15:13

蒋彦永医師はようやく解放されました。情報についてワシントンポストのリンクを本文に追記しました。

投稿: finalvent | 2004.07.21 17:22

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