今後エイズは日本の大問題になるかもね
エイズの問題を扱うのはちょっと気が重い。重要な問題なのに、必ずと言っていいほど政治の思惑が絡むからだ。しかし、潜在的ではあるが、すでに事態は洒落にならない状態に移行しているように思われる。だから、少し書いておこう。
最初にたるいニュースだが朝日新聞系「エイズ死者、累計2千万人超える 国連最新推計」(参照)をひく。
国連合同エイズ計画(UNAIDS)は6日、世界のエイズウイルス(HIV)感染者が03年末に3780万人にのぼり、同年の新たな感染者が480万人、エイズによる死者は年間290万人とする最新推計を発表した。
幸い、これは推定値より伸びが鈍い。UNAIDSの主眼はアジアに向いてきている。
一方、アジア地区では伸びが目立ち、感染者数が740万人、うち03年の新規感染者数が過去最高の110万人に達した。中国では、感染者が01年末の66万人から03年末には84万人に増加。UNAIDSは、同国で効果的な措置が取られなければ10年に感染者数が1000万人に達する可能性があると警告している。
わかりやすいようでわかりづらい。印象としては中国が本丸のようにも思える。ここはジャーナリズムも書きづらいのだろう。
さて、エイズの問題は、日本人には、ピンとこないのが実際ではないだろうか。メディアも騒ぎ疲れた感じがあるが、統計的にも日本の危機には見えない。というのも、HIV感染者は米国で95万人、ロシアで96万人、ベトナムで22万人というが、日本は1.2万人と桁違いに少ないからだ。単純に言えば、日本人にとって、エイズは、外人の病気であり、薬害エイズのような国政側の人災といったところだろう。
私もどちらかといえばそう思っているのだが、今朝のロイターでちょっと気になるエッセイがあった。配信の関係からちょっと変わったサイトからになるが"Oblivious Japan may be on brink of AIDS explosion"(参照)からひく。標題を試訳すれば「健忘症の日本でエイズ爆発の可能性あり」となるだろう。そう、日本人はすっかりエイズのことを忘れているのだ。なお、記事中の"Masahiro Kihara, a professor at Kyoto University"は木原正博・京大教授、また、引用部分ではないが、ボランティア活動をしている"Akaeda, a doctor"は赤枝恒雄医師である。
Some experts warn cumulative numbers could jump to 50,000 by 2010 due to increased youth sexual activity, less condom use, and official indifference, symbolised by falling budgets.Worse though, may be general public apathy.
“It’s impossible for people to think AIDS has anything to do with them,” said Masahiro Kihara, a professor at Kyoto University. “AIDS is Africa. It’s America It’s gay.
“The ignorance is huge... so this is a very dangerous situation,” he added. “I think the estimate of 50,000 by 2010 might be an under-prediction.”
現状では、統計的に見れば、たしかに日本でのエイズは問題でないかに見える。しかし、問題は2点ある。1つめは、先進諸国ではエイズは衰退の傾向にあるが日本は逆であること、2つめは、"The ignorance is huge"、つまり、無関心さだ。記事では、2010年に5万人を想定している。6年先は遠いのようにも思えるが、6年前はついこないだのことだったな。いずれにせよ、6年後、そのとき、日本のエイズ患者が5万人の水準になっているかが一つの目安になるだろう。が、そのときは、この不吉な予言の的中であり、事態はさらに難しくなっているだろう。
この問題は、日本のメディアでは、若い人の性活動や避妊具流用の推進というお定まりの文脈で語られやすい。が、問題の大きな軸は、日本の性産業にもあるように思える。ロイターでは簡素にしか触れていないが。
But while in the past many cases involved foreign women in the sex trade or men who picked up the virus overseas, the sources of infection now are almost all domestic -- and spreading from major centres like Tokyo to cities around Japan.
もうちょっとあからさまに言ったほうがいいのかもしれないが、控えておく。あと、以下についても引用だけはしておくが、コメントは控えたい。
Some 20 to 30 percent of 16-year-olds have sex, and nearly a quarter of these have four or more partners, said Masako Kihara.“Only 20 percent use condoms every time,” she added. “They think they have a set partner, so it’s safe.”
Not surprisingly, both AIDS and other sexual diseases - such as chlamydia, which can cause infertility - are on the rise.
ロイターの記事ではこの先、日本のエイズ検査の状況を問題にしているが、あまり踏み込んでない。ので、関連して、読売新聞に連載中の「エイズ・20年目の現実」の第四回(7.7)をひいておく。誰もが知っているが献血検査の問題を指摘している。
こんな検査キットが、一年半ほど前から大手薬局の店頭などに並び始めた。一セット5000円弱と安くないが、販売元は「ほとんど宣伝していないのに、売れ行きは確実に伸びている。潜在需要は大きい」と話す。
エイズ患者・感染者が増える中、感染の不安を抱える人の多さを物語る現象だが、こうした人たちを受け止めるはずの公的検査態勢が不十分であることの裏返しでもある。この現実は医療を支える献血の安全性をも脅かしている。検査目的とみられる献血が後を絶たないからだ。
日本赤十字社は高精度検査を実施しているが、感染から二か月近くはウイルスが少なく検出が難しい。昨年末には、その「空白期間」に献血された血液が検査をすり抜け、輸血された患者の感染が報告された。
厚生労働省は、再発防止策の一環として、検査目的の人には、献血窓口での正直な申告と日赤の提携病院で無料検査の受診を求める仕組みを整備する方針を打ち出した。
しかし、日赤には反発の声がくすぶる。ある幹部は「保健所だけで不十分なら、全国の国公立医療機関で無料検査する枠組みを作ればいい。国は自らの努力を怠り、日赤に責任を押しつけている」と批判する。英仏などでは一般の医療機関で検査を受けるのが普通で、検査目的の献血は基本的にないという。
端的に言えば、そういうこと言っている場合じゃないだろ、だが、日赤の問題の根は深い。というか、ブラジル沖までつながっていそうな井戸を覗き込むような感じだ。
どうも喉にものが詰まったような言い方になってしまったが、どうもずばっと書くには危険なことが多いかなとつい思うようになった。ごめんな。
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コメント
ヤバイ感じの台湾マッサージ後、急に不安になって検査受けに行きました。(品川区)
会社午前休んだりしなきゃいけないのが面倒でしたが、
無料で秘密厳守でやってくれましたよ。
検査体制より、告知と教育が不十分だと思いました。
投稿: クソ風俗 | 2004.07.09 11:25
15年か20年ほど前に将来日本のエイズは大問題になると言われていましたが、とうとう来そうですね。
何だか暗い日本の将来の話ばかりで嫌ですね。
投稿: maida01 | 2004.07.09 12:56
エイズ問題は20年位前から医療界でも問題視されていることが公になり、随分大変な不治の病のような扱いを受けてきたように感じます。それから某私立のT大のA教授問題、製薬会社のM、自分たちの利益のために何人もの血友病の患者さんたちを犠牲にしました。ドラマでも最近再放送されましたが、女子高生がエイズに感染する話です。私も最近エイズの話が出てこないなと思ってました。検査薬のキットが販売されてるとは...知りませんでした。日本人は女の子が簡単に自分の体を売り物にする傾向があり、それを影で自分の利益のために操る大人がいて、売春ツアーとやらに参加する男性もいる。こういうことがあるうちはキットは売れるでしょう。世の中の真っ当な男性、女性の方々は結婚するときに十分に気をつけて下さい!!
投稿: ひろ | 2004.07.09 17:34
「赤いダイヤ」とかいうと憚られるかもしれませんが、
時代変遷から売血から献血に変わったとはいえ、(いや変わったからこそ)
某周辺にとっては、今も昔も、巨大な利権構造を成す天然資源ですよ(汗
投稿: 熱帯夜(;´Д`)アツー | 2004.07.10 03:24
私はエイズの思想的位置付けに興味があるのですが、
日本において誰も語らないのはどういうことだ、と思いますね。
人間の性的接触に対する対抗と制御としての「病」という
観点から、
極めて思想的な位置付けがされて然るべきだと思うのですが…。
単純に眼を逸らしてしまってよい筈がないと思いますね。
エイズをどのように位置付けてゆくかは、思想としての
力量と責任を問われる必須の作業ではないかと思います。
投稿: kagami | 2004.07.10 09:36
仕事や留学で中華人民共和国に入るのには、国立病院でHIVウィルスの抗体検査をしなければならない。(日赤病院や私立病院は認められてない)
しかし、言いたい。「よそから入ってくるエイズを心配するより何百倍も多い国内エイズの心配をちゃんとしてくれ」あと「国立病院だけを特別扱いするのも止めてくれ」
投稿: こっこう | 2004.07.11 02:36
先進国における日本の特殊性としては、「こんなに結核の多い先進国は無ぇヨ」とか。
投稿: こっこう | 2004.07.11 02:37
この読売新聞の記事はおかしいと思うんですが。確かに献血された血液は全てHIVの検査をするようですが、検査結果は本人には知らされないと思うのですが。
私は以前、献血した際にHIVのテストの結果を教えてくれるのか聞いたところ、ダメだと言われました。保健所へ行け、とのことです。
投稿: たいやき | 2004.07.12 13:50
日本は以外にいい加減なところがあります。風疹の予防接種も受けてない年齢層、しかも妊娠可能な女子が放置され、今年あたりは流行の兆しがあるということです。はしかもワクチンを受けずに海外に行きウイルスをばら撒いているのです。これは先進国からの指摘を受けています。外国ではどう対処してるか考えながら、よその国に迷惑をかけないように厚生省や、各自治体、保健所でリードしていってほしいです。それと、母親のなかには勘違いしている人がいて、子供にワクチンを受けさせない主義の人がいることを見落とさないでほしいです。何を根拠にそう考えるのか知りませんが、そんな人もいます。結核も根絶してはいないのでツベルクリン反応検査も大人もやるべきかな?ということで日本は少し抜けてるところがあります。皆さん気をつけましょう!
投稿: ひろ | 2004.07.12 14:47
前回の書き込みに付け加えます。はしかワクチンは以前MMRとして{麻疹、おたふくかぜ、風疹}と、一度に接種されていましたが、副作用があり中止されました。以後、任意になりました。子供にワクチン接種は非常に大切なことですが共働き、日常の忙しさ、転勤等で接種することを忘れることもあります。何人かが接種をしない為に保育園や幼稚園、学校で流行りその兄弟や大人にもうつっていきます。エイズも同じです。
感染症というものは一人一人が注意していかないと、どんどん広がります。厄介なものです。
投稿: ひろ | 2004.07.12 18:03
日本では、予防接種は副作用の怖さを重視するため、どんどんやらない方向に傾いているように見えます。
ツベルクリン反応も、確か副作用があるとかで”任意実施”だったはずです。個人的には、この種の予防接種は「医師の診断書がない限り強制」にするべきだとは思います。
若い子供のSEXが盛んなのは、ある意味日本古来の伝統に帰っただけのような。(^^;;しかし、みんな、そんなにセックスする相手って居るのか?調査した人間は、調査母集団を間違えているような気がするけどなぁ・・・
投稿: うみゅ | 2004.07.13 23:57
そうそう!母集団の間違え、私もそう思います。それから、相手がそんなにいるのか?という話。ほんとにどうやって相手を見つけるのさ?日本はどこへ行くのかな??
投稿: ひろ | 2004.07.20 16:43