ユコス国有化が暗示するロシアの大望
そこまでやるか屋敷しもべ。っていうか、さすがだ。というわけで、読みを外してしまったので、追記話を書くしかあるまいな。事件は、産経系「プーチン政権 露ユコス国有化へ 本社ビル差し押さえ “独裁化”に懸念も」(参照)に詳しい。標題通り、ユコスは国有化されてしまった。
【モスクワ=内藤泰朗】ロシア治安当局は三日、巨額の追徴税支払い命令を受けた同国石油大手のユコス本社ビルを封鎖、差し押さえた。近い将来、同社の一時国有化は避けられない事態となった。ユコス側との妥協を一切拒否し、警察権力によって同社を国家管理下に置いたプーチン政権の独裁的手法は今後、同国の民主主義の発展に大きな傷となっていくものとみられる。
記事を読んでいただければわかるが、ナニワ金融かガサ入れかなんてもんじゃない。ちょっと昔のサヨク用語で形容したくなるような話だ。ロシア国内問題で済む話じゃないのに、そこまでやるのか。まったく、読みが甘いね、甘っちょろいね、極東ブログさんである。と、までは言い切れないのは、国際市場っていうものがあるからだが…。
政権側は「金の卵を産むニワトリを殺しはしない」(プーチン大統領)方針だ。同社の一時的な国有化の後、政権側に有利な株式売却などを行い、現幹部を一掃して従順な新会社として再出発させる戦略との見方が広がっている。
が、ある程度まで産経の読みでいいのだろう。
しかし、同社に追徴税を支払う機会を与えずに優良民間企業の資産を「石油は国民共有財産」として国家管理下に置いた手法や、政権が、同社と同じように国家資産を「横領した」ほかの企業には目をつむり、特定企業を弾圧した事実はぬぐえず、政権への信頼低下は避けられない。
しかし、ここまでやるのに、政権への信頼低下なんていうもんじゃないでしょう。だから、次の期待も甘い。
だが、その論理と手法は、ロシア革命を主導した「ボリシェビキ(後のソ連共産党)」流にも通じかねない。国民が「こうした公約は幻想に過ぎない」と認識したとき、大きな反発に発展する可能性は否定できない。
甘いな。そんなことはないな。というあたりで、先日極東ブログ「宣戦布告なき石油戦争の当事者は日本と中国」(参照)を描いたとき、わざとシカトを決め込んでいたが、Newsweek"The Yukos Endgame"(参照。なお、同記事は日本版7.7「石油を制した大統領」に訳文あり)の筋書きが概ね正しいようだ。といって、さすがにここまでの事態を読み切っていたわけでもない。
Yukos will, in essence, pay its tax bill with stock, or end up in the hands of a company friendly to the Kremlin, effectively renationalizing the firm and giving Putin better control of a strategic resource. "Putin wants to be Sheik Yamani in 1973," says a longtime American observer of the Russian market.
しかし、事態がどう転んでも、プーチン大統領が1973年時点のヤマニ(サウジ石油相)になろうとしている話は、シカトもできないし、笑えもしなくなった。
さーて、問題はやり直しだ。問題は、日本であり中国なのだ。
Putin is making it clear that energy decisions with foreign-policy consequences are not for businessmen to make. In the Kremlin's view, one of Khodorkovsky's great sins was to push for an oil pipeline from Siberia to China - Russia's top security threat in Asia. Putin has scrapped that idea in favor of a more expensive and less commercially viable pipeline to Japan.
ということだ。つまり、例のシベリア石油パイプラインを中国に向けることは、経済的な理由を度外視して国策として許さないということだ。もうちょっと露骨に言ったほうがいいかもしれない。ロシアは近未来に中国と対立することになるので、日本を巻き込んだ形で対中国の布石を取るということだ。
嬉しいか、日本?
別に嬉しかないよ、とつい言いそうになる。それより北方領土を早く返せとか言いたくなる。言えよ、である。屋敷しもべのほうが格段に力が上だ。
No question, President Putin may have a score to settle in the Yukos affair, but Sheik Putin has bigger aims in mind.
溜息がでる。"Sheik Putin"…シーク・プーチン、いや、違う、「シャイフ・プーチン」と読まなくてはこの文章は通じない。
プーチン首長のより大きな目標?、それを阻止できるのは、世界市場だけだが、その世界市場は、端的に言って、米軍の新しいシフトの下でしか機能しないんじゃないか。
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コメント
興味深いですね。生臭い話ですが日本側の投資先としては、
親中ラインは一応残しつつも、親ロラインが重要になって
くるということはここ数年よく云われておりましたが、
いよいよ、大きく動く予兆が感じられるようになりましたね。
中国のバブルが弾けたときに、ロシアにとってのチャンスと
日本の再沈没(笑)の始まる予感が致します。
米軍シフトはどうなんでしょうか…。
米が韓をあっさりと切り捨てたように、
米は日もあっさり切り捨てる可能性が否めなく思えます。
やはり、日本は欧州ではなく
アジアの黄色人種だというのが米関係では痛いですね…。
投稿: kagami | 2004.07.06 06:19
何となく世界が動いているように見えますね。中国や韓国も動いているし、プーチンは強大になろうとしているようですね。
日本の政治家若しくは誰かが、このような世界のパワーシフトを読んでいるのでしょうか?
投稿: maida01 | 2004.07.07 19:07
ロシアパイプラインを巡る日中の攻防
http://www.iijnet.or.jp/IHCC/asia106-baikalu01-siberia03.html
私的にはこのユコス騒動により、
日本側有利に傾いていたサハリンプロジェクトが結局、
日本側がオファーしていた「ナホトカルート」に落ち着くのか、
それとも中国側の「大慶ルート」に落ち着くのかに関心を持ちます。
なんかユコスが両天秤にかけてチンタラやっていたみたいですから、
どっかから相当な圧力がかけられたのではないのかと邪推。
投稿: usam | 2004.07.09 14:50
さらに指摘しておくと、日韓の政財界などが、
日本-韓国-北朝鮮-ロシア、
さらにはヨーロッパまで繋がる鉄道、ハイウェイなど(パイプライン含む)の夢のようなインフラ整備を目論んでおり、
その実現には北朝鮮の情勢安定が不可欠なので、
その辺に絡んで最近の小泉政権の北朝鮮への態度が軟化しはじめているのでしょう。
これも邪推ですが。
投稿: usam | 2004.07.09 15:04
もうひとつ。
今年3月30日にロシアでの記者会見上で中国駐ロシア大使の劉古昌が次のような発表をしています。
http://news.sina.com.cn/c/2004-03-31/05472183038s.shtml
「中露は協力を強化して両国人民の根本的な利益に沿った国際情勢的発展が必要であり、世界平和維持について安定と重要な貢献を作り出す。
10数年来中露関係はずっと良好な発展の勢いを保持している。中国はロシアの主要な戦略的パートナーなので、ロシアは露中関係を優先的に発展させる方向性を持つ。中露関係のこのビルは非常に堅固であり、国際風雲がどのように激しく変わるに関わらず、それは雄大にそびえ立ち、そして絶えずその機能と作用を発揮して発展する。
中国の発展はロシアに対しての挑戦ではなく、ましてや脅威でもなんでもない。かえってチャンスなのだ。中国は絶対に対外拡張や富国強兵なんて実現させない。中国が強大になっても、拡張路線なぞ歩むはずはなく、ロシアを含めるいかなる国家に対し脅威を与えるような事はありえない。中国の発展は各国と平等互恵の協力を展開しなければならず、これは世界各国でも特に最大の隣邦であるロシアに対し更なる広大な市場と多くの協力の好機を提供する。中国の発展自体は世界平和に対する貢献だ。中国は発展すれば世界平和に更なる貢献を作り出し、ロシアが必要とする平和と、良好な国際環境や周辺環境の発展振興実現に貢献するはずだ。
ロシアの発展も中国に対して重要なチャンスだ。我々は発展、安定、繁栄という強大なるロシアを見ることを望んでおり、これは中国に対して有利で、中露関係に対しても有利であり、世界に対してもまた有利なのだ。
中国の経済発展に伴い大量の石油輸入が必要だ。ロシアの石油は資源が豊富で、中国の大市場を必要としている。中国はロシアにとって最も安定した市場であり、最も信頼できるパートナーだ。ロシアの中国側への石油供給で最も合理的で最も経済的なの運送方法はパイプライン建造なのだ。」
このように言うことができる。双方は至中国石油パイプライン建造問題上異論はない。露指導者は、石油パイプライン建造以前に、ロシアは鉄道輸送を通じ中国への石油輸出を増大すると何度も表明している。
両国政府が積極的に進める双方の実業界との共同推進プロジェクトの下に、中露のエネルギー協力プロジェクトは、石油パイプラインプロジェクトと共に、きっとすばらしい未来となることであろう。」
噴飯もののロシア万歳ぶりですが、日本に対するそれとはえらく違う態度ですね。
投稿: usam | 2004.07.09 16:04
国家財政破綻について研究している者です。僕のブログは、ワンテーマに絞ったものです。(ちょっと、ビジュアル的にはごちゃごちゃしてますけど)最近、楽観論に傾いていて、説得力のある根拠づけを考えています。
投稿: わんだぁ | 2004.07.09 22:42
すいません。URLを間違えてしまいました。
投稿: わんだぁ | 2004.07.09 22:44
わんだぁさん、こんにちは。
日本国財政破綻Safety Net
http://wanderer.exblog.jp/
面白いですね。海外銀行口座の話などためになります。
余談かつ、ケチをつける意図では全然ないのですが、exblogはある程度まとまった意見を累積するに、ログ管理の点で少し機能が弱いようにも思われます。えっと、MT、TypePad系がお薦めかな、と。このあたりは趣味の問題もありますが。
投稿: finalvent | 2004.07.10 09:22
usamさん、こんにちは。
ナホトカルートと大慶ルートについては、実は本文リンクのNewsweekに言及があるので、コメントは控えていました。つまり、大慶ルートではないようです。
この点について、私も結局、読みを間違えたこともあり、この記事を書いたわけです。
usamさんのコメント
>噴飯もののロシア万歳ぶりですが、日本に対するそれとは
>えらく違う態度ですね。
ですが、このあたりは、結局、ロシアの変化にともなって、対日も変わるかもしれません。大連あたりを弾除けに使われたらたまりませんが。
いずれにせよ、ユコス自体よりもロシアの国策と中国の崩壊の可能性は日本に大激震を与える可能性があるなと思います。
投稿: finalvent | 2004.07.10 09:29