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2004.07.30

在仏ユダヤ人退避勧告と分離壁問題

 イスラエル問題について少し書く。あまり考えがまとまらないのだが、この時期にコメントしておくべきだろうと思う。話題は二つあり、関係している。一つはイスラエル首相シャロンが在仏ユダヤ人に出した退避勧告について。もう一つはイスラエルとパレスチナの分離壁の問題だ。
 退避勧告については、朝日新聞系「イスラエル首相、在仏ユダヤ人に『退避勧告』 仏は反発」(参照)をひいておこう。背景にはフランスで起きているユダヤ人への墓荒らしの問題がある。遺体を焼いてしまう日本人には墓荒らしの感覚はわかりづらいかもしれない。


 シャロン首相は18日、エルサレムで開かれた在米ユダヤ人代表らの集会で「すべてのユダヤ人にイスラエルへの移住を提案する。中でも、たけり狂う反ユダヤ主義にさらされる在仏ユダヤ人は直ちに動くべきだ」と述べた。さらに「仏人口の1割がイスラム教徒。反ユダヤ主義の新たな温床だ」とも発言した。

 ニュースではシャロンの発言だけが浮いてしまうのはしかたがないが、国際情勢としては米国とフランスの外交的な対立もある。
 シャロンの言い分など胸くそ悪いのだが、それでも次のファクツは、シャロンを愚弄してすむことではない。

 仏内務省によると、仏国内で起きた墓地荒らしなどの反ユダヤ主義犯罪は今年前半で132件を数え、早くも03年全体の127件を超えた。在仏ユダヤ人団体によると、イスラエルへの移住は02年に急増し、03年も前年並みの約2300人が仏を離れている。

 率直なところこの数値に私は驚いた。日本人の感覚からすれば、危ないイスラエルに移住するよりはフランスに定着すればいいというくらいではないだろうか。
 しかし、フランスの人口構成を考えるとそれほど異様でもない。現在、在仏のユダヤ人は60万人。また、フランス内のイスラム社会の構成員は500万人(参照)。という数字の提示はあたかもフランス内でのイスラム対ユダヤというふうに読まれる危険性があるが、そう単純に結びついているものではなく、反ユダヤ主義は歴史的にフランスに根深い。また、フランスの人口は日本の半分の6000万人。国家規模的にも日本の半分くらいの近代国家なのだが、日本でこうした状況は考えにくいのではないだろうか。
 シャロンの放言を受けてフランス政府は早々にシャロンの訪仏禁止など外交のシグナルを出していたのだが、これはシャロンのほうが折れた形になった。ちょっと偏向かなとも思えるが朝日新聞系「イスラエル首相、『退避帰還』の訴えを撤回」(参照)がわかりやすい。

イスラエルのシャロン首相は28日夜、同国に帰還した在仏ユダヤ人200人を歓迎する式典で「反ユダヤ主義と帰還は区別すべきだ。ユダヤ人は恐怖や憎悪を理由にではなく、ここが故国であるがゆえに帰還すべきだ」と語った。

 こうした式典はけっこう頻繁に開かれているのか私は知らないのだが、数的には200人程度ではちょっとしたパーティ程度のものだろう。全体としては、イスラエルに流入するユダヤ人が少なくはない。とすれば、彼らユダヤ人にとってイスラエルが安全に見えるということなのだろう。
 話を分離壁に移す。分離壁についての基礎的な話は省略するが、勝手にパレスチナの地に国境と称して巨大な壁を作り出した。パレスチナ=アラブ人の居住空間もずたずたにされた。NHKはこの問題にご執心なのでよく映像でこの分離壁見るのだが、一目見ても監獄の壁のようにふざけたシロモノだ。まるで国家をゲットーにするみたいでもある。
 当然国際社会での反発を買い、分離壁撤去の国連決議が出た。概要を産経新聞系「国連総会 分離壁撤去を決議 イスラエル批判明確に」(参照)からひく。

 決議案は(1)分離壁の建設を国際法違反と認定して壁の撤去を求めた国際司法裁判所の勧告にイスラエルが従う(2)アナン国連事務総長が分離壁建設による被害を把握する(3)イスラエル、パレスチナ双方が和平実現に向けたロードマップ(行程表)を履行する-などを求めた。

 米国は、当然というべきか、決議に反対している。それ以前に、こんな国連決議になんの実効性はない。

 しかし、安保理決議と違って総会決議に拘束力はなく、イスラエルが決議に従う見通しもない。米国は反対に回っており、今回の決議案採択が今後の中東和平の進展に直接結び付くとは考えにくい。

 産経のこの言い回しの裏には、分離壁を撤去すれば和平が進展するという含みがあるし、日本人の多くもそう自然に考えるだろう。私もそう考えていたのだが、ちょっと気になることがある。
 露悪的に言うべきではないのだが、現実を見つめていると、分離壁は機能しているし、シャロンの強攻策は効果を持ってきているのではないか? むしろ、以前の和平プロセスのロードマップよりユダヤ側には効果がありそうにも見える。こうした疑念がふつふつと浮かんでいたのだが、ネットを見ていたら、似たような指摘があった。
 "Sharon to France: Send Me Your Jews"(参照)より。

London's Daily Telegraph chided Tony Blair's government for siding with Europe rather than Israel. "The barrier is undoubtedly proving effective in protecting the population, the prime duty of any government," the paper wrote, pointing out that despite the "rivers of blood" promised by Palestinian militants following Israel's dual assassinations of Hamas leaders, terrorist attacks inside Israel proper have actually dropped by more than 80 percent. The Telegraph said Britain should have voted against the U.N. resolution along with the United States, Israel, Australia, the Marshall Islands, Micronesia, and Palau - or, at the very least, abstained like Canada.

 テレグラフをひいているだけでもあるのだが、テレグラフの原文"UN's twin betrayal
"(参照)のほうは標題のように、ばかやろう国連、であり、論点が違う。
 イスラエルの文脈に戻ると、テロが80%も減少したという事実を見れば、分離壁は機能しているとしか言えないだろう。
 パレスチナ問題で重要なのは概論でもロードマップでもなく、個々の問題解決の集積のように思われる。つまり、正義なり理念なりが、現実と乖離し始めた兆候がありそうだ。

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コメント

書こうかどうしようか迷いましたが、やっぱりこのことは指摘したい気になりました。

>国家をゲットーにするみたいでもある。
つまり、この「居住区を壁で覆う」発想自体が中世にユダヤ人自身の身の上に起きたことを私に思い起こさせます。私にはこれはユダヤ人が自分たちがかつてされたことを思い出して、その発想を現代に再現しているように思えてならないのです。

それ以外にもユダヤとパレスチナの民の関係を見ていくと何か古代ローマ時代のユダヤ人流浪化後のヨーロッパとユダヤとの関係と類似するような点が多々見受けられ、「歴史は繰り返すのか」という気にさせてくれるのです。

投稿: F.Nakajima | 2004.08.01 14:42

西岸とイスラエルの間に分離壁を作り、西岸の侵略者がイスラエル領内にひきあげればよいだけのことではないでしょうか。

投稿: こちかめ | 2005.01.08 15:00

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