沖縄県内代替基地なしの普天間飛行場返還は好ましい
特に目新しいこともないのに、今頃になって在日米軍再配置が国内ニュースで問題になっているのは、日米外務・防衛当局者の協議が長引いて、いよいよチキンレースも終わりかという局面になってきたからだろう。
嫌な感じだなと思う。なにが嫌かというと、これでまた一連の勢力が反米で騒ぎ出すのだろう、なんという偽善なんだろうと思うからだ。
今回の再配置は、総合的に見れば、確かに在日米軍基地強化につながる。そして、日本は米軍に強く取り込まれる結果になる。しかし、反面、沖縄の負担は確実に軽減されるのだ。平和のプラカードをかざしたところで、それがもたらしてきたことは、他国の軍事基地を沖縄に押し付けるだけのことだった。沖縄の苦渋を理解すると言いながら、ほとんど本土民は分かちあってはこなかった。また繰り返したいのか。それが嫌な感じなのだ。
事態について素描するための材料として、読売新聞系「米軍基地移転で自治体と調整、官邸に近く専門チーム」(参照)をひく。
日米協議で米側から提案されたのは、厚木基地の移転のほか、〈1〉在沖縄海兵隊一部の陸軍キャンプ座間(神奈川県)への移転〈2〉沖縄の海兵隊普天間飛行場の嘉手納空軍施設への統合〈3〉米ワシントン州の陸軍第1軍団司令部のキャンプ座間への移転〈4〉在日米軍司令部の横田基地(東京都福生市など)からキャンプ座間への移転――などだ。
読売新聞は意図があってのことかもしれないが、この項目の1と2は、本格的な沖縄の米軍基地縮小につながる。なぜ明記しないのか不可解だが、これは、普天間飛行場を廃止し、しかも、これまで代替案とされてきた辺野古沖海上基地案を廃棄することになる。
この問題を私は10年近く見続けてきた。8年は沖縄に暮らしていた。住宅地域の真ん中に存在する普天間飛行場は今や米軍の最大級のリスクになっている。そこで住民を巻き込む事故が起これば、すべては終わる。沖縄県民は完全に怒る。冗談ではなく、独立を志向するかもしれない。ラムズフェルドも先日その状況を上空から見て呆然としたのではないか。
もともと普天間飛行場は嘉手納に統合する予定だった。あまり詳細には言えないが、私が軍雇用員から聞いた話では、沖縄の本土復帰後に移転の準備までしていたようだ。実現しなかったのは、アメリカの四軍の派閥争いである。普天間飛行場返還合意の際でも、識者は当初から嘉手納統合が妥当だと見ていた。それが恐ろしく醜い経緯で辺野古沖案が出てきた。これは政治的な策略も含まれているようだ。もともとあんなところにヘリ基地なんかできはしない。台風銀座の沖縄をなめてもらっては困る。台風の瞬間風速は恐ろしいものがある。
当然、後はチキンレースあるのみ。これを延々とやってSACO合意の7年が過ぎたというわけだ。日本はなんでも問題を先延ばしにするが、一応契約の民でもある米国が同じことはできない。チキンレースは終わったのだ。ある意味で、四軍の派閥争いの負けだ。これでネオコンがイラク占領統治にとちらなかったら、もっとすんなり変化していただろう。
こう書くと、いかにもおまえは米軍寄りだということになるだろうか。しかし、それでも、これで普天間飛行場がなくなるんだよ!、その意味が本土に通じるのだろうか。
問題の裾野にある沖縄の実態については、正直にいうとあまり語りたくない。端的に素描すれば、沖縄の現状からすれば、在沖米軍の全体を今すぐ撤退させることは、軍雇用員や関連産業の状況を見ても不可能だ。この問題が気になる方は、少し古いが、米留組の牧野浩隆副知事が琉球銀行常任監査役時代に書いた「再考沖縄経済」を参照して欲しい。本質的なところで状況は変わっていないはずだ。
米軍がなぜこの再配置を行うかについても、今回は省略する。極東ブログの話題は散漫だとは言われるが、この問題の背景については、逐次縫うように問題提起してきたはずだ。
大局的に見れば、日本は安保を解消すべきだろうと思う。在日米軍基地を撤廃するということはそういうことだ。そして、それは米軍にとっても技術的に不可能でもない。グアム、フィリピン、オーストラリア、シンガポールなどのに分散すればいい。恐らく中期的には米軍海兵隊はオーストラリアに定着するようにも思える。
しかし、平和運動というのは、そういうこととは思えない。日本から米軍を追い出して他国に回すことが平和の実現だとは思えない。本土が沖縄に米軍基地を押し付けてきた偽善の歴史と同じではないのか。そして、安保廃棄は日本が防衛のための軍備を必要とすることでもある。
【追記 04.07.21】
状況は悪化している。こんな話を沖縄県民が飲むと思っているのだろうか。
「普天間代替 現行計画で推進へ 政府説明に米側理解」(参照)
【東京】在外米軍再編(トランスフォーメーション)に関する日米協議で、辺野古沖での普天間飛行場代替施設建設について日本側が現行計画を説明し、米側が一定の理解を示していたことが20日、分かった。政府関係筋が明らかにした。移設の長期化に不満を示していた米側が理解を示したことで、普天間移設は現行計画通り進む可能性が濃厚となった。一方、協議では在沖米海兵隊の一部の本土への移転も論議されており、今後、米軍再編に関する日本側での検討が加速する見通しだ。
関係筋によると、15―17日の米サンフランシスコでの日米協議で、日本側は普天間代替施設建設の計画内容をあらためて説明した。太平洋の外海に面する辺野古沖は、内海にある他の空港と違い、荒波を防ぐ「ケーソン」と呼ばれる大型のコンクリート施設を数多く必要とする点など、工事に9年半を要する事情などを詳しく説明した。
米側はこれまで「関西国際空港などは7年で完成したのに、なぜ代替施設は10数年かかるのか」と疑問を示し、工期縮小の可能性などについて日本政府の考えをただしたが、日本側から説明を受け「共通認識を持った」(関係筋)という。
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コメント
高橋秀実の『からくり民主主義』の中に沖縄米軍基地の事が書かれてますけど、finalventさんからすると、あれはいかほどのもん
なんでしょうか?
投稿: (anonymous) | 2004.07.19 12:38
便宜上、anonymousとしました。
「からくり民主主義」(高橋秀実)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4794211368/fareasetblog-22/ref%3Dnosim
この本をざっと読んだときの印象は「しったかー」というものでした。知ったかぶりというような語感には実は知ってないなという含みが少しあります。なかなか言いづらいのですが、沖縄の問題というのはそれを自分の生き様の要素に組み込むことなしには見えない部分があり、この本ではそこが落ちているなという感じがしました。
このあたりは、同じく実は内地人であり、沖縄で長期生活はしていないのですが、与那原恵の文章にはあるものです。奄美ではあるけど、干刈あがた、島尾伸三などの文章にもある微妙だけど重低音のような感触です。
このあたりの感触はうまく言いづらいものがあります。ただ、例えば、筑紫哲也や池澤夏樹は私とは表層的には意見の方向が違うのですが、しかし、彼らには、やはり沖縄を生きてきた厚みのようなものは感じます。いざ沖縄のためになにか立つときは、おそらく彼らを信頼して私も同じ行動を取るだろういう感じもあります。そしてそうは言っても、それでもうまく言い難い部分あり、おそらく佐木隆三の沈黙もそんなことだろうかと思います。
おそらくこういう私の印象は、よく練ってから言わないといけないでしょうが、軽率ですが、こうも言えるかと思うのですが、「沖縄を、例として、対象として、描かないでくれ、おまえは沖縄とどう契ったのだ?」という感じでしょうか。
世の中には沖縄病、沖縄大好きという人がたくさんいます。しかし、沖縄の現実は、たしか日本で最多の中年男性の自殺を産む精神風土を抱えています。そこを含めて、「おまえさんはそれを自分の運命としたか?」と問われるなにかです。
ただ、もう少し思索しなくてはいけないのは、その問いは、実は、本土人であるということはどういうことなのかと通底していないけれならないわけです。日本人である前に、本土人であるという限定性の意識として、日本と沖縄をどう捕らえているか、そのありかたは、「契る」といった問いではなく開かれたものだろうとは思います。
話を戻すと、「からくり民主主義」のなかに、「ああ、俺は本土人だ」という感性がどう見えるかなのですが、読後しばらくして、また、手元にないので曖昧なのですが、その感触はありませんでした。ただ、それがこの本の評価というものでもないでしょう。ただ、印象は薄いですね。私には好悪以前に関係ないな、という感じが本音です。
投稿: finalvent | 2004.07.19 13:40
I'm sorry to comment in English. Next time, I'll try to write in my broken Japanese. I think your comments on the motives for Fischer's arrest are interesting. I share your disgust with current US policy in the world. On the other hand, Fischer is famous for his racism and his hatred of women, so he strikes me as someone little deserving of our sympathies.
投稿: Karlo | 2004.07.20 02:29
Karlo-san, domo. I was little bit surprised to have a comment in English. Even yet, not so near future, people will be able to communicate their opinions with blogs in translation mode. Some of such trails are going on between Japanese and Korean. Anyway, the matter is: Fischer the great.
I am so ashamed that our government grabbed him as a small mouse for displaying doormat-like allegiance to US, or for barter trade for the deserter suspected. Though Fischer, as you mentioned so, must be criticized in his racial opinion, plus weird activities, he was a real great man in our history. We would have treated him with some horner and primary as a political offender. We should have let him to choose his way behind the public.
投稿: finalvent | 2004.07.20 09:44
今回のアメリカ提案の本質は、基地負担の軽減と
対米協力の強化のバーターだと思います。
ただそれでも、普天間や厚木など地域への被害が
大きな基地を廃止・削減するというのは魅力的ですね。
僕も何度か沖縄に行ったことはあるので、
本島中部で基地がどれだけ邪魔かは理解できますし、
今住んでるのが厚木基地の飛行ルートの真下なので、
あの基地の騒音被害や周辺の都市化の状況も分かります。
だから、このまま対米同盟一辺倒で行く不安はありますが、
今は負担軽減を優先して再配置を受け入れても
良いかと思います。
ただこの再配置案だと、普天間の嘉手納への統合や
座間への司令部や海兵隊の移転は良いとしても、
厚木から岩国への移転が問題となりそうですね。
岩国基地周辺の人はやはり反対するでしょうね。
投稿: Baatarizm | 2004.07.21 11:21
事態が最悪な方向に向かいつつあります。状況を追記しました。こんなのができれば、本格的に沖縄の自然は破壊されてしまいます。
投稿: finalvent | 2004.07.21 17:15
こんな記事も出てますから、まだ辺野古への移設の
可能性が強まったというわけでもないようです。
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20040723AT1E2200M22072004.html
いろんなメディアに違った内容の記事が出るということは、
日米双方ともメディアに情報をリークして、世論の反応を
見てるのかもしれませんね。
投稿: (anonymous) | 2004.07.23 09:52
米国の議会資料には15年問題は絶対に譲れないと
記載があるので,まだまだ辺野古への移設も
?かなと思います.私はビジネスとして
この問題を見ていますが,同じ情報(例えば
日経記事や沖縄新報)を別の視点で読まれている
方と同じ場所(極東ブログ)に居ることが
面白く感じます.
投稿: s | 2004.07.25 14:41
今度は産経に記事が出てますね。
情報が漏れ出たおかげで、日本側は大混乱だとか。
http://www.sankei.co.jp/news/morning/27iti002.htm
投稿: (anonymous) | 2004.07.27 10:46