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2004.07.17

痛風、ためしてガッテンは間違い?

 痛風の発作は七月に多いらしい。ということからか、先月16日NHKの家庭番組「ためしてガッテン」に「痛風対策の新事実」(参照)という番組があった。私はHDレコーダーにとっておいたのを見た。新事実というからには、アレだなと思っていたが、スカを喰らった。NHKのいう新事実というのもよくわからなかった。
 番組は事実というレベルでは間違いないのだろうが、健康指導の面では疑問に思えた。というのは、この番組は健康指導の側面を持っているようだ。


現在、急増中の病気「痛風」。患者数は約60万人、予備軍は500万人とも言われています。痛風のイメージと言えば、ぜいたく病や、ビールなどに含まれているプリン体が悪いと思われていますが、本当にそうなのでしょうか? 痛風のメカニズムを徹底解剖し、その対策と予防法をお伝えします。

 その後もこの番組を見ているが、識者からの指摘はなかったようだ。これでいいのだろうか。番組内容は論理的にもおかしかった。そのあたりをまず簡単に批判したい。
 痛風の発作についてだが、NHKは、Aさんという人を例にこう説明していた。

 当時、33歳のAさんは、健康診断で尿酸値が高いと指摘されました。しかし、体質だと思いこんで、特に対策はしていませんでした。それから10年たった43歳の時に、突然、右足のくるぶしに痛風の発作を起こしました。
痛風の発作は、人によって個人差があり、2、3年で起きるという人もいれば、10年たって起きる人もいます。

 ポイントは、尿酸値が高い状態から痛風発作に至るまでに数年を要するという点だ。ここをまず、留意していただきたい。次に、NHKは、一般に痛風によくないとされる食物は尿酸値を上げるわけではないという説明を奇妙な人体実験で始めた。

 尿酸の原料となるのが、おいしいものに多く含まれているという「プリン体」です。そこで、こんな実験をしてみました。
 40代男性6人に、温泉宿で3日間の合宿をしてもらいました。プリン体をたくさん含んでいる食品を食べるチームと、プリン体が少ない食品を食べるチームに分かれて、プリン体を食べ続けてもらいました。
 食べるエネルギーはどちらも適正量で、違うのはプリン体の量だけです。高プリン体チームは332ミリグラム、低プリン体チームは223ミリグラムです。
 合宿前と、合宿中の3日間、血清尿酸値を調べたところ、低プリン体チームだけでなく、なんと高プリン体チームの尿酸値にも、変化が見られなかったのです!

 こんな人体実験をするまでもなく、肝臓で作られる尿酸のうち、食べ物によって作られる尿酸の比率は4分の1程度だ。健康な人間が短期間にプリン体を多く摂取してもきゅーっと尿酸値が上がるわけもない。
 矛盾点は、人体実験はたかだか3日、なのに痛風発作は高尿酸値が数年続いてからおきるということだ。常識で考えても、この人体実験では痛風の説明にはならない。
 実際に最近の医学的な知見ではどうかというと、この5月に権威ある医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」(Volume 350:1093-1103 March 11, 2004 Number 11)で重要な発表"Purine-Rich Foods, Dairy and Protein Intake, and the Risk of Gout in Men"(参照)があった。対象は男性に限定される。概要はネットから見ることができる。

Background
Various purine-rich foods and high protein intake have long been thought to be risk factors for gout. Similarly, the possibility that the consumption of dairy products has a role in protecting against gout has been raised by metabolic studies. We prospectively investigated the association of these dietary factors with new cases of gout.

【試訳】
背景
プリン体や高たんぱく質の食物摂取は長年痛風のリスク要因とみなされてきた。同様に、乳製品が痛風を予防する可能性について代謝の研究が進んできた。そこで、我々はこうした予想のもと、痛風と食事の関係について調査してみた。


 研究は12年にわたって行われた。十分な年月だと言えるだろう。調査モデルやその結果については省略するが、詳細は先のリンクにあたってもらいたい。一般社会にとって重要なのは、健康指導にいかせる新知見なので、この調査の結論を伝えたい。

Conclusions
Higher levels of meat and seafood consumption are associated with an increased risk of gout, whereas a higher level of consumption of dairy products is associated with a decreased risk. Moderate intake of purine-rich vegetables or protein is not associated with an increased risk of gout.

【試訳】
結論
肉食とシーフードの多い食事は痛風発作のリスクを高めている。しかし、乳製品については逆にリスクを軽減している。植物性のたんぱく質については、過剰に摂取しなければ、痛風発作のリスクを高めない。


 ということで、NHKの指導とは異なり、やはり従来から言われてきたように、肉食やシーフードの過剰摂取は控えるほうがいいだろう。日本でも流行のアトキンズ・ダイエットだが、当然、高尿酸値の男性にはよくない。納豆もプリン体が多いが植物性ということで問題ないだろう。乳製品については日本人は乳糖の消化が不得意な人が多いので、ヨーグルトのほうがいいかもしれない。チーズだと脂肪分が多すぎるようにも思う。
 医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」は健康指導が目的ではないが、NHKの番組と比べて、どちらの知見が医学的に正しいかは論じるまでもない。
 ただし、ホームページのサマリーには記載されていないが、NHKの番組では女性アナウンサーが牛乳はよいということをやや強調していた。しかし、番組の流れからすると、アルカリ性食品だからということではあった。
 以下は、痛風についての余談。痛風は医学的にも面白い病気でもあり、そのあたりは、少し古いが中公新書「痛風―ヒポクラテスの時代から現代まで」が面白い。痛風持ちには自虐ネタの仕込みどころかもしれない。
 かく言う私も、6年ほど前、沖縄暮らしがたたったか尿酸値が7.2になって驚いた。知人もばたばたと痛風発作を起こしていたので、次は俺かぁと思ったものだった。7を越えたら薬を飲めとも言われたが、その後は5レベルになった。この2年ほどは計測していないが、どうだろうか。
 尿酸は人体では抗酸化物質の役割もしている。進化の系統からみると、アスコルビン酸が身体で生成できないことの代償のようにも思える。ということは…と類推するのだが、その先はもはや医学ではない。

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コメント

 おひさでございます。

 左翼の知人あてに書いたものですが、トラックバックを切られてしまいました。(-_-;)
 彼と彼の読者のために書いたのですけどね。

 関連する話でもありますので、「枯れ木も山の賑わい」でトラックバックさせていただきました。

投稿: 空楽 | 2004.07.19 10:46

たいへん良い記事を拝見し、感銘を受けました。

私はアイコンをドラッグするだけで栄養分析ができるダイエット支援ソフト
の作者です。
ただ今、栄養分析ソフトでプリン体の総量を表示することにすれば、
有益ではないかと考えて開発中ですが、これまでのところ、
プリン体含有量がわかっている食品が90個ほどしか入手できていません。
プリン体は殆どすべての食品に含まれているわけで、ソフトに組み込むには
もう少し多くの食品のプリン体含有量が必要です。
もしも、総プリン体含有量のリストをお持ちでしたら、教えていただけない
でしょうか?
よろしくお願いします。

投稿: 山崎 武 | 2006.03.19 15:27

はじめまして。

 この記事のnew england jurnal of medecineからの引用の部分を参照させていただきました。

 痛風と、高尿酸血症に関するブログを書いておりますが、この記事、大変勉強になりました。

 もしよろしければ、トラックバックも送信させてください。よろしくおねがいいたします

投稿: covey | 2007.09.24 21:38

はじめまして、こうじといいます。
うちも、当時この番組を見てました。
自分というより親が痛風のけがあったのでみてたのですが、なぜ当時そのことをNHKにメールでも送らなかったのでしょうか?
もちろん、プロデューサーたちがまともに見るとは思えませんが、改善されたかもしれないと感じました。

投稿: こうじ | 2009.06.10 21:00

痛風は糖尿病と同じで一度発症すると一生尿酸値を押さえる薬を飲み続けなければならないと言うのは事実なのでしょうか

投稿: | 2009.09.25 11:23

この記事大変勉強になりました

投稿: | 2009.09.25 11:25

こんにちは。

飲みすぎ、食べすぎから、社会人になってから、
20KG太って、メタボになり、尿酸値が高く
(最高12.0。血液検査で常に8.0以上を記録)、
過去3回、痛風の発作による痛みが右足甲に発生。

節酒や食生活を改善し、運動も取り入れたところ、

正常値より異常に高かった尿酸値
(8~12.0)を正常値(6台)まで下げ、
服用していた痛風の薬(ザイロリック)を
止めることに成功し、今も継続しています。

痛風の薬は一生飲み続けなければならないと
言われている薬を止めてくれた医者には
本当に感謝しています。

URLで痛風の薬を止めることに成功した
日々の食事をつづっています。
ぜひ参考にしてください。

痛風とメタボを食べもので克服できるか?~痛風とメタボに効く食事・献立集~

URL:http://tuuhuu-meal.meblog.biz/

投稿: 服用していた痛風の薬(ザイロリック)を止めることに成功しました!! | 2014.09.13 15:54

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» 極東ブログの「 痛風、ためしてガッテンは間違い?」 [Aquarian's Memorandum]
極東ブログ: 痛風、ためしてガッテンは間違い?。が批判しているが、この種の番組の非科学性、羊頭狗肉ぶりが目に余る。 [続きを読む]

受信: 2004.07.18 11:12

» 炭水化物抜きダイエットの愚 [空楽]
 例のごとくにご隠居さんが的外れなことをおっしゃっています。  トラックバック切 [続きを読む]

受信: 2004.07.19 11:44

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