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2004.07.11

中国政府がバイアグラの特許を取り消したことについて

 中国政府がバイアグラの特許を取り消したというニュースは先日国内でも報道された。ベタ記事とはいえないまでも、扱いは軽かったようだ。テーマがバイアグラであり、また特許に疎そうな中国ということから、日本では、それほど重要でもなく、少し滑稽なニュースとして受け止められたのかもしれない。私もまず、そういう印象をもった。
 それから、私はどうにもこのニュースが気になり、英語で読める記事などもあたってみた。よくわからない。ロシアでフォーブスの記者が暗殺されたといった、いわゆる事件とも違うので、なにか真相を探るという種類のものでもないが、関連ニュースを読んでも、なにかしっくりこない。結局、未だにしっくりとこないのだが、どうも気になる。そのあたりを書いておきたい。
 事実関係については、取りあえず朝日新聞系「中国政府、バイアグラの特許取り消しへ 」(参照)をひいておこう。


 中国政府で知的財産権を担当する国家知識産権局が、米製薬大手ファイザーの性的不能治療薬「バイアグラ」に与えていた特許を取り消す決定をしたことが8日明らかになった。同社は薬の成分「クエン酸シルデナフィル」を性的機能不全の治療に使う点で各国の特許を取っており、中国でも01年9月に取得済みだった。ファイザー北京事務所は「当局の対応にたいへん落胆している」として、再審査を求める意向を示している。

 さらっと書かれているが、これはけっこうこの分野について知識のある記者かもしれない。というのは、特許のポイントを「クエン酸シルデナフィルを性的機能不全の治療に使う点」というあたりの表現に工夫があるからだ。つまり、クエン酸シルデナフィルという化学物質を作る特許でもなければ、それ自体をただの薬品として販売することを禁じるための特許でもない。もっとも、「クエン酸シルデナフィル」とラベルを貼った薬品を自由に販売していいわけでもなかろうが、このあたりは私も詳しくない。
 中国政府が特許を覆した理由について同記事では、中国の製薬会社15社がその製法は広く知られているものだという理由で無効を申し立てていたこととしている(中国医薬品会社の申して立てを受けた形だ)。ここの含みも面白い。つまり、言外に中国人はクエン酸シルデナフィルの製法特許だと勘違いしているというわけだ。中国人についてある程度知っている人間なら、実に彼らがこの手の「秘伝」に敏感なことを知っているだろう。例えば中国茶などについてもこの手のばかばかしい話が山ほどあり、中国茶ツウとかいう日本人が真に受けているということもある。
 中国的な発想としては、「製法も物質もわかっているものに特許なんかあるわけないじゃん」ということかもしれない。そうなのか? そのあたりは、中国ソースを当たってみたが、いま一つはっきりしない。英文ソースからは、「中国人は特許がまるでわかってないよ、しかたないな」といったトーンも見られた。つまり、今回の問題は、そういうこと、中国の特許制度が単に未熟、という面もある。
 中国の特許制度ということでは、もう一点、ファイザー側の中国への特許申請に問題があった、というニュース"Viagra patent found invalid"(参照)もある。滑稽なので、メモがてらにひいておく。

The China State Intellectual Property Office (SIPO) has declared the patent for Viagra, the US-based pharmaceutical company Pfizer Inc's erectile dysfunction-correcting drug, as invalid in China because it doesn't conform with Article 26 of China's Patent Law.


But according to Article 47 of China's Patent Law, any patent right which has been declared invalid shall be deemed to be non-existent.

Article 46 of China's Patent Law, said where the patentee or the person who made the request for invalidation, is not satisfied with the decision of the Patent Reexamination Board declaring the patent invalid or upholding the patent, a party may file suit in the people's court within three months.


 要は中国の国内法上の不備があったということのようだ。しかし、そんな話が国際的に通じるわけもない。このあたりの中国という国の国際センスに唖然とするものがある。というか、基本的に中国というのは、外国を自国の辺境だとする中華主義のセンスのままなのだろうか。国内では、依然共産党独裁なので「俺がルールだ」で通っているままかもしれない。もっとも、事態がそういうことなら、国際社会は成熟を待つべきかもしれない。
 この問題に当事者のファイザーはどう見ているのか。もちろん、中国側に控訴はするらしい。が、WTOに持ち込むのかが気になるところだ。もっといいソースもあるかもしれないが、オーストラリア・フィナンシャル・レビュー"Viagra's China patent a fizzer"(参照)の言及は参考になる。

Less clear is what the US government could actually do about it.


Under China's 2001 pledge to the World Trade Organisation, it must enforce and protect intellectual-property rights. But patent rules within the WTO leave large discretion to member countries.


Other countries have disallowed Pfizer patents for Viagra. In 2001, the patent was disallowed in Bolivia, Colombia, Ecuador, Peru and Venezuela over a different issue. The company is appealing against those decisions.

 知的財産権問題は国際的にごり押しすればいいというわけでもないので、おそらく早急にはWTOの課題とはならないのではないか。
 ではファイザー側の不利益はどうか? これがよくわからないのだが、ファイザーの中国でのヴァイアグラの売上げはそれほど利益に寄与していないようだ。また、現状では、上海に出回っているバイアグラ(偉哥)の90%は偽物だという話もある(これはNYTより)。おそらく今回の決定を受けて、市場には偽物や品質の不明なクエン酸シルデナフィルがいっそうばらまき散らされることにはなるだろう。安全性には問題はあると言えるし、こうしたものがかなり日本にも輸入されることにはなるだろう。しかたない。
 と、さめたようなことを言うのは、途上国におけるバイアグラのニーズとういのは止めることができないのではないか。しかも、その規模があまりに大きすぎる。
 バイアグラと限らずファイザーは、こうした途上国における医薬品ニーズ規模の大きさの現状を考慮し、貧困国に向けては薬のディカウントも検討している。
 逆に言えば、ファイザーと限らず、国際的に寡占化が進む巨大医薬品会社は、その重要な薬をもって途上国の高度な医療やQOL医療を事実上支配できることにもなるのだろう。
 しかし、私の言い方が拙いのだが、それはけして悪いということでもない。医療と医薬品の関係が、今世紀に入り、前世紀の医学のイメージからは乖離しはじめてきているのだろうから。

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コメント

この件に関してよさそうな中国ソースです。
http://finance.sina.com.cn/b/20040710/1032862717.shtml
記事では当局による中国特許法に基づいた取り消し理由も書かれていますが、真相は類似製品を販売してきた中国国内の12企業が特許取り消し圧力を加えたようです。
特許料がなくなれば現在50mgあたり99元で売られているのを20元ほどで販売できるそうです。(記事の最後にその12企業の名も)
また、この決定が最終決定となるものではなく、3ヶ月以内に不服申し立て訴訟を起こせるとしています。

確かに私も、巷に出回っている製品の殆どがファイザー製ではないというのを、知人の暴力団関係者から聞いた事あります。見た目はそっくりだそうですよ。
この辺はfinalventさんの方が良く知っていらっしゃると思いますが、とある台湾系アメリカ人に聞いた話では、一部の降血圧剤が勃起不全に効くと、かなり前からの常識だったという話も耳にした事があります。
その「降血圧剤に普通に用いられていたある成分を、勃起力不全に用いる」というのがファイザーの主張する特許な訳で、中国当局の言い分としては、そのような何の努力もしないで(原文:不花費創造性労働)開発したような、性機能障害治療薬になんか中国特許法の名において認められないという事らしい。
確かにこう言われれば心情的には解らなくもないですが、それを言い出したら知的財産権なんて粉砕してしまいます。
しかしながら、この件に関してファイザー側としては、ファイザーと偽って出回っている製品の駆逐に奔走しか道はないように思えます。
ファイザーの特許による独占は合法的だとしても、この程度の事なら開放すべきというのが多くの意見ではないでしょうか。私もこの意見です。
だからと言ってファイザーの偽物を擁護している訳ではない事をあらかじめ断っておきます。
そう。本当はこれこそを問題視すべきだと思っています。
バイアグラを、男性にとって突然降って湧いた神のような薬だと思い込み、思い込まされている日本人の幻想も問題でしょう。

まぁファイザーは、袖の下が足りなかったんでしょうね。
中国で独占しようと思うのなら、それなりの覚悟が必要だという良い例でしょう。

投稿: usam | 2004.07.11 14:55

それと偉哥はファイザーの中国名で、バイアグラは万艾可と言うようです。

投稿: usam | 2004.07.11 15:06

すみません偉哥は万艾可の「俗称」だそうでした。
申し訳ありません。

投稿: usam | 2004.07.11 15:12

usamさん、貴重なインフォ、どもです。ファイザーは、医療体制を重視するので、単純な市販薬化されそうな薬としてのヴァイアグラに意外に強行に出ないのではないかという気がします。ただ、ご暗示されているように、むしろ日本に影響がでるでしょうね。事実上、解禁してないというか、正規だとべらぼうに高いですし。

投稿: finalvent | 2004.07.11 18:03

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