マイクロソフト特許非係争(NAP)条項を巡って
13日、日本の公正取引委員会はマイクロソフトに対して、独占禁止法違反として排除勧告を出した。自分はそれほどこの分野に疎くもないつもりなのだが、率直に言ってよくわからない。最初の印象を言えば、欧州がマイクロソフトに対する予備調査を開始した動向の尻馬に乗って公取はフライングしたか、でも、なぜ今なんだろうか、という疑問がわいた。すでに1998年に米国訴訟の尻馬に乗って排除勧告を出しているのだが、その関連でもなさそうだ。
連想したのは、この臨時国会で談合の取り締まりを強化する独占禁止法改正案の提出する動きがあるので、そのからみのこけおどしかなとも思った。NHK「あすを読む」では日本の新三種の神器を守るためだ、みたいな解説になっていて、そうかぁ?と疑問を深めた。依然この問題はよくわからない。ので、たらっとした話になるが、気にはなるのでそのあたりをざっと書いておきたい。
話は、最初のニュースだろうと思われるロイター「公取委、米マイクロソフトに排除勧告」(参照)からひく。奇っ怪なのだが、最初のニュースはロイターのようである。共同も同時とも言えるが共同のほうは薄く、ロイターを追った形だった。
[東京 13日 ロイター] 公正取引委員会は、米マイクロソフトに対し、独占禁止法違反(不公正な取引方法)で排除勧告する、と発表した。公取委によると、マイクロソフトは同社のOS(基本ソフト)「ウィンドウズXP」を搭載したパソコンを発売する日本のパソコンメーカーに対して、契約に際し不当な契約条項を課していたという。
不当な契約条項は「特許非係争(NAP)条項」で、Windowsに関して日本のパソコン・メーカーと使用許諾契約を結ぶ際、マイクロソフトに特許侵害の訴訟を起こさないことを誓約するものだ。NAPは"Non-Assertion of Patents"の略で、昼寝している場合ではない。
今朝の日経社説「転機迎えたマイクロソフト」では、かつてのNAP条項と現状がそぐわないという見方をしている。
NAP条項が盛り込まれたのはマイクロソフトの売り上げ規模がまだ小さかった1993年のことで、メーカーもあまり問題にしなかった。互いに余計な訴訟を避ける都合のいい手段だった面もある。しかしマイクロソフトが急成長し、デジタル家電分野などで直接競合するようになると、同社の支配力を排除しようという動きが日本の中にも出てきた。
1993年というとちょうどWindows3.1がリリースされ、本木雅弘がCMでWindowsを連呼して、私ようなMacユーザーは、たかがガワじゃんと苦笑したころだ。1993年は日経のトーンだと曖昧に昔のことじゃないかという感じだが、Windowsは3.1から取りあえず実用レベルになったので、NAP条項も本格的なWindows戦略の一貫にあったのだろう。ただ、この時代を思い出すに、時代の空気は今とは違った。個人的な思い出だが、私がNECのある課長さんに、「Windowsが伸びてくるとこれからは98の時代ではなくなりますよ」と言ったら、そんなばかなという感じで高らかに笑っていた。
NAP条項について先のロイター記事の後段では、マイクロソフト日本法人はすでにこの8月以降の契約でこの条項を削除しているとしている。が、マイクロソフトにありがな泥縄的な言いぐさかもしれない。というのも、マイクロソフトのNAP条項ではWindows搭載パソコンの販売終了後3年間訴訟を起こせないとしているのだが、それでこのくそな条項が終わりかといと、そうでもないようだ。Windows XPの機能が次期Windows(コード名Longhorn)に継承されると、Longhorn販売終了後さらにその3年後まで、NAP条項が適用されるようだ。洒落にならない。
問題のもう一方の側面は、その技術ってなによ?である。そのあたりがよくわからない。日経「米マイクロソフトに排除勧告、使用契約に不当条項」(参照)では次のように概要を示している。
公取委によると、マイクロソフトはOS「ウィンドウズ」の使用許諾契約をソニーや松下電器など日本のメーカー15社と結ぶにあたり、「特許非係争条項」を規定。メーカー側が、自社の開発技術がウィンドウズの中で無断で使われているとの疑いを強めても、訴訟を起こせないよう拘束していた。メーカー側は、マイクロソフトが2000年発売の「ウィンドウズME」以降、OSのAV(音響・映像)機能を拡充したことに危機感を強め、侵害された恐れのある特許のリストを提示して非係争条項の削除を求めた社もあったが、マイクロソフトは応じなかったという。
曖昧な書き方だが、WindowsのAV機能は、Windows Media Playerの関連だろうとは想像が付く。Windows Media Playerは、多くの人が知っているように、iTuneやRealPlayerのような単純なメディア再生のアプリケーションではなく、Windowsのミドルウェアに位置づけられている。粗く言うと、OSの内部に組み込まれている、のだが、COM(Microsoft Component Object Model)の構造からそうなる。というか、COMの考え方はアプリ的なものではないので、その中に、他者特許の技術がずるずる引きずり込まれるようになる。なお、現状では、Dot NET Frameworkという名称になっている。
私の誤解かもしれないが、この構造が取りあえず問題ということなのではないだろうか。そして、その線で問題解決となると、旧来通り技術はアプリケーションごとに分けるという志向になるのだろう。というあたりで、私も技術屋の端っこにいた感じから、率直に言うと、現状のCOMがいいとも思わないが、そういうルーズなプラットフォームのほうがすぐれているとは思う。
個別な点で以前から私が気になっていたのは、ASFとWMVの技術の関連だ。よくわからないのだが、ASFは通常言われているAdvanced Streaming Formatではなく、Asynchronous Streaming Formatだったと記憶している。NTTの技術が噛んでいたようにも記憶している。コーデックはMPEG-4の技術を応用しているらしいのだが、これもよくわからない。ただ、いつからか、ASFを避け、単に拡張子を書き換えただけのWMA・WMVとなった。つまり、Windows Media Playerの標準フォーマットである。
そんな思いでインプレス系「MicrosoftのNAP契約が引き起こしていた問題点」(参照)を読んだのだが、やはりいまひとつわからない。インプレスが、以前マイクロソフトの代理店をしていたアスキーからスピンアウトした関係の会社だからなのか、やや偏向した印象も受ける。が、問題は、より技術的な側面だ。
MPEG-4に代わるコーデックとして開発されたWMVに関して、昨年までMicrosoftは一貫して「MPEG-4/AVC(H.264)に似たものだが、実装が異なる」と主張してきた。リバースエンジニアリングが禁止されている中では、この主張を崩すことは難しいかもしれない。ところが、昨年10月にWMV9の圧縮・伸張アルゴリズム部分を抜き出したVC-9のソースコードがSMPTE(映画テレビ技術者協会)に提出されたことで状況が変化してしまった。
ちなみにVC-9で使われている特許はH.264/AVCとほぼ同じで、特許保有者ももちろん同じ。MicrosoftはVC-9で使われている数十の特許のうち、1件しか取得していない。結局、VC-9(=WMV9の圧縮アルゴリズム)のライセンス料金は、他の多くの企業(大部分は日本の家電ベンダー)が制空権を握っている状態だ。
この説明はなるほどとは思う。この線だと、マイクロソフトが潜在的に引き起こしていた特許の具体的な問題は、Windows Media Playerのヴァージョン9が本丸ということになる。
私としては、でも、VC-9の話はなるほどとは思うがそれほどしっくりもしてない。依然、COMの構造が重要であるとも思うし、問題がWindows Media Playerのヴァージョン9だけとも思えない。
話はうまくまとまらないのだが、国産AV時代、新三種の神器の露払いとして、単純にマイクロソフトをとっちめても、実際上の技術の進展にはあまり役に立たないようも思う。
じゃ、どうする? AV関連でOSに依存しないCOM構造のような仕組みの規格でもあればいいようにも思うが、現実それがTRONで実現しているとしても、市場では個別のアプリケーションや機械として実装されるのではないか。ちょっと技術の方向が違うような気がするのだが。
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