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2004.06.30

スーダン虐殺は人道優先で。石油利権の話はやめとけ

 スーダン西部ダルフール地方の民族浄化問題は、ようやく日本でも報道されるようになった。26日の朝日新聞社説「スーダン危機――見過ごしは許されない」が可笑しい。


 イラクに世界の目が奪われている間に、アフリカ大陸でとんでもないことが起きていた。

 違うよ。目を奪われていたのは、朝日新聞を含め、日本の報道メディアだよ。インターネットをかすめ見ている私ですら、イラク日本人人質事件の最中にこの問題を知っていた。こういう朝日新聞の修辞は国民がインターネットが使えないと思っている、ということかもしれない。そんな程度でこの社説は笑い飛ばしていたのだが、ふと気になって読み返すと、非常に奇っ怪なシロモノだということがわかった。というのも、中国にも米国にもまるで言及していないのである。なんだ、これ? というか、ずばりと書くにはためらうが、朝日新聞のハラがなんとなく読めてきた。

 アフリカには国際社会の目が向きにくい。50万人以上が虐殺された94年のルワンダ紛争では、国際的な対処の遅れが大問題となった。スーダンの人道危機を食い止めるために、先進国やアフリカ諸国は一刻も早く動き出す必要がある。
 政治や社会の混迷はテロリストの温床ともなる。スーダンがビンラディン一派をはじめとするイスラム過激派組織の拠点となってきたことを思い起こそう。

 人道危機を食い止めうるアフリカ諸国っていうのはただの修辞だろうが、じゃ、先進国ってどこを指しているのか? 米国が抜けるわけもない。じゃ、米国が動けってことかというと、朝日新聞はそう言いたくないのだろう。

 バシル現政権は、反テロの姿勢を打ち出すとともに、豊かな石油資源を生かして外国から投資を呼び込み、国づくりを進めようとしてきた。そのためにも、国内の融和は欠かせないはずだ。肌の色の違う人たちに暴力を振るう民兵らへの支援をやめさせ、秩序の回復に全力をあげるべきだ。

 これも奇っ怪な文章だ。バシル現政権を北朝鮮の金正日のようについ援護したくなる朝日新聞の心情はさておき、「豊かな石油資源を生かして外国から投資を呼び込み」っていう外国はどこ? これは、どう考えても、外務省の資料を見ても、筆頭は中国でしょ。極東ブログで薦めている「世界を動かす石油戦略」の4章「大きな攪乱要因、中国」にもこう記されている。

 これらのケース以外にも、最近における国有中国石油会社の海外進出はものすごく、カスピ海地域や中東地域などで石油権益を次々に獲得している。それらの国で石油の採掘権を獲得して、自ら投資、生産操業をおこなって、生産された石油をごく一部を除いて国際市場で販売することなく、せっせと中国国内に搬入している。
 中でも、米国が「テロ支援国家」として神経を尖らせているイラク・イラン・スーダンとも油田開発を締結しており、すでに進出を果たしている。
 特に、内戦が続き、欧米企業が忌避しているスーダンでの石油生産はかなり大規模なものであり、海外事業収入の柱となっている。中国国有石油会社による油田権益獲得の特徴は、その背景として中国政府首脳の「資源外交」が活発に行われていることである。

 こうした、誰でもわかる事実があるのに、朝日新聞は、なぜ、中国って書かないのか?
 米国と中国という言葉に事実上墨を塗った言論を振りまく朝日新聞なんと奇っ怪なのだろう、と、取り合えず言っておく。というのも、その心情がまるでわからないわけでもないからだ。
 少し、泥沼に入る。例えば、こういう話がある。weekly business SAPIO 2000/9/21号に掲載されたクライン孝子「中国『オイル戦略』の背景にある アフリカ諸国との緊密な関係」(参照)が面白い。サピオだしな、2000年の話だしな、ではあるが、こうある。

  目下、中国はスーダンにおける石油利権で、アメリカを制し、一人勝ちといわれている。
 そもそもスーダンに豊富な油田があると想定し、最初にその発掘に乗り出したのは1973年のことである。その後1983年に、スーダンにはイランとサウジアラビアを足した分よりも大きな油田が横たわっていることが確認された。以後この国では油田利権を巡って、熾烈な利権獲得紛争が繰り返され、海外からもアメリカやフランスの石油メジャーが触手をのばしていた。
 ところが、その後アメリカはスーダンをテロ国家として名指しし、国交を断絶してしまった。中国はそのスキを狙ってスーダン政府に食い込み、まんまと石油利権獲得に成功したのである。
 一方、“してやられた”アメリカはどうしているかというと、あの誇り高いアメリカが積極的に中国にとり入り、スーダンの石油利権獲得にありつこうと懸命になっているのだ。

 この話はそれほど飛んでいるわけでもないのだが、そこから、米国がスーダンに関与するのは、こういう真意があるのだ、ってな話にすると、今回の虐殺問題も実に書き飛ばしやすくなる。日本人人質事件で注目されたJANJANの6/25に「アフリカのスーダン 米国が制裁!?」(参照)という面白い記事がある。

 スーダンは98年、ビン・ラディン氏との関与を疑われ、巡航ミサイルを撃ちこまれた経験がある。当時のクリントン大統領よりもはるかに好戦的なブッシュ政権の発言だけに、効き目のある脅しだ。石油が出るスーダンを米国が手をこまねいて見過ごすはずはない。「イスラム教徒による民族浄化」は介入のりっぱな口実となる。

 この記事も中国についてまったく伏せてあり(無知なだけかも)、なんだかな的トーンが漂うのだが、いずれにせよ、スーダン民族浄化に米国が介入する真意は石油だ論があるわけだ。が、さすがに朝日新聞ですら、それをまともに受け止めるわけにもいかないという「苦汁」があの社説だったのかもしれない。
 先のサピオの話はこう続く。

 なぜかといえば、2010年には既存の中東油田における埋蔵量は枯渇の運命にあるからで、この状況下では、アメリカもこのスーダン油田には無関心ではいられないのだ。
 最近では、中国のスーダン石油利権に食い込むために、民間サイド、例えば石油会社AmocoやBankof Americaなど有数の米国系企業が、次々にスーダン油田の窓口である「国営中国石油公社」へ投資競争を行なっている。

 ちょっと溜息が出てしまう。が、問題は、石油に対する国家戦略なんてものではなく、問題があるとすれば、「中国さん、世界市場のルールを守ってよ」というだけのことだ。この点については、衆知のようにウォーレン・バフェットが中国石油天然気(ペトロチャイナ)の株をがばっと買い占めたが、株主がきちんと国際ルールで経営に口を出していけばいいことだ。別に中国が採掘権を持とうがどうっていうことでもない(こっそり言えば、東シナ海の天然ガスも同様)。
 とすれば、こうした前時代な議論をしているより、さっさと目先の問題の解決をすべきだし、実際ところ、それを担えるのは国連からも要請されているように、米国しかないじゃないか。嘘くさい自叙伝で一儲けをこいているエロ・オヤジ・クリントンはルワンダの虐殺を見殺しにしたのである。それを繰り返すのは愚かしい。ワシントンポスト"As Genocide Unfolds"(参照)も指摘しているが、そのとおりだ。

The administration's foreign-policy plate is piled high already. But Darfur's crisis appears worse than anything the world has seen since the genocide in Rwanda. During that tragedy 10 years ago, the Clinton administration declined to act, refusing even to recognize that genocide was occurring lest such recognition compel action. The Bush administration must not let its own record be disfigured the same way.

 もちろん、そうするためには中国の協調があってしかるべきだろうと思う。が、事実は違う。むしろ、米国は弱腰だし、中国・フランスにいたっては虐殺側の政府に事実上ついている。

It is outrageous that other members of the Security Council are dragging their feet on a resolution that could relieve the crisis. China and France both have oil investments in Sudan and do not wish to alienate the government; Russia and some non-permanent members of the Security Council such as Pakistan view a resolution as an infringement of sovereignty. In ordinary times, the United States might be able to prod these countries in the right direction. But the Bush administration is devoting its very limited diplomatic capital to Iraq, and there is little left for Darfur. That is why the U.N. resolution may take weeks.

 というわけで、スーダン虐殺について、国際世界の動きは、すでに遅きに失しているのだから、とにかく人道優先で、うさんくさい石油利権の話はやめとけと思う。

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コメント

恥ずかしながら最近ようやくスーダンの事を知りました。
で、どうにも分からないんですが何で日本のメディアが報道しないんでしょうか?

投稿: 3畳 | 2004.07.03 01:05

朝日新聞は親中国。以前より、分かりやすくなった気がします。良い事だと思います。スーダンでも、やはり、ここはアメリカの出番でしたね。兎に角、急いで行動を、祈るものです。日本にはもう少し、頑張って貰いたいのですが。ユニセフに少し寄付する事ぐらいしか出来ないのでしょうか。

投稿: h.k | 2004.07.03 16:36

クリントン時代にソマリアでブラックホークダウン状態ですから、アフリカは放置されるのでは。まぁ、アフリカはフランスの管轄かもしれませんが、フランスは中国に武器買ってもらいたくて仕方ありませんからね、何処の軍需産業も赤字で経営は火の車ですから。

投稿: (anonymous) | 2004.07.10 13:56

スーダン虐殺で分かること:昨日の朝日新聞(2004.7.27.火曜日)は柳沢桂子なる女に「宇宙の底で」でと題する文を寄稿させ、20世紀のあのヴェトナム戦争を引き継ぐような、時代をミス・リードする文を書かせている。論旨は「20世紀は殺戮の時代といわれた。確たる根拠もなく、21世紀に入れば平和が訪れるような気分でいたが、そうではなかった。21世紀は始まる早々、また殺戮の時代である。人間はなぜ戦争をするのであろうか。…………」以下戦争は人間の本能に根ざすものではないかと論じながら、大量殺戮は戦争によって起こると言う歴史上の事実に反する誤った概念を植え付けてゆく仕掛けである。カチンの森で殺戮されたポーランド兵30万、シベリアで殺戮された35万の日本人、この両者だけでも広島・長崎の原爆で殺された人より多い。この大量殺人は戦争による殺人ではない。 今度のブッシュの戦争で死んだイラク人と、戦争のおかげでで死なずに済んだ大量のイラク人とどちらが多いかよく考えてみる価値はある。ダライラマ系のサイトを見るとこの50年でチベットでは125万のチベット人が非業の死を遂げたとある。真実ならイラク戦争どころではない、より悲惨でより遥かに深刻だ。何故日本のマスコミやフリージャーナリスト・平和運動家はこういう大量殺戮情報に背を向け興味を抱かないのか、20世紀もそうだった。20世紀の教訓はこの種の情報は真相が分かると死者の数は一桁から三桁ぐらい一挙に増加したという事実で有る。多分現在進行中のスーダンでの殺戮はイラク戦争より多いのはないか。21世紀、私は大量殺戮防止のためにも「戦争反対」は叫ばない、「虐殺反対」と叫ぶことにした。昨日の朝日新聞(2004,8/1)で最近85万から120万人の虐殺がスーダンという国でイラク戦争と平行して行われていることを知った。制裁についてはイスラム国家や中国の反対で、国連はまたも身動きできない状態である。日本の平和運動家は20世紀に引き続いて沈黙を守りたいようだ。日本の平和主義は20世紀からアメリカを非難できないときは何人死のうとどうでも良いとする変な平和論なのである。だからいつも大量殺戮には署名運動もデモも全く起こらない、静かで平和だ。全く奇妙!ファルージャで米軍200人虐殺とついこの間怒っていた人たちどうしたの?柳沢桂子さん分かったでしょう?私の言っていることの意味が

投稿: 寺内芳郎 | 2004.08.02 06:28

寺内さん、ども。ちょっと変な言い方なのですが、私は柳沢桂子さんのファンなんですよ。彼女の闘病ものは大半読んでいますし、生命観にも共感するのです。しかし、彼女のこの数年のこの方面の言及には落胆しています。

特にこの本がまいりました。

露の身ながら―往復書簡いのちへの対話
多田 富雄/柳沢 桂子
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/asin/4087812650/fareasetblog-22/ref%3Dnosim/

闘病についてはいつもながら、多く学ばせてもらうのですが、そのうち、柳澤は、男の遺伝子から闘争性を除去したらいと言い出すありさまです。このあたりは、さすがに多田が冗談でしょとうまく丸め込んでいますが、はらはらさせられます。もっともその多田ですら、劣化ウラン弾の驚異とか言い出すありさまです。

敬意をもつ一読者として、こういうとき落胆します。しかし、政治というのはそういう面があります。

投稿: finalvent | 2004.08.02 08:53

みんな頭悪いな
真の情勢が読めてないねぇ…朝日が親中だって思ってるうちは君たちの認識も操作されてるよ

投稿: | 2007.06.15 15:58

2009年の現在、日系企業もスーダンへ出張が増えている。
豊田通商エネルギー事業部は、先月スーダン入りしたようだ。

当社も昨日まで、人を派遣した。
スーダンは面白い。立地条件が良い。

日系企業で初めてのロジステックス会社を設立しようと考えている。
Block10の入手にも成功しそうだ。

投稿: mac7 | 2009.08.15 01:09

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