« 青色一号 | トップページ | FOMAはまだまだ高いなとかブログの話とか »

2004.06.27

[書評]「築地市場のさかなかな?」平野文

 梅雨だというが暑くてもう本格的に夏だなと思う。ああ夏だ。夏だからアレが喰いたいと思う。アレ? そのアレがどうも無意識にひっかかっていたのだが、ふとわかった。イサキである。イサキの刺身が喰いたいのである。

cover
築地市場のさかなかな
 イサキは塩焼きがいいと言う人も多いようだが、それもわからないではない。スズキほどではないにせよ、大振りならね、と思う。いや、大振りなら刺身がいいと言うのがツウなのかもしれない。平野文がさかなについて書いたエッセー「築地市場のさかなかな?」では、イサキについてこう書いてある。

 塩焼きばかり称賛してしまったが、大振り(二五センチ以上)のものは、刺身も素晴らしい。やはりそれも、気品のある脂ののりが、うまさを上げているからにほかならない。
 ほんのり紅をさしたような気品のある身の色。脂が、縦にきれいなすじ状に入っている。血合いも色鮮やかだ。
 身の方にわさびをのせてから、醤油をつける。たいより、滋味豊かだと思った。

 そうかな。そうかもしれないなとも思う。でも、それならイナダのほうがいいなと私は思う。ま、自分のさかなの趣向にはそれほど自信はない。それでも、私は、背に黄色いスジがきれいに残る小降りめのイサキの刺身がうまいな、ああ喰いたいな、と思う。
 イナダにこだわるのは三十代の半ばに住んだ近所にいい魚屋があって、そこでイナダが好きになったからだ。その魚屋は毎日築地から仕入れるので、2時ごろ店が開く。当たり前といえば当たり前。店のようすもいかにも魚屋という魚屋。だが、ああいう魚屋はもう少ないようにも思う。
 その魚屋に通うようになって顔を覚えられるようになると、この魚を食べな、と薦めてもらうようになる。そしてわかったのだが、この魚屋はけっこういいものを仕入れているということだ。値段は割高に思えるので、その値で売れるのかとも思ったが、金を出しそうな客にいい魚を食わせて中毒にする、いや教育するというわけだ。いやそういうものでもあるまい。東京の街は奇妙に戦禍を免れた地域があり、戦前からの生活の志向が残っている地域があるが、そういう地域の人と料亭がその魚屋を支えているようだった。
 平野文とはイナダの趣向が違うかのように書いたが、いやいや、すごく共感している。

 河岸に嫁いでから、生まれて初めて食べた魚がいくつかある。
 いさきも、そのひとつだった。
 塩焼き、あるいは刺身。かなり、うまい。通年食べられるさかなだが、食べ頃は五月から七月。初夏を感じる魚である。


 いさきのうまさを知ってから思った。あくまでも個人的な感覚だが、いさきは、あじやいわしなどのような庶民的な惣菜魚に比べると、通寄りのさかなであると思う。ちょいとばかりさかなの味を知っていれば、目ざとく反応する。そういった類のさかなであると思った。
 同時に、いままで知らなかったとは、なにやらすいぶん損をしていたような気にもなった。が、一方で、三十路になってから出会えたからこそ、この味を分別できるようになったのかもしれない。

 そうそう。こういうところは、うんうんと頷いて読む。そして、ラムちゃんの声優平野文がそう言うんだよなというところに、さらに、うんうんと頷く。熱烈ファンだったしな。
 この本では、日本のめだった魚について、河岸での出会いというのもあるのだろうが、けっこういいところをついて書いているなと思う。いわゆる魚ツウの説明より、とても納得することが多い。
 きんめだいについて、彼女はこう書いている。

 名前の由来は、大きなその、目の色からきている。
 真上からのぞくと、黄みがかった、まさに黄金色。見事である。深く、暗い海のなかでは、発光しているかのようだという。


 きんめは、きんきとは相反する。関東以南で漁れる。南のさかなである。沖縄あたりでも揚がるのだ。きんきより、魚体も大きい。

 そうそう。私は沖縄で、しかも、漁場近くで暮らしていたから、水揚げされたキンメをなんども見た。目の黄金色は、たしかに見事なものだったが、ある日、ある漁師がほら見てごらんとキンメを陽射しに置いた。沖縄の強い陽射しのなかで、キンメの目は神聖なほど黄金に輝きだした。それは本当に美しかった。
 なんだか、さかなのうんちく話みたいになってきたので切り上げよう。でも、魚が食えるのは日本人の幸せである。もちろん、そういう幸せを知るのは日本人には限らないが、国際線の昼食で、「フィッシュ? チキン?」と訊かれて違和感を感じない国民もある。もちろん、そういう国民にも別の幸せがあるのだろうなとは思うけど。

|

« 青色一号 | トップページ | FOMAはまだまだ高いなとかブログの話とか »

「書評」カテゴリの記事

コメント

日本に生まれてよかったと実感する瞬間は食い物がうまいときです。
私にとって愛国心即ち愛”食”心である。

投稿: Cyberbob:-) | 2004.06.28 06:15

うぅ~、うらやますぃ。

離れてわかる日本の食い物のよさ、旨さ。

いくら海鮮料理が名物だっていっても、魚の絞め方ひとつ知らないんじゃ刺身も食えたもんじゃない。

豊富な素材もそうでしょうけど、やはり料理法も段違いのような気がします。

投稿: shibu | 2004.06.28 07:38

人類の主食はある時期水産物だったのか。アクア説と脂肪資源、海進と人類文明、パズル的に追い込めそうにも思うのですが、氷河期以降の穀物食、そして現在の食の嗜好(肉食)、むつかしいですね。

投稿: a watcher | 2004.06.28 07:56

外地のshibuさんには悪いけど(?)、というわけで、ちょっと大振りだったがイサキを買っておろして刺身にして喰った。うまい。この季節、こんなうまいものないよ。

投稿: finalvent | 2004.06.28 19:16

くぅ~。

こっちだって小麦がいけるから、毎日ふっくら皮の餃子、それも水餃子に蒸し餃子に焼き餃子とか安いんで食い放題だし、こゆいウィグル族の羊肉串に、朝鮮族の「長白山狗肉館」では狗火鍋が26元(338円)とか、蚕蛹の踊り焼き(ウニョウニョ)とか...。

...珍味はもういいんで、築地で鮪丼、ささやかに食いたい(´・ω・`)

投稿: shibu | 2004.06.29 06:16

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: [書評]「築地市場のさかなかな?」平野文:

« 青色一号 | トップページ | FOMAはまだまだ高いなとかブログの話とか »