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2004.06.21

米軍はドイツからも撤退する

 どうも世界情勢がきな臭い。なにが起きているのか、なにが起きつつあるのか。うまくとっかかりが見えないのだが、まず、イラク状勢から。
 日本ではイラク状勢を「泥沼化」と見る向きが多い。が、泥沼化議論者は、サドル派がイラク国民の反米感情に乗っていっそう過激化するというようなスジだったのじゃないか。はずれ。
 イラクの主権委譲を前にして、パイプラインへの破壊が烈しくなった。もちろん、これも泥沼化と見ることもできるが、とりあず冗談としておこう。事態について、産経系「アラウィ首相 石油施設の防衛宣言 パイプライン相次ぐ破壊 部族に監視を要請」(参照)をひく。


【バグダッド=加納洋人】イラク暫定政権のアラウィ首相は十九日、北部や南部の油田地帯で、石油パイプラインへの破壊活動が頻発していることに関し、「これまでに十億ドル(約千百億円)の被害が出ている」と述べ、「石油施設攻撃はイラク人に対する攻撃に等しい」として、石油施設の防衛を宣言した。全国の部族にパイプラインの監視を要請するほか、二万人以上のイラク人治安部隊を動員して警備にあたる。

 記者はパイプライン攻撃の背景は不明としながらも、石油産業に攻撃し、暫定政権への復興資金の流入を阻止することがテロ組織の狙いと見ている。妥当な見解だろう。日本人としては脊髄反射的に世界市場の石油はどうなるかと不安になるかもしれないが、地政学リスクが投機に拍車をかけるとしても、現状のイラクの石油産出量では世界市場に大きな影響力を持たない。
 また、テロ組織というと、日本人には、例のズッコケ三人組に顕著だがイラク国民のレジスタンスだとか戯けた意見もある。暫定政権は傀儡だとしても、石油は国富なのだからそれを潰すことがレジスタンスになるわけもない。むしろ、イラクの地に民主国家ができることは近隣中東諸国にとって脅威であり、その意味で、イラクの混乱を起こすテロ組織と各国政府は意外にグルっぽい。例えば、salon.comで読んだAP系"Al-Qaida site says Saudi police helped in abduction"(参照)では、最近のサウジの米国民ターゲットのテロの裏をほのめかしている。

June 20, 2004 | RIYADH, Saudi Arabia (AP) -- Al-Qaida militants disguised in police uniforms and cars provided by sympathizers in the Saudi security forces set up a fake checkpoint to snare the American engineer they later beheaded, according to an account of the operation posted on an Islamic extremist Web site Sunday.

 これがサウジ政府の遠隔部分での問題なのか中枢に関わるのかまではわからないが、胡散臭さにはたまらないものがある。こうした問題を機に、米国はサウジ在留の米人の帰還を勧告し、サウジ政府側はそれはやめてくれ、とすったもんだしているようだが、このあたりも胡散臭い。米国はサウジに対して、そっちがテロを下っ端で使うなら、それ相応の圧力を上からかけてやろうということではないか。
 話を少し戻して、アラウィのスラップスティックも奇妙だ。ここに来て、急にパイプラインがやられるというのは、単純な話、米軍がさっと手を抜いた結果ではないか。とすれば、この事態は米軍の思惑通りのはずだ。陰謀論臭い展開になってしまうが、そういうことなんじゃないか。ついでにもう一つ言うと、イラクの石油は北部と南部に分かれるのだが、ここに来て北部攻撃があるのは、反クルド勢力であり、アラウィとしてもクルドはこの機に少し潰しておきたいということではないのか。というのもクルドは事実上独立の軍事力を持ちつつある。
 たるい話をひっぱったみたいだが、こうした背景にある米軍は何を志向しているのだろうか。
 話をイラクや中東から少し外し、NATOをめぐる先日のブッシュ・シラクの会談に移す。この会談はなんとも後味の悪いものだった。10日のロイター系「イラクへの介入、NATOの任務だとは思わない=仏大統領」(参照)をひく。

 [シーアイランド(米ジョージア州) 9日 ロイター] フランスのシラク大統領は9日、イラクに介入することが北大西洋条約機構(NATO)の任務だとは思わないと語った。

 シラクは米国の先手を打ったつもりだろうが、これはスカをくらうことになった。ニューヨークタイムズ"THE REACH OF WAR: SUMMIT POLITICS; BUSH DOESN'T SEE NATO SENDING IN TROOPS FOR IRAQ"(参照)をひく。

AVANNAH, Ga., June 10 - President Bush said Thursday that after two days of consultations with the leaders of France and other nations, he did not expect NATO to provide troops to bolster or replace American forces in Iraq. But he continued to press for a more limited NATO role in training Iraqis to take on the burden of security in their own country, if the new Iraqi government requested the help.

 ブッシュは逆にシラクのツラをひっぱたいて見せたわけだ。が、この米軍の強気の意味はなんなのだろう、と気になっていた。日本と限らず、米国でもそうだが、イラク戦争はついに米国の手に余るようになったので国際世界の援助を求める、というストーリーがマンセー状態になっていたからだ。だとすれば、日本自衛隊のような微々たる投入かつ戦力にもならんものよりもNATOの協力を仰ぎたいと見るべきではないか。ブッシュはただの馬鹿な強気か?
 このあたりの問題はロサンゼルスタイムズの記事"Bush: NATO Should Help Train Iraqis"(参照)の記事のように、ブッシュの本音はNATOを出してほしかったはずだ。

SAVANNAH, Ga. President Bush said today that any NATO role in Iraq's security would involve training rather than a deployment of troops to carry out operations there, and that the Iraqi government would have to request the training mission.

 だが、ここに来てこの裏の動きが見えてきたように思える。まず、切り口はガーディアン"3,000 more UK troops for Iraq"(参照)が示唆深い。

・Nato force to be deployed to bolster new government
・ Bloody career of al-Qaida's leader in Gulf

Richard Norton-Taylor and Ewen MacAskill
Saturday June 19, 2004
The Guardian

A Nato force including up to 3,000 British troops will be deployed to Iraq to support the vulnerable new government as it takes over the running of the country, under a plan being drawn up in London and Washington.

The force would consist of Nato's Allied Rapid Reaction Corps, based in Germany under the command of a British general, Sir Richard Dannatt, reinforced by a British battle group.


 ここでは話の主人公は英国ではあるのだが、NATOの看板を掲げないものの、英軍を中核とする三千人の部隊を主権移譲後のイラクへ派遣する計画を立てているというのだ。しかも、この部隊は、ドイツに駐留するNATO緊急展開部隊だ。
 事実上、米英だけでNATOを動かすというのもなんだが、まずドイツからNATO軍を引っこ抜くのだ。ピクミンじゃないがNATOは引っこ抜かれても、「あなたのもとについていくわ」ということだ。
 話が前後するが、14日のニューヨークタイムズ"Military Bases in Germany"(参照)の話が、一連の動きにとどめを刺している。

The Pentagon is proposing sharp cuts in U.S. forces in Germany, which for more than half a century has been America's biggest military outpost in Europe. It's a bad idea, particularly at a time when the United States is struggling to rebuild its relations with its NATO allies.

Washington is hoping to cut its military presence in Germany - a little more than 70,000 soldiers - roughly in half. Two heavy divisions now based there, and the soldiers' families, would return to the United States. They would be replaced by a much smaller light combat brigade, while other units would be rotated in and out, at considerable cost, for short-term exercises. The Air Force is also thinking of moving some of its F-16 fighter jets from Germany to Turkey, where they would be closer to Middle East trouble spots but subject to restrictions by the host government.


 ドイツから米軍を大量に引っこ抜くというのだ。もちろん、冷戦後という理屈は大筋ではあるが、これは、ようするにドイツへの報復だ。

Many Germans, remembering Defense Secretary Donald Rumsfeld's scornful "old Europe" put-downs of their country last year, will see these withdrawals, and the accompanying German job losses, as payback for Berlin's diplomatic opposition to the invasion of Iraq. Washington denies that. But the Pentagon does seem to have a growing preference for stationing troops either at home or on the territories of allies ready to embrace President Bush's notions of unilateral preventive war.

 やるよな、ラムズフェルド。ちょっと暴言のようだが、フランスがいくらEU帝国の冠たらんとしても、ドイツの協力がなくてはやっていけない。シラクがNATOを仕切るようなそぶりを見せるなら、誰が主人か教えてやろうというのが、ラムズフェルドの思惑なのだ。
 まいったな、である。もちろん、以上のような話はそれほど陰謀論でもないし、日本の外交筋はさっさと読んでいるのだろう。これじゃ、純ちゃんブッシュの尻舐めてください外交になるよな。韓国も米軍撤退でキンタマ縮んだし、というか、現状の人質事件でその縮み具合がわかる。
 このストーリーというのは、イラク戦争前のネオコンのビジョンと何か変わりがあるのだろうか。ないんじゃないか? ネオコンっていうのは、ある種の思想集団であり、その思想はつまりは、黒幕がどうたらというと言う問題ではなく、まさに米国の思想なのだろう。
 私は、糞!と言いたい。八つ当たりである。

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コメント

ご存じかもしれませんが、5月あたりに発表されたCBO(議会予算局)のレポートに、韓国/ドイツの駐留兵力削減の計画が書いてありました。ただ、いくつかの削減オプションの中でも、時期が非常に早まっているのと、規模がかなり大きくなっていますね。

http://www.cbo.gov/showdoc.cfm?index=5415&sequence=0

投稿: miyakoda | 2004.06.23 10:27

miyakodaさん、どもです。いずれ冷戦シフトは変更しなければいけないという点でCBO的な世界はわかりやすいのですが、また、私がジャーナリスティックに見るからいけないのかもしれないのですが、気になるのは、元来は軍事的・政治的にテクニカルな課題であるものが、故意にと言うか悪意にというか、そういう表現を米国が露骨に出してくるところです。

やりきれないなというのと、中台のように現実の言葉は露骨なんだから、そーゆーもんだよというのと、これもちょっと割り切れません。

いつも小泉を罵倒しているのですが、国民が呑気な分、しっかりブッシュの尻を舐めているんだという自覚があるのかもしれません。醜悪ですが、その問題こそ、日本人の問題ではあるのですが、が…絶句しますね。

軍事をないがしろにしたツケなのかもしれません。

投稿: finalvent | 2004.06.23 18:15

finalventさん

軍事力も売り物になることを、最近のアメリカ政府高官やシンクタンクの人たちは知り抜いている感じがします。軍事サービス業、っていうか。日本のような国は、その上客、ということなのでしょう。

一方、平和憲法ってどうなんだろう、と思うことも多々あります。しかし、法的な規制をはずしたあと、政治家や霞が関官庁が、法に則って、正確な軍事知識を持って軍事力を運用できるものか。

いままでの延長で、イラク展開の自衛隊をそのまま多国籍軍参加可能だとするような政府が、法に則った運用などできるわけないだろう、とも思えます。
政治の世界では玉虫色のことでもなんでも言えてしまいますが、戦争の現場では敵と味方しかなく、味方の他国軍が危機にあるときには救援の兵を動かせないくせに、自国軍が危機にあるときは他国軍に応援を求める、わけの分からない味方など、政治的(口先)にはありえても、軍事的にはありえない存在です。
こんなとんでもないことを考える人たちが政治を支配しているのが現実ですから、軍事関係には手出しをしないまま、ケツ舐めを続けていたほうがいいとか、自嘲的になってしまいます。

投稿: miyakoda | 2004.06.24 00:19

miyakodaさん、ども。問題意識はわかる気がします。ただ、言葉にすると異論に聞こえるかもしえないのですが、miyakodaさんはわかただと信じて、自分の印象を漏らしてみます。

まず、石破というのは優秀だなという感じがします。自衛隊はけっこうきちんとしていると私は評価しています。問題はそれを世論と政治が支えられないだろうな、と。

まったくニュースで触れられていないわけではないのですが、多国籍軍参加という日本国内視点より、私はオランダの撤退とそれを補う米英軍のフォーメーションが、冗談じゃないよと思っています。それじゃ有志連合と実質同じです。むしろ、ここは小泉がオランダを賞讃する馬鹿でもやって米英に嫌みを飛ばすパフォーマンスでもしてもらいたいです。

あと、「戦争の現場では敵と味方しかなく」ですが、この点には、以前も触れたのですが、双方が血を流す戦争は良い、と私は考えつつあります(自衛隊にはきついでしょうが)。むしろ、戦場を消してしまうかのようなフォーメーションが怖い、そんなふうに思います。

総じて言えば、難しいですね。日本人は一度ゼロになった、その苦しみを、それを耐えたという自負にできないものでしょうか。と、いうパセティックな志向もたぶん間違いでしょう……

投稿: finalvent | 2004.06.24 11:29

>問題はそれを世論と政治が支えられないだろうな、と。

まったく同感。
支えられなくなり破綻したあとの迷走ぶりが思い浮かんでしまうのです。

投稿: miyakoda | 2004.06.24 12:59

アメリカのかげりはすでに始まっています。
最後、はロシアが、どういう布石を
うってくるかです。
サハリン、カスピ周辺をおさえられるかにかかって
くるでしょう。
日本は、ロシアと今後うまく
やらないとね。

投稿: さとる | 2004.07.25 21:26

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ちょっと、怖い話だ。 前々からUSは、変だなと感じていたが、単純すぎる考え方で世界を動かしているように見える。 でも、結局今はついていくしかないのかとも... [続きを読む]

受信: 2004.06.22 04:15

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