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2004.06.01

IP電話のダウンはコモンキャリアの恥

 「だから言っただろ、IP電話なんか電話じゃねー」とつい怒鳴ってしまった。NTTコミュニケーションズの通信サービスがダウンした結果、IP電話が34万件も不通になったというニュースをたまたまラジオで聞いたときだ。
 電話が通じないという話を聞くと、私は冷静ではいられない。トラウマ(心的外傷)である。私の父親は電電公社で線路監督していたのだ。自分が小さいころ、父は、電話が通じないという連絡があれば、台風や大雨でも深夜でも出かけていったものだ。洒落じゃねーくらい必死だった。それが電電マンの使命だからだ。プロジェクトXは小規模でも普遍的だったのだ。
 と、書きながら、苦笑する。回顧して済むことではない。ラジオのニュースを聞きながら、「きっと今、IP網の復旧で必死の若いオヤジたちがいるのだろうな」と思った。がんばってくれとも思った。
 原因は電源系らしい。障害状況は「大手町電力系故障の影響について」(参照)という、HTMLなのかコレみたいなふざけたホームページにある。つまり、網系ではなかった。網系だと…というあたりで、率直のところ現在の東京のIP網がどうなっているのかよくわからない。パケット交換でも大型規模のIXを使うのだろうが、その保全の仕組みがわからない。というか、パケット網の保全性はITUで規定されているのだろうか。
 この点、回線交換の場合は、わけあって自分もちょっと仕事をしたのだが、かなりしっかりしている。交換機にはメイト系が義務づけられている…というあたりで、どうもIP網というのが私には信じられない。原理的には、ARPA時代の構想のようにIP網というのはタフなものなのだろうが…。実際、今回のようにダウンしてしまうとルーティングもできないものなのか?と疑問に思う。それに、電源系の障害であんなに長時間ダウンするものなのか。と、不可解なのだが、どうも当方の無知を晒しているようでもあるな。
 原則的に言えば、技術は進歩するから、IP網を使って電話ができないわけはないので、技術者さんたち、がんばってくれ、としか言えない面はある。だが、私が見るかぎり、日本のIP電話の実態とそれにまつわるマスメディアの言説については、なんかな、とち狂っていると思う(たとえば日経社説「IP技術が促した通信再編」など、なにがIP技術だよ)。その状況だけを見るなら、冒頭のように、「IP電話なんか電話じゃねー」とつい口をついてしまう。実際、米国FCC(連邦通信委員会)の規定では、回線交換網を経由しないIP電話は、ヴォイス・メールの扱いで、電話ではないはずだ。
 ということもあり、日本のIP電話は、私から見ると、とてもコモンキャリアの商売ではないとも思うのだが、今回のダウンをやったのはNTTを冠するNTTコミュニケーションズなのだから、さらに脱力してしまう。
 しかし、NTTがそうなることは予想外のことでもなかった。2002年4月に出された「NTTグループ3ヵ年経営計画(2002~2004年度)について」(参照)を読みながら、やな感じー、だったのだ。具体的な取り組みにこうある。


(3)VoIP普及を踏まえた固定電話事業の展開
<1>固定電話網投資の停止
 音声からデータへの需要シフトに加えて、益々加速する定額制料金の普及・ブロードバンド化の進展により、固定電話の通話トラヒックそのものがIP通信へ移行していくことが必至であることから、固定電話網及び固定電話系オペレーションシステムへの投資を原則停止し、IP網の充実に投資を集中することにより、通話品質の確保など統合に伴う技術的な諸課題を解決しつつ、IP技術によるネットワークの統合化を進めていきます。
<2>VoIPへの対応
 NTTグループは、当面のIP電話との単純値下げ競争に対しては、固定電話網コストの徹底した削減により対応していきますが、本格的なIP時代に向けた競争力強化のため、ISPサービスへの音声通話機能の付与や法人向けのIP-VPN*16の提供に積極的に取り組んでいきます。

 ようするに固定電話網の投資を止める…廃れるに任せる…ということだ。それにもむっとするが、時代の趨勢であることは否めない。問題は、コモンキャリアの意地というか使命をVoIPに活かすぞ、という意気込みがここに全然ないことだ。算盤弾いてんじゃなねーよ、NTTトップと思う。
 と、うざうざしたボヤキを続けてもなんので、どうしても気になる一点を書いて終わりにしたい。IP電話って緊急時に電話の役をなすのか?である。今回の「大手町電力系故障の影響について」の報告の最後にこうある。

新しい情報がわかり次第、続報を掲載致します。
<本件に関するお問い合わせ先>
お客様お問合せセンタ
TEL:0120-506268

 続報が全然ないのはご愛敬として、さて、IP電話が止まってどうやってここに電話するのか? 答えは、携帯電話、ということなのだろう。で、いいのか? 確かに携帯電話でここにつながるのだが、災害時の電話連絡には使えないだろう。
 ちょっと滑稽なのだが、NTTコミュニケーションズは「災害時の電話連絡について」(参照)で、災害用伝言ダイヤルを説明している。これが、まさに、回線交換のメリットを活かしたものだ。

 この災害用伝言ダイヤルは、被災地の自宅電話番号の末尾3桁をNTTのネットワークが自動判別して、全国約50ヶ所に配置した伝言蓄積装置に接続し伝言をお預かりし、再生時も自動でこの伝言蓄積装置に接続します。

 IP電話はこうした事態にどう対応するのだろうか?
 また、すでにISDNですら問題だったが、停電時はどうなるのだろうか。私は沖縄で長く暮らしていたので、年に4日間くらいは台風で停電の生活をする(それも悪くない。冷蔵庫の中身を全部食うのだ!)。電話網は電灯線側が停電しても電力が供給されるので大丈夫なのだが、ISDNモデムだと問題になる。というわけで、私はその電源バックアップに腐心した。ADSLは通常回線を使うので停電の問題はないのだが、モデム側はどうなのだろうか? 電話会社がコモンキャリアというのは伊達ではない通信のタフネスを保障するからなのだが、IP電話はどうも心許ない。
 技術的には、e911も気になる。e911は米国の緊急電話番号(ダイヤルが911)のことで、日本なら、110番や119番にあたる。現状日本のIP電話ではモデム側でこっそり切り替えてその場しのぎの対応をしているのだが、社会の通信のライフラインを保障するという意味でのコモンキャリアとしての規制をIP電話にかけるべきだろうと思う。
 今回の事態は一部の人が困り、私のように特定のトラウマの人間が騒ぐ程度だが、IP電話の大規模ダウンが再発するようなら、こうした問題をきちんと社会問題に持ち上げなくてはいけないだろう。

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コメント

finalventさん、こんにちわ、

私の家でもIP電話を使っております。NTTさんは慎重なので、アナログとインターネット接続の両方が併用になって、IP電話用のルーターにつながっています。つまり、かけるときはまずIP電話でかけてみて、かからないとアナログ回線からかける。受けるときは、いままでのアナログ回線の番号ならそのまま、IP電話の番号ならIP電話、で受けるという方式にしています。Yahoo!電話だとそもそもADSLだからアナログにすればよいという人が大半でしょうし、いまのところフェイルセーフがあるように感じております。あ、決してどっちがいいとかいう意見でなく、いま自分がIP電話を使っていても、つかえなくなってもこもらない状況にあるということだけ、お伝えしようと思い、コメントさせていただきました。

投稿: ひでき | 2004.06.01 12:11

ひできさん、ども。その仕組みは知っています。ということで、実態としては不通というのはなかったのでしょうか。生活実感としては、IP電話の問題性というのはないのかもしれませんね。

投稿: finalvent | 2004.06.01 12:45

分電盤の故障だということですが、完全復旧まで12時間はかかりすぎですね。一般に、局内の電源系統は二重化されていそうなものですが。
このような場合、他通信事業者からのIP通信はNTT Com/Verioのネットワークを迂回するのでしょうが、他に迂回先を持たない自社ユーザーは大変ですね。

以前専用回線を構築したときは、日本側のフレームリレー接続点を東京と大阪に設け、東京からデータセンタまではNTT、大阪からデータセンタまでは新電電を使い、さらに経由するNTT局舎を分けました。
ちょっとやりすぎたかなと思いましたが、きのうのようなケースをカバーするにはこのぐらいの自衛策がいるのですね。

投稿: 高橋章 | 2004.06.01 13:47

高橋さん、ども。パケット交換は回線交換とは違って、輻輳制御って独立してないのでしょうか。今回の事件は(事件だと思う)、不思議な気がします。レアケースだといいのですが。

投稿: finalvent | 2004.06.01 19:31

finalventさん、正しくトラウマだと思われ。アナログ回線+黒電話(家庭電源不要)だって大元にミサイル1発ズドンで不通でしょ。(チト極端か)アナログ、ISDN、IP、ケータイとルートが増えてるだけマシなのかもね。IP電話キャリアやケータイキャリアが昔の電電公社よりインフラ保障の責任感が薄いとは感じるけど、ユーザーも安価なそれを善しとしてきたしね。

投稿: あんぽんたん | 2004.06.02 01:58

あんぽんたんさん、ども。ええ、そう思います。ただ、電電マン2世は萌えるわけですよ。ITUドキュメントとか読んでいても萌えるし…って、言葉が違ってますが。マジなところでは、e911は依然問題だと思いますのであまり簡単に問題意識を片づけないでほしい気もしますが。

投稿: finalvent | 2004.06.02 09:17

長くなるのと話が逸れるのでTバックにしました。

投稿: あんぽんたん | 2004.06.02 15:06

多分IPか回線交換かの話というよりは「ユーザーも安価なそれを善しとしてきた」から、通信事業者はみんな安定だけど高価なNTTスタンダードを捨てて、ソフトバンク化してきたってところなんでしょうね。ヤフーさん引き合いに出してすいません。

上のリンクよりもう少し詳しいNTTcomさんは障害報告を見る限り、変圧分電盤の故障みたいですけど、そもそもフロア電源が「非冗長」構成みたいですし、ヒューズが飛んではじめてアラームが出て気づいた感じです。(多分その前に過電圧か何かがあったと思いますけど、その時点ではどうやら多分検知できてないです)
NTT(というか電電)的にはありえない手抜きなんでしょうけれど、そうでもしないと通信回線選択の幅が広がった今はコスト的に戦えないのかもしれません。

死守の時代からベストエフォートの時代へ。緊急電話番号までベストエフォート化しそうな勢いは、確かに怖い感じはしますね。

投稿: ami | 2004.06.02 17:02

あくまで国交省のハナシですが、災害時にも使用できる通信網という事で、通信を行う自動機器にはNTT以外のコモンキャリアは使用できない約束になっています。このあたり(遠隔地の地震計や気象テレメータ情報)を見直すとしたら兆の単位の金が吹っ飛ぶでしょうね。
今後、固定電話が本格的に消える話が浮上しても、総務省以外の方面から(違約という形で)横槍が入ると思っているので、インフラ面の心配はしてません。
民間の一般加入者の連絡網はズタズタになりそうな気がしてますが…。

話は全然関係ないんですが、適当な場所が見当たらないんでここに。
今公開中の沖縄映画『深呼吸の必要』がかなり良かったですよ。普通の人が見ればただの青春感動物なんです。が、沖縄のサトウキビ農業が「めっぽう収益率の悪いプランテーションのなれの果て」だと知っていると、物語の意味がいろいろ反転してきて…という仕掛けです。
いろいろネタにできるんではないかと思います。

投稿: エスねこ | 2004.06.07 12:56

エスねこさん、ども。あ、そうだ、そうです。そうなりますね。ちょっとうかつでした、非常時の回線です。そして、一般加入者はこれからが見もの?

沖縄映画『深呼吸の必要』はよいですか。JALがらみなんで、最初から問題外に思っていたのですが。

キビ(うーじ)は確か戦前もあったけど、現在のように推し進めたのは米国統治政策。そもそも沖縄の気象がそれほどキビに合ってないのに…。とはいえ、大東とかはいいみたいですが、本島は泣けますよ。「基幹産業」ですものね。

投稿: finalvent | 2004.06.07 13:10

>JALがらみなんで、最初から問題外に思っていたのですが。

言葉が足りなかったんで、ちょっと補足しておきます。
これキビ刈りのバイトの話なんですが、この小世界では「雇用主」「バイト」という形で、本土に対して沖縄がイニシアチブを取ってるんですよ。そこへの持ってき方が、ごく自然で心憎い。
離島の赤貧の暮らし(と沖縄独特のケセラセラな人生観)を、あんなに正直に描いたのは他に見た事がないです。私は大学のサークルで人形劇公演をしながら地方を回っていたんで、離島でも1週間以上滞在する事はなかったんですが、まあ、それでもかなりリアルに土地の感触を思い出しました。正直言って何度か泣きました。
観光映画の衣を着せておいて、描きたい事はちゃんと描き切った、と見ました。単に状況提示があるだけで、そこから先はないようですが…。

>キビ(うーじ)は確か戦前もあったけど、現在のように推し進めたのは米国統治政策。そもそも沖縄の気象がそれほどキビに合ってないのに…。

土壌改良をせずに育ってくれる植物ですからねえ。化学的キャパの少ないサンゴ島の環境には優しいと聞いてます。
でも、あのキビ一本で大さじ1~2杯分の砂糖しか取れないそうなんですよ。それ考えると、キューバとかハイチとか、産業的にちっとも上へ登っていけない国々の社会や歴史を連想しちゃうんですよね。やはり奴隷制とかの安い労働力があって成り立つ農業なのかな、と。
では。

投稿: エスねこ | 2004.06.08 02:47

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