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2004.06.11

脳は40歳を境に衰えていくようになっている

 オンライン版のNatureに9日"Gene regulation and DNA damage in the ageing human brain"(参照)という記事が掲載された、といって、標題と概要しか見ていないのだが、標題は「人間の脳における遺伝子の規定とDNA損傷」だろうか。脳の老化には遺伝子的な仕組みがあるという話のようだ。概要を追ってみよう。


The ageing of the human brain is a cause of cognitive decline in the elderly and the major risk factor for Alzheimer's disease. The time in life when brain ageing begins is undefined. Here we show that transcriptional profiling of the human frontal cortex from individuals ranging from 26 to 106 years of age defines a set of genes with reduced expression after age 40.

 脳が老化すれば認知能力も低下する。そして老化はアルツハイマー病にも関連するのだろう。そういわけで、各年齢層で脳を調べたところ、40歳を境界として発現が減少する特定遺伝子が存在し、これが脳の老化を示しているのではないのか、というのだ。

These genes play central roles in synaptic plasticity, vesicular transport and mitochondrial function. This is followed by induction of stress response, antioxidant and DNA repair genes. DNA damage is markedly increased in the promoters of genes with reduced expression in the aged cortex. Moreover, these gene promoters are selectively damaged by oxidative stress in cultured human neurons, and show reduced base-excision DNA repair. Thus, DNA damage may reduce the expression of selectively vulnerable genes involved in learning, memory and neuronal survival, initiating a programme of brain ageing that starts early in adult life.

 40歳から脳が老化するというならそれほど科学的な知見とも言えないが、今回の研究のポイントは少し違う。
 人間が学習などを行う場合、脳の構造的な表現としてはシナプス形成としてして見られ(これを可塑性というのだが)、これは、ストレス反応や抗酸化物質やDNA修復遺伝子の援助を受けるらしい。そこで今回特定された遺伝子だが、これが特徴的にDNA損傷を起こすようなのだ。しかも、これらはそもそも酸化ストレスに狙われやすくなっているというのだ。当然、このDNA損傷が結果として脳の学習能力の衰えにつながる…。
 と、書いたものの、私は今ひとつこの特定遺伝子と学習の遺伝子の関係がよくわからない。
 話は別途"The Brain Starts to Change at Age 40"(参照)などで一般向けのニュースとなっている。話の切り出しは、40歳過ぎたら子どもとトランプの神経衰弱やっても勝てないでしょうということだが、そんなことはどうでもいい。気になるのは、この特定遺伝子と可塑性を担う遺伝子の関係だ。

One group of the genes plays a role in what researchers call synaptic plasticity - the ability of the brain to make new connections so critical to learning and memory.


Another group of genes, involved in processes such as responses to stresses and defense against damaging oxidants such as free radicals, are turned on in the aging brain. The researchers found that regions of particular genes are quite vulnerable to DNA damage in the aging brain.

 この解説によれば、可塑性を担う遺伝子と、今回特定された酸化ストレスに弱い遺伝子は別のようだ。この酸化ストレスに弱い遺伝子のために、遺伝子全体がやられ、結果的に可塑性も落ちるということなのだろうか。
 外堀を巡っているようだが、ロイターヘルス"The Brain May Start to Age at 40 Years"(参照)は、簡素にこう書いている。

According to the team, DNA damage begins to accumulate in these genes. This damage could affect vital brain activities, such as learning and memory. Moreover, this may initiate a program of brain aging "that starts early in life."

 概ね、この特定遺伝子自体が可塑性を担っているわけでもなく、むしろ、人間脳を必然的に老化=劣化させる機能を担っている、と言えるだろう。
 私の与太話はここからだ。
 どうやら人間の脳というのは、40歳を境に学習能力などが衰えていくように出来ているわけだ。従来はよく20歳を過ぎれば脳細胞はどんどん死滅していくというようなことが言われていたものだが、最近の知見では、おそらく、40歳くらいまでは知力は伸び続けるようでもある。
 しかし、そこまでか。実感としても、40歳を過ぎると、俺の頭もダメだなぁ、になってくる。若いやつにはかなわねーよ、である。権力のなかにいるなら、知力じゃない部分で、若い者を利用したり貶めたり画策するようになる。醜い。
 科学の知見など時代で変わってくるものだが、今回の発表が概ね正しいなら、人間の脳は、40歳あたりから徐々にぼけ出すといい、というメリットがあるのだろう。どんなに頑張ったって人間は死んでしまうし、どんな屁理屈こいても、死の恐怖などは克服できそうにもないのだから、ぼけるというのは、それだけでメリットだろう。あるいは、生物集団としてのメリットもあるのかもしれない。
 ここでまた実感でいうなら、40歳を過ぎると、過去が、つまり、過去の記憶がつらいなぁになってくる。どの程度の男がそう思うものかわからないが、若いときにつれなくした女に、すまねーなと思えるようにもなる。
 今回の知見では、基本的には脳の老化を、やはり酸化ストレスとしていた。やはりである。デンハム・ハーマンの奇妙な仮説と見られていた学説がやっぱり正しいのか?というより、酸化ストレス自体は生命に必須の出来事なので、むしろ、抗酸化機能をどう遺伝子が担っているかということが問題だろう。
 人間の老化は、機械の摩滅損傷に似ているという人もいるが、人間は鉄人28号のように完成品としてできるものではなく、正太郎のように成長し、そして老いていくというプログラムされた過程を取る。
 それでも、脳の老化の基底にあるのは酸化ストレスだろうとは言えるので、今回の例でいうなら、脳の抗酸化システムを援助できるようにしてやればいいのだろう。現状では、アルツハイマー病を例としても、効果について賛否が分かれるビタミンEだが、弱い効果はあると見てもいいのだろう。
 話はさらにゴマ臭くなる。メラトニンもどうやら脳で働く抗酸化物質のようだ。眠りというのは、ある種の酸化ストレスの修復なのだろうか? ここでゴマ臭い話なのだが、メラトニンを飲むとかなりの人が悪夢を経験するのだが、この悪夢というのは、先に書いた、思い出したくもない記憶の残存ではないのか? これらの選択的に排除された記憶は、それ自体が酸化ストレスではないのだろうか?
 もちろん、そんな話は冗談である。真に受けないで欲しい。
追記(040612)
 CNN"Research: Brain genes start to slow at 40"(参照)によると、40歳以降は、酸化ストレスとみられる損傷を修正するための遺伝子が活発になるとある。

Slightly less than half of the 400 or so genes -- including those involved in learning, memory and communication between brain cells -- were found to be functioning at a lower level, perhaps because of some kind of damage, the researchers found.

The remaining genes were found to be working harder after age 40. They included genes involved in DNA repair, antioxidant defense and stress and inflammatory responses.

Overall, the findings suggest that the first set of genes had sustained damage that hampered their functioning, and the other genes were working harder to try to lessen or repair that damage, said Bruce A. Yankner, a professor of neurology and neuroscience at Harvard Medical School.

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コメント

一例、実のところ、最近になって何となく自覚症状らしいものを意識します。してみると衰えは40歳あたりから始まってたんでしょうね。

投稿: a watcher | 2004.06.11 15:31

a watcherさん、ども。CNNのニュースを追記しましたが、この論文のポイントはむしろ、老化にあたっての脳の抗酸化活動がポイントなのかもしれません。むしろ、人間の脳が他の生物に比べて長く生きているという秘密の鍵かも、と。

投稿: finalvent | 2004.06.12 08:14

こんにちは。
以下に解説記事がありました。
http://www.alzforum.org/new/detail.asp?id=1028
何故promoter regionによって酸化ストレスへの脆弱性に違いが出るのかよくわかりませんが、それより個人的に重要なのは私が来月で38歳になるという事実です。あと2年か・・・

投稿: 龍蛇蟄 | 2004.06.12 12:14

龍蛇蟄さん、ども。ご安心を、実際に劣化が目立つのは厄年(男)を過ぎてから、そして、劣化してしまう主体は脳なので、まさか自分の知的能力が劣化しているとは気が付かない…。あるいは、酸化ストレス全体を減らすといいのかもしれません。呼吸を減らす、ブドウ糖を控える、物を考えない…最後のがお薦めだったりして。

投稿: finalvent | 2004.06.12 15:23

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4774307254/ref=sr_aps_b_/250-8773780-6522641

確かこういう本が今ベストセラーのはずですが、これとこういった研究ってどう関連性があるんですかね?

それに、確か昔やってたNHKでやっていた「脳と心」という番組では人間の脳機能は全体の10%程度しかつかっていない。とか言ってましたが。

投稿: F.Nakajima | 2004.06.13 22:28

Nakajimaさん、ども。最近の脳研究では高齢化しても可塑性…学習能力はあるというのを聞いたことがあります。定量的に調査されているかはわかりません。リハビリの分野ではある程度有効性が見えるのだろうと思います。関連のトリビアとしてはピアニストが長命らしいです。常識的なところでは高齢化しても脳は使いないさいということになると思います。(脳の全機能は10%しか使っていないという学説はちょっとうさんくさい感じです)。

投稿: finalvent | 2004.06.14 09:48

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