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2004.05.14

石油高騰で米国を責める朝日新聞のジョーク

 日本には気の利いた知的なジョークが少ないと言われることもあるが、心配ご無用。朝日新聞社説がある。今朝の「石油高騰――世界を脅かす中東不安」はなかなか秀逸なシロモノだ。


 うなぎ登りの石油価格が、世界の経済に暗い影を投げかけている。
 昨秋、1バレル=30ドルを超えた原油価格はその後も上がり続け、NY市場で40ドルを突破した。イラク軍がクウェートに侵攻した後の90年秋以来の高値だ。
 石油の高騰で各国の株式市場や為替相場なども不安定になっている。
 このままの水準が続けば、ガソリンや重油、石油化学製品の原材料となるナフサの値上がりで、各国の成長にブレーキがかかるだろう。

 おお、そりゃ大変だ。社説を高校生レベルの頭脳に書かせてしまうのも大変だ、の部類だが、さて、なぜ石油価格高騰という大変なことになったのだろうか? というと、きっと悪いヤツがいるのだ。誰だぁ?

 ところが、中国をはじめアジアでの消費が急増し、需給に構造的な変化が生まれた。そんななかで、石油に再び政治と結びついた「戦略商品」という色合いを濃くさせているのがイラク戦争だ。
 ワシントン・ポスト紙のウッドワード記者は新著『攻撃計画』で、イラクのフセイン政権を打倒する見返りに、サウジアラビアが米大統領選の前に石油価格を下げるとの密約があったと暴露した。

 ふむふむ。なるほどなるほど(わくわくとオチを期待する)。

 鍵を握るのはやはり米国である。

 やっぱりそうか!
 イラク戦争をやったのも米国だし、裏でサウジと石油で密通していたのも米国だし、なにかと諸悪の根源は米国じゃないか…!

 イラク政策の転換は、世界経済を安定させる観点からも必要だ。力まかせの占領は、イラク国内だけでなく、アラブ全体の反米感情を強め、石油市場が嫌うテロへの懸念を高めるからだ。
 石油を確保するためにサウジの非民主的な政治を黙認する「二重基準」や、イスラエルへの過度の肩入れも改めなければならない。米国は中東政策の手詰まりが自国だけでなく、世界に跳ね返っている現実を直視すべきである。

 そうだそうだ! だから、石油市場の安定のために、米軍はイラクの力任せの占領をやめて撤退せよ! 米軍がイラクの石油施設に関わらなければ、テロの懸念だって根本的になくなるのだ! イスラム原理主義者たちが非難するように圧政を敷くサウジ専制への支援を米国はやめるべきだ! イスラエルの肩入れもやめて、テロリストの言い分も聞いてやれ! そうすれば、米国の中東政策の手詰まりが打開できるぞぉ!
 …というわけだ。阿呆か(余談だが、!マーク付の文は反語ですからね)。
 朝日新聞も、石油がもやは市場で自由に買える「普通の商品」になっているということをお勉強したのだから、変な妄想してないで、ちゃんと経済の原則や歴史の動向で考えればいいじゃないか。社説執筆者のなかには、Financial Timesなんかも読んでいる人がいるのだから、こういうお馬鹿な社説を書く同僚がいたら、諫めろよ、と思う。
 Financial Timesでは、4月29日にこの石油高騰の問題について、"No panic on oil"で扱っている。

The run-up in oil prices is causing worry. Last weekend finance ministers of the Group of Seven industrialised countries warned that rising energy costs posed a danger to their economies' recovery prospects. Yet the Opec cartel of oil producers seems blithely unbothered. Indeed, as the basket of Opec crude oils - which sell at a discount to the Brent and West Texas benchmark crudes traded in London and New York - yesterday rose to $33.20 a barrel, their highest level for nearly four years, the cartel's Indonesian president has suggested moving Opec's target price range upward to reflect market reality. But in the absence of any further spike in oil prices or serious volatility in their level, the concern is overdone.

 重要なのは最後の一文だ。the concern is overdone、である。つまり、考えすぎ。
 なぜか?

But higher energy prices may be no bad thing, though they pose a severe problem for the world's poorest economies that are often least able to switch away from fossil fuels. For the track record is that price has been the most powerful instrument for energy efficiency, and that as the impact of the 1970s oil price shocks has waned, so has energy saving.

 石油が高騰すれば、石油を見限って別のエネルギー源への構造変化が起こる。なにより、石油の無駄遣いが減るのはいいことじゃないか。歴史を見れば、そういうインセンティブが働く。というか、そういうインセンティブを与えるにはむしろ都合がいい。
 もっとも、そこまで行かなくても、マーケットメカニズムが先行して動き出す。

The oil price is still far short of its 1980 record which, in 2003 money, was $78.40 a barrel. Long before prices ever regained this level, corrective mechanisms would kick in, with Opec members cheating more on their quotas, supply rising, demand falling and development of alternative fuels increasing. As Mr Greenspan rightly warned Opec, the history of the oil price is as much one of the power of markets as the power over markets.

 つまり、石油は出てくるよということだ。
 ただ、多少、日本の状況からすると、補足は必要かもしれない。Financial Timesの場合、イギリスのエネルギー事情が念頭にあるのかもしれない。イギリスで国内の庶民生活ではガソリン高騰をくらってひーひーしているが、一次エネルギー構成からみると、石油が34%であるのに対して天然ガス38.3%とすでに天然ガスに移行している。フランスは、石油が37.4%だが原子力が37%と別のシフトを目指している。ドイツは困ったことに石炭があるのでそれと天然ガスでバランスできる。
 問題は日本で、石油に48%も依存している。
 もっとも、これも困ったことかいうと、そうとも言えない。すでに石油高騰で韓国経済などはひーこらしているが、もともと日本の庶民生活でのガソリン価格は最初から、なんだかんだと流通で高値過ぎるのでこれが逆にバッファになっている。この機会に、無意味なバッファを除いて流通を正常にしたほうがいい。(追記・同日:ここでは「流通」としたが、まず、税を強調すべきだった。)
 さらに、日本は、これからハイテクでどんどん省エネルギーは可能だし、なにより国が縮退しているのだから、石油エネルギーを消費過多に向ける必要はない。石油を燃やしてつくっている電力ですら、配分にはロスが多すぎる。

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コメント

こんにちは。いつも興味深く読ませてもらってます。
イラク戦争のせいで原油高騰という飛躍したジョークを指摘してくれてありがとうございます。
ところで、日本のガソリン価格はまあ、アメリカに比べりゃあ、高いとは思いますが、不必要に高いと指摘できるネタは御座いますでしょうか?昨今石油業界もギリギリっぽいなぁ、と感じていたものですから。

投稿: akiller | 2004.05.14 20:00

akillerさん、どもです。

これはどうでしょうか。

石油諸税の負担軽減
http://www.paj.gr.jp/html/paj/topics/topic20021018.html

諸税に消費税をかけているところが、笑えます。

なお、本文中の「流通」は不適当かと思いますので、修正入れます。

投稿: finalvent | 2004.05.14 20:37

あーあ、多分これ書いた解説委員って、井の中の蛙の政治部出身記者なんでしょうな。

NY石油市場というのは、投機マネーが入って価格が乱高下するので有名なんですよ。
日経新聞の今日の一面に載っていましたが、今回の急騰の背景にはNYやわが日本の株式市場から引揚げてきたヘッジファンドなどの投機資金が流れ込んでいる可能性が大だという意見のほうがよほど説得力があるように見えるんですが。

投稿: F.Nakajima | 2004.05.14 22:48

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投稿: i | 2004.05.15 01:55

朝日新聞は我々の生活に常に笑いを齎そうと
一生懸命努力しています。だから、それをわらっ…ぷっくく…。

ま、まあ、これからも朝日新聞の根幹たるジョークには
期待できそうですね。

然し、年金未納問題といい、お変態写真といい、プロ人質といい、
『洒落にならない茶番劇』で世界と人々の運命が
動いていることを思うと、ニヒリスティックでシニカルな
気持ちが胸のなかで膨れ上がることは抑えられませんね…。

ついこの前、朝日新聞で東大の西垣教授が
若い人間が社会問題などに意欲を傾けずただ世の中を
斜にみているのは、世の中自体の本質が分裂的な狂気の沙汰
であり、その本質を膨大な情報量の中で過去の人間より
精緻に捉えるが故だ、みたいなことを書いていましたが、
実感としてよくわかる話です…特に朝日あたりを読んでいると
心からの実感ができる話であり、朝日のメディアリテラシーを
醸成する機能は極めて高いと考えられますね(笑)

投稿: kagami | 2004.05.15 02:28

 米軍の力任せの占領のせいwで田舎っぺの国アメリカのガソリン代はoutrageousな高騰っぷりです。もう20%以上騰がってるでしょうか・・・田舎っぺは車がないと生活できないのです。ブッシュ大統領、いち早く米軍を撤退させてくださいww確かに過去にあなたを全面的に支持したかもしれません。それは国を思う気持ちが強すぎる余り、アルカイーダとイラクの関連性に配慮することも忘れ、ただただ怒っていたからです。ただ経過を見ているうちにやっぱりあれは間違いだったかと思い出し、貴方の支持をやめようかと迷っています。 ただ対抗馬氏もなんだかなぁです。これがアメリカン庶民です。よろしこお願いしますw

投稿: いちげんさん | 2004.05.15 12:05

finalventさん。リンクの提示ありがとうございました。
流通コストより税金二重取りはむかつきますね。
ところで、私のところにもガソリン関係のファンドのお誘いの電話がよく来ます。「興味ねーよ」と電話を切るのですが、買っておけばよかったなどと思ったりもします。
朝日新聞ってやっぱり面白いなと思うのは、かつてと違ってこれだけ横並びで新聞を比較できる時代に、正々堂々と非ネット視聴者に向けて書いている印象があるからでしょうか。これかも目が離せませんね。

投稿: akiller | 2004.05.15 17:52

>私のところにもガソリン関係のファンドのお誘いの電話がよく来ます。(akillerさん)
それってファンドじゃなくて先物の勧誘じゃないですか?私や私の周りにテレコールしてくるのは先物ばっかですが。
はっきり言って電話で石油やるのは全くお勧めできません。自殺行為。石油先物自体おそらくもういっぱいいっぱいなんで暴落もそう遠くはないような気がします。先物取引で生計を立ててる私から見ても今の石油は怖くて手が出せません。
税の2重取りもアレですが日本の場合揮発油税自体がメチャ高ですからね。アホみたいに高騰している先物(当限)ですらリッター40円弱。税が加わわるとさらに倍。勘弁してって感じです。

投稿: 301号 | 2004.05.16 15:20

失礼!そうそう先物でした。お詫びして訂正します。
揮発油税は道路財源の財布で、ま、いろいろ問題ありですね。

投稿: akiller | 2004.05.16 16:41

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