シリア制裁発動
アメリカという国がどういう国策で動いているのか、私にはわからないことが多い。多くの人にとってもミステリアスなのだろう。つい陰謀論的に考えたくもなる。困ったことに、アメリカはマジで陰謀をやることもある。と、前フリはその程度にしたい。
昨日から気になっているのは、米国のシリア制裁発動の意味だ。朝日新聞系のニュース「米、シリア制裁を発動 中東諸国を刺激のおそれ 」(参照)ではこう触れている。
ブッシュ米大統領は11日、テロ支援を続けているとして、シリアに対し、米国からの輸出禁止措置などを柱とする「シリア制裁法」を発動した。イラク人虐待事件で米国への信頼感が問われるなか、イスラエルと敵対するシリアへの強硬措置に踏みきったことで中東諸国から反発が強まることは確実だ。
この記事には簡単にしか言及がないが、シリア制裁は突然ではない。昨年10月8日米下院外交委員会で可決している。日経系のニュース「米下院外交委、対シリア制裁法を可決」(参照)をひく。
米下院外交委員会は8日、テロリストを支援していることなどを理由に、シリアに対して外交的、経済的制裁を科す法案を圧倒的多数で可決した。同法案を巡っては政府当局が難色を示していたため議会側は採決を留保していたが、イスラエルのシリア空爆を受けて政府が議会側に容認姿勢を伝達したため、急きょ採決の運びとなった。
イスラエルが米政府の背中を押した感じだ。同法は12月に米大統領署名で成立。その間、さらに、もうワンクッションがある。同じく日経系「米、シリア制裁発動へ――月内にも軍民両用製品の販売禁止」(参照)をひく。
シリアを巡っては昨年12月、イランに救援物資を届けた貨物機が、帰りの便に小銃、機関銃や爆発物を満載、レバノンを拠点に活動するイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラなどに引き渡した疑いが浮上している。米国務省当局者は「情報は正確だ。失望すると同時に極めて重要視している」と語っている。
もともとヒズボラの結成にはイラン革命後のイランの援助があったのでそれほど不思議なことではない。イスラエルのシャロンは、ヒズボラを裏で操っているのはシリアだとしている。読売新聞2002.04.05「イスラエル、レバノンを報復攻撃も」をひく。
イスラエルのシャロン首相は四日、「シリアが(ヒズボラの攻撃を)承認、支援していることは間違いない」と指摘。イスラエル政府は三日夜、治安閣議でレバノン問題を協議しており、さらに攻撃を受けた場合、レバノン駐留シリア軍などへ報復攻撃をすることが決まった可能性がある。
ヒズボラは昨年九月の米同時テロ後、対イスラエル攻撃を控えてきた。シリアが米国から「対テロ戦争」の標的にされることを恐れヒズボラを抑えた、との見方が強かった。ヒズボラの攻撃再開は、シリアが米国の反発を覚悟の上で、パレスチナの抵抗に呼応して対イスラエル姿勢を転じたことを意味する。
日本の外務省もヒズボラだけを特定していないがこの見解に立っている(参照)。
イスラエルは、シリアがいわゆるパレスチナ過激派等テロ組織を支援しているとしており、今回はイスラエル・ハイファで発生した自爆テロに対する報復としてテロ組織の訓練施設を攻撃したものとしています。一方、シリアは、国内にパレスチナ組織の訓練施設は存在せず、攻撃されたのは民間施設であり、シリア領内への敵対行為であるとして、これを強く非難しています。
シリアは、1967年以来、イスラエルのゴラン高原の占領を巡り対峙しているところですが、イスラエル・パレスチナ情勢、今回の事案に対するシリア・イスラエル・米国の対応如何によっては、イスラエルの更なる攻撃、シリア国内におけるデモ・抗議行動の発生等、国内における情勢が緊迫化する可能性があります。
話を戻すと、今回の、米国によるシリア制裁には、以前のように、ヒズボラの抑制が期待されてるのだろう。
先の朝日新聞系のニュースでは、シリア制裁発動をイスラエルのロビーの成果であり、大統領選を睨んでのものだと皮肉っている。
制裁法は、イスラエル寄りのロビー団体などの圧力で昨年11月に可決され、制裁の適用権限を大統領に委ねていた。発動は秋の大統領選を前にした選挙対策の側面が強い。
この見方は浅薄かもしれない。
最近のイラク情勢では、サドル率いるマフディ軍の活動が重要な意味を持つようになっているが、サドルがシーア派組織ヒズボラ系のマナール・テレビに出演し、反米扇動を行っていることからも、この活動とヒズボラには関係はあるだろう。つまり、シリアの締め上げは、玉突きのように、サドル側の弱体につながるとの米国の読みはあるのだろう。
ただ、制裁法案に当初米政府側が渋っていたことが暗示的だが、米国とシリアの協調はアルカイダの抑制にもなっていた。Salon.comの"White House to impose sanctions on Syria"では、次のように指摘している。
Syria provided the United States with intelligence on al-Qaida after the Sept. 1, 2001, attacks. Though some U.S. officials have played down the importance of that, the cooperation probably discouraged the administration from imposing sanctions that would have reduced diplomatic contacts.
このあたりの事情を含めれば、イラクの次はシリアだという単純な戦線の拡大はないだろうと推測される。
余談がてらに気になることが2点ある。まず、4月27日ダマスカスで起きた武装グループと治安部隊の銃撃戦についてだ。事件については、産経系のニュース「シリア銃撃戦 アルカーイダ系が関与? 『米に協力 警告』指摘も」(参照)をひく。
情報は錯綜(さくそう)しているものの、言論統制が厳しいシリアではこうした民間人の論評やリーク情報は政府の意向を反映しているとみるのが普通で、シリア政府はイスラム過激派の仕業とする方向で事態の説明を図ろうとしているようにみえる。米政府はシリアがテロ組織を支援していると非難しているが、シリアは米中枢同時テロ後、アルカーイダに関しては水面下の情報提供や容疑者尋問などで米国に協力してきた。シリアの支配体制がイスラム教スンニ派からは異端扱いされるシーア派少数派のアラウィー派であることも、アルカーイダの潜在的標的になり得る要素ではある。
この事件と今回の制裁の動向には関係が出てくるだろう。
もう1点、先日の日本人人質事件についてだが、読売新聞2004.04.09「イラクで3邦人人質 同時誘拐作戦か 他国の民間人も被害」の記事が気になる。
一連の誘拐事件は、一九八〇年代に、レバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」が反イスラエル占領闘争の一環として採用した欧米人人質作戦をほうふつとさせる。ただ、ヒズボラは多くの場合、シリアなどの政治圧力もあって、米国人記者テリー・アンダーソン氏のように長期拘束の末に、結局は人質を解放した。これはヒズボラが組織としての一体性を保ちつつ、武装闘争の進展と中東政治舞台での政治的駆け引きをにらみながら、人質の取り扱いに慎重を期した結果でもある。
この記事では、今回の日本人人質事件はヒズボラの人質事件とは違うという流れになっていくのだが、現時点で顧みると、むしろ類似点が多いように思える。
今回の人質事件では、週刊文春は執拗に犯人グループをサドル側としていた。ガセだなと思って読み飛ばしていたが、なにか文春側ではもう少し突っ込んだ裏を持っているのかもしれない。
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