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2004.05.30

アラウィ首相指名の黒いゲームも悪くはない

 イラク統治評議会が、6月30日以降のイラク主権移譲で、その受け皿となる暫定政権の首相に、INA(the Iraqi National Accord:イラク国民合意)事務局長イヤド・アラウィ(Iyad Allawi)を指名した。予想外のことではないので驚きはしなかったのだが、落胆はした。国連ブラヒミはまんまと出し抜かれたのだ。
 朝日新聞系「ブラヒミ氏がアラウィ氏の指名を追認 国連には驚き」(参照)がこのあたりをイヤミったらしく書いている。


 複数の国連筋によると、アラウィ氏はブラヒミ氏が考える首相候補の一人に過ぎなかったという。27日に行われたアナン事務総長らによる組閣に関する内部協議でも名前は出なかった。
 エクハルト氏も「考えていたような形で物事が進まなかった」と、指名がブラヒミ氏の意向を無視して行われたことを示唆した。しかし、「イラクの人々は指名に合意しているようだ」として、その意向を尊重する姿勢を示した。

 ブラヒミ=国連は無力なものだなと思う。そして、国連が無力ということは、主権委譲後も別段、イラクでなにが変わるわけでもないということだ。同記事では、イヤミ路線で八つ当たり的にCIA関与を推測している。

安保理の一部理事国や国連事務局には、今回の突然の指名に米英の暫定占領当局(CPA)の関与を疑う声もある。

 毎日系「<イラク>暫定政権首相はアラウィ氏で決まり 米政府高官」(参照)ではAPニュースからイラク内部からCIA関与へのイヤミを拾って結論にしている。

AP通信によると、ワシントンのチャラビ氏と親しい人物は、アラウィ氏が暫定政権の首相になることを「CIAがイラクを動かすことを意味する」と述べている。

 日本人としてみると、CIA=アメリカの悪の出先、という構図だから、こういう反米図式にすると日本ではニュースの引きもいいのかもしれない。むしろ、アラウィはイギリスの諜報機関との関連が深いのだが…。
 日本の進歩派?は、悪いことはすべて米国、という、日本にありがちなガーベジ・コレクションにしたいだろうが、それで済む話ではない。少なくとも、米内部での対立はある。ニューズウィーク日本語版6.2「戦争の仕掛け人 チャラビの凋落」では基本構図をこう描いている。

 今の米政府は、まさに内戦状態。元亡命イラク人のチャラビを「自由の戦士」として支持してきたネオコン(新保守主義者)と、彼を信用しない情報当局や国務省がいがみ合っている。
 一時はネオコン側が優勢だったが、今は自信も影響力も失いつつある。それは、家宅捜索した米軍の司令官が国防総省トップに知らせなかったことからも明らかだ。国連暫定当局(CPA)のポール・ブレマー代表が捜索を許可し、ホワイトハウスも黙認したらしい。

 こうした流れを見ると、米国は南米をぐちゃぐちゃにしまくった昔懐かしい唄を歌いたいのだろうという感じがする。私は、率直に言えば、この古い唄よりはネオコンのビジョンに期待をかけていた…。
 いずれにせよ、これで、国連フェイクと主権委譲、チャラビ宅ガサ入れ、というストーリーの上に今回の食わせ物野郎アラウィが出てくるのは自然な流れだ。食わせ物野郎? 当然ではないか。こいつが例の疑惑の45分情報の出所なのだから。
 その意味で、イラク状勢は陰惨だが欠伸の出るような展開か?と思っていたら、salon"A man for all intrigues"(参照)を読むと、今回のアラウィ出現にはまだチャラビが噛んでいるのだ。チャラビが親類とはいえ今まで敵役のアラウィを押している。なぜ? というか、それ以前にブレマーはこの流れをどう見ているのか? 是認はしているのだろう。大統領選への日和見ということころなのか。
 この先の私の話は、残念ながら、多分に陰謀論的になる。ご注意を。
 敵役同士が手を組むというのは、国共合作じゃないが、たいていの場合、共通の敵がいるか、呉越同舟でも欲しいメリットがあるかだ。今回のケースでは、それって、イラクの石油収入の権利じゃないのか? 陰謀論めくというのは、これだ。石油収入の権利で見ると、ごたごたがすっきりと黒いキャラクターで整理できる。むしろ、ネオコンなんか純情な白ピクミンみたいなものである。
 この間、イラク主権委譲後のイラク統治について、米国がフランスに打診してごにょごにょしている話があるが、これも、端的に、石油収入の権利を米国が独占するのは許せん、ということだ。というとあまりに陰謀論臭いからVOA"Bush Asks French President to Support UN Resolution on Iraq"(参照)をひく。

French officials have also raised concerns about who will control Iraqi oil revenue after the transfer and how long a proposed multi-national security force will stay in the country.

 VOAだからって、そうむちゃくちゃな話をしているわけではない。こういう基本が日本で報道されているのか?、ま、どうでもいいや。
 話を戻して、アラウィ擁立に関わるチャラビの動きを見ていると、取りあえず米側に擦り寄りながらも、米国から石油収入の利権を取ろうとしているわけだ。このハゲ、まだなんかやりそうだ。
 こうした黒キャラたちを見ていると、勝手にしろと言いたいところだが、マクロ的に見ると、そう悪いものでもないのかもしれない。いずれにせよ、イラクという国家が国家としてまとまるのは、この石油収入の権利を配分するという意味での国民が基礎になるのだからだ。つまり、そういうことなのだ。「多少ひどいことはあるけど、クウェートよりましだものな、イラク国民のほうがいいや」、というわけだ。ただ、イラクの貧乏庶民は国家のそういう面をそれほど理解しているわけでもなく、クウェート型でもそう問題はないのかもしれない。
 なんであれ、いずれ米国はイラクの石油収入の利権から手をひくべきなので、そうしたどたばたは可視になっているほうがいいのだろう。がんばれ黒キャラたちである。政治というのはそういうものだ。
 というあたりで、ふと気が付いたのだが、現在世界の原油高騰だが、一般にはイラクの地政学的な問題をネタにしているが、これは逆ではないのか。というのは、産油国が恐れているのは、原油の暴落だし、その長期的な暴落、というか低水準の最大の要因となるのは、イラクの石油が世界に安定的に供給されることだ。
 どうも私は陰謀論に酔っているのかもしれない。が、世界の原油の市場は、イラクの豊潤な石油への敵視が組み込まれているのであり、むしろ、それは中・長期的にはイラクの安定を想定しているからではないのか。
 とすればそれも悪くはない。政治など、善意からいい結果が出るものではけしてない。黒キャラが活動してもいいリザルトは出てくることもある。
 むしろ、こうした開かれた世界に対して危機を感じているのは、EUというかフランス(とロシア)のほうではないのか。もともとサダム時代に甘い汁を吸い、市場を攪乱してきたが、そうはいかなくなるのだ。

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