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2004.05.29

年金改革関連法案審議、これは詐欺だ

 国会議員の年金未納問題にも呆れたが、世相は、任意加入時代の未納問題を騒ぐに至って、社会ヒステリーとなった。すでに指摘されていることだが、もともと国会議員の国民年金加入は、1980年3月までは議員互助年金との重複加入を避けるために禁止されていたものだった。同年4月以降、国会議員の国民年金加入は任意となったものの、前時代の機運から、それでも二重取りはまずいでしょうということで、国会議員は国民年加入を控えていた。だから、1980年代からやっている国会議員はほとんどすべてに未加入時代が出てくる。坂口厚生労働相も27日参院厚生労働委員会で、1987年1月から1986年3月は加入していなかったことを明らかにしたが、それ自体は確かにどうという問題でもない。
 むしろ問題は、そもそも重複とされる議員互助年金のほうで、これは、国会法36条「議員は、別に定めるところにより、退職金を受けることができる」という一時金が、議員立法による国会議員互助年金法によって「互助の精神に則り、国会議員の退職により受ける年金等に関して定める」というように年金に化けた。その意味で、このインチキをただして、国会議員が国民年金に徹するというのがスジだと思われるのだが、そうした議論はまるで出てこない。官僚の共済年金と同じで議員互助年金もそもそも聖域になっている。
 いずれにせよ、こうした些末な問題はどけておかないと、年金改革など議論できない。というか、すでに、馬鹿馬鹿しくて匙を投げたというのが極東ブログであったのだが、法案が参院に提出されると、ちょっと奇妙な光景が出てきた。分かり切ったこととはいえ、「おい、これは詐欺じゃないのか」と言いたい。
 何が詐欺か? そもそも今回の公明党法案、もとい、与党案のポイントは、徴収額の上限を固定化し、受給額の下限を固定化することで、国民の年金不安を除くというものだった。ところが、その鉄板が抜けているのである。だから、これは、詐欺じゃないか、と言うのだ。
 事態は参院の場で、共産党小池晃参院議員が明らかにした。共産党は大いに評価されるべきだ。詳細を朝日新聞系「独身男性、現役世代の29%に 受給開始20年後の年金」(参照)からひく。年金額が連動する長期的な物価上昇率を年1%、賃金上昇率2.1とした厚生年金のケースだ。


 共働き世帯の現行制度での給付水準は現役の46.4%だが、23年度以降に受給が始まる場合、65歳の開始時が39.3%、10年後で35.3%、20年後で31.7%となる。最も給付水準が低い独身男性では、受給開始時点ですでに36%で、20年後には29%になる。厚生年金は所得水準が低いほど給付が手厚いため、男性に比べ平均所得の低い独身女性は、開始時44.7%、20年後で36%となる。

 使えねぇ、である。もっとも、これは厚生年金なので、現在の20代が厚生年金をモデルされてもどうよ、の部類ですらある。
 同ニュースでは報じられていないが、こうした危機的な状況(といって想定される普通のケースなのだが)の場合、行政は新措置を取ることができる。つまり、いかようにも変更してくださるというのだ。こんなの法案じゃないよ。
 さらに同ニュースでは報じられていないが、というか、ネットを見渡してもわからないのだが、先の設定で国民年金を見ると、30年後に月額31,610円になる。端数を除いていうと、月額3万円払えよ、オメーラである(ちなみに20年後は20,860円)。
 額にもびっくりだが、三面怪人ダダ、じゃない、坂口厚生労働相は、国民年金の上限は2017年に16,900円で固定とか言っていたのだよ。どうして、これが参院では、3万円になるのか? って端的に詐欺じゃないか。
 参院厚生労働委員会ではさらに爆笑ポイントが出てくる。毎日新聞系「<国民年金>免除者加えた未納率47% 02年度」をひく。

 社会保険庁は27日の参院厚生労働委員会で、02年度の国民年金全加入者に対して実際に保険料を払っている割合は52.2%で、47.8%は保険料を払っていない実態を明らかにした。
(中略)
 実際の納付率は、納付対象者が保険料を支払うべき月数のうち、実際に支払われた月数の割合で算出している。02年度の場合、保険料全額免除者と納付猶予を受けている学生分の月数まで加えると「納付率」は52.2%になる。

 すでに国民年金が制度として機能してないじゃん、っていうか、破綻してんじゃん。しかも、これが今回の法案で是正される見込みもない。
 こんな年金法案はさっさと廃案にする以外、どうしろというのだ?
 それにしても、参院でこういう展開になるとは思わなかった。私は参院なんて要らないと言ってきたが、先日、インドの下院選挙のおり、二院制についてちょっと日本国憲法を読み直して思ったのだが、現行の参院でいいのかわからないのが、日本にも上院はあってしかるべきだと考えなおした。日本の国会議員にはまともな政策スタッフがないのだから、参院にばかばか面白いのを貴族代わりに送ってもいいのかもしれない。
 余談だが、私が子供の頃、小学生くらいだから40年近くも前だが、大人や老人に、参議院って何と訊いたら、「貴族院が戦後民主義で庶民が入った」というようなことを言って、ちんぷんかんぷんだったが、「貴族院」という言葉は記憶した。あの時代まだ貴族院という言葉が生きていたなと思う。貴族なんかは要らないが、ある種の良識が機能する上院が日本には必要だなと思う。

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コメント

finalventさん、こんにちわ、

ちなみに、国民年金被保険者約70百万人のうち、31百万人が厚生年金から、4百万人あまりが公務員共済から、の加入のはずです。後者の2つのグループの加入者はほとんど100%に近い加入者です。70百万×52%=36百万です。これから、厚生年金被保険者、公務員共済加入者を引くと、純粋に国民年金だけの加入者って、1百万人にみたない、実質0%加入率という計算になると思います。なにかこの前から私は計算ミスをしているのではないかと、なんども考えたり、検証しているつもりなのですが、これ以外に答えが出てきません。

投稿: ひでき | 2004.05.29 14:53

>あの時代まだ貴族院という言葉が生きていたなと思う。
>貴族なんかは要らないが、
>ある種の良識が機能する上院が日本には必要だなと思う。

貴族的な、虚構だが機能するノブレス・オブリージュの必要性は
福田和也氏など、説いていますね。
私も、その通りだと思います。
戦前は天皇制と貴族院と将校(士道の後継)がそれぞれ
ノブレス・オブリージュとして機能していた訳ですが、
戦後、全て解体され、日本はアンモラル国家になりましたからね…

余談ですが、finalventさんを見ていると、
ネット(市井)の福田和也さんという感じがしますね。
私は福田さんは凄く好きな評論家ですね。
偽悪的な部分もありますが、いう事に一本筋が通っていて、
論旨が明快で納得できる説得力が魅力的です。

投稿: kagami | 2004.05.29 15:53

ひできさん、ども。具体的な部分はわからないので、印象なのですが、国民年金って最初から無視されているんじゃないでしょうか。今回しみじみ、制度的にこれは間違っていると思いました。

投稿: finalvent | 2004.05.29 15:55

kagamiさん、ども。余談ですが、福田和也は60年生まれで私より三つ下ですが、彼が坪井とも語っているように、この三年が思春期に及ぼした感性の違いって大きいなという感じはもっています。肯定・否定以前に、世代の感性が違うかなというのはありますね。彼にとって満州とは知の対象ですが、私などは、まだかすかに戦前をひっぱっているように思います(父が満鉄の学生だったとか)。

投稿: finalvent | 2004.05.29 17:18

finalventさん、こんばんわ、

いま本日の参議院委員会のビデオをネットで見ています。ご存知のこととは思いますが、便利な世の中ですね。

http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php

ええと、はじをしのんで自己レスします。国民年金の未加入率うんぬんと先日コメントをつけましたが、さすがに1号被保険者といわれる自営業者等の部分について、加入率が52.2%だそうです。大きな勘違いでございました。失礼いたしました。

http://www.excite.co.jp/News/politics/20040527203900/20040528M10.073.html

投稿: (ひでき) | 2004.06.03 20:43

おっと、失礼いたしました。↑の発言は、いや、コメントは、私がしました。名前をいれわすれてしまったことをお詫びいたします。

投稿: ひでき | 2004.06.03 20:56

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