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2004.05.25

ロシア正教の現代の動き

 たまたまニュースを見ていたら産経系「海外のロシア正教会、本国総主教と初会談 80年ぶりの和解へ一歩」(参照)が面白かった。海外に分散するロシア正教会がロシア内の正教会組織と和解を始めたというのだ。と、書いてみて面白いと感じる人はもしかすると少ないのかもしれないなとも思った。
 私の感じでは、ロシアとは正教と分けて考えることができないものだ(もう少しいうと米国のロシア文化はユダヤ文化の側面も強いのだが)。ロシアがソ連となっても、世界に散らばったロシア人は正教をもとにロシア人であることを捨てることはなかったし、むしろ、19世紀的な骨格を持つその知識人たちは欧米化する現代文化に戸惑いも隠せなかった、と思う。
 先日、NHKでたしか「ラフマニノフ・メモリーズ」という番組を見て面白かったのだが、ラフマニノフのロシアへの思いが切々と綴られていた。あの感じは、もしかするとわかる人にしかわからないのかもしれないのだが、私は勝手に思い極まってなんども泣いた。どうもパセティックな話になるが、私の魂の根幹にはアリョーシャ・カラマーゾフがいるようだ。私の人生とはゾシマ長老が彼に命じたこの実践でもあった…てな思いがある。私の心は、今でもイワンのようにシニカルになり、ミーチャのように俗世に狂い、スメルジャコフのように悪の衝動に駆られる…が、酒も飲めなくなったのでフョードルや、話は違うがマルメラードフのようにはならないだろう…ま、そんな感じだ。1957年生まれの私がなぜ1950年代の左翼崩れのロシア好きになっていたのか、今となってはよくわからない。サブカル的には、「サイボーグ009」「宇宙戦艦ヤマト」などにもあの雰囲気はある。「アンパンマン」ですらある…なんだかな、というところで、身近に10歳年下の女性がいるので「ステンカラージン、知ってる?」と訊く。「襟の色?」 話になりませんな。
 ロシアには行きたいと思いつつ、行ったことがない。トランジットでモスクワ空港で夕日を見ながら、そんなタイトルの歌があったよなとか思い出したくらいだ。そんな話をアテネのギリシア人に言ったら、是非ロシアに行きなさいと熱弁していた。その熱気がなんか面白かった。ギリシア人の庶民にしてみると、ギリシア正教とロシア正教はあまり違いがないのかもしれない。
 正教について語ることは難しい。「多様性の中の同一性」というギリシア語のイオタ一個に延々たる神学的議論がある…というくらいだ。だが、困ったことにきちんと語ることが、必ずしも正しくない、と言うと、詳しいかたに当然教義的に批判されるだろう。このあたりは、エバンジェリックの人たちと似ていて、通じねーところだ。ちなみに、ぐぐってみると、「東方正教会とアトス」(参照)というページがあり、よくできているのだが、基本的にギリシア正教とロシア正教の関連や歴史が、神学的な教義面で書かれていて、かえって実態がわかりづらいように思う。
 いきなり厳しい話に飛ぶが、コプト教会や、イラクなどにもいるネストリアンたちについて、現在の正教はどう考えるかというと、ほとんど何も考えていない。異端というくらいだろう。ただ、西洋世界のような気違いじみた異端の概念ではなく、むしろ、普通のイスラム教徒が異教徒を見るような感じだろう、と書きながら、日本も結果的に含まれる西洋世界は、イスラムと言えば、アラブ・イスラムばかりでちょっと辟易とする。少し話を戻すと、米国のネストリアンは以前調べたとき、正教に吸収されている面もあるとのことなので、今後は消えてしまうのだろうか。いずれにせよ、キリスト教史という総合のなかで正教をどう位置づけるかという関心が正教側にはない、というか、そういう疑問が彼らにはない。もっとも、カトリックにもプロテスタントにもないので言うにナンセンスなのだが、キリスト教史において正教がもっとも本流なのだから、そういう脱宗教化があるといいとは思う。
 私は正教について語るほどの知識もないのだが、そういうわけで、だから逆に、資料もなくざらっと書いてみたい。まず、冒頭のニュースをひくのがよいのかもしれない。


【モスクワ=佐藤貴生】「無神論に迎合した」として、旧ソ連時代から約八十年にわたり本国組織と関係を断絶してきた海外のロシア正教会が、ロシア国内の正教会組織と初のトップ会談を行い、和解に一歩を踏み出した。具体的な取り組みの第一歩として、内外の両組織はスターリン時代に大粛清の舞台となった処刑場跡地での教会建設に着手したが、社会主義政権が残したしこりを取り去るまでには時間を要するようだ。

 ニュースとしてはそういうことだ。具体的には、こう。

 「海外ロシア正教会」のトップを務めるラブル・ニューヨーク府主教は、ロシア正教会総主教のアレクシー二世と今月十八日にモスクワで初の公式会談を行った。この会談で、アレクシー二世は「政府は現在、教会に介入せず、教会は自由な存在だ」と述べ、信仰の自由がロシア国内で保障されたことを強調した。
 両トップは、スターリン時代に大粛清の現場となったモスクワ南郊のブトボ射撃場の跡地を訪れ、三万人ともいう犠牲者に祈りをささげた。ここに建設される「ロシア受難教会」の起工式で、アレクシー二世は「テロの犠牲者に対するわれわれの義務は、同じことを繰り返さぬよう信仰の下に国民が結集することだ」と話した。

 同記事にもあるように、政治的にはプーチンの思惑といった読みも当然でて来るのだが、まぁ、それほど政治的な話でもないだろう。むしろ、こうしたニュースを西洋社会は、ついカトリック(the Holy See)との比喩で考えがちなのではないか。つまり、ロシア正教が教皇といったふうな理解である。が、これがまったく違う。正教というのは、そういう頂点を持たない。ある意味、原始キリスト教というかヘレニズム結社というかある種の長老制(これがプロテスタントにも組み入れられている面はある)というか、恭順の組織性というか、そういうものだ。
 ついでに言うと、教皇というのは、元来ローマ皇帝のことで、西洋史ではビザンツとして奇妙な扱いをしているが、通称ビザンチン帝国とはローマ帝国のことであり、ギリシア人というのはローマ人のことなのだが、というとほとんど混乱してしまうだろう。というか、それほど西洋史は近代以降錯誤を繰り返している。この点、ロシアの皇帝は、モンゴルの系統を引いているので、話はさらに難しい。
 さらについでが、カトリック(the Holy See)の組織は命令の関係でできているが、正教の組織性は、そうとばかりも言えず、その最たるものは隠者が多いことだ。歴史的見るとこの隠者たちはスーフィズムと関連がありそうなのだが、オカルト系以外では研究を見たことがない。というか、西洋ではオカルトは日本でいうオカルトではないのでそれでいいのかよくわからないが、それでも教義面や神秘学への偏りが多すぎる。さらに余談に暴走するのだが、スーフィーズムが現代イスラムのなかでどのように位置づけられているのかも、よくわからなくなった。
 話が散漫を窮めることになったが、ロシアなら正教かというと、そのあたりはそう簡単でもない面もある。すでにウクライナは独立しているが、ここでは、ウクライナ正教はあるものの、むしろ宗教的にはカトリックが特徴的だ。困ったことかそうでもないのか、ウクライナ正教はモスクワ主教の系列に入るが、ウクライナ独立でキエフ主教ができている。むしろ、今回の和解は、こうした面での影響も出てくるのではないかなと思う。
 フランシス・フクヤマなどはヘーゲルを借りて原理的には現代は歴史が終焉したというし、確かにそういう面はある。さらにそれがITと結合し、すでに日米のマスカルチャーには歴史が見えない。ただの洒落だが、日本の若い娘のファッションを見ていると究極のニヒリズムとしての永劫回帰のようでもある。また、アラブ・イスラムの台頭で文明が衝突するというな洒落もある。だが、実際は、歴史終焉の前で、西洋史の大きなぶり返し時期ということなのではないか。あるいは、ロシアというのは、むしろ19-20世紀の遺物の挑戦かもしれない。あー、古くせーと笑えるならいいのだが。魂を失った我々にはきつい相手かもしれない。

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コメント

心打たれましたね…。
私もおはずかしながら、文学青年の端くれで
ロシア文学に傾倒していたので、

>私の魂の根幹にはアリョーシャ・カラマーゾフがいるようだ。
>私の人生とはゾシマ長老が彼に命じたこの実践でもあった…
>てな思いがある。私の心は、今でもイワンのようにシニカル
>になり、ミーチャのように俗世に狂い、
>スメルジャコフのように悪の衝動に駆られる…

というのは同じように感じますね。胸が切ないです…。
外的にも、今の日本というのはドストエフスキーやゴーゴリが
描いた帝政ロシア的な末期の様相を示しているのを
感じ、無常な気分に陥ることはよくありますね…。

今でも、大学図書館で静かに本を読んでいるタイプの青年には、
大きな意味合いを持つ件のように感じますね…。
ロシア的霊性の問題ですね…。

投稿: kagami | 2004.05.26 00:15

たいしたこっちゃないんですが、ちょっとぴくぴくきたので小ネタお報せしときます↓


ラフマニノフの作品の著作権が切れたらしいです
http://www.flowerlounge.com/archives/000239.html

あと、歴史の終焉を通り越して永劫回帰的ファッションですが..

ぼくはこないだまではコギャル系がそれなのかと思っていましたが、ちかごろはこういう感じみたいで..

「ゴスロリ浴衣」ほか
http://www.rakuten.co.jp/bodyline/515854/516253/


なんだか訳わかんないです
(いや、否定とかはしないんですけどね 笑)

投稿: m_um_u | 2004.05.26 18:01

mu_um_uさん、ども(kagamiさん、ついででども)。

ラフマニノフの作品の著作権の話は、貴重なインフォでした。関連の話も面白かったです。J****の糞!


投稿: finalvent | 2004.05.26 18:31

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