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2004.05.22

なぜチャラビ宅がガサ入れされたのか

 20日の話になるが、イラク駐留米軍とイラク警察が、イラク統治評議会議員(元議長)アハマド・チャラビ宅と、以前議長を務めていたイラク国民会議(INC)の事務所の家宅捜索を行った。表向きは国家所有の車両を盗んだ容疑というが、もちろん名目に過ぎない。
 CBSは複数の米政府高官の話として、チャラビが米国の機密情報をイランに流しており、このガサ入れは漏洩関係者を割り出すための捜査だとした。この話は、3日売りの米版ニューズウィーク(May 10 issue)の記事"Intelligence: A Double Game"(参照)がとりあえず発端になっている。チャラビの紹介をかねてひく。


May 10 issue - Ahmad Chalabi, the longtime Pentagon favorite to become leader of a free Iraq, has never made a secret of his close ties to Iran. Before the U.S. invasion of Baghdad, Chalabi's Iraqi National Congress maintained a $36,000-a-month branch office in Tehran?funded by U.S. taxpayers. INC representatives, including Chalabi himself, paid regular visits to the Iranian capital. Since the war, Chalabi's contacts with Iran may have intensified: a Chalabi aide says that since December, he has met with most of Iran's top leaders, including supreme religious leader Ayatollah Ali Khamenei and his top national-security aide, Hassan Rowhani. "Iran is Iraq's neighbor, and it is in Iraq's interest to have a good relationship with Iran," Chalabi's aide says.

 チャラビは、米国亡命のイラク人知識人で、反フセイン政権組織のINCの代表を務めており、こうした経緯から、米政府は当初民主化イラクの指導者として送り込む意図もあった。端的に米側傀儡と見られていた。
 イラクと通じていたことがわかったので米国がチャラビを抛擲したと見ることはできるし、実際チャラビとイラクの関連はあったようだ。もともと、チャラビはシーア派でイラクのシーア派との関連があった。
 しかし、問題はそう簡単に解けるものでもない。どういうわけなのかよくわからないのだが、同じく米版ニューズウィーク(May 20)では、"Crime and Politics"(参照)として、今回の事件は政治的な流れによるものではないとしている。

In fact, sources close to the investigation tell NEWSWEEK that Thursday’s raid stems from a long-running probe by the Central Criminal Court of Iraq into financial corruption and criminal charges linked to the INC and its alleged efforts to profit illegally from Iraq’s reconstruction. Among the documents police were searching for relate to charges that INC officials profited from the introduction of a new currency. According to an official with the Coalition Provisional Authority, an INC-affiliated company was placed in charge of destroying the old currency, but “a lot of money was coming out again into circulation instead of being burned. Some of it had signs of partial burning.” The currency handover was supposed to be a one-to-one exchange, he said, “but we got a lot less in old money then we gave out.”

 つまり、新貨幣導入にあたる、金銭的な不正追跡の流れだというのだ。実際のところ、そういう背景も否定できないし、直接的にはそう見るのも妥当かもしれない。
 しかし、その結果を政治の流れで見るなら、明らかにチャラビの追放であり、国連ブラヒミとの対立を避けるためだ。チャラビとブラヒミは対立しており、現状では米国はブラヒミを立てなければ、そもそも国連委譲がおじゃんになりかねない。この関連では、国内ニュースでは17日に朝日新聞系がまるでブログのような記事「暫定政府閣僚選びを報道の米、国連『ブラヒミ案つぶし』」(参照)を出している。

 ニューヨーク・タイムズ紙が4月末、ブラヒミ氏の「意中の暫定政府指導者」を暴露したことで国連内の不信感は高まった。ハーフィズ計画相を首相に、パチャチ氏を大統領にという構想は、米側も合意していた。だが、ブラヒミ氏は「イラク人による自主的な選択」とするため、イラク側から名前が出るよう調整を進める意向だった。
 構想を知るのは国連、米側を合わせ一握りの高官に限られており、国連側では、統治評議会のチャラビ氏らを後押しする国防総省からの意図的なリークという観測が強い。ある国連幹部は「暴露はブラヒミ案つぶしとしか考えられない」と語気を強める。

 しかし、今となっては、チャラビを国防総省が押しているとは考えにくい。
 そうしたなかで、チャラビ側からは、れいの国連疑惑のほのめかしが出てきているし、私も、真相はこれが関係しているかもしれないという印象はある。国連疑惑については、極東ブログ「石油・食糧交換プログラム不正疑惑における仏露」(参照)でも触れたが、日本では事実上、報道規制のような状態になっているように見える。
 ある程度あからさまに国連疑惑との関連を指摘したのは、Forbs "Chalabi Raid Complicates Oil-For-Food Probe "(参照)だ。少しくどいがひいておく。

 The purpose of the raid was not disclosed, but Chalabi himself later told reporters that among the items seized were files related to the oil-for-food program, which he and the council have been probing.
 During the program established by the United Nations Security Council in 1995, the U.N. reportedly oversaw a flow of funds totaling $15 billion a year. Revenues were held in an escrow account run by BNP Paribas for the U.N. The oil-for-food program became a lucrative source of contracts for Russian and French oil companies, including Lukoil and Total (nyse: TOT - news - people ), according to congressional testimony by Nile Gardiner of the Heritage Foundation. The U.N. itself collected a 2.2% commission on every barrel of Iraqi oil sold, generating more than $1 billion in revenue. The U.S. Congress' General Accounting Office estimates that Saddam Hussein's regime siphoned off $10 billion while the U.N oversaw the program.
 The raid on Chalabi's home--characterized by the White House as resulting from an Iraqi-led investigation--may frustrate the ability of private accounting firm KPMG to complete a comprehensive audit into the oil-for-food program, which generated $67 billion in revenues for Iraq between 1997 and 2002, according to the Heritage Foundation. KPMG began investigating in February 2004 on behalf of the Iraqi Ministry of Oil, the Central Bank of Iraq, the Finance and the Trade Ministry and the State Oil Marketing Association.

 併せて同記事では、ヴォルカーが実質的には無力な状態に置かれているともある。が、それ以上に突っ込んではいない。やや陰謀論めくが、チャラビとしては、自分を葬れば国連疑惑の重要情報を暴露するぞ、というデモンストレーションなのかもしれない。
 チャラビについては、日本では、どちらかというと比較的単純な理解で納まっているようにように見える。批判の意図はないが、例えば、軍事アナリスト神浦元彰は次のようなコメントを出している(参照)。

 言うまでもなくチャラビー氏は詐欺師である。昔から米国防省やCIAは、そのような怪しい人物が大好きである。そして最後はババを引いて外交政策に打撃を受ける。やはり米国政府にはそのような本質が代々受け継がれているのでないか。
 もやは米国(ブッシュ政権)のイラク占領統治は完全に失敗した。ブッシュ政権内部の告発ばかりではない。ネオコンの中からも「その失敗」を認める発言がゾロゾロと出てきだした。

 間違いとはいえないのだが、そうシンプルに捕らえられるものだろうか。
 チャラビについては、Financial TimesのコラムニストJohn Dizardがsalonに掲載した記事"How Ahmed Chalabi conned the neocons"(参照)がかなり深く掘り下げている。日本語で読める、産経系「米、資金提供ストップ・家宅捜索… チャラビー氏と『絶縁』確定的に」(参照)は、John Dizardの記事を参照にしている印象を受ける。

 チャラビー氏と米政府との関係は、湾岸戦争(一九九一年)直後にさかのぼる。当初、米中央情報局(CIA)が情報提供を受けていたが、情報の精度に問題があったため、CIAは同氏との関係を停止した。
 その後、フセイン政権打倒の目的で九八年に米議会でイラク自由化法が成立し、クリントン大統領は翌年からチャラビー氏の組織に情報提供などの名目で国務省から資金提供することを決めた。しかし、国務省も情報の精度や提供資金の同氏の私的流用などに疑念を持ち続け、一昨年五月には資金提供を停止した。
 こうした中、緊密な関係を維持し続けてきたのが、湾岸戦争時の国防長官だったチェイニー副大統領をはじめ、ラムズフェルド国防長官、ウォルフォウィッツ国防副長官や国防総省情報当局だった。
 チャラビー氏は、イラクの大量破壊兵器開発計画に関する情報をイラク戦争前に国防総省に提供しており、一方で同省はチャラビー氏への月額三十四万ドルの資金提供を今月まで続けていた。

 ここでは、チャラビ支持者を列挙しているのだが、これはいわゆるネオコンであり、John Dizardの記事ではネオコンとの関連でチャラビを描いている。
 実は、チャラビについて調べながら、ネオコンについて、私は考えなおしていた。ネオコンとは何か? これがネットを軽く探っただけではよくわからない。AllAboutの「アメリカで台頭、ネオコンって?」(参照)やはてなのキーワード「ネオコン」(参照)はわかりやすく書こうとしていのか、曖昧な説明になっているように思える。また、日本にこの言葉を流行らせたと言われる田中宇の「ネオコンの表と裏」(参照)については、私には理解できなかった。
 salonのJohn Dizardの記事"How Ahmed Chalabi conned the neocons"ではむしろ、チャラビからネオコンを説き起こすような説明になっている。端的に言えば、パレスチナ問題を解決するためには、クリントン時代のような和平の模索ということではなく、一気にイラクに親米の民主主義国家を作り、イスラエルと連携させれば、その連動で解決するというのだ。これには、対アラブ世界の実質的な制圧も含まれているようだ。

Why did the neocons put such enormous faith in Ahmed Chalabi, an exile with a shady past and no standing with Iraqis? One word: Israel. They saw the invasion of Iraq as the precondition for a reorganization of the Middle East that would solve Israel's strategic problems, without the need for an accommodation with either the Palestinians or the existing Arab states. Chalabi assured them that the Iraqi democracy he would build would develop diplomatic and trade ties with Israel, and eschew Arab nationalism.

 なお、同記事では、単純に聞くと陰謀論のようだが、イスラエルとイラクを結ぶパイプラインについても深く考察されている。が、ここでは触れない。
 ネオコンについては、もう少し考えてみたい課題に思える。チャラビ復権による親イスラエル国家としてのイラク民主共和国は出現しないだろうが、ブッシュ政権が続くなのなら、国連の陰でネオコン的な模索がそう簡単に途絶えるわけでもないだろうからだ。

追記04.05.23
 チャラビと国連疑惑の関連だが、重要なことを忘れていた。salonの"How Ahmed Chalabi conned the neocons"では、チャラビが1980年代にサダム・フセインの金を扱っていたらしいことを示唆している。石油・食糧交換プログラム不正疑惑について、チャラビの態度はフカシではないのかもしれない。


But Lebanon was not the only venue for the Chalabi family's flexible and innovative approach to international finance. This may come as a surprise to some of Ahmed Chalabi's newer friends, but he helped finance Saddam Hussein's trade with Jordan during the 1980s. Specifically, Chalabi helped organize a special trading account for Iraq at the Jordanian central bank. Due to the problems created by the war with Iran, Saddam Hussein was unable to obtain credit on normal terms. The special account with the Jordanians allowed him to swap oil for necessary imports -- at least Saddam thought they were necessary -- without going through the international credit system.

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