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2004.05.16

ジェンキンスさん問題は難しい

 小泉首相の北朝鮮再訪がよくわからない。国内では拉致被害者家族8人全員の帰国がこれで実現できるような空気が流れている。小泉政権としては、この花火で参院選を押さえ込む腹づもりだ。逆に言えば、これがコケれば参院選も危うい。かなり裏を取って勝負に出たというところだろう。が、くどいが、そんなものなのだろうか。今回の再訪は、どう見ても山拓の仕込みだろうし、そう考えると、当初は小泉再訪ではなく、福田が飛ばされるスジだったのではないか。今となってはそれはどうでもいいことなのかもしれないが。
 小泉首相の北朝鮮再訪については、私としても、なんとなく拉致被害者家族8人全員が帰国するような気分でいた。が、15日付のNorth Korea Zone "Dealing with Jenkins"(参照)を読みながら、少なくとも、ジェンキンスさん(Charles Robert Jenkins)についてはそう簡単にはいかないのだろうと思った。国内でもこの問題にある程度注目が集まっている。くせ球だが、朝日新聞系「8人の帰国どう実現 首相再訪朝、ジェンキンスさん焦点」(参照)をひく。


 小泉首相は22日の再訪朝で、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記に拉致被害者の家族8人の無条件の帰国・来日を最優先課題として要求する。だが、8人のうち脱走米兵だった曽我ひとみさんの夫ジェンキンスさん(64)は来日した場合、米国に身柄の引き渡しを求められ訴追される可能性がある。さらに北朝鮮が「死亡した」などとした10人の安否の真相究明の方法や、横田めぐみさんの娘キム・ヘギョンさん(16)の来日をどう実現するかなど、調整が必要な課題は多い。
 在韓米軍から北朝鮮に脱走したジェンキンスさんは、米国にとって現在も訴追対象だ。ベーカー米駐日大使は13日の記者団との懇談で「米国の拘束下に置かれれば、通常の手続きにのっとって罪に問われるだろう」と述べ、軍法会議にかける方針を示した。

 ただし、小泉側は米国を抑えることができると踏んでいるようだ。さらに同記事より。

 自民党の安倍晋三幹事長は14日、曽我ひとみさんに電話し、首相の訪朝を説明。曽我さんは「夫は米国人なので心配している」と話したという。
 日本政府は米国に「配慮」を求めており、来日した場合も「米側の特例措置は期待できる」(首相官邸筋)とみている。
 米国との調整以上に微妙なのが本人の意思だ。政府関係者によると、ジェンキンスさんは「北朝鮮を出たくない、という意向のようだ」という。北朝鮮側も「ジェンキンスさんは拉致被害者ではない」(日朝交渉筋)として他の家族と一線を画す認識だとされる。

 この朝日新聞系の報道だが、どうも話が変だという感じがする。
 まず、先の引用で前置きもなく「脱走米兵だった曽我ひとみさんの夫ジェンキンスさん」ということになっている。つまり、脱走米兵は事実認定されているかのようだ。が、事実についての日本側の判断を考慮せず、しれっとそう書いてしまっていいのだろうか。この点については、事実認定という点に絞っても、ジェンキンスの親族が特設サイト"In Support of Charles Robert Jenkins"(参照)でいくつか疑問を投げかけている。
 後半の引用にあるようにジェンキンスさんに北朝鮮出国の意志がないということもあるうる。というのは彼自身も、脱走容疑に怯えている可能性もある。当たり前のことだが、脱走というのは国家への反抗に等しく罪も重い。自身がそう認識しているとも考えられはする。
 だが、北朝鮮側が彼を他の家族と一線を画す認識という点を、だらっと垂れ流しにしている朝日新聞系のニュースも奇っ怪なものだ。というのは、ここで「一線を画す」としないと、単に米人を拉致したことになるからだ。日本という国は防衛力しか戦力を持ち得ないので、主権を構成する国民のすら積極的に守ることは難しいが、米国の場合、これが明白に拉致となれば、軍事力を使っても保護に乗り出す。つまり、米国にそうさせないための北朝鮮側の意図に過ぎないとも言える。
 もっとも、米国側でも一応脱走の認識ではいたようで、だからこそ、救助の試みはなかったのかもしれない。そのわりには認定が曖昧だ。1965年の失跡から17年後の1982年に認定されたものの、生存の確認もできていない。確認されたのは、1996年、北朝鮮の宣伝映画「Nameless Heroes」に米諜報機関幹部役で出演したためだ。なお、この脱走問題を極めて悪化させてくれたのは「週刊金曜日」とJNNでもあるのだが、ここでは触れない。あらためてこんな胸くそ悪いものに言及したくもない。
 小泉側でもある程度この問題は詰めているのだろう。日本にとにかく連れてきて、脱走とは違う面での証言が本人から出れば、ブッシュも恩赦が出させる。しかし、それってすごい離れ業だなとも思う、というか、なんかシュール過ぎな気もする。
 この問題、つまり、ジェンキンスさんを含めての帰国は、理性的に考えると迷路のように思える。なのに、気分だけは、日本人のせいか、どうも先走ってしまう。
 余談だが、私の親族にもJenkins姓があるが、通常、ジェンキン「ズ」と濁音の「ズ」呼んでいる。なんでメディアはそろってジェンキン「ス」なのだろうか。

追記04.05.23
 朝日新聞系ニュース「ジェンキンス氏は軍事裁判の対象 米国防総省が声明」(参照)では以下のように、罪を問うことを確認した。これで事実上、日本に連れてくることは不可能になった。


 米国防総省報道官は22日、日朝首脳会談を受けて、拉致被害者の曽我ひとみさんの夫で元米兵のチャールズ・ジェンキンス氏が「極めて深刻な罪」に問われていることを強調する声明を改めて発表。「近い将来、変更することは想定されていない」とも指摘し、米国政府としてジェンキンス氏を訴追する姿勢を変えるつもりのないことを明らかにした。

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コメント

小泉の再訪朝ですか。これで拉致被害者家族が8人帰国としても、死亡・行方不明とされている日本人十人の安否確認と、拉致疑惑がもたれている残り数十人に関してはどこまで進みますかね。
北朝鮮側としては、もうこの小泉の訪朝で拉致問題は(無理矢理にでも)カタをつけて、国交正常化交渉開始、また例のごとく「過去の問題」をがなりたてながら経済支援取り付け、6者協議をとおしての自国の安全確保で、と一気にいきたいところなのですかね。ちょうどアメリカもイラクの不手際でブッシュのケツに火がついてるし。finalventさんならもっと裏まで読まれていそうですが。
あーあー、韓国ではウリ党躍進の上に民主労働党まで浮上しちゃうし、廬大統領の弾劾は棄却だし、ハンナラ党は方針変換を余儀なくされる。
金正日の高笑いが聞こえてきそうな情勢ですな。ああっ………、また週刊金曜日あたりで幅きかせてる「金正日外交巧者説」が甦りそうな悪寒(まあ瀬戸際でここまで生き残ってるのは凄いと言えば凄い。果てしなく迷惑だけど)。

そこまで北朝鮮の思惑どおりに事が進むとも思えませんけど、本当、極東アジアの情勢はどうなるか見えませんな。
鍵を握るのは中国だろう、くらいしか私の浅知恵では言えません(笑)。日本も頑張れよー。

投稿: (スパイス) | 2004.05.16 23:01

あっと、すみません。↑の投稿は私です。

投稿: スパイス | 2004.05.16 23:02

どうせ、拉致被害者家族8人帰国以降を抽象化して言えば、次の人質(相当)を顕在化させるって事でしょ。

投稿: (anonymous) | 2004.05.17 10:58

同感です。
素晴らしい論評と思い感嘆してます。

投稿: (anonymous) | 2004.06.28 17:45

脱走容疑、時効や特赦なんてものはないのだろうか?
「愛があれば(住むところは)どこでもいいじゃないか」に対して、日本とでは(生活水準が)全然違うんだと小泉首相が答えたそうな。そうではなくて、曽我さんは日本人だから当然日本に住む権利があるし、曽我さんの家族にも当然あると言ってやれ。二度も家族と引き裂かれる彼女の身を考えてやれ。
(>アメリカ)

投稿: やまざる | 2004.07.01 21:07

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