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2004.04.07

年金改革は民主党案を支持するのだが…

 年金問題を扱うのは気が重くなった。これまでこのブログでも何度か扱ってきたが、それは、問題の解決の原則はシンプルだということと、互助としての国家というイメージを対話的に描いてみたい、ということがあったためだ。率直なところ、現在はそうした関心は自分の中で薄れている。それはなぜなのかということ自体も課題ではあるのだが、とにかく気は重い。
 そんな気分で、産経新聞社説「年金法案『抜本改革』の呪縛を解け」をざっと読みながら、次のくだりに心がひっかかった。


 抜本改革は行わなければならない。しかし、それには時間がかかる。一方で、当面の年金財政の悪化も放置できない。「抜本改革」の呪縛を脱し、当面の措置であることを明確にして法案の審議は進める必要がある。

 この前段にも年金問題は5年に一度見直しで今年は節目だ、とまるでオリンピックの興行のような呑気な振りがあるのに呼応していることを考えに入れれば、産経の意図は、抜本改革はやめとけ、ということなのだろう。つまり、現状の公明党案への擦り寄りがあるわけだ。産経って公明党・創価学会傾倒を始めているのだろうか。さらに、フジ産経系全体にそういう兆候はないか、ちょっと疑心暗鬼になる。
 年金についての新聞各紙の主張がおかしいと思う。のであまり社説という文脈で取り上げたいわけではないが、朝日新聞は議員年金問題なんかでお茶を濁している。読売新聞は自民党化しているので民主党バッシングをしているつもりなのだろう。が、読売はあまりのめちゃくちゃに笑いを誘う。「野党審議拒否 年金不信を助長しかねない」(参照)。

 対案を出すまで審議に応じない、という理屈も通らない。民主党は、昨年十一月の衆院選で、年金改革を政権公約(マニフェスト)の柱の一つに据えた。仮に政権を獲得していれば、今国会で自らの年金改革案を明示し、論議の方向を示さざるを得なかったはずだ。
 与党内には、民主党が審議拒否しているのは、対案をまとめ切れない党内事情を取り繕うためだ、との見方もある。

 民主党のお家の事情はお寒いかぎりだが、読売はタメの言いがかりにすぎない。民主党が政権を取っていれば、官僚による情報隠蔽がこじ開けられたからだから。その意味で、ごーちゃんこと木村剛の「年金改革に関して菅直人民主党党首に期待すること」(参照)のほうが急所を突いている。

 したがって、年金改革法案の関連で、まず第一に実現しなければならないことは、厚生労働省による試算の前提になっている諸データを国民に大々的に開示させることです。そのデータさえ開示されれば、数多いる専門家は保険数理やシミュレーションなどを駆使して分析し、現行の厚生省案をそれぞれに評価するでしょう。そこで各種の評価が互いに研鑽されてこそ、本当のソリューションに辿りつくことができます。
 そうしたデータが開示されない状況下で、民主党が対案を出そうとしても、与党は「正確な数字を示さなければ議論にならん」とか「憶測に基づく新しい制度でうまくいくわけがない」などと高飛車なコメントを繰り返すだけですから、議論は平行線を辿るだけです。

 前段はようするに年金のテクニカルな面をきちんと指摘している。ある意味、年金の問題は専門家には難しくもなんともないのだ。そして、後段の理由で民主党は対案を作り込めないわけだ。
 もっとも、木村剛がそれゆえ「その真っ当な要求に対して、おそらく与党が応えないであろうことを見越した上で、『年金脱退論』を唱えるべきなのです。」というふうに展開するのは、もちろん、ユーモアなのであろうが、いただけない。政策を根幹とする政党政治を否定して、権力をむき出した政治取引の世界に郷愁があるのかもしれないが、そういう日本は止めにしようよ。
 いずれにせよ、マスメディアやブログなどをざっと見渡しても、民主党を支持する声は少ないように感じる。なぜなのだろう。専門家の大半は民主党案しかありえないと思っているのではないか。しかし、政治的な言及は控えているのだろう。小泉の一元化発言は猫だましふうに捕らえるむきもあるが、小泉が身近の識者に説得されているからではないか。ついでなんで、私はここで明言しておくが、年金問題では断固民主党を支持する。抜本的な改革の必要性があると考える。
 話が逸れるが、年金議論の基礎データが開示されていないということで、この間、エコノミスト紺谷典子が主張する230兆円年金積立金説が気になっている。年金積立金は147兆円といわれるが、厚生年金の代行部分30兆円、共済年金の積立金50兆円がが例外となっている。これは国会でも主張されていて誰もが知っていることなのだが、彼女以外にフォローしている気配はないように見える。そんなの問題でもないということなのだろうか。「第159回国会 予算委員会公聴会」(参照)より。

二〇〇一年度の数字で申し上げますと、年金の保険料収入二十七兆円でございます。それから国庫負担分が五・六兆でございましたかね。それから給付が三十九兆だというんですね。しかし、二百三十兆前後の積立金があるわけでございますから、これが従来の年金の運用利回りの半分以下である三%で回ったとしても、六兆円を超える運用益が上がってくるわけでございます。経済が立て直ってその程度の、三%程度の利回りというのは決して過大な期待ではないと思うんですね。そういたしますと、六兆円入ってくると年金は赤字から黒字になっちゃうんですよ。現に四年前までずっと黒字で推移してきたわけでございます。

 識者には当たり前のことかもしれないが、年金問題というのは、デフレが解消してまともな経済発展の状態になれば、まるで問題にもならないことではないのか。
 そうなら、むしろ、そこを前提にして、楽な気持ちで、抜本改正へ踏み出していくという考えの道筋が取れないのだろうか。
 というのも、この政局の推移からは、恐らく、民主党は小沢新進党や自由党のように玉砕してしまうだろう。それでは、あまりに国民に希望が無さ過ぎる。

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コメント

興味深く拝読致しました。私も現状では民主党案しかないと思います。

本当に一番の問題は、厚生労働省がデータ開示をしないということですね。これがなされなければ、誰も何もできない。

結局厚生労働省がデータ開示をしないのは、一つにはやはり積立金に問題があるからなのではないでしょうか。日本の年金は賦課方式にもかかわらずなぜか積立金があるわけですが、官僚の天下り資金に使われているとの指摘も聞きますし、郵便貯金や簡保と同様、財政投融資につぎ込まれているわけですから、それが不良債権化していることも十分に考えられますね。

また、厚生労働省が認めている年金の財源不足は530兆円(2000年3月末)になっているということですし(一方でこのあたりのことは、国民を不安にして逆に国民負担率を上げようと狙った官僚の画策であるとの噂もあるようですが)、こういったことを色々考えると、なかなか「楽な気持ちで、抜本改正へ踏み出していく」という形には落ち着かないようにも思います。そんなことではダメダメなんですが。

投稿: RYOTA | 2004.04.07 13:06

RYOTAさん、こんにちは。
率直のところ民主党だからいいということは全然ないのですが、少しでもまともな状況への足がかりにして欲しいと思って、政策面では民主党を支持しているのですが、なかなか国民には通じてないような印象を受けます。人の立場で利害があるというよりも、なんとなく年金は話をこじらし過ぎた感もありますね。

投稿: finalvent | 2004.04.07 15:32

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