石油・食糧交換プログラム不正疑惑における仏露
少し古いネタになるが、国内ではあまり注目されていないように思うし、新聞社説でも扱っていないようなので気になる。なぜなのだろうか。国内で報道がまったくないわけではない。読売系「石油・食糧交換プログラムに不正疑惑、国連に調査委」(参照)は4月1日のニュースだが、四月馬鹿ネタでもない。
前提となる「石油・食糧交換プログラム」は、経済制裁下のイラク国民に食料や医薬品を供給するため、国連が一括管理した石油収入を充てるというもので、当然、フセイン政権崩壊で終了した。
しかし最近になって、旧フセイン政権の幹部が、同プログラムの運用過程で約100億ドル以上もの不正収入を得ていたとの疑惑が浮上。さらに石油輸出に関連して、国連幹部がフセイン政権側などからワイロを受け取っていたとの、収賄疑惑も指摘された。プログラムを運営していたのは国連だが、実際にはフセイン政権が石油の輸出先を決定していたことから、石油輸入を目指した各国が水面下で同政権に接近。この過程で巨大な利権が生じ、約50か国の政府高官や石油業界関係者に贈収賄疑惑がある。
「最近になって」という認識は間違いだが、現状では、フセイン政権幹部よりも、国連側が問題になっている。
疑惑が取りざたされている国連幹部は、同プログラムの統括責任者で、長年にわたりアナン事務総長の側近として知られる。この幹部は疑惑を否定している。また米マスコミの報道では、事務総長の息子が、イラクと取引していたスイス企業から給与を得ていた疑惑も指摘された。
そこで、国連安全保障理事会は先月31日に、この疑惑調査のための独立委員会を設置することを承認したのだが、この状態の国連が不正疑惑を明らかにできるかは、当然ながら甚だ疑問だ。なお、この幹部はセバン事務局長だ。
これより前のニュースになるが、産経系「旧フセイン政権の「石油・食糧交換」で不正疑惑 実態解明へ独立委設置」(参照)では、こうある。
アナン事務総長は十九日、記者団に対し、「間違ったことが行われていた可能性は強いが、まず調査が必要だ。どういう形で調査が行われようとも幅広い協力が求められる」と述べ、包括的に事態を解明していく姿勢を示した。ドラサブリエール安保理議長(フランス国連大使)はこれまで、不正疑惑の調査に向けた安保理の関与には否定的な見解を示していた。
アナン弁明はどうでもいいが、私が気になるのはフランス国連大使ドラサブリエールのほうだ。記事ではこの点に突っ込んでいないが、もともとこの錬金術のからくりには仏露が噛んでいたはずだ。が、どうも国内にはあまりニュースが流れていないようだ。
話がさらに前後するがニュースの発端は、2月28日のニューヨーク・タイムズだったようだ。朝日系「旧フセイン政権、国連制裁下で裏金30億ドル 米紙報道」(参照)では、ニューヨーク・タイムズを引いているようだ。
その後、食糧や医薬品などを供給した企業の7割が、受け取った資金の約1割をリベートとしてヨルダン、レバノン、シリアの銀行口座などに送り、最大23億ドルを旧政権に戻していたとみられる。
例えばシリアは小麦販売代金の15%近くを戻す計画だった。
また、イラク産原油の購入企業は不正な割増金として7億6800万ドル余りを支払ったとされ、スーツケースなどに現金を詰め込んで石油省を訪れる例もあった。
もともと、このイラク戦争はこうした石油の国際市場への懲罰の意味あいもあり、こうした事態は今になって明らかになったものでもない。繰り返すが、当面の問題は国連、およびアナンに向けられている。
が、私が気になるのは、むしろフランスとロシアだ。この点は、3月22日ワシントン・タイムス社説"The U.N. Oil for Food scandal"(参照)が、選挙絡みの文脈はあるものの、わかりやすい。
Democratic presidential candidate John Kerry complains that President Bush pursued a unilateralist foreign policy that gave short shrift to the concerns of the United Nations and our allies when it came to taking military action against Saddam Hussein. But the mounting evidence of scandal that has been uncovered in the U.N. Oil For Food program suggests that there was never a serious possibility of getting Security Council support for military action because influential people in Russia and France were getting paid off by Saddam. After the fall of Baghdad last spring, France and Russia tried to delay the lifting of sanctions against Iraq and continue the Oil for Food program. That's because France and Russia profited from it: The Times of London calculated that French and Russian companies received $11 billion worth of business from Oil for Food between 1996 and 2003.
と、かなり明瞭に仏露を名指ししている。特にフランスがイラク制裁にぐずったのはこういうことだろというくだりは痛快だ。"That's because France and Russia profited from it"というわけだ。
また、以下のリストはなんだか、国際版「噂の真相」みたいだが、洒落ではない。
Other recipients include: former French Interior Minister Charles Pasqua (12 million barrels); Patrick Maugein, CEO of the oil company Soco International and financial backer of French President Jacques Chirac (25 million); former French Ambassador to the United Nations Jean-Bernard Merimee (11 million); Indonesian President Megawati Sukarnoputri (10 million); and Syrian businessman Farras Mustafa Tlass, the son of longtime Syrian Defense Minister Mustafa Tlass (6 million). Leith Shbeilat, chairman of the anti-corruption committee of the Jordanian Parliament, received 15.5 million.
しかし、ワシントン・タイムス社説が冒頭に言うように、今となってはブッシュも気が重い。現状ではブッシュはアナンを責めづらい。また、ここは仏露の顔も立ててやりたいと思うだろう。阿呆とか言われるが、そのくらいの心配りと煩悶はあるのだ。
この問題が日本として掘り下げられていないのはなぜだろうか。日本のジャーナリズムは、ブッシュを阿呆と叩けばそれで済むと思っている程度のレベルということなのだろうか。
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コメント
面白かったです。
でもですねえ、あえて不謹慎なことを言わせていただくと、まあこんなのそりゃやってるでしょ。公に出たからには追求しなきゃいけないのは当然だけど、でもこんなの内容的には、反応としては「ふーん、まあやってんだろうねぇ」って感じじゃないっすか。それはフランスもロシアもアメリカも、日本だって他の国だって、国連でさえ同じでしょう。
政治は国内外問わず、性善説ではなく性悪説を取るのが常識なので、こんなのにいちいち驚いてるようじゃ、ただのエセ左翼のレベルと変わんないんじゃないですか。
もちろんバレた以上はちゃんと「責任」取らせるのがスジだし、こういうことが起こらないようなシステム構築や監視体制の追求はこれからも当然やっていくべきことですがね。
あと、日本の記事と共にアメリカの記事載せるのでしたら、やっぱり対立軸としてフランスやロシアの記事も載せたらよりフェアな視点が提供できるでしょうね。個人では難しいでしょうが。
投稿: O.N. | 2004.04.06 12:56
O.N.さん、ども。
>ただのエセ左翼のレベルと変わんないんじゃないですか
ええ、そんな印象になるのは違和感ないです。勝ち誇ったようなトーンに聞こえる文章だったかな、という反省もあります。
具体的にフランス、ロシアでの動向は知りたいところですね。日本も商社レベルでは内情を知っているはずです。
投稿: finalvent | 2004.04.06 13:29