大欧州がコケるに賭ける
朝日新聞社説を読み切れないことはあまりないのだが、今朝の「大欧州の誕生――この途方もなさ」はなんだろう。朝日の左翼・反日の意図がどうこの記事に反映されていて、何を誘導しようとしているのだろう。あるいは、そういう毎度の枠組みではないのか。気になって何度か読み返してみてもわからない。そう、基本的には私はこの社説に同意している。
問題は、五月1日に人口4億5千万人、国内総生産の規模で世界の4分の1を占める大欧州が誕生する、ということだが、もっと端的に言えば、「おフランス帝国出現」ということだ。が、そう言ってしまうまえに、解説したほうがいい。ちょっと読みづらいが、まず朝日を引く。
政治的な統合が深まるにつれて、新たな問題も起こり始めている。
ユーロの導入はユーロ圏諸国が通貨主権を手放すことによって実現した。EUが重要政策を決めれば、各国は歩調を合わせる。例えば、フランス議会で作られる法律の半分以上がEUの方針を実施するためという試算もある。
だから、多くの人々は、国政選挙での自分の選択とは関係なく生活にかかわる決定がなされていると感じてしまう。反EUを掲げる左右の急進的な政党が支持を集める背景にも、この不満がある。
朝日はどうしてこうねじ曲がった文章を書くのかよくわからないが、ようするに、フランスがEU諸国を支配するということだ。ボナパルト再来だか、ドゴール再来だか、そんな感じだ。
冗談じゃないということで、スペイン、ポーランド、イタリアは、早々に反仏を明確化するために米英主導の有志連合に加わったが、現在となれば、貧乏くじを引くことになった。どうしたわけか、日本では、フランスのル・モンドあたりの反米主張がさも世界の言説のごとく流布されるが、こういう政治背景を差し引いて読まないといけない。
いずれにせよ、スペインは転んだし、ポーランドもびびっている。ということで、今こそイタリア人の本気の底力が試されるところでだが、私は、早々に枢軸から転げた過去を持つイタリアであれ、この状況では本気になるよと、信じている。
むしろ、イギリスが奇妙なコケかたをしているように思えてならない。これまでジョンブル・ブレアよくやるよと思ってきたが、ここに至って、私はよく理解できない。ブレアは、それまで否定してきたEU憲法の是非を問う国民投票を実施するというのだ。そんなものやれば、否決されるだけじゃないかと思うのだが、やるというわけだ。「英国:EU憲法の是非問い国民投票…ブレア首相、真意どこに 方針転換に波紋」(参照)をひく。
英の国民投票は、73年のEC(欧州共同体=当時)参加の2年後にその是非をテーマに実施して以来、ほぼ30年ぶりとなる。EU憲法をめぐる最新の世論調査では、賛成はわずか20%台。ブレア首相は「英国が欧州の政策決定の中心にいると決意するかどうかの時だ」と国民に呼びかけ、首相周辺も最終的な勝利に自信を示しているが、情勢は楽観を許さない。
英国民にはもともと、仏独の大陸国家主導で進められてきたEUへの複雑な思いがある。一部のメディアは、6月のEU首脳会議でEU憲法が採択されれば英国の主権がEU本部のブリュッセルに移る、と早くも危機をあおりたてている。
理由はイギリス内政的にはいろいろと噂されている。が、それよりも、この国民投票が実現してコケれば、フランスも国民投票せよということになる。そうなれば、爆笑ものだが、フランスですら、コケるだろう(マーストリヒト条約成立を想起せよ)。そういうドミノ倒しを近未来に見ることになるのだろうか。というか、それを避けるために、「フランス、必死だな」、になってきている。余談だが、もともと、フランスはドイツなしではやってけないという、ありがちな隣国腐れ縁もあるので、当面はよりドイツに親和を示すだろう。そして、それがまたドイツなんてやだな、という国を刺激するわけだ。
どういう展開になるのか、EUズッコケという以外に私には予想はつかない。いずれ、当分はフランスからのお話はこうした背景で聞いたほうがいい。
実際のイギリスの国民投票は2006年にずれこみそうだ。まだ、かなり、間がある。その間、当然アメリカ大統領選、イラクの動静なども影響するのだろう。
| 固定リンク
「時事」カテゴリの記事
- 歴史が忘れていくもの(2018.07.07)
- 「3Dプリンターわいせつデータをメール頒布」逮捕、雑感(2014.07.15)
- 三浦瑠麗氏の「スリーパーセル」発言をめぐって(2018.02.13)
- 2018年、名護市長選で思ったこと(2018.02.05)
- カトリーヌ・ドヌーヴを含め100人の女性が主張したこと(2018.01.11)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
(私もイギリスを離れてずいぶん経ってしまったので(6年程)、現地の現状は、ニュースなどで見ていますが)イギリスで生活していれば、『イギリスはEUに従わざるをえない』のを実感します。
一般市民の生活レベルでは、かなりの部分でEUに頼り切っていますね。(寒冷地で農作物があまり収穫できない土地柄のため、ほとんど輸入に頼っているなど)
誇り高きイギリス人としては、「フランスやドイツが引っ張るEUに後からのこのこ参加して、ヘコヘコするのはごめんだ」という思いが、おそらく国民全体に染み付いていますから、このあたりの国民感情と、そうしないと生活さえもままならないイギリスの現実の間で、ブレア首相も難しい立場に立たされているのではないかと想像します…。
投稿: 平野@オーストラリア | 2004.04.30 10:49
平野さん、こんにちは。平野さんの場合、イギリスとEUの関係が生活感覚としてわかるのだろうなと思います。その点で、「EUに従わざるを得ない」という実感は説得的です。
ブレアを見ていて、ほんと、すごい人ですよね。ブレアが言うのだから、乗り切ってしまうかもしれないという気にもなってきます。
既読かもしれませんが、Telegraphのこの話が面白かったです。実際は、こうした杓子定規な話ではないのでしょうけど。
For Europe's sake, we must vote no
http://www.telegraph.co.uk/opinion/main.jhtml?xml=/opinion/2004/04/30/dl3001.xml&sSheet=/opinion/2004/04/30/ixopinion.html
投稿: finalvent | 2004.04.30 11:36
finalventさん、面白い記事のご紹介ありがとうございました!
(これには気づいていませんでした。テレグラフのサイトはあまり見ないもので…(^^;)
揺れているんでしょうね、イギリスも。
国民感情(根性ともいう?)は、そう簡単には変わらないものですから(笑)。
投稿: 平野@オーストラリア | 2004.04.30 13:25