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2004.04.27

郵政民営化問題が象徴するかもしれないこと

 今朝の新聞各紙社説は、昨日、郵政民営化の法案作成ための「郵政民営化準備室」が小泉内閣発足したことを受けて、郵政民営化をまたテーマとしていた。同じ話の蒸し返しめくが少し書いておきたい。
 朝日新聞の社説は無内容だった。産経は視点がややぼけている。が、少し触れておく。


 日本郵政公社の職員は郵貯・簡保業務だけで十万人、全体で二十八万人に上る。事業の縮小・効率化は大幅な人員削減を伴う。それをせずに民営化を進めれば、逆に経営が一気に行き詰まるのは必至だろう。

 それはそれほど大きな問題とは思えない。業態を変えていけばいいだけのことで、経営の行き詰まりを懸念している産経のそぶりは誰の利益を代表しているのだろうか。
 読売新聞社説「郵政民営化 改革の狙いが不鮮明な中間報告」はそう悪くない。はっきり言って、郵便事業など問題から外していい。

 郵政民営化は何のために行うのか――その目的を再確認しながら、今後、検討作業を進める必要がある。
 最大の狙いは、郵便貯金や簡易保険で国民から集めた約350兆円に上る資金を国の管理下に置く構造を改めることだ。巨額の資金は特殊法人に流れ、非効率な事業を支える要因となってきた。
 財政投融資の改革に伴って、その資金を財投に全額預託する義務がなくなったものの、国債や財投債を大量に引き受けており、同じ構図が続いている。
 その資金を民間に取り戻すことで、民間経済の活性化につながる。財政や財投の改革を一層促進することになる。

 問題はまさに、この第二の国家予算ともいえる資金が国債や財投債に流れる構図をどう見るかだ。読売のように、その資金を民間に戻せばいいと単純に言えることなのかが、率直なところよくわからない。陰謀論めきたいわけではないが、この件について、米国からの圧力がいつのまにか消えているように思えることもよくわからない。私は頓珍漢なことを言っているのかもしれないが、日本国民の財産について、まるで国際化なりグローバル化なりが進んでいるとはとうてい思えない。米国銀行がもっと日本に入って、日本人も米国金利で貯蓄などができればいいと思うのだが、なぜできないのだろう。米国側の理由で阻まれているような気がする。
 日経は読売と同じ内容をもう少し正確に説明している。

 国営金融事業の規模は郵貯と簡保の合計で約360兆円、民間の預金と保険の約6割に当たる。国債発行残高の約23%の約126兆円を保有する郵政公社は最大の国債投資家だ。「財投改革」で郵貯・簡保から財投機関への自動的な資金の流れは断ったが、政府が財投機関に貸し出す資金を国債の一種の財投債の発行で調達し、郵貯や簡保が引き受ければ実態はそう変わらない。
 この仕組みを温存すれば、政府の借金の膨張に歯止めがかからず、財政危機が拡大し、金利上昇などを通じ経済全体をむしばむ危険が増す。「金融の衣を着た財政」の仕組みを改め、持続可能なものにしなければならない。郵政改革は日本を危機から救う改革という意味を持つ。

 日経の説明は確かに具体的ではあるのだが、その結論が「日本を危機から救う改革」とするあたりが、どうもきな臭い。
 以下、少し陰謀論めいた話に聞こえると思うが、この件で、「ウォルフレン教授のやさしい日本経済」の指摘が気になっている。ウォルフレンは小泉にインタビューした後、彼が実際に彼自身の主張を理解していないのではないかという疑問を持った。

 彼が初めて郵貯民営化を主張したとき、このアイデアはどこから出てきたのか、と私は考えました。おそらく当局の担当者が長期的に考えていくうちに、思いついたものでしょう。担当者自身、自分たちでしてしまった間違った投資を隠すために使おうと考えていたのが、将来ひょっとすると、政府の資金源である財政投融資(郵貯はその主要部分です)が底をつくかもしれない。そこで、二〇〇三年に郵政事業を公社にしようと計画したのではないでしょうか。
 そして郵政を公社化した後で、旧・国鉄のような形で民営化を進めようとしているのかもしれません。旧・国鉄は世界最大の赤字垂れ流し企業でしたが、それを「民営化」することによって、株式を売り、新しい資金創造ができました。NTTが民営化されたとき、その株式総額は、ドイツ一国の株式市場全株式総額を超えるとも言われたものです。これだけ円を経済に投入する方法があったのかと驚かされました。
 それは新しい形での「創造的な」帳簿つけでした。日本の当局は、歴史上最大の創造的な帳簿つけ名人なのです。

 おそらくウォルフレンの言っていることは、日本の言論の世界では、陰謀論なり素人の見解としてせせら笑うという反応が返ってくるのではないだろうか。私自身、国鉄や電電公社についてはウォルフレンの読みでいいのではないかと思うが、郵貯についてはその線でうまく読み取れない面がある。
 問題をクリアにするには、「政府の資金源である財政投融資が底をつくかもしれない」というリスクがきちんと計量化される必要がある。だが、それはかなり不可能だろう。というのも、年金問題にしても、庶民からは民主党はなにをごねているのだ、みたく現状では見えるからだ。官僚が年金計画の算定のための資料を提示してこない。まして、郵貯については不可能に近い。また、道路公団問題でもよくわからないグレーなものになってしまったことを思えばが、郵貯ではさらにひどいことになるだろう。
 話が皮肉になるのだが、ウォルフレンが嫌悪するような解決の仕方が、結局日本社会にそれほど悪いものでもないのかもしれないという思いもある。国鉄の赤字問題も、気にしないで済むようになってしまった(もちろん、これは皮肉だ)。
 結局のところ、なんだかんだと、日本国は民営化をよそに国家側が肥大化し、隠された重税化になって「解決」するかもしれない。その方向はまさに奇妙なナショナリズムだ。
 縮退していく日本が流民を含めてグローバル化することが避けられなければ、どこかで大きなクラッシュになる。若い知性が「降りる自由」とか議論しているようだが、そうした事態への皮肉な予感なのかもしれない。つまり、「降りる自由」はこの奇妙なナショナリズムにしなやかに荷担していくのだろう。

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コメント

>米国銀行がもっと日本に入って、日本人も米国金利で貯蓄などができればいいと思うのだが、なぜできないのだろう。

これが外貨預金の金利が日本だとその本国より低い。と言う意味だと納得しますが、もし外国銀行の日本円預金の金利を米ドル並の金利になぜしないのだろうと言う意味なら、「そりゃ無茶でっせ」としかいいようがありません。

私個人としては郵貯民営化は日本の、いや国際金融市場の大変革さえ起こることになると思います。
社説に書かれているように郵貯に蓄えられている資金は膨大な額に及びます。現在は郵貯の運用は郵政公社に任されているとはいえ、最近までは国が管理して国債やら県債やら財政投融資といった、「リスクとリターン」を計算していない投資ばかりを行って着たように思います。(それらのうちかなりが焦げ付いている可能性は大きいのですが、実際には監査されていないのでわかりません)
しかし、民営化されれば話は別です。財政投融資だろうが国債だろうが「リスクとリターン」を計算した上で投資しなければならないし、そこの選択権が当然与えられることになります。
そして、その影響は借り手にも及びます。つまり民営化後は地方公共団体といえども投資案件はビジネスプランとして編集され、採算がとれるか否かが重要視されるようになるでしょう。
但し、問題なのが福祉や教育といった「投資案件」になじまない設備に対してはどうなるか?です。ウォルフレンが指摘しているか否かは知りませんが、サッチャー時代のイギリスこそが「民営化」の本家であり日本はそれの後追いをしているに過ぎません。そしてイギリスでは福祉や教育の民営化が行き過ぎたためそれらの分野ではシェイクバックが起きています。
もっとも、それは日本からみればはるかに先の話ですが。

>若い知性が「降りる自由」とか議論しているようだが、そうした事態への皮肉な予感なのかもしれない。つまり、「降りる自由」はこの奇妙なナショナリズムにしなやかに荷担していくのだろう。

あ、それからこの部分の意味がとりにくいんで、追加説明していただくとありがたいんですが。


投稿: (F.Nakajima) | 2004.04.27 22:38

↑いけない。名前入れ忘れた

投稿: F.Nakajima | 2004.04.27 22:39

郵貯については、高橋洋一氏の以下の言説を御一読されることをおすすめします。
http://www.inose.gr.jp/mg/back/03-9-11.html
http://www.inose.gr.jp/mg/back/03-10-2.html

投稿: cloudy | 2004.04.28 04:40

Nakajimaさん、ども。「そりゃ無茶でっせ」とされたストリーはわかるのですが、そのストーリーではなく、もっと単純に、私なりが自分の資産をドルに換えて高金利で運用したいというのは、できるのでしょうか?、という意味です。ドルに換えるのはもちろん簡単です。

「降りる自由」は、先の私の「読み」との関連なので、その関連を抜くと違う意味になります。言い方が拙いので、失礼に思わないで欲しいのですが、この「読み」、つまり、私の議論の枠組みでは、「奇妙なナショナリズム」が前提になります。

投稿: finalvent | 2004.04.28 06:33

>私なりが自分の資産をドルに換えて高金利で運用したいというのは、できるのでしょうか?

できますよ。昨今の中国株ブームや「ゴミ投資家」シリーズの書籍など、金融ビックバン以降は一般人でもやろうと思えばできます。但し、yahooの投稿ではありませんが投資は自己責任です。ですから「リスクとリターン」の計算がちゃんとできる人以外にはお勧めしません。出来ない人はトヨザキの言う「一般向けに消毒された」投資対象を選ぶことを選ぶことをお勧めしますね。

投稿: F.Nakajima | 2004.04.29 18:46

F.Nakajimaさん、ども。「ゴミ投資家」の本やいくつか読んだことがあるのですが、ちょっと誤解があるかもしれないのですが、まず、株投資をしたいわけではありません。また、為替差益も狙いません(もちろん、為替リスクは常にあります)。そういう投資ではなく、元本が保証されている預金ができるか、ということなのです。できるのでしょうか? たとえば、海外に口座を作ることさえむずかしいのが現状では?

投稿: finalvent | 2004.04.29 19:14

1、一般人が海外銀行に口座を開設することは自由化されています。但し開設には銀行ごとに様々な手続きが必要ですから英語に堪能でない人だと少々難しいかもしれません。(開設書類を郵送では受け付けてくれない銀行がほとんどでしょうから)一番手っ取り早いのが日本語が通じるハワイか香港へ旅行して口座を開設してまうことでしょう。
2、「元本保証」の預金については、私は海外のペイオフ事情はよく知らないのですがほとんどの国がペイオフの補償限度額が設定されているはずです。全額保障なのは現在日本だけだと思います。
3、但し、私個人は普通の人が海外へ送金した上での外貨預金はお勧めしたくないですね。如何なる腕利きの運用機関をもってしても為替リスクを完全にヘッジするのは不可能なはずです。

投稿: F.Nakajima | 2004.04.29 21:10

F.Nakajimaさん、ども。ちょっとくどくてすみません。できたら、いいなと思うので。

「日本語が通じるハワイか香港へ旅行して口座を開設してまうことでしょう」は知人にそういうケースがあるので知っています。ただ、これも、法的にどういう扱いなのかよくわかりません。問題は、「開設書類を郵送では受け付けてくれない銀行」が、私の経験では、住民票?だったかを必要としたように記憶しているのです。つまり、所在地ですね。そのあたりを総合すると、やはり、できない、というのが実質的な答えのようにも思うのです。

 別の切り口なのですが、シティバンクはたしか2000万円くらいで米国口座が開けたと記憶しています。しかし、通常の、日本のシティバンクは日本法人であって、米国の銀行ではない(はずです)。なぜ、米国の銀行が直接できないのでしょう? たぶん、すごく基本的な疑問なのだろうとは思うのです。

繰り返しますが、外貨に換えるのは簡単です。その先、米国なり海外口座を作り、そこをベースに預金することが、なぜむずかしいのでしょう?

投稿: finalvent | 2004.04.29 21:23

さーて、ここまでになると私も存じないことが多々あります。調べてみないと。

>所在地ですね。そのあたりを総合すると、やはり、できない、というのが実質的な答えのようにも思うのです。
タックスヘブン以外の銀行が「居住者制限」を設けているか否かが問題だと思います。別に居住者ではなくとも口座開設には問題ないのではないかと思います。どこに住んでいるかの「居住証明」はマネーロンダリング対策上必要なので要求しているだけだと思うのですが。(それと同じ理由で書類の直接提出を要求している銀行が多いのだと思います)

それからシティバンクの最低預金額は確か3000ドル程度だったかと思います。私の記憶では2000万というのはシティバンクの設けているタックスヘイブン口座の最低預け入れ額だったかと記憶していますが。
又、日本に進出している銀行はCityはじめ支店となっていて、現地法人になっていません。理由は知りませんが。(もしかして別会社になっていると海外送金の際一々書類がいるとか??)

投稿: F.Nakajima | 2004.04.29 21:58

>その先、米国なり海外口座を作り、そこをベースに預金することが、なぜむずかしいのでしょう?

1、ビックバン以降、日本の金融当局は海外に口座を開設することに一切の制限をかけていないと思います。
2、例えばシティバンクの日本の支店に頼んでミネソタの支店に口座を開設してくれと頼むのは無理でしょう。なぜなら口座管理がめちゃくちゃになってしまうでしょうから(日本国内の銀行で例えば沖縄で東京の支店での口座開設を頼んでもしてくれないでしょう。それと同じですよ)。


投稿: F.Nakajima | 2004.04.29 22:09

F.Nakajimaさん、ども。しつこい質問ですみませんでした。なんとなく見通しができたように思います。一つは現状で可能なのにメリットが少なそうなこと、もう一つはこの背後には規制がありそうだということです。もう少し調べてみます。

余談ですが、米ドル預金なら2%ぐらいの金利で簡単にできそうですね。ただ、その程度だと為替で消えてしまうので、銀行側はなぜこんな曖昧な金利を出すのか不思議です。

投稿: finalvent | 2004.04.30 07:46

>銀行側はなぜこんな曖昧な金利を出すのか不思議です。

多分、その銀行(日本のですよね?)は消費者のことを考えているのではなく、各銀行で若干の違いはありますが、自分の銀行の外貨のポジションをどうとるかの問題だと思います。知人の銀行関係者がそのようなことを言っていました。

私も合衆国のある地方銀行に合法的に銀行口座を持っています。もっともほとんど使っていません。使えば、かなり使い勝手はありそうです。

シティーバンクのマルチカレンシー口座も便利でした。今は名前が変ったのかな?たしか、シティーバンクの日本支店は、日本の銀行の法律に必ずしも根拠をもっていないと聞いています。だから、たとえばペイオフからみの元本保証もそもそも日本の仕組みでは受けられないのだと説明された記憶があります。

投稿: ひでき | 2004.04.30 12:31

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