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2004.04.24

三菱自動車を潰してはいけないのか

 今朝の新聞各紙社説では、ドイツのダイムラークライスラーが三菱自動車の金融支援の打ち切りを表明したことを扱っている。だが、率直なところ、なにが問題なのだろうか。もっと率直に言うと、三菱自動車を潰してはいけないのだろうか。なぜこれが新聞の社説に取り上げられる事件なのだろうか。私はよくわからない。
 日経新聞社説「ダイムラーに見限られた三菱の衝撃」の文脈はこうだ。


 三菱自を支援していた三菱重工業、三菱商事、東京三菱銀行の3社を核にする三菱グループにとっても、再建の唯一の切り札だったダイムラーの「逃避」で最悪の事態を想定することを迫られている。
 突然の翻意だった。今月初旬のダイムラーの株主総会で、ユルゲン・シュレンプ社長は三菱自の再建支援を言明、2日前にはダイムラーの取締役会で増資など7000億円の資金提供など再建策の大枠も決定したと報じられていた。
 それが最高意思決定機関の監査役会で筆頭株主のドイツ銀行や労組代表が反対し、「増資計画への参加を見送り、これ以上の金融支援を打ち切る」と明快な支援打ち切りを表明した。三菱自の筆頭株主で、社長を派遣し、経営の主導権を握っていたダイムラーが金融支援を打ち切ることは、事実上資本提携解消を前提にした三菱との決別宣言に等しい。

 私はめちゃくちゃなことを言っているのかもしれないが、そんなことは、三菱グループの問題であって、日本社会の問題とは違うように思える。
 いずれにせよ、新聞社説では、三菱自動車の再建を期待するというトーンで終わっている。引用するまでもないように思う。
 少し気になるのは、読売社説「三菱自動車 裏目に出たダイムラーとの提携」のトーンだ。

 日産は、ルノーから派遣されたカルロス・ゴーン氏の指導で大胆なリストラに取り組み、新車開発でヒットを飛ばしたことなどで短期間に業績が回復した。日本人社員のやる気をうまく引き出したのが、成功のカギとされる。
 だが三菱自動車では、ダイムラーからの首脳陣と日本人幹部との意思疎通が円滑ではなかったようだ。ダイムラーは米ビッグスリーの一つであるクライスラー部門でも赤字を続けている。海外事業の経営ノウハウに欠ける、と言われても仕方ないだろう。

 つまり、外国のダイムラーの経営が悪いから日本の三菱自動車がうまくいかないのだというトーンを感じる。しかし、経営なんて別に日本だろうが外国だろうが、どうという問題でもない。
 と、いう以上に私はこの件についてコメントはないのだが、「ウォルフレン教授のやさしい日本経済」の次のくだりを思い出した。

 欧米の資本主義経済では、企業が利益を上げることが健全だとされます。もちろん日本でも企業は利益を上げるべく、さまざまな努力をしています。しかし日本経済全体でいえば、利益を上げることによって健全であろうとする考え方はそれほど重要とは思われていません。現に、一〇年も二〇年も利益を上げていない大企業はたくさんあり、なかには設立以来ずっと利益を上げることがなかったという企業があります。これは会計処理の仕方とも関連しています。日本経済システムの中核をなす企業であっても、これはとくに製造業がそうなのですが、きわめて曖昧な会計処理をしています。

 私はドラッカーの著作をある程度系統的に読んだのだが、彼は利益というものを企業の健全性の指標としていた。これほど日本の経営者がドラッカーをよく読むわりに、しかし、実際にはこうした基本的な部分は影響を与えていないようにも思える。
 話が違うのかもしれないし、実際は海外でも同じなのかもしれないが、日本では株式の配当というのは実質上、ない。資本主義の根幹が資本ということで、この資本が利潤を生み出すというなら、株の配当のない制度は資本主義とは言えないように思う。
 話をウォルフレンの指摘に戻すのだが、今回の三菱自動車の件も、結局はそういうことなのではないか。社説などでは、ダイムラークライスラーでの決定は監査役会でなされたものであり、その筆頭株主のドイツ銀行やドイツの労組の反対などが背景にある云々、また三菱自動車の経営体質といった話を問題視しているが、これは、単純に、会計と利益の構造の問題なのではないのか。つまり、当たり前のことをしただけ。
 日産の復活があったので、つい三菱自動車という一企業のありかたに目が向けられるが、根幹にあるのは、こういう基本構図ではないのか。つまり、三菱グループが曖昧な会計を許す日本国家のものではなくなったというだけのことではないのか。見当違いかもしれないが、そういう財閥の残滓を整理する機会にすればいいだけのことに思える。(と、こういう言い方はその関連の方にひどく聞こえるだろうが、有能な人の雇用がより流動的になればいいのだろう。)

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「社会」カテゴリの記事

コメント

>三菱自動車を潰してはいけないのだろうか。なぜこれが新聞の社説に取り上げられる事件なのだろうか。私はよくわからない。
>三菱グループの問題であって、日本社会の問題とは違うように思える。
何万点という部品を組み立てるという第2次産業の頂点である自動車産業であるため、関わりになっている企業の裾野の広さ、また現時点での株式評価額3500億、有利子負債1兆円。その他短期の負債を合わせた額が総額2兆円。
これらが全てデフォルトになった場合を考えると日本経済及び社会に与える影響はイラクでの拉致事件をはるかに上回ります。社説の選定には充分でしょう。


投稿: F.Nakajima | 2004.04.24 10:20

>日本では株式の配当というのは実質上、ない。資本主義の根幹が資本ということで、この資本が利潤を生み出すというなら、株の配当のない制度は資本主義とは言えないように思う。
「戦後から金融ビックバンまで」にはその考え方は無かったですね。戦前は「適正な利益配当」はあったんですよ。但し「財閥」時代だったから当然なのですが。
但し、言い訳を述べるのなら、戦後の日本の会計システム、及び時代状況が利益を出すより設備投資(減価償却)に回したほうがより有利だったので「利益配当」が無かったというのが一面ではあるのです。ですからリターンが見込めない投資案件しか見当たらなくなった場合、企業は配当性向を増加させるべきでしょう。(最近MSやDELLが株式配当を開始しましたが、この原則がアメリカでは強調されます。超過利益を内部留保して自己資本比率が70%を越えるような企業だと株主の利益配分の圧力が強くなりますし、場合によっては企業買収の対象にされます)

投稿: F.Nakajima | 2004.04.24 10:48

で、長々と書きましたが、私の意見は、

地域経済を考えると潰さないほうが良い。但し延命処置は却って2次被害を増やすだけ。抜本処置ができないなら産業再生機構へ移譲を。三菱系は膨大な損失処理額を計上しなければならないかもしれないが、それは近頃はやりの「自己責任!」である。

投稿: F.Nakajima | 2004.04.24 10:58

Nakajimaさん、どもです。細かい点で異論もあるのですが、参考点も多く啓発されます。

結果としては、潰さないほうがいいのだろうなという意見にも説得力はありそうですね。

投稿: finalvent | 2004.04.24 11:48

ちょっとボカして書かざるを得ないですが。

日記のお話、至極まっとうな意見と思います。
ただ偶然にも、いま件のグループの仕事(別の会社ですが)でこの1年ほど関東に来て工場に日参してまして。内側から見る限り気付いてないですわここの人たち…足元に火がついてるのに…90年代にこの財閥の綻びが出なかったのが不思議です。
10年前のここなら、私のようなフリーランスの技術屋が仕事を貰える可能性は120%なかったんですが、今は省庁関連の仕事してますし。「これってセキュリティ的にいいの?」 とか思ってます。
他にも、去年落ちた某ロケットとか、いろいろ綻びの目は見えますね。

で、思い出すのは雪印事件です。
今回の件は、雪印の三回りくらいでかいスケールの崩壊劇になるんじゃないかな、と。あまりに巨大な会社だと、それがひとつの世界になってしまって外の声が聞こえなくなる。長年かけてそういう環境を作ってしまったからには、自然崩壊もやむないかな、と思うわけです。
雪印崩壊が北海道にどんな影響を出すかはまだ見極めるのに時間がかかりそうなんですが、世間の賃金がボロ安になったのと、若い奴らが割と平然と犯罪を犯すようになった(私も路上で襲われて病院行きました)点で、末路は見えてるかなぁ、と思います。

…とまあ、詳しいところまでは語らないですが、「もうこれは自然の成り行き、あるべき展開じゃないか」と感じてます。
では。

投稿: エスねこ | 2004.04.24 15:59

エスねこさん、ども。「自然崩壊」という感じは否めませんね。あれからちょっと気になるのは、兵器産業と三菱との関連で、あまり陰謀論めいたことを考えたいわけではないけど、日本国の本音としては財閥うんぬん抜きで、潰せないのかもと思います。

投稿: finalvent | 2004.04.25 07:18

・三菱自動車が(兵器産業である)三菱重工から既に切り離された別会社であること。
・三菱グループ各社も株主説明のできないような援助ができる状況ではないこと。
・三菱自動車の生産規模は既に自動車メーカーとしては大きいと言えず、車種規模別には分散しすぎていることから、三菱自動車に全面的に依存している部品メーカーは比較的少ないこと。
・このまま新車が出せない状況が続けば、より社会全体の経済的な傷が深くなること。
・産業再生機構は大歓迎するであろうこと。
てなことからすると、三菱自動車が既に大規模な身を切るようなリストラをせざるを得ないことからすると、単純な延命は難しく、早めの再生機構行きがシナリオとしては一番ありえるかしらんと思ったりします。

投稿: fanannan | 2004.04.25 09:31

すいません、前のコメント最後のあたりが変になってしまいました。

三菱自動車は、既に(新車開発資金を含む)当初の増資の計画が実現不能になり、このままの体制を維持しながら経営していくことは不可能であることは、もはや明らかです。そのために、これまでは想定していなかったような、大規模な身を切るようなリストラをせざるを得ない状況に追い込まれているわけですが、資金繰り上だけで単純に延命しても事態の改善が望めるほどの余力がある状況ではないので、早めの再生機構行きがシナリオとしては一番ありえるかしらんと思ったりします。
三菱重工が三菱自動車を再度吸収するという説も流れていますが、当然に三菱重工の経営陣も再吸収について経済合理性に基づいて説明できる必要がありますし、いまさら他の自動車メーカーのどこかが三菱自動車本体(ふそうは儲かっているので別)を吸収合併したいと思うような魅力のある生産・技術のある会社じゃないのが難しいところですね(とは言え、一部には日産がクライスラー部門と一緒に買うという説も流れてますが。セット買いなら値段次第かな)。

投稿: fanannan | 2004.04.25 09:41

あの、最初のほうのと関連するかもしれませんが、
赤字を出していると自分で決めれば税金を払わなくても
良いが、一円でも黒字だと税金がかかるのと
関係ありますか?

投稿: 素人 | 2004.04.26 00:54

fanannanさん、ども。言い方が悪いのですが、ここからが本当の見せ場という感じがします。Nakajimaさんが、ある意味できちんと説明されたように、日本社会へのインパクとはある。しかし、それは原則的には、「民」なので、これを機に、「公」と峻別できればとも思うのですが(その意味で、潰すを前提にせよ、と)。

素人さん、ども。関係ありますよ。もっと関係あるのは銀行との関係で、事実上、大手は金利なし(だと思う)という構造です。

投稿: finalvent | 2004.04.26 08:49

既に市場の噂としては、債務の株式化が行われるという説は流れてますね。
それから、市場で観測される三菱自動車の破綻確率は年率でざっくり7-8%くらいです。

投稿: fanannan | 2004.04.26 20:57

DCの支援打切発表時は、何故かマスコミは三菱自動車をつぶしてはいけないかのような報道を行いましたが、最近は逆にわざとつぶそうとしている様に見えます。特に読売系はすごいですね。
意図的に印象を変え捏造スレスレの叩き報道をしているみたいです。

投稿: Led Snake | 2004.07.02 00:51

Led Snakeさん、ども。ええ、なんか報道がおかしい気がします。三菱の車だけ火をふいてるみたいにも見えますし。話を戻して、三菱の問題は、日本の軍事産業が関わっているように思うのですが、そのあたり、包括的な話を聞きません。

投稿: finalvent | 2004.07.02 07:13

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