韓国総選挙、ウリ党過半数への不安
15日に実施された韓国総選挙で盧武鉉大統領の与党ウリ党が、以前の第3党から過半数を占める第1党に躍進した。予想された事態ではあったが、もう少しハンナラ党が伸びるかなと期待していた。
選挙の率直な印象は「やべーなぁ」であるが、そういう本音を漏らすと「なぜ」とか突っ込まれそうになる。「やべーなぁ^2」である。簡単に説明できる問題ではないよ。極東ブログのスタンスでいうと、なにもやばいことなんかない、とも言える。板門店共同警備区域を警戒していた100人ほどの米軍がこの10月に完全撤退し、韓国軍に完全委託になるのだが、これも、別にやばいことなんかない。と、言ったものの、私は47歳だが、50歳より上の世代の日本人は内心やばいよなと思っているのではないか。読売新聞は露骨に北朝鮮関連で心配を表現している。朝日新聞ですら内心懸念を感じているようだ(「韓国総選挙――変化の風はやまない」)。
ウリ党は、従来の政治家たちにはできなかった改革を速めようとするだろう。しかし、数の力にものを言わせて強引な進め方をすれば、野党との対立をあおるだけに終わる恐れもある。ここはおごってはならない。
日本にも課題ができた。金鍾泌(キムジョンピル)氏の落選が物語るように、これまで日本との間をつないできた世代が舞台から消えた。若い議員同士の交流をどう築くか。
今回のウリ党勝利は端的に若い世代の勝利といっていいのだから、日本の朝日新聞は韓国の若者に「ここはおごってはならない」とお説教をたれるのである。ありがたいだろ。
よその国の内政を諭す気にはならないが、そういう気持ちもわからないではない。昨年11月26日朝鮮日報社説「国がここまで上手くいかないなんて…」(参照)がある意味具体的でわかりやすい。なお、この記事で野党となっているのが今回与党になるのである。
最近の大韓民国は本当に「めちゃくちゃ」としか言いようがない。▲在韓米軍問題 ▲イラク派兵 ▲労使間葛藤 ▲自由貿易協定(FTA)と農民問題 ▲セマングム ▲京釜(キョンブ)高速鉄道の金井(クムジョン)山区間 ▲北漢(プクハン)山トンネル ▲行政首都移転問題 ▲スクリーン・クォータ制度 ▲扶安(プアン)問題 ▲大学入試の公信力をめぐる危機、など問題は山積している。
こうした問題の中にあって、何一つまともに解決されたものがない。ここに、大統領による特別検事制法案の拒否で、与野党の対立問題がまた1つ加わった形だ。
本当にもどかしいのはこれら問題のうち、そのほとんどは政府の不手際によるものだという事実だ。
別の見方をすれば、大統領側のウリ党が与党になることで「政府の不手際」が解消されれば問題はスムーズに行く、とも言える。さーて、そう思いますかね?という以上、私はつぶやくべきでもあるまい。
韓国がどうしてこういう政治に転換してきいるのかについて、私は、ちょっと単純過ぎるようだが人口動態が最大の原因ではないかと考えている。このあたりの基本である386世代については毎日新聞社説「韓国総選挙 政治の混乱収拾が急がれる」がわかりやすい。
候補者も支持者も「90年代に30代になり、80年代に大学に通い、60年代に生まれた」いわゆる386世代と呼ばれる40歳代の青壮年層が中核だ。高度成長下に育ち、革新志向が強い。それが時に反米的民族主義感情を高め、米国の対極にある北朝鮮への親近感となっているといわれる。大統領選で盧氏を当選させた原動力は、米軍装甲車による女子中学生ひき殺し事件に抗議する反米デモだった。
これを人口ピラミッドで確認すると面白い。少し古いのだが、ネットにあった。「人口で見る韓国/ソウル 」(参照)である。グラフの画像の拡大はこちらにある(参照)。
すぐ見てわかるように、20歳から40歳までの層が厚い。選挙時このグラフを睨んでいる私に、「何を見ているのか」と問う者がいたので、「ある国の人口ピラミッドなんだけどどう思う?」と訊いてみた。「高齢者が長生きできないみたい」と答えた。ぎゃふん。
グラフを見てわかるように、現在の40歳代までは途上国的な発展をしていたのだろう。日本と10年ずれのシフトという感じではないか。そして、発展の雰囲気が20年間続いたのだろう。いずれにせよ、この20歳から40歳までの層の厚みが今回の政変の基礎になっているのだろ。とすれば、10年から15年後にはまた大きな変化が来るだろう。
人口分布についてもこの記事に面白いコメントがあった。
ソウル市の人口は989万5000人で、全国の人口の21.4%。そして仁川広域市と京畿道を含む首都圏の人口は2135万4000人。なんと全国の人口の46.3%、つまり韓国の人口の約半分が首都圏に住んでることになるんですね(@_@)。すごい集中ぶりにびっくり!
とびっくりされているが、日本でも都市部に1/4は集中しているのではないか。だが、韓国ほどの都市化ではないだろう。当然ながら、これを背景に韓国では住宅事情の問題もあるようだ。
と、オチはない。なにが「やべー」だよだな。そうそう。これは歴史の感覚とも言えるものなので、うまく説明はできないのだ。
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コメント
社会学的な意味での「左派」寄り政権の誕生に、保守的なfinalventさんは「やべー」。彼らが長期に渡って政権を取れば、保守政権である日本にとっても「やべー」。また、将来的には彼らのスタンスが固定化されて「保守」となり、また「やべー」。
投稿: わははん | 2004.04.17 10:42
わははんさん、こんにちは、保守的なfinalventです、ども。でも、ラベル貼る前に本文読んでほしいのだけど、
>将来的には彼らのスタンスが固定化されて「保守」となり、また「やべー」。
というのじゃないんですよ。そんなラベル貼りで話が済むなら人口動態の考察なんかしないですよ。
投稿: finalvent | 2004.04.17 10:45
んーなんつーか朝鮮半島の人たちって
昔から、決定的な局面で空気読めてないって
感じですかね。
アチソンラインがおぼろげに……
投稿: ななしさん | 2004.04.17 16:32
>ななしさん
ぜひあなたの優れた洞察力で読む「空気」とやらをご説明いただけますでしょうか。
投稿: じゃ~ん | 2004.04.17 17:12
こんにちは。相変わらず盛況ですね。
今回取り上げられた、韓国情勢についての雑感ですが、どこらへんが「ヤベーなぁ」なのか正直なところ僕にはわかりませんでした。多分、右とか左とかの話なんだろうとは予想するのですが、現実的な危機感というか、その手の感覚としてひっかかって来ませんでした。
僕とかですと、韓国が革新的になったら「またゴタゴタが起こるだろうなぁがんばれよー」といったそのレベルです。右派左派は要因の一つではあっても、自分の中では現実的では無いんですよね。
これらの思想については、いつか勉強しなくてはならないと常々思っているのですが、何か問題が起こるたびに「右だ」「左だ」と脊髄反射的にラベリングして思考停止している人を見ると、「そんなに大した物なのかよ?」と逆に天の邪鬼になって敬遠してしまいます。それに、今は経済的な視点のほうが世界を読み解くのに重要だと思いますし。
投稿: たまごん | 2004.04.17 23:57
「やべーなぁ」という感覚は、韓国において宥和的勢力が主導権を握った場合に生じる日本の地政学上の不安、と私は解釈しているんですが如何なものでしょう。「今さら地政学なんて」と思われる向きもあるかと思いますが、少なくても東アジアにおいては旧時代的な勢力均衡政治が幅を利かせているんじゃないかと私は思います。長いスパンで見ると統一朝鮮が日米連合側に留まってくれるか、それとも反米自主ないし親中路線を採るかによって日本の安全保障上の冗長性に決定的な違いが出ますから。そういう意味で韓国における革新勢力の躍進は日本の将来にとって不安材料になり得るんじゃないかな、と。
投稿: だい | 2004.04.18 00:47
だいさん、ども。ブログで書いたのは、それ(韓国の与野党逆転)が「やばくなるだろう」という推測でもないんす。冷めた言い方ですが、よくなる悪くなるの両方のストーリーはあるでしょう。どっちかといえば悪くなるでしょうが。ただ、ブログで書きたかったのは、こうした変化がもう避けられないんだという、なんか自分の世代が取り残されている感じですね。社説執筆者の心中もそんなようです。地政学的には、日本では在韓米軍を扱わないし、北鮮の核も軽視しているのが気になります。日本海にイージス艦常駐なのに、と。
投稿: finalvent | 2004.04.18 08:32
>だいさん
いただいたコメントは非常に参考になりました。ありがとうございました。ちなみに久しぶりに辞書を引きまして、冗長と冗長性では意味が大きく違うことを初めて知りました。
投稿: たまごん | 2004.04.18 11:23
なるほど、世代交代の不可避ですか。私自身は今回の韓国の政治変動を担った世代と同じ年代に属していますが、今まで韓国を動かしてきた世代が一気に退場してしまい、あの国は一体どこへ行ってしまうのだろうという気持ちは私も有しています。そういう意味では去年の大統領選の頃から私も「やべーなぁ」と感じていました。
その当時を直接知っている訳でもない身で言うのもなんですが、どうも最近の韓国の政治動態は60年安保の頃の日本を髣髴とさせてならない気がします。反米ナショナリズムと政治革新・社会革新の期待を背景に広がる若年層の爆発的な政治参加。それに動揺する従来の保守支配層。若い世代に支持された進歩勢力がそのうち保守勢力を政権から追い落としてしまうんじゃないかという60年代頭の日本の支配層の懸念が、まさに現代の韓国において具現化したように私には見えるんですよね。
投稿: だい | 2004.04.18 19:30