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2004.04.15

米軍を擁護するわけではないが

 日本人人質3人がバグダッドで解放されたとの報道がアルジャジーラからあった。つまり、解放は確かなようだ。人命問題は解決して、私も日本人として安堵した。
 以下は、そう言いながら、アルジャジーラの報道姿勢を疑うような話である。
 イラク情勢関連の情報について、非常に微妙な問題ではあるのだろうが、この間気になったことを少し散漫にでも書いてみたい。
 日本版CNNのサイトのニュース「アルジャジーラは『うそつき』 米軍が非難」(参照)が挑発的なタイトルということもあって気になって読んだが、要領えない感じがした。こうした場合、原文を読んだほうが早いこともあるので探したのだが、わからない。対応していると思われる記事は"U.S. blasts Arabic-language TV networks"(参照)だろうが、記述の順序やディテールに随分に違いがある。報道バージョンの違いかもしれない。が、この差は気味の悪い印象も与える。
 いずれオリジナルはこの英文であろうと思われるので、それをひく。話は、アルジャジーラの報道には偏見があるとして、米軍や暫定占領当局がクレームを付けているというものだ。


BAGHDAD, Iraq (CNN) -- Citing reports by Arabic-language television networks they considered erroneous, U.S. military representatives urged Tuesday that reporting from some news organizations not be taken at face value.

 米軍はアルジャジーラの報道をまともには受け取れないとしている。非難も出したようだ。それがこの話だ。もちろん、非難にアルジャジーラは反発している。

"Al-Jazeera rejects these accusations and consider them a threat to the right and the mission of the media outlets to cover the reality of what is happening in Iraq during this tough and complicated field circumstances," the statement said. "This is an unjustified pressure against the freedom of the press."

 反発はたいしたものではないのだが、"the freedom of the press"に注目してもらいたい。この用語はこういうふうに使う。日本国憲法の「出版の自由」は半世紀前は紙媒体を指していたが、現状ではまるで違う。すでに誤訳と言ってもいいだろう。
 CNNのニュースからは、米軍はアルジャジーラを嘘つき呼ばわりしているとも読めるのだが、実際のニュースを読むと、私の印象では意外に米軍も暫定占領当局もアルジャジーラを全面的に否定しているわけではない。むしろ、彼ら側の情報と照らして、「行きすぎじゃないのか」とクレームを出していると見てもよさそうだ。例えばこういう感じだ。

 Coalition Provisional Authority spokesman Dan Senor called a report that U.S. forces have targeted women and children "poisonous."
 "It is part and parcel with the reporting that we have been seeing, or the misreporting that we've been seeing, on a number of the satellite channels like Al-Jazeera and Al-Arabiya," Senor told reporters.

 暫定占領当局(CPA)のセナー報道官は、女子供を殺めたことを否定しているわけではない。だが、問題の取り上げ方が部分的に過ぎるというわけだ。
 苦笑するむきも多いだろう。報道なんてそんなものだというのが常識だからだ。しかし、次のようなケースは米側の言い分がたぶん正しいだろう。

 Later Tuesday, Brig. Gen. Mark Kimmitt -- in an interview with Al-Jazeera anchor Jamal Azhar -- accused the Arabic-language television network of lying.
 Asked why U.S. tanks violated a cease-fire in Fallujah, Kimmitt challenged the premise of the question.
 "I don't think that the U.S. soldiers violated the cease-fire in Fallujah," he said.
 "We have been respecting a unilateral cease-fire. But you have to understand, if our troops are attacked, they have the right to defend themselves and respond."

 停戦中であれ、局所的な攻撃には防衛的に対応せざるをえない。もっとも、その防衛でよいのかという問題はあるだろう。
 たるい話が多くなったので切り上げたいのだが、つまり、このCNNの記事だけでいうのではないが、私はアルジャジーラからの情報はかなりバイアスが入っていると考えている。
 そんなの当たり前さという苦笑を誘いたいわけではない。むしろ、アルジャジーラの報道の基本的なバイアスに常に考慮しなければいけないということと、アルジャジーラが出所となる伝言ゲーム的な情報にも気をつけるべきだということだ。
 後者は重要だとこの間思うことが多い。日本人は、つい現地イラク人の直接の言葉をその原体験の報告のように捕らえがちだが、彼らの発言もアルジャジーラなどメディアの伝言ゲームである可能性はかなり高いだろう。イラク人と限らない。現地にいる日本人を含めたジャーナリストの発言にもその影が濃くなっているようだ。
 反面、米軍側の情報も同程度の信憑性ではあるものの、軍の原則を逸脱した情報は少ないはずだ。CNNの先のニュースでも、個々のディテールでは、米軍キミット准将の発言にはかなりのファクトが含まれているようだ。
 このことを少し応用したい。
 具体例として、田中宇の「米イラク統治の崩壊」(参照)を取り上げてみたい。「4人の米『民間人』殺害のなぞ」の前段では、ファルージャで米軍の強奪があったかのように、こう書かれている。

 だが、英ガーディアンによると、家宅捜索を受けた人々の多くはゲリラ攻撃とは関係ない一般市民で、捜索を受けた市民の証言によると、米軍兵士は捜索に入った多くの家庭から現金や宝石類などを持ち去った。こうした不当行為は、米軍に対する市民の反感を強める結果となった。

 参照しているのは"Driven by national pride"(参照)なので、読み比べるといいのだが、この強奪とも言える事態は、事実だとは言い切れない。イラク人の証言にすぎない。もちろん、田中宇もそのように書いているとも読めるだが、「こうした不当行為は、米軍に対する市民の反感を強める結果となった」のトーンは事実の認定に近い。これは、修辞というより、詐術に近い。
 また、ファルージャで焼殺された米民間人についての、次の話は陰謀論臭い。

 だが、彼らは実は食糧運搬などしておらず、しかも4人が攻撃され、遺体が引き回されて何時間も騒動が続いていた間、その近くに駐屯していた米軍部隊は全く動かなかった。殺された4人は、ひと目で米占領軍の関係者と分かる白い4輪駆動車に乗り、重武装していた。そのため、殺害事件を誘発するために、米軍がわざと4人を犠牲にしたのではないかという見方が、アメリカの大手マスコミの記事にも出ている。

 参照している大手マスコミはクリスチャン・サイエンスモニター"Seeing Iraq through the globalization lens"(参照)で、確かに、陰謀を臭わす部分はある。

The chaos here has to be at least partly deliberate." The main question on most people's minds is not if his assertion is true, but why?
 For example, many here see last week's carnage of Americans in Fallujah as suspicious. To send foreign contractors into Fallujah in late-model SUVs with armed escorts - down a traffic-clogged street on which they'd be literal sitting ducks - can be interpreted as a deliberate US instigation of violence to be used as a pretext for "punishment" by the US military.

 しかし、大手マスコミであるNewsweekやWashington Postの記事からは、ことの背景は、単にファルージャに軍の介入を控え、傭兵的な民間人を投入したことがあることがわかっている。この点は、極東ブログ「ファルージャの状況について」(参照)に記した。
 そこで、対比的にこの問題の、私の推測を書く。
 米軍人は軍規に従うように訓練され、逸脱は軍規で処罰される。が、民間人はその対象ではないため、この傭兵的な民間人は、ファルージャでかなり手荒なことをしていたのではないか。それが、イラク人からは米軍の行動に見える。私は米軍を擁護したいわけではない。むしろ、こうした暴発があるとすれば米軍側が保護すべきだっただろう。だが、米軍側としては、保全についてはイラク人組織に移管したような呑気さもあったのだろう。
 私がそう推測するのは、Newsweek記事でも米民間人の焼殺に際し、なぜ彼らファルージャにいたのか疑問としていることがある。殺害された米人には失礼な推測だが、この行為は彼らの強奪とも関連する勝手な行動の一環だったのではないか。そして、そこを報復で狙われた、と。
 このように、私の推測は田中宇の推測ほど奇抜ではないし、問題の根幹の認識はまったく異なる。私は、問題の根幹は、単なる統治ミスということになる。
 繰り返し、私は米軍を擁護したいわけではないが、と断るのだが、ファルージャの「虐殺」についても、傭兵的な米民間人の暴発ですべてが説明できるとは思わない。米軍も実際は、女子供の殺害を否定していない。
 だが、米軍は、それはゼロにはできないとして、正規の戦闘を行っていたということではないか。そして、当然のことだが、米軍という最高の軍事力に刃向かう武力勢力には、その10倍からの被害はでると推測して不思議でもないだろう。正規軍に兵器を持って向かってくるものは、民間人ではなく戦闘員と見なされる。スイスでは永世中立国と呼ばれた時代から、市民が防衛のために銃を取るなら、その時点で敵からは民間人とはみなされないという教育を国民に施している。
 オチではないが、最後にちょっと余談を書きたい。イラクの現状をベトナム戦争に比較する人たちがいる。だが、ベトナム戦争では1週間のうちに米軍は500人戦死したこともある。もちろん、その数倍ものベトナム人も殺された。ベトナム戦争を知るものなら、イラクの戦闘はクリーンすぎる印象すら持つだろう。

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コメント

まあ「どんぐりの背比べ」ってとこでしょ。

田中宇さんも個人でされているものなら、finalventさんも個人でされてるんでしょ? 田中さんも報道記事の分析が中心なら、finalventさんもそうだし(田中さんはイラクに行ってましたけど)。

せいぜい「イデオロギーの違い」ってのが関の山なんじゃないんですか?

投稿: zan | 2004.04.15 22:48

フランク・ハーバードというSF作家の書いたDUNEという(映画されたはずだ。)の中にこういう言葉がある。
「プロットの中のプロットの中のプロット」
この言葉は相手にしかけた権謀術策を逆手にとられるのを読み込んだ上でさらにカウンターをとるという意味で使っている。
但し、こんな作戦普通の人間ではできないので、これを使える人間は「メンタート」という特別な職種で呼ばれている。
彼らは、錯綜する情報からいとも簡単に現在の状況がいかなるものかを見つけ出しその対処策にはいささかのゆるぎもない。

さて、finalventさんにお聞きしたい。あなたはそのメンタートなのか?必ずしも鮮度・確実度の高いとはいえない情報を元にして「プロット」が背後にしかけられているのを読むことができるのか?そうでなければ、「単なるトンデモのほらを吹く人物」とのレッテルを貼られる覚悟も必要かと存ずるが。

投稿: F.Nakajima | 2004.04.15 23:14

zanさん、Nakajimaさん、こんにちは。

ブログ記事中、不要な修辞を除きました。論点は変わりないと思います。

Zanさんのおっしゃられるように、
>せいぜい「イデオロギーの違い」ってのが関の山なんじゃないんですか?
というご感想はお受けします。

Nakajimaさんの、広義に言われるところとして、
>、「単なるトンデモのほらを吹く人物」とのレッテルを貼られる覚悟
それはあるような気がします。売り言葉、買い言葉ではなくです。

投稿: finalvent | 2004.04.16 00:11

 こんにちは。

 田中宇氏のHPは僕も見ています。僕のアメリカに対する強い不信にはこの方の意見が影響している部分が多少あるのですが、今回、極東さんで取り上げた最新の更新には僕も「これはちょっと極端だなぁ」と逆に引きました。モザイクでできた事実の黒色ばかりを拾っていると言わざるをえません。

 アメリカの政治決定の構造に、もっと日本人は興味を持つべきだ、という意見には全く同意なのですが。

投稿: たまごん | 2004.04.16 00:31

現状決め手が無いこのような錯綜する中では、私などつい自分に親しみやすい物語を拾って安心してしまいます...イラク側で米軍ほど堅い機関があればいいんですが...ちょっと気を張って読み解かないといけませんね

投稿: i | 2004.04.16 01:29

田中宇って、この間まで、「911」はアメリカの陰の政府の自作自演だの、ネオコンという陰謀集団がブッシュという傀儡を操っているが、パウエルらリベラル勢力がこれと対抗して世界を守っている、
てな"電波"飛ばしてた人でしょ。

言論人として意識しない方がいいと思いますけど。
関心をもったり対抗心をもつことで、知らずに影響されることってけっこう大きいですから。

投稿: GOKA | 2004.04.16 05:54

おはようございます。

とどのつまりは「市民が防衛のために銃をとるなら、その時点で敵からは民間人とみなされない」ですね。便衣兵、ゲリラ、レジスタンス、人民の海へで一般国民(非戦闘員)を盾にしてるわけです。インティファーダ(これは投石ですからちょいw。だから対抗策はゴム弾でした)を賞賛してる方もいらっしゃったようですが、これら全て統治能力なしの集団による自己保全策に過ぎないじゃないですか。ある程度でも影響力ある勢力なり指導者達は、むしろ諫めないといけないですよね。

ここを議論の出発点にしていただかないと、おかしくなってしまうような気がします。スイス政府編纂「民間防衛」という本が復刊されているそうですが、外務省・文科省・防衛庁の協賛wででもスイス政府のご協力を得て「一家に一冊」レベルで出版して貰うといいかもしれませんですね。

投稿: shibu | 2004.04.16 09:29

GOKAさん

そういうラベリングはやめた方がよいと思われ。

投稿: ワハ | 2004.04.16 11:05

ワハさんに同意。
あれが電波かどうか判断するのは個人の勝手だと思うが、
彼は自分勝手な妄想を展開させているその手のサイトとは違う。

投稿: I'kyu | 2004.04.17 01:15

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