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2004.04.12

ファルージャの状況について

 日本人人質が依然解放されない。前回解放されると楽観視して書いたのは、現在の時点から考えれば間違いになったと思う。もっと慎重に考えるべきだったと反省する。
 なぜ解放されないのか。私は2つの理由を考えあぐねた。1つは引き渡しの手続き上の問題。もう1つは、解放決定の権限が別グループに委譲されている可能性だ。
 日本政府側は、デマ情報を早々に却下していることや、交渉可能な状態でありながら、難航している様子なので、恐らく、2番目の可能性だろう。また、以前のようにへたれた声明も出てこないところを見ると、相手の要求はそう政治的な意図はないのだろう。金銭であれば日本の手慣れたところだが、そういかないのは、米軍とのからみもあるかもしれない。それ以上の推測は、事態を考える上でただの雑音になるだろうと思うので控える。が、背景から見えてくる構図はある。
 その構図について、この間考えたことを書いておきたい。類似の議論を見かけないので、かなり批判を受けるだろうとは思う。
 日本人人質事件が発生したのはファルージャである。なぜ、3人がファルージャを通過したのか、人質になりたかったのか、と放言したくなるほど、理解を絶するものがある。いずれにせよ、今回の人質事件と先日の米人焼殺はファルージャで起きている。なぜ、ファルージャでこうした事件が起きたのかという考察はメディアでは見かけない。
 もちろん、ファルージャが反米的なスンニ派の拠点であるというのはわかるし、日本のメディアや各種ブログの意見では、すでにイラクは反米一色であるかのようなトーンが見られる。つまり、だから、そこで事件が起きるのは当然である、というお話になるわけだ。そして、この話は反米感につながり、それを支援する自衛隊は撤退せよ、ということなる。私には奇妙なのだが、国連が自衛隊の尽力を期待していた事が一斉に失念されたかに見える。
 なぜファルージャなのか。私は端的に、米軍の統治のミスだろうと思う。力不足だったのだろうと思うのだ。もちろん、そう書けば、それが事実のかなり正確な状況分析であっても、おまえはさらに米軍を強化せよというのかと短絡的な批判は浴びることだろう。だが、私はイデオロギーより状況分析を先行したい。ただし、その分析にあたっては、米ジャーナリズムを使う。
 気になっていた発端は、ワシントンポスト4月6日の"A Necessary Fight"(参照・要登録)という記事だ。


The same could be said for the Marine operation that is developing in Fallujah, where Sunni insurgents are based -- and where the bodies of four American contractors were desecrated after their slaying last week. U.S. forces have largely avoided operations inside Fallujah in recent months, depending instead on Iraqi police and security forces that have proved less than capable. The Marine action represents a return to more aggressive tactics against an enemy that appears not to have weakened as much as U.S. commanders believed.

 この数ヶ月間の間、米海兵隊はファルージャ内の介入を避けていたというのだ。そして、こともあろうか、イラク警察と治安委託会社に委ねていたのだ。"security forces"は先日焼殺された民間人を指しているだろうと思う。いずれにせよ、ワシントンポストが指摘しているように彼らにはその治安維持を行う能力はない。能力とは軍事力と解していいだろう。
 ワシントンポストの意見は、米海兵隊がもっと強固な押さえ込み("aggressive tactics")を行うべきだとしている。理由は、米国が想定したよりも武装勢力(敵とワシントンポストは表現している)が弱体化していないからだ。
 類似の指摘は、Newsweek(April 12)"By Rod Nordland"(参照)(日本版ニューズウィークでは「イラク アメリカ民間人『惨殺』の衝撃 橋につるされた黒焦げの遺体が物語る占領統治の混迷」)にもある。

"The White House doesn't get that we need more troops - significantly more troops," says one knowledgeable Coalition Provisional Authority source. "They don't get that we need more resources for our people." The problem goes far beyond Fallujah, where U.S. forces must find a way to punish the killers without worsening the town's hatred of Americans.

 弱腰とも思える米軍の状態はそれでも国内・国際世論を反映したものだったのだろう。なるべく米軍の存在を潜めようとしていたわけだ。が、存在自体が弱くなっていたわけではない。

U.S. forces have generally tried to avoid such confrontations. Last summer they were running about 2,400 patrols a day nationwide, according to official figures. In the latest reports, the number has fallen to 1,400. Most American troops live huddled in a few sprawling encampments that have grown into small cities. Of 105,000 U.S. military personnel now stationed in Iraq, more than half are housed in just four megabases. There used to be 60 U.S. bases in Baghdad, but the last of those posts is to close by the end of this month, and U.S. troops will have pulled back to eight big suburban enclaves.

 この話は別の読み方もできる。米軍の潜在力は大きい、ということだ。が、実際のイラク治安には向けられていない。
 この状態はイラクの住民も理解しているようだ。米軍のプレザンスより治安を求めていると見ていいのだろう。

As delighted as most Iraqis are to be rid of Saddam Hussein, they still aren't free. Never mind the U.S. military presence. It's no more than an inconvenience next to the insurgents and common criminals who effectively rule much of the country.

 この指摘は気の利いた皮肉というより、それがイラク人としての実態だろう。
 米民間人焼殺の際は、イラク人警官は逃げ出している。この半年で632人のイラク人警察官が殺されている。日本のメディアからすると、イラク民衆対米軍というスキーマばかりだが、実態が報道されていないからではないか。
 米軍のまずさは、さらに続く。こともあろうか、ファルージャへの制圧にイラク人を充てようとして拒絶されていた。ワシントンポスト"Iraqi Battalion Refuses to 'Fight Iraqis' "(参照)ではこの問題が、こんな統治でいいかということで、暴露されている。

BAGHDAD, April 10 -- A battalion of the new Iraqi army refused to go to Fallujah earlier this week to support U.S. Marines battling for control of the city, senior U.S. Army officers here said, disclosing an incident that is casting new doubt on U.S. plans to transfer security matters to Iraqi forces.

 当初この話を読んだとき、私は、米軍というのは、イラク人同士を戦わせようしているな、汚いことをするものだ、と思った。が、実際は、本部側の及び腰を現場で尻ぬぐいさせられているという図柄なのだろう。この件では、それ以上に米軍がイラク人を強いているふうでもない。
 当然ながら、こうした流れで、現在の米軍によるファルージャ包囲が始まり、戦力も増強された。恐らく、やる気になれば掃討可能な状態になっている。そこに現れたのが、ずっこけ三人組なのだろう。話ができすぎている感はある。
 現状まだファルージャでは停戦が続いている。復活祭でもあり、血なまぐさいことは避けたいこともあるだが、日本人人質は恐らくファルージャ市内でいわば人間の盾のようにもなっていて、米軍の目障りきわまりない存在だろう。
 当然やる気になれば、米軍がやるということを、ファルージャ内の武装グループもわかっている。だから、この絶好の盾を利用しない手はないという判断が出てもおかしくない。人質とはいえ、そうした点での主張では、三人組も同意できるだろう(ここで怪電波を飛ばさぬが吉)。
 なんだか最悪のようだが、私は事態はそうひどくもないように思う。米軍が掃討戦に出ることは実際には不可能だろうからだ。今回のテロリストグループのへたれ感を見ても、ある程度の軍事力のプレザンスを持続すれば、スンニ派の部族側も知恵を回してくるだろう。テロリストが打って変わって治安勢力になってもおかしくはないのだ。

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コメント

こんにちは。

 今回の事件は当初「歯がゆい」ものだったのが、「腑に落ちない」に変化しています。

 まるで、最初のシナリオが別の第三者の介入によって二転三転しているような、そんな感じがします。

投稿: たまごん | 2004.04.12 18:40

>「ずっこけ三人組」

大人気ないなあこの表現。2ちゃんに住んでるバカウヨじゃないんだから。

投稿: まさ太 | 2004.04.12 19:39

こんばんわ。ずっと拝見してるのですが、もう最初の日に「北拉致被害者」との比較で、その後「北拉致被害者家族」との比較でまた見てしまったので、周辺の情報のみ参考にさせて頂いておりました。いろいろ大変ですねw。随分抑えて書いていらっしゃると思います。

私の日記なんか、悪口雑言爆裂してますもので...w

投稿: shibu | 2004.04.12 20:42

表側の情報だけでここまで積み上げるとは
毎回感心しています

抑えてる分読みやすいですよ(w

投稿: i | 2004.04.12 22:58

>テロリストが打って変わって治安勢力になってもおかしくはないのだ

この部分に反応します。

前に空港で携帯SAMぶっ放した連中がいましたが、その時の宣言文を読んだときに感じたのが、
これ、反米「闘争」という高尚なものではなくて、野武士の就職活動じゃないの、
ということでした。
一回暴れて、自分を売り込むってセオリーでは?とか思えてなりませんでした。

「われら、見所あるやないか」と一発どついてから杯を許してやれば、案外忠勤に励む可愛い岡っ引きになるのと違うか?とか
そのときは妄想しましたが、案外妄想でもなかったかもしれないな、と上の文を読んで思いました。

でも、アメリカってそういう連中を飼っておく融通はなさそうな気がしますから、しらみつぶしに潰して無駄な流血を増やしそうな気がします。。

投稿: goka | 2004.04.14 00:28

極東さんこんにちは。コメント書かせていただくのは初めてですが、去秋あたりからずっと読ませていただいています。とっても面白いです。

で、本件記事とはまったく関係ないお願いなんですが、トップページの「最近のコメント」を10件でなく、30件程度表示していただけないでしょうか? 最近アツいネタ(というか読み手)が増えたため、10件表示では(一日一回程度のチェック率な私にとって)若干不都合な日があるんです。

より我儘を言わせてもらうなら、1)同一記事については最新のコメントのみ表示していただければ必要十分、2)最新コメントの寄稿時間を表示していただけるとありがたい、3)インデックスが内容別・話題別に整理されていると感激しそう、なんてことを感じています。

私には知識が無いので、上記要望の(他の読者にとっての)妥当性や極東さんの手間等は図りかねますし、そもそもこちら側の操作でなんとかなる話なのかもしれませんが(そうだったら相当恥ずかしいなあ。。)、ご挨拶代わりにコメントさせていただきました。

投稿: 3ESH | 2004.04.14 00:53

3ESHさん、こんにちは。読むかたにいろいろご不便かけます。現状なかなか改善できる部分がありません。ご勘弁ください。

代わりにと言ってはなんですが、右コラムの「インデックス」で日割りですが、過去ログがアクセスできるようになっています。できるだけ、最新記事落ちはここから拾えるようにしてあります。

あと、Googleがけっこう記事拾ってくれているようなので、Google検索からもご利用ください。インデックスのコーナーにも簡易なGoogle検索用入力欄があります。

投稿: finalvent | 2004.04.14 16:52

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» 「屈服してはならない」という決まり文句。 [汝、沈黙するなかれ、北の大地より。]
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