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2004.04.26

G7と「地政学リスク」

 G7(先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議)が日本時間25日未明に、共同声明を採択して閉幕した。というわけで、各紙の社説が扱っていた。今回のG7は私もそれほどワッチしていたわけでもないし、経済の素養が足りないこともあるのだろうが、よくわからない。
 それでも、朝日新聞社説「G7――リスクは下がったのか」は、なんかめちゃくちゃな印象をうけた。これって迷走?と思うので、話の枕代わりに、少し引用したい。


 とはいえ、状況は本当に改善したのだろうか。イラク情勢の悪化は、石油価格の高止まりを招いただけでなく、軍事費の増加による米国の「双子の赤字」の悪化やそれに伴う金利の上昇、テロ拡散による途上国投資の減退など、さまざまな経済リスクをむしろ高めている。

 石油価格高騰はイラク情勢に無前提に結びつけていいのか? 現状では、一義的には石油輸出国機構の問題ではないのか。双子の赤字は軍事費の増加が原因か? 単に米国の財政政策の結果では。また、金利の上昇はまだでしょ? テロ拡散による途上国投資の減退って目に見えているほどなのか? …と、どう読んだらいいのかわからない話がコンデンスしている。ついでだが、読売の社説には特に内容はなかった。毎日は中国を問題視しているのだが、文脈が違うように思えた。
 話をG7自体に戻すと、日経社説「G7政策協調の出番はこれからだ」がよくまとまっている。が、主張のようなものはない。

ワシントンで開いた7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議の共同声明は、世界経済の回復傾向を確認し、為替政策も前回(2月)の声明を踏襲した。米経済は力強さを増し、日本も景気回復軌道に乗り、欧州に停滞感は残るものの、世界経済の不安が和らいだのは事実だ。

 次の判断も妥当だろう。

今回の声明では、各国の個別の政策への踏み込んだ言及はなかった。世界経済のリスクが減っているとの認識から、特定の国や地域に強く政策発動を促す状況にはないという判断であろう。同時に世界経済が最悪期を脱する中で、各国の政策も今後は景気一辺倒ではなくなってくる可能性がある。

 というわけで、G7は今回は形式的な儀式ということでとりあえず理解してもよさそうだが、気になるのは、「地政学リスク」についてだ。日経系「G7会議が開幕――『地政学リスク』を懸念・原油高騰に警戒感」(参照)をひく。

世界経済は順調に回復しているものの、イラク情勢の悪化といった「地政学リスク」を警戒すべきだとの認識で一致。原油価格の高騰などが世界経済に与える影響を注視する姿勢を示す。

 トートロジーのようだが、地政学リスクとは、イラク情勢の混迷に伴う市場の混乱ということだろう。基本事項を確認しようとぐぐってみると、すぐに的確な解説が出てきた。「地政学リスク」(参照)より。

地域紛争がぼっ発する可能性が高まるなど、特定地域が抱える政治的・軍事的な緊張の高まりが世界経済全体の先行きを不透明にすることです。英語で「geopolitical risk」といいます。最近では米国によるイラクに対する武力行使の可能性が増してくるなかで使われたため、中東情勢の緊迫化を指すことが多くなっています。米連邦準備理事会(FRB)が2002年9月に出した声明文で触れてから、多く用いられるようになってきています。

 ということでFRBが2002年から言い出した言葉のようだ。
 差し迫った地政学リスクとして、具体的には、昨日のバスラ沖海上施設を狙った自爆攻撃が気になる。共同系「海上施設狙い自爆攻撃 開戦後、初の海上テロ」(参照)より。

【バグダッド25日共同】米海軍によると、イラク南部バスラ沖で24日夕(日本時間同日夜)、2つの石油輸出ターミナルにボート計3隻が近づき、爆発した。米軍の艦船などが接近を阻止したが、爆発で米兵2人が死亡、4人が負傷した。
 新生イラクの主要な外貨収入源である石油の積み出し施設を狙った同時自爆テロとみられる。イラク戦争開戦後、海上での自爆テロは初めて。ロイター通信などによると、輸出ターミナルや付近に停泊中のタンカーに被害はなかった。

 記事にもあるが、イラクでは1日約190万バレルの石油を現在でも輸出していて、その大半がこのバスラ沖の施設に集中している。こういう言い方はよくないのだが、イラクでのテロ活動がアルカイダなどの「本気」組が組織的に関わるなら、ここやイラク内の石油パイプラインを狙ってくるわけで、当然米軍もここを死守している。
 今回の事件は死者は少なく小さい規模の事件のようだがけっこうな被害だとも言える。共同系「海上テロの損害30億円 石油相、操業再開遅れも」(参照)より。

イラク暫定内閣のウルーム石油相は25日、同国南部バスラの石油輸出ターミナルを狙ったボート3隻による自爆テロの影響で約100万バレル分の輸出ができなくなり、2800万ドル(約30億5000万円)の損害が出たことを明らかにした。

 イラク戦争を米軍の石油利権のための戦争だというのは笑い飛ばしてもいいのだが(「世界を動かす石油戦略」参照)、この「地政学リスク」は世界経済に深刻な打撃を与える可能性はあり、その危険な兆候として今回の事件を見てもいいのかもしれない。
 私の誤解かもしれないが、米国のエネルギー事情は中東の石油にそれほど依存していない。米軍が死守しているものは、世界経済そのものでもあるのだろう。と、書くと、イデオロギー的な批判を受けるのかもしれないが、まだ世界第二位の経済大国であり世界経済システムの恩恵の上になりたつ日本は、言い方は悪いが、イラク復興より、世界システム安定のための「地政学リスク」を減らすために貢献しなければならないはずだ。というか、それが結局、現自民党政権の本音でもあるのだろう。

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コメント

今の日本人にとってgeopolitical riskほど軽視されている問題はないと思います。私も記事で触れてみました。イラク問題だけが取り沙汰されていますが、世界各国でgeopolitical riskは増加傾向にあります。先進国はその実情を各国が認識しつつあるものの内政不干渉の大前提があるため、あまり公式の場で問題視するような発言までには至っていないと思います。
憲法解釈を曲げようとする自民党はgeopolitical riskに直面している証拠ではないかと思いますよ。
日本経済は「日本国内だけの解決」では成り立たないですからね。なにしろ需要のほとんどを海外輸入でまかなっている国なのですから。

投稿: バカぽん | 2004.04.26 11:34

「需要のほとんどを海外輸入でまかなっている」とは具体的にどういう意味なのか、詳しく説明していただけると嬉しいです。

投稿: nh | 2004.04.26 15:48

nhさん、他人に頼らずご自身で日本は資源・食料の輸入依存度とかをネットで調べて頂ければ分かるかと思いますよ。

日本で石油が沸いたり、鉄鉱石や鉱物が取れたり、小麦とか農作物が沢山取れたり、牛を安く育てられれば問題は無いんですけれどもね。そういった国家的需要の多くを輸入でまかなっている…という話です。
分かりやすく手短なところで言えば、BSEでの牛丼問題のように海外輸入に依存しているものって国内には結構多いんです。
ちなみに地政学の話ですので、消費者レベルの需要という訳ではありませんよ。例えは消費者レベルですけど…(^_^;

投稿: バカぽん | 2004.04.27 12:11

finalventさん、こんばんわ、

最近、深い疑問を抱いているのは、現実主義だといわれる人たちの問題把握の力です。私には、まだ米国のイラク介入についてなにが目的なのか理解できません。彼らは本当にイラク占領の持つ意味を理解して、実行しているのでしょうか?

ただ、現実主義者たちが考えいているであろうイラク占領の目的を探すためには、どうも今回の戦争とその後の占領にともなって動くお金の動きにカギがあるように感じております。それは、たとえばCPAの2004年度予算の中で70%以上をfinannceという費用項目が占めることでも、明らかだと感じています。

ちなみにもうご存知かもしれませんが、miyakodaさんからご紹介された記事で、ラムズフェルドが占領政策立案、実施にかなり干渉して軍主導体制にしむけたといっていました。
http://www.theatlantic.com/issues/2004/01/fukuyama.htm

投稿: ひでき | 2004.04.28 02:26

ひできさん、ども。この問題はきちんと扱わなくてはいけないのですが、ひできさんが引かれている、フクシマの見解がある意味象徴的なのですが、Ahmed Chalabi を基軸としてプランがこけているというのはまず確かでしょう。ただ、そこを結果論からその計画策定に持ち込んでいく考えは違うかなという印象を持ちます。ついでですが、池澤夏樹さんの
http://www.impala.jp/century/comment/cmt_021110_001i.html
は、やや陰謀論的過ぎるようにも思います。

ちょっと曖昧に聞こえると思うのですが、イラク戦争というのは、国連が実質搾取に構造化される世界システムの代替の世界システムに米国が乗り出そうとして、それでいながら、米国自体の軍が冷戦構造であったというドジ、という線で考えています。

補足すると、直接的な金銭的な面での国益なりのメリットからはうまく説明できないでしょう。繰り返しますが、いわゆるネオコンのビジョンとされている世界システム構築だった、と。

日本のサヨクは嫌がりますが、リビア、イランと安定の兆しはあります(イランはちょっと別かもしれませんが)、これでEUとUNを抑え、イスラエルを中近東の基軸国にできれば、完成に近いのですが、どうも、頓挫ですね。しかも、米国はUN、国連をダシにまたろくでもない動きをする可能性が高いです。

という、文脈で見ると、フクシマはちょっと後ろ向きには思えます。

投稿: finalvent | 2004.04.28 06:50

finalventさん、

ありがとうございます。いろいろと示唆をいただいことを自分の腹のなかにまずは落としたいと思います。

ただ、池澤夏樹さんの

>しかし、それにしてもアメリカの今の政治家たちは歴史を知らなすぎる。人間はすべて武力の前にひれ伏すと信じている。(http://www.impala.jp/century/column/clm_092.html)

という意見には、賛成です。また、この後半の部分にこそフクシマの主張があったように私は感じております。

それから、先のコメントで書き忘れましたが、アトランティック・オンラインの記事は、miyakodaさんからご紹介をいただきました。私の力ではこの記事まで到達できませんでした。
http://miyakoda.jugem.cc/)

ちなみに、ちなみに、アトランティック・オンラインのフクシマの引用ですが、

The chief threats to us and to world order come from weak, collapsed, or failed states. Learning how to fix such states and building necessary political support at home will be a defining issue for America in the century ahead.
by Francis Fukuyama

我々(アメリカ)に対する、あるいは世界秩序に対する主要な脅威は、政府権力のない、崩壊した、あるいは、失政のあるような状態の国々から起こってくる。いかにしてこのような国家の状態を修正し、当該国内における必要な政治的援助を形成することを学習することが、来るべき世紀におけるアメリカの明確になりつつある主要な課題となるだろう。

投稿: ひでき | 2004.04.28 11:45

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