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2004.04.08

イラク情勢2004.4.8

 イラク情勢についてコメントしたい。というか、厳密に言うと「したい」わけでもない。国内世論をざっと見渡しても、茫洋としているので、こういうとき茫洋のなかに沈まないのがこのブログの意味だったかなと少し思うだけだ。もちろん、日本の大衆的な感性からすれば、日本に関係のない戦争はさっさと終わりにして、みんな仲良く平和を祈願する、というところだろう。が、さすがに大衆的な感性としてもそう言うのは偽善だよなというあたりで、沈黙になる。むしろ、左翼陣営だの平和勢力だのが、反米機運を盛り上げないのはなぜなのか、奇妙な感じもする。
 朝日新聞社説「イラク騒乱――『ベトナム化』を恐れる」はそうした日本の言論風土のなかでモデレートな左翼の代弁をしているのだろう。


 これはもう「占領軍対テロ組織」という構図ではとらえきれない。民衆の抵抗とそれを鎮圧しようとする占領軍との全面衝突と言うべきだろう。

 左翼はイラク開戦から直後も「ベトナム化」をよく口にしていた。ベトナム化になって欲しいという期待でもあったのだろう。ベトナム反戦運動が懐かしくてたまらないのだ。しかし、戦闘も終結直後もおよそベトナム化とは異なる状態になり、このタームは消えていたのだが、ここに来て、また、一発言ってみたくなったのだろう。しかし、今の事態はベトナム化なのだろうか。ベトナム化に特に定義はないが、民衆の非戦闘員的なゲリラ戦によって兵士による近代戦が苦戦することとも言えるだろう。
 呼応するように朝日は「民衆の抵抗とそれを鎮圧しようとする占領軍との全面衝突」としている。つまり、先日の米民間人の虐殺もイラク民衆の抵抗の表れだというのだ。ここで、阿呆か、と突っ込みたいところだが、日本の言論の雰囲気はそうすんなり笑いが取れそうでもないようだ。あの米民間人は事実上の傭兵でもある、が、その殺戮の仕方は非人道的極まるものだった。
 この事件で私にとって不思議だったのは、虐殺側からのメッセージはパレスチナ・ヤシン殺害の報復だったことだ。私の誤解だろうか。私はなぜイラクでパレスチナ問題が出てくるのか単純な疑問に思えたのだ。イラク民衆はパレスチナ・ゲリラを基軸としたようなアラブ大同団結を支持するわけもないと私は考えていたからだ。もし、私が外してなければ、この事件は、国際問題のリンケージを狙っているという意味で、単に外部工作員の仕業と考えるのがもっともシンプルだと思える。また、とすれば、内気なサドルのこの時期の暴発も、同様に外部工作員が噛んでいるのだろうと推測しても妥当に思える。いずれにせよ、朝日の言うような「民衆の抵抗」とは思えない。民衆の抵抗とは、私がここでコザ暴動を想起するのだが、組織的なものではない。
 朝日の状況認識は、だが完全に外しているわけでもない。

 シーア派といっても一枚岩ではない。占領への抵抗を呼びかけたのは、強硬派のサドル師とその武装民兵だ。最高権威とされるシスターニ師に比べ、支持基盤は決して広くない。この蜂起には、サドル師がシーア派内での影響力を強めようと民衆をあおった面もあろう。

 このあたりの認識はごく一般的なところだろう。そして、朝日の主張では、で、どうするか? 「さっさと米軍が撤退せよ」か、というと、そうでもない。さすがにそこまで非常識なことは書けなかったのだろう。

民主党のケネディ上院議員はいまのイラクを「ブッシュのベトナム」と呼び、泥沼化したベトナム戦争の再来だと指摘した。その通りにさせてはならない。

 じゃ、どうしろと? そこで朝日は沈黙する。
 私も沈黙するのが賢いのか。この先を言うと批判も多いだろうなとは思う。が、言う。
 このようにスンニ側とシーア側の双方から、実際の戦闘勢力が炙り出されてくる状況は、冷酷な軍事的な判断からすれば、そう悪いことではないのではないか。つまり、こうした勢力を温存したまま、主権委譲後に内戦化するよりははるかにましではないか。というのは、内戦でもっとも疲弊するのは国民だからだ。
 イラクの国民の大半は、スンニ派やシーア派の暴発を歓迎などしていないだろうと私は思う。このテロ勢力で米軍が撤退する事態すら求めていないだろう。もちろん、米軍を好ましいとも思っていないところは、察するに余りあるのだが。

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「時事」カテゴリの記事

コメント

日本一国だけのことについて言うと、とりあえず政府は判断停止してないで、自衛隊をクウェートまで撤退させるのがよいと思います。これで自爆攻撃でもされた日にはただの殺され損だ。

別にイラク内乱の抑止力として期待されていたわけでもないんだし、このままでは何をしに来たのかわからなくなる(最初から意味があったのかどうかはこの際措くとして)のでは、と危惧しています。

投稿: るう | 2004.04.08 09:59

やっぱ米軍の撤退はダメでしょう。他のいろんな国が自国の軍の撤退表明をすることは出来ても、今はもう無効になっちゃった大量破壊兵器って大儀の言いだしっぺであるアメリカには、最後まで徹底的に尻拭いしてもらわなきゃ。今米軍が出て行ったら、一般のイラク人はどうなるの。ブッシュ再選のための政治戦略である6月30日イラク権限委譲期限なんざ知ったこっちゃねえっすよ。

で、純ちゃん率いる自衛隊も、あれだけ憲法曲げて大見得切ったんだから、はっきり言って引くに引けないでしょう。この際米軍の一部になって、徹底的に鍛えてもらったら? まあ米軍が嫌がるだろうけど。

あと、「ベトナム化」ってのは別に朝日の専売特許じゃないっすよ。共同通信によると、元々穏健派だったサドル師自身が『米国がイラク国民に主権を完全移譲しなければ「イラクは第二のベトナムとなる」』って声明を出したらしいっすよ。

finalventさん、左翼や朝日を攻撃するのは全然構わんが、同時に読売や産経、エセ保守の連中も攻撃してくらはい。こっちもユルユルなんだから。

投稿: メタラッチョ | 2004.04.08 11:54

るうさん、こんにちは。かなり多分ですが、自衛隊はクウェー撤退を視野に入れているはずです。ここで自衛隊になんかあったら、小泉が吹っ飛びます。そしてそのリスクは米国も知っているはずです。だからこそ、自衛隊が狙われるリスクも高いとも言えるのですが。これも多分ですが、なんとか面子の立つ状況になれば、自衛隊をさっと引き上げることになるかなと思います。

メタラッチョさん、ども。「ベトナム」はキーワードのようですね。私はベトナム戦争時代は中高生でリアルタイムで生きたので、逆に懐疑的です。とはいえ、米国のベトナム後遺症はかなりなものなのので、このタームは効く!のですが、軍事というのは常に軍事の論理で動くので、状況をよく見ていく必要があるかと思います。

余談ですが、「読売や産経、エセ保守の連中も攻撃してくらはい。こっちもユルユルなんだから」、で、けっこう叩いているつもりなんですが、最近ちょっと投げウンコ減らしをちょっと意識しています。このあたり言うとなんだけど、小林よしのりも、往時のパワーが落ちたなぁという感じがします。SAPIOをぱらっとめくったらフランス持ち上げていて、とほほとか思ってしまった。やっぱ、思想とかに向かないのかな、と。

投稿: finalvent | 2004.04.08 12:24

私は左翼ではないが、「ベトナム化」という言葉をつかってしまいました。私の場合は「そこに住んでいる住民を敵に回してしまうアメリカ軍」という意味です。使い方が間違っているかもしれません。しかし、モスクへの空爆やこんな姿を見ると、住民を敵に回すことに感覚を鈍らせている米軍指導部に、危惧や怒りを覚えます。
http://english.aljazeera.net/NR/exeres/8CB7C17E-F69E-48A2-8034-DEA425192815.htm

投稿: late_mhk | 2004.04.08 13:24

late_mhkさん、こんにちは。私が「ベトナム化」と呼ぶのを忌避する態度こそ、間違っているのかもしれません。また、「住民を敵に回すことに感覚を鈍らせている米軍指導部に、危惧や怒りを覚えます」というのは、まさにそのとおりだと思います。
 ここで否定するわけではありません。が、私は、正直なところ、死者の映像は見たくないと思っています。
 私はこれまでも、「それが真実だ、目を背けるな」として、いわゆる平和主義者たちの脅しを受けてきました。私が学んだことは、映像をできるだけ避けることです。もう少し正確に言うなら、私の経験と、メディアとして提示される映像の感覚(経験)を分けて考えることです。
 誤解されたくないで繰り返しますが、late_mhkさんへの批判ではありません。私がそう思うに至るには、それなりの歴史があったというくらいのことです。

 

投稿: finalvent | 2004.04.08 13:41

finalvent さん。紙面を汚し申し訳ありません。私の書き込みを削除しちゃってください。「ベトナム化」うんぬんも。もちろんこれも。丸ごと。

投稿: late_mhk | 2004.04.08 16:13

late_mhkさん、ども。「紙面汚し」とはまるで思いません。私が誤解している、あるいは誤解されている、どちらかわかりませんが、late_mhkさんの先のコメントは、私にとっては、自分の考えが間違っているかもしれないということを考える上でとても重要でした。よかったら、このままにしておきたいとは思います。

投稿: finalvent | 2004.04.08 16:25

finalventさん、レスありがとうございます。
おりしも起きた邦人3人誘拐には驚かされました。
これが状況をどう左右するのかが気がかりです。
「テロとの戦いに屈するな」という声が早速米側から出ているようですが、そもそも自衛隊はテロ勢力との戦いのために派遣されたのではなかったのだし。

宿営地に打ち込まれた砲弾が射程の長いロケット弾だとしたら、最初から自衛隊自体も、米軍と反米勢力双方にとっての人質だったのではないでしょうか。人質をとられた側が事態のイニシアチブなど握れるはずもないわけで、右顧左眄の醜態を晒すことになっても、それはむしろ当然なのかもしれません。

捉えられた3人がどれほど自らの安全に対する手立てを自分の責任で講じていたのか、あるいは善意と運だけを恃みに突入した無思慮な行動だったのかはわかりませんが、ともあれ今は一刻も早い無事な帰還を祈りたいと思います。

投稿: るう | 2004.04.09 09:59

るうさん、こんにちは。今回の自衛隊脅しと人質は同じ線かもしれません。もしそうだとすると、その背景がわかれば、イラク問題は対処しやすいとも言えるのですが。

投稿: finalvent | 2004.04.09 14:32

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