尖閣諸島、領土と施政権
尖閣諸島・魚釣島に24日、中国人活動家7人が上陸し、入管難民法違反の疑いで逮捕された。率直なところ、よくわからないニュースだと思う。中国人がなんか派手にやらかすときは、たいていの場合、中国社会でなにかその必要性があるのだ。犬を指して豚の罵るの類だ。時期的に見れば、台湾総統選挙との関連だろうか。こうした問題も基本的に、中国内で、誰が困惑し誰が利するか。と見ればいい。中共としては現政権が困る。台湾としては、民進党側が困る、ということか。いずれにせよ、こうした線がはっきりしてこない。日本国内のメディアの大半の言及はほとんどが失当だろう。
今回の動向を見ていて、日本の空気が変わったなという感じもする。まるでこの活動家たちは北朝鮮の工作員のように扱われている。もちろん、違法行為という点では同じではあるだろう。左翼の朝日新聞がこうした空気を嗅いでなにを言うのかと思ったら、社説「尖閣――火種の管理をぬかるな」では、海上保安庁を責めていた。そう来たか。左翼とかインテリ、ジャーナリズムもなんか、言論をゲームにしているな。ということは、もう知性の限界ということなのだろうか。
確かに海上保安庁の怠慢はあるのかもしれないが、それが本質的な問題であるわけもない。日本国としては上陸を見逃すわけにもいかないし、そうなれば逮捕する以外の道もない。そして、中共側とて、言葉で引くわけにもいかない。しょうもない外交問題起こしやがってと思うがそれが、活動家の狙いだ。
が、今回、ちょっと違った風景かなと思ったのは、米国が早々に助け船を出していることだ。やっぱ、日本の外交戦略は金で頬をひっぱたけ、だよなである。産経系「『尖閣は日本の施政下』米副報道官」(参照)を引く。
エレリ副報道官は「尖閣諸島は沖縄返還以来、日本の施政管理下にある。日米安保条約第五条は、日本の施政のもとにある領土に適用される。したがって、安保条約第五条は尖閣諸島に適用される」と述べた。その一方で、日本と中国、台湾が領有を主張していることにも言及、「米国は最終的な主権に関する問題については、いかなる立場をもとらない」と述べ、主権問題にかかわることは慎重に避け、当事者に対して平和的解決を図ることを強く呼びかけた。
結局、これまで尖閣諸島については微妙に言及を避けてきた米国だが、この事件をきっかけに軍事的な意味合いについて尖閣に関連して明言せざるを得なくなった。これは、日本の空気も読んでのことだろう。
こうなると、胡錦涛も苦虫を噛むしかない。活動家たちは、先日の台湾民進党への米の冷ややかな態度を読んでいたのだろうが、日本を甘く見て、結局のところ地雷を踏んでしまった。というわけで、この問題は日中という枠組みではそれほど問題にはならない。
ところで、今回の事件で、国内報道を見ながら、やたらと尖閣諸島を「日本の領土」だとする表現が目に付いた。私は最初は、最近のジャーナリストも馬鹿になったものだなと思ったが、この横並びはなんなのだろうか疑問に思えてきた。
ネットをぐぐると当然、雨後の筍のごとく、尖閣諸島は日本の領土論が出てくるが、率直なところ、歴史好きって政治音痴みたいなのが多くて閉口する。端的な話、清朝時代の話などはどうでもいいのだ。
米国は依然、明確に、尖閣諸島の領土は未決と断言しているのだ。そして、それが国連、つまり日本を叩きつぶした連合国の公式見解であり、国際評価なのだ。重要なのはそれだけ。その意味で、尖閣諸島は日本の領土ではないのである。日本人ならその事実に目をふさいで、わっしょい言ってちゃだめなのだ。
だが、「尖閣諸島が日本の領土ではない」ということはどういう意味かというと、これは沖縄に及ぶ。沖縄は依然日本の領土ではないのだ。まさかとか電波とか、うんこ飛んで来そうだが、米国は言わなきゃならなくなれば、そう言うわけだ。というか、今回のエレリ副報道官の言及には、それが暗黙に含まれている。
とんでもねー話で、せめて沖縄県の範囲くらいは領土的に落ち着けなくてはいけない。そこで、最大の秘策としてできたのが沖縄サミットだったのだ。沖縄に先進諸国の雁首を並ばせておけば、もう日本の領土ではないとは口が裂けても言えやしない。小渕よ、野中よ、そこだけは感謝するぜ。反面、このとき、沖縄サミットに産経新聞が田久保忠衛を使って陰湿に反対しているのを俺は絶対に忘れないぜ。
というわけで、沖縄はもう事実上日本の領土になった。加えて、李登輝が援軍を出して、尖閣諸島は日本の領土だと言明してくれた。彼はようやく事実上民進党になったので、あとは民進党が憲法を改定すれば、尖閣諸島と沖縄は日本の領土として中共の手が及ばなくなる。台湾独立、自主憲法制定というのはそのくらい日本の国策に大きな意味があるのだが、と、罵倒してもわからんやつが多い。
話を少し戻すと、正名台湾となっていない中華民国、つまり国民党も未だに、沖縄県を含めて尖閣諸島の領有権を主張している。台北から那覇に飛んでみると面白いものだが、その逸話はすでに書いたので、ここでは書かない。
問題は、糞な「中華民国」というお題目にある。そこで、奇っ怪なのだが、国連は、現在の中共、中国共産党、もとい、中華人民共和国を中国の政党政府としているのに、国連内の文書は改定されていないようだということ。未だ、中華民国のままのだ。え?みたいな話だが、中共側がこれを突いた形跡もない。ただ、この問題がそれほど大きな問題にならないことは、香港の帰還で片づいている。日本では報道されなかったようだが、香港割譲というのは契約に基づいたものだが、その相手は中華民国であり、契約書は台北にあるのだ。なのに、この契約書事体は事実上反故にされたので、その意味で、「中華民国」の名前の威力も、要約事実上無効になった。
どうも長ったらしい話なったが、この最近の歴史経緯を歴史好きの人たちが見逃しているように思えるので、ふれておいた。
で、問題は、エレリ副報道官が、「日本の施政管理下にある」として「主権」を避けたのだが、この「施政管理」とはなにかだ。話を切り上げるために端的に言えば、施政権である。1972年に沖縄本土復帰というが、ここで復帰したのは、施政権だけである。領土ではない。
領土と施政権の関係について、もう少し突っ込むべきなのだが、話が長くなってのでまたの機会としたいが、今回の阿呆な事件で、施政権について日本がどう考えているのか気になった。法学ではどう扱われているのだろうか。というのも、英語では、administrative right、あるいはadministrative powerとなるはずで、日本語でいうなら、行政権である。で、法学の行政権の考えに、沖縄の帰属に関する施政権の問題が含まれているのか、というと、それがまるでわからない。だれか、きちんと整理して欲しいというか、そういう文書があれば読んでみたい。
つまらない話のオチのようだが、administrativeというのは、Windows XPとか使っている人なら知っているはずの、administratorと同じ英語だし、つまり、施政権や行政権というのは、Windows XPマシンという領土に対するadministratorログインの感覚なのだ。なんとなくわかるだろうか。あれ?っていう語感の齟齬があるとすれば、われわれがいかに、領土と施政権をきちんとイメージしていなかったか、ということになる。
追記(同日)
託統治の場合は、施政権に立法・司法・行政の三権が含まれる。
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コメント
わー、領土と施政権、ぜんぜん分かりません。またの機会に宜しくお願いいたします。
とうぜんこれ、北方領土とも絡む問題だと思うので。
投稿: さいもん | 2004.03.26 15:57
さいもんさん、どうも。
>領土と施政権、ぜんぜん分かりません。
いや、そのとおりです。ブログ記事書いた本人が、うっ、俺理解してないぞと反省です。ごめん。どうも、領土=財産、施政権=信託、という関係のようです。こういう考えは、西洋史の封建制度とかにも関係しそうなので、根が深そうです。ついでに、よく世界史で「奴隷」って出てくるのですが、これって、人が財産区分になっているだけのようです。高級な家具など壊す人がないように、技能的な奴隷はきちんと管理されていたようです。ま、も、ちょっと勉強してまた書きます。が、いずれにせよ、こういう考えは西洋っぽいので、中国人も理解しそうにはないと思うのですが。
投稿: finalvent | 2004.03.26 19:03
ごまめのつぶやきさんのトラックバックについて、簡単にコメントします。
http://nanasisan.air-nifty.com/ramen/2004/03/post_116.html
喧嘩ふっけているわけではないので、単に知的な関心からです。2点です。
1 "「施政権」とは「領土権」を構成する一部に過ぎないのではないか?"は、違うのではないか? 領土権=財産権、施政権=信託の関係にあるようなので、その混在はないと思う。
2 ごまめのつぶやきさんの議論は、日本の内側の主張で、外務省なども同じ立場にある、というのは知っているのです。が、そういうことは、現実の国際社会に有効ではない、という前提から今回の記事を書きました。端的に言えば、米国は尖閣諸島の領有権を断固保留しているのです。中共も同じ。つまり、彼らには彼らの論理があり、それがどのように刷り合うのか、現実世界の力学はどうか、現実はどう認識するべきか、そういう問題意識が当の問題であると、私は考えているわけです。
投稿: finalvent | 2004.03.26 19:56
まずもって、何のご挨拶もなしにトラックバックした事をお詫び申しあげます。申し訳ありませんでした。
私も喧嘩吹っかけてるわけではなく、finalventさんの論考に「ん?」と思ったものですから、自分の勉強のためにいろいろ調べている最中です。
中華人民共和国が尖閣諸島の領有権を保留しているのはわかるのですが、米国も保留している、とされる点を立証すべく資料収集しているところです。
finalventさんから何かの示唆でもあればと思い、軽い気持ちでトラックバックを飛ばしてしまいました。
もう少し資料に当たって自分の考えをまとめたら、またコメントなりトラックバックなり送らせていただきますので、以後も何卒よろしくお願い申し上げます。
投稿: ごまめ | 2004.03.26 21:21
ごまめさん、ども。トラバ、自由にされていいですよ。この問題は、普通に考えていけば、尖閣諸島は日本の領土となると思います。というか、それ事体はあまり問題ないので、それをどう国際世界に説得するというか、対応するか。持論では通じない世界ですから、と、思ったのであえてコメントしました。また、ご示唆ください。
投稿: finalvent | 2004.03.27 07:33
昔、よく、南のくにに国際連盟の委任信託統治領とか
国際連合の委任信託統治領とか記載されていましたが、
あれはいわゆる領土ではないですよね。(それとも
領土だったのでしょうか)
どういう国際法上の位置付けだったのでしょうか・・・
沖縄が日本の領土である・ないというのは
ディエゴガルシアが英国領である・ないというのと
どういう点が同じで違うのでしょうか。
戦争に勝った国の領土と負けた国の領土?
投稿: IK | 2004.03.27 09:00
IKさん、ども。ちょうど、その関連の記事を書いたばかりです。よかったら参照してください。で、たぶん、それですが、植民地を止める=財は返す、という建前でできたのでしょう。どうでしょうか。
投稿: finalvent | 2004.03.27 09:34
こんにちは。
finalventさんのご指摘で、いかに自分が「日本語で書かれた情報」に頼っているかを思い知らされました。疑ったわけではありませんが、自分なりに探してみました→"administrative"
拙論に引用させていただいたので、trackbackを打っておきます。
投稿: Dain | 2004.03.30 19:05
1996年10月18日付 「人民日報」第8面 作者:鐘厳
釣魚島(日本名:尖閣諸島)問題は、中日間で未解決の領土問題である。本文では、歴史や国際法の角度から釣魚島の主権問題を論じる。
一、 釣魚島は古来より中国の領土
釣魚島とその周辺の島々は、台湾省基隆市の北東約92海里(1海里=1.852キロ)にある。日本の琉球列島からは約73海里の距離にあるが、深い海溝で隔てられている。・・・・・・・
投稿: 中国から見た尖閣諸島の領有権 | 2004.04.13 00:22
「中国から見た尖閣諸島の領有権」さんからのコメントなのですが、該当URIページの内容と同じなので、著作権の問題もあり、後半をカットしました。
反対意見を削除するとか難しい意味は全然ありません。
該当記事は、「中国から見た尖閣諸島の領有権」さんの名前のリンクまたは、以下から辿ることができます。私もこの話は知っています。
魚釣島の主権について
1996年10月18日付 「人民日報」第8面 作者:鐘厳
http://www.people.ne.jp/cehua/20040407/01.htm
投稿: finalvent | 2004.04.13 11:03
初夢とは、一般的にはその年最初に見る夢のことを指す。
投稿: xasa | 2004.04.24 21:20
「尖閣諸島の領有権問題」の管理者です。
尖閣諸島の領有権問題に関する資料を探しています。
日本国内外の人に尖この問題が武器による紛争や日中台の人に一世紀も二世紀も残るしこりにならぬように今解決しておくべきだと考え、サイトを開設しております。
投稿: TAMON | 2004.08.02 08:50
日本防衛廳內部未指明的官方資料表示,防衛廳已對日中兩國有領土爭議的尖閣諸島(釣魚台 )以及沖繩本島以西的其他島嶼制定了一套「西南島嶼有事」(各種形式的入侵 )對策方針,表示要堅決徹底地擊退侵犯西南島嶼的外國軍隊。日本防衛廳制定的這項計畫防衛範圍,涵蓋日本九州島南端與台灣之間綿延一千公里的島嶼。
報導指出,這項去年11月制定的對策方針披露,在所謂「西南島嶼有事」時,日本防衛廳將分三個階段進行保衛戰。這項對策方針首次明確提及中國和北韓一樣都是日本的潛在威脅。
第一階段,在外國軍隊有跡象可能要侵入西南島嶼時,日本防衛廳將迅速從日本本土派出戰機和護衛艦趕赴西南島嶼,派出包括直接從事反擊戰的特種部隊和中央快速反應部隊在內的五萬五千名陸上自衛隊,並加強警戒和搜集各方面的情報,做好反擊準備。
第二階段,海上自衛隊的海上巡邏機以及航空自衛隊的空中警戒管制機在西南上空待命、搜集情報。從九州和本州的中國地區派出的護衛艦、潛艦以及戰機將兵分兩路,一路負責阻止外國軍隊登陸,另一路繞道外國軍隊的後面,切斷其補給線並狙擊其後援部隊,將來犯之敵人阻擋在海上。
第三階段,萬一未能在海上阻止外國軍隊的登陸,將展開反擊戰。在後方支援部隊的配合下,陸上自衛隊西部軍區的特種部隊以及新設立的中央快速反應部隊要全力奪回被外國軍隊侵占的島嶼。特種部隊和中央快速反應部隊將從空中進入被侵占島嶼,其他部隊將由海上自衛隊的運輸艦運上島嶼。
日本防衛廳官員說,日本西南島嶼的大部分島上並無駐軍,就安全的角度而言算是處於真空的狀態,而中國一如去年11月派核子潛艇入侵日本領海的情況,一直擴大活動的範圍,因此日本防衛廳必須密切關注外國軍隊對西南島嶼方面的動向。
據瞭解,日本陸上自衛隊最近還與美國陸軍、陸戰隊舉行將級官員協調會議。會議達成的共識是,今後日本不僅要防止其他國家侵犯西南島嶼的領空和領海,還必須考慮當這些島嶼受到他國攻擊和侵占時,日美實施聯合反擊的問題。
投稿: 胡錦濤 | 2005.02.13 23:50
ただ、尖閣諸島を中国に事実上支配されてしまえば、それが既成事実となりうるのも否定できない。
あの国を国際感覚のあるまともな国と考えるのはやばいだろ。
やはり、日本は尖閣諸島は日本の領土だと強く主張する必要があるぜ。
投稿: | 2009.03.01 23:35