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2004.03.23

大久保・グリーンスパン・彦左衛門

 少し前の話になるが、1月27日連邦公開市場委員会(FOMC)で、現状の金利を継続するか意見が分かれたらしい。日経系「(3/18)1月の米FOMC、超低金利の継続巡り意見分かれる」(参照)にはこうある。もっとも、意見の違いといっても古典芸能のごとくだ。金利自体が問題になったわけでもない。


 FRBが18日公表した1月のFOMC議事録によると、「かなりの期間」を削除することに異論は出なかった。問題になったのは「忍耐強く」という表現。委員の多数はこの表現を盛り込むことで、超低金利政策の修正を急がない考えをにじませ、市場に安心感を与えるべきだと主張した。これに対して少数の委員は新しい表現が市場に別の思惑を与え、金融政策の運営を複雑にしかねないとの懸念を表明。超低金利政策の継続期間を示唆するような表現をすべて削除するよう求めた。

 フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を年1%に据え置くこと自体が問題にならなかったのは、その最大要因は雇用問題にあるからだ。あられもなく言えば、雇用で攻め出した対民主党の選挙対策といったところか。FOMCではこうだ。

失業数は減速しているが、新たな雇用は遅れている。

 これがほんとに遅れているかについては、極東ブログでも少し扱ったが、議論で決するというより、年内中には様子が見えてくるだろうからそれを待とう。問題は、それが見える前に大統領選挙があるということだ。選挙がらみで言えば、11日グリーンスパンの米下院教育労働委員会証言も同じようなものだ。「(3/11)米FRB議長『保護主義、雇用創出につながらず』」(参照)より。

 米議会では中国やインドなど国外への雇用流出を抑えるため、生産の国外移転や業務の外部委託などを制限する法案を提出する動きが広がっている。これに対して同議長は「疑わしい処方せんは事態をより悪化させる」と強調。「保護主義的な措置をとれば海外から報復を受け、かえって雇用を失うことになりかねない」と語った。

 「報復」ってなんだ? WTOと鉄問題? まさか。しかし、日欧が念頭にあるのか。いずれにせよ、教科書通りの経済学的にはグリーンスパンが正しいので、あまり政治的な意図を読むべきではないのかもしれない。それでも、共和党側は保護政策は出さないだろう。
 話をFOMCの金利の決定に戻す。関係者は、「ま、低金利でしょ」で決まりだが、それで済む話でもない。17日のNew York Times"The Cost of Cheap Money"(参照・要登録)では、このあたりをわかりやすく説明している。

The Federal Reserve Board announced yesterday that it would keep its overnight interest rate where it has been for nine months - at 1 percent, its lowest level since 1958. Factor in inflation, and Alan Greenspan is essentially lending money at a loss. This cannot go on indefinitely, and it should not go on much longer.

 "at a los"は高校生の英語じゃないんだから、「途方に暮れて」ではない。赤字を出して、ということだ。マイナス金利ってやつだ。New York Timesとしては、FOMCの作文問題ではなく、実際の金利を問題視している。
 実際このマイナス金利が効果的に効いているのは、住宅バブル、おっと、住宅市場の好調さだ。これもざっくばらんに言えば、住宅市場が好調なので住宅の資産価値が上がり、その上昇分の皮算用のローンが消費に回っている。New York Timesの言葉を借りたほうが上品か。

There is no question that the Fed's loose monetary policy helped jolt the economy back to life last year. It increased corporate profits and prompted consumers to refinance their mortgages and to spend their way into plenty of other debt.
(中略)
Many homeowners, and consumers in general, are borrowing recklessly, betting that rising housing prices and easy credit are here to stay.

 なんつううか、国を挙げてのマッチポンプ感がある。住宅投資は投機的ではないとはいえ、その市場がポシャれば一巻の終わりだ。残るは負債の山ってやつだ。なんか日本人には懐かしいメロディが聞こえてきそうだ。
 グリーンスパンもわかってはいるようだ。「(2/24)FRB議長『米住宅公社、金融システムの脅威に』」(参照)より。

【ワシントン=吉田透】米連邦準備理事会(FRB)のグリーンスパン議長は24日、上院公聴会で証言し、米政府が事実上の信用保証を与えている米住宅金融公社について「このまま負債が増え続けると米金融システムを脅かしかねない」と警告した。

 彼が問題視しているのは、住宅市場に資金供給する上で重要な役割を持つ米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と米連邦住宅貸付抵抗公社(フレディマック)の負債だ。この問題にはここではこれ以上突っ込まない。
 いずれにせよ、New York Timesは前回のFOMCに反対してこう提言している。

The Fed should gradually wean the country off such extraordinarily easy money before it is forced to do so abruptly, and painfully. It cannot wait until after the election, nor until it sees inflation pick up. Rates are so low that the Fed has plenty of room to move before being accused of adopting a restrictive monetary policy. It needs to get started.

 "painfully"っていうのは、当然「痛み」だ。New York Timesはすでに住宅バブルの懸念を重視しているのだ。考えてみえれば、それが問題視されていたのは、一年くらい前のことだ。IMFも注意を出していた。たとえば、「米住宅バブル『崩壊、打撃は株の2倍』--IMFが警戒」(参照)。しかし、この間、なんとなく、イラク戦争だの選挙戦だのに気を取られて、「も、大丈夫!」ってことになっている。
 確かに、神様(グリーンスパン)がついているなら、大丈夫かもしれない。が、彼の任期は2004年6月20日。ブッシュはさらなる再任の意向をすでに示している。ブッシュ父殿にお仕えした大久保・グリーンスパン・彦左衛門は、まだ、がんばらなければならないのだ。若い奥さんとクラリネットを吹いてる老後はまだ先だ。と茶化してもなんだが、この雰囲気だと辞任はできなかろうな。
 私は現状の雰囲気だと米国大統領選はブッシュが再選されるように思う。グリーンスパンも後継に知恵を授けているのではないか(って、誰が後継だ?)。
 私は経済がよくわからない。このまま米国が低金利でやっいけるものか、考えたが、なんもわからない。バブルがあって、またつぶれても、やり直せる、っていう前向きな考えが米国的なのかもなとも思う。無責任だが、日本人にできることは円介入くらいなもの。輸入を促進する気はない。ただ、こうした背後の動向が米国を決めていくのだろうなとは思う。

追記2004.3.23
svnseedsさんのコメント(参照)は、私のブログより面白いかもしれない。ので、そちらも読まれることをお薦めする。

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「時事」カテゴリの記事

コメント

どもです。久しぶりの経済ネタなのでまた出てきちゃいました。
本当はイスラエルの話とかスペインの話とかでも出てきたかったんですが、よく考えるとちゃんと言えることがあんまりないので出てこれませんでした。ううむ情けない。

ちょっとばたばたしてるのでまとまりないですが思いつくまま挙げてみます。

18日に公表になったのは1月分の議事録ですね。FF金利が据置きだったのは、この時点ではまあ雇用環境の問題もありますが、まだディスインフレの懸念があるから、の方が大きかったと思います。FOMCは公式にはインフレとディスインフレのリスクは半々だと言ってますね。

FOMCといえば、実際にマーケットに影響があったのはその前の16日の声明の方で、2月の時より雇用環境について弱気になってたのが材料になりました。市場は当分低金利継続と見て、この日10年もの金利が(8ヶ月ぶりに低い)3.69%と更に低下(価格は上昇)しました。金利引上げを8月から11月にずらして織り込んだらしいです。

で、この長期金利低下を受けて、今後またしばらくはモーゲージのリファイナンスが続くでしょう。僕はこの消費行動はある意味健全だと思ってます。ちゃんと返せる借金まで諸悪の根源のように言うのはどうかなあと(日本なんかせっせと貯蓄したお金の行き場が無くて米国債買ってて、それについてまた文句つけてるんだからある意味処置なしだと思うんですがどうですかね)。それに企業や投資家だけでなく消費者も金利に敏感なおかげで、金融政策の効きがすこぶる良いのが羨ましい限りです。道具が効きやすいってことは安定しやすいってことですから。

あと、これがバブルかどうかは、まあはじけてみないとわからんのがバブルなんでなんともいえないですけど(笑)、景気回復途中でバブルが発生したって話は聞いたことがないように思います。景気が良くて行き場が無いのにお金がジャブジャブ供給され続けるのがバブルの原因ですから。今はお金の行き場は沢山あるので、バブルだとは言えんと個人的には思います。
なので、心配せねばならんのは、今後雇用環境が改善されたにも関わらずFRBが利上げをしなかった場合ですね。New York Timesが心配しているのもそこでしょう。僕はそれはないだろうと思うのですが、グリーンスパンを信用しすぎですかねえ。

それと実質でマイナス金利になるような金融政策ですが、FRBは90年代初頭の景気後退時にもやってます。当時はS&Lでぼろぼろだった金融機関救済だとかで叩かれてたように思います。
最近ではスペインが実質マイナス金利だったようですね。ディスインフレ傾向のドイツ・フランスに合わせた低金利のおかげで空前の好景気(もしくはバブル)だったそうですが、これからどうなってしまうのかな。バブルだったとすれば、金融機関や企業の暗部がぼろぼろ出てくることでしょう。

あとファニーメイとフレディマックの姉弟の件、グリーンスパンが心配しているのは彼らの負債そのものと言うよりは、それを支えているデリバティブのポジションが大きすぎることだったように記憶してます。ウォーレンバフェットも去年の春くらいから言ってました(もっと前からかも)。僕も去年の夏に何度か日記で取り上げた記憶があります。
これは中期的にはかなり大きな問題になり得る可能性があります。金利が大きく変動するようだと、ちょうどLTCMの時のように、世界中の金融機関がぽしゃんとなりかけるかも知れません。元々かつてのS&Lと同様の暗黙の政府保証という典型的なモラルハザードのケースなので、早めに手を打ってくれると良いんですけどね(ちなみにこの日の講演では、グリーンスパンは家計の負債について健全だと言い切ってます)。

また長くなってしまいすみません。finalventさんが時々意識して陰謀論を語ってらっしゃるように(そうですよね?)、僕もある意味意識して経済学原理主義(笑)的に書いてますのでその点ご理解頂ければ嬉しいです。極論同士ぶつけ合う機会ってあまりないですから。未熟者なんで物足りないでしょうがこれからもお付き合い頂ければと思います。
ではでは。

投稿: svnseeds | 2004.03.23 20:38

書き忘れたので追伸です。

「報復」ってのは、米製品に対する関税引き上げなどの処置のことでしょう。目には目を、保護には保護を、です。輸出産業の職が失われることになります。たぶん、保護した産業で守られた数以上の職が失われるでしょう。
行き着くところはブロック経済ですかね。WTOの出番はそのはるか以前に無くなるでしょう。こうはなって欲しくないものです。みんなそこまで間が抜けてないと信じてますが。

って、ネタにマジレスしてしまったでしょうか・・・。すんません。

投稿: svnseeds | 2004.03.23 23:19

svnseedsさん、ども。いや、本編?より、このコメントのほうが面白いという方が多いでしょうな、っていう感じです。いろいろなるほどって思います。特に、ファニーメイとフレディマックあたりは勉強になりました。
 ので、それはないかもぉ、みたいな点はありません。しいて言うと:

>金融政策の効きがすこぶる良いのが羨ましい限りです

っていう部分に日本の特殊性がある、というか、問題点があるなと考えています。この部分のある種のブラックボックスに対する見解は私はリフレ派とかなり違うんですよ。そこがうまく説明できないのでもどかしいというか、言えば、構造改革派みたいに誤解されるでしょう。大筋で言えば、私は、この点はウォルフレンの主張が正しいと見ています。日本には民間部門が存在しない、と。

>僕はそれはないだろうと思うのですが、グリーンスパンを信用しすぎ
>ですかねえ。

これはちょっと愉快。いや、失礼。そういう感じがわかるんですよ。だから、このブログを書いたっていうのがあります。

>行き着くところはブロック経済ですかね。WTOの出番はそのはるか以前に
>無くなるでしょう。

そのあたり、ブログでも書いたけど、ケリーの怖さだなと思うのですよ。日本の場合、好戦阿呆ブッシュってなことをいうとインテリだと思われているので、注意していないと。もちろん、ケリーというか民主党もそれほど阿呆なわけはないのですが…と。

視点の違いというのは自分なりにわかっています(という程度)。日本の風土だと政治って、もともと床屋談義になりそうな分野なので、そこから出ようとして、ついテクニカルか陰謀かみたいになります。そのあたりのフレーバーは避けられないかもしれないけど。ま、私は経済は政治との関連で関心がありますね。今回NY Timesをダシにしたもの、おお、言っているじゃんていうのと、次のみたいな政治の感性ですね。

In this election year, Mr. Greenspan and the other Fed officials are under tremendous pressure to stay put on rates in the absence of a tightening labor market or other signs of inflation, but such a stance would be a mistake.

というか、こういう経済の動きに配慮しないと、政治の底流が見えなくなる。イデオロギーの問題じゃねーんだよ的な部分です。

ただ、もうちょっとつっこむと、経済の施策それ自体がイデオロギーっぽい。この点、リフレ派の人って、あまり自身のイデオロギー的な反照って理解してない気がします。っていうと、批判っぽいですが、そういう意味じゃなくて、経済における正しさというのは、いずれ政治的なEvaluationが返ってしまうわけです。いいにせよ悪いにせよ。そのあたりを、発言というのは常に政治のルーチンなんで、補正的な意識が必要かなとは思います。野口旭の悲壮感っていうのはそのあたり、政治的に見られることの割り切りがないんだろうなとか思います。

投稿: finalvent | 2004.03.24 13:19

ケリーの怖さ、よくわかります。リベラルって言うと保護主義なんですよねえ米国って。変な国。クリントンも1期目はひどかったですよね。

ちなみに僕にとってベストのシナリオはケリーが当選、クリントンのように途中で改心(笑)して自由貿易推進者となる、ですかね。日記にも書いたんですが、民主党にはクルーグマン先生がついてるから大丈夫だろうと(笑)。副大統領になりそうなエドワーズにも、そういう意味でちょっとだけ期待してます。

一方、ブッシュにはなんだか底知れない闇があるような気がしてます。それこそ陰謀論ですが、テロ直後のペンタゴンの写真、どうみてもジャンボジェットが突っ込んだように見えないですよねえ。そのうちぼろぼろ出てくるんじゃないかと思ってるんですが、さてどうでしょう。

投稿: svnseeds | 2004.03.24 22:04

svnseedsさん、ども。その感じはわかります。クラーク本が今話題だけど、しかし、もともとイラク攻撃は9.11とは別に構想されていたので、頓珍漢な感じを受けます。あえていうと、ブッシュ一人を屠って済む問題じゃないのですが。ケリーで変化するかな。私はあまりケリーを評価してないですよ。

投稿: finalvent | 2004.03.25 09:48

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