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2004.03.23

アハマド・ヤシン殺害

 今朝の各紙社説は公示地価よりアハマド・ヤシン殺害の話題を優先するかとも思ったが、そうしたのは朝日だけだった。が、この問題で朝日新聞の社説を読む意味はゼロ。社説作成プログラムで書いているような内容になるだけだ。喧嘩両成敗、ヤシン老にも良い面はあったみたいな文章は大学入試向きなのか。
 アハマド・ヤシン殺害を事件として見た場合、それはなんなのだろうか。私も日本人で、ぼんやりしていると日本のメディアのぬるい空気にまどろんでしまい、和平プロセスはどうなるだとか、報復合戦みたいなことはもうよせ、とか自動的に思いがちになる。だが、極東ブログで見てきたように、アッバスを退けたあたりで、和平プロセスなんてものはチャラになっていたのだ。そして、和平プロセスと見られていたイスラエル軍のガザ撤退の意味は、こういうことだったのだ。つまり、ガザ撤退は和平のプロセスではないとイスラエルは考えているわけだ。ここでむかついてもしかたあるまい。
 事件として見た場合、欧米の報道では「暗殺(assassination)」としているように、厳格にアハマド・ヤシン個人を狙ったようだ。ロイターによれば、22日未明、ガザのモスクを出た車椅子のアハマド・ヤシンを武装ヘリコプターで銃撃した。死者は数人出たとのことだ。どう殺したって殺害だという粗暴な見解はさておき、爆弾を使っているわけではない。ピンポイント称するふざけた誤爆ミサイルを使ったわけでもない。念入りに計算された殺害計画であることは確かだ。
 ネットが普及したおかげで、あっという間にイスラエル国内の報道が読める。いくつかザップしてみると、暗殺計画は日曜日に実施されるはずだったが、市民を巻き込むことを避けるために慎重に延期されていたようだ。つまり、これは、イスラエルにしてみれば、法的な処刑の延長のようなものだろう。実際、シャロンはそんなふうにほざいていた。
 ここで私的な感慨にふけってもなんだが、隔世の感がある。昔のイスラエルなら、南米に逃れたナチス犯を拉致して無期懲役にしたものだ。イスラエルには死刑はない。が、それが今回の事件で建前になってしまったのかと思う。この殺害をもっと明白な政治的な主張にしたかったのだろうか。それでも屠るってやつだなと思う。私が気になるのは、この屠殺がイスラエルの国内向けになされたものか、海外を意識していたのかということだ。海外の反応や今後のテロの活性をまったく意識しないでやれるわけもないが、それを重視できないほどシャロンは追いつめられていたのか。シャロンを追いつめないことが和平の可能性かもしれないとも思う。
 アハマド・ヤシン屠殺は念入りな計画であったわけだから、別に陰謀論的に考えなくても、当然、米国は黙認していたということになる。時事ニュースでは、ライス米大統領補佐官はNBCのインタビューで「事前の警告はなかった」として、米国政府が暗殺計画を承認していたとの見方を否定したというのだが、ライスだけ「あたし、聞いてねー」っていうわけもない。問題は米国の黙認は同意ということなのかだ。"Jerusalem Post"(参照)では微妙な書き方をしている。


 Although American officials were not told about the assassination in advance, Sharon told the MKs that American officials were aware that significant steps against terror would be taken before Israel withdraws from Gaza Strip settlements.
 "In all meetings with American and other international officials, it was made clear that specifically because we intend to take far-reaching [diplomatic] steps, our actions against terror would become more severe," he said.

 くどいようだが、米国政府は黙認していたと見ていい。この黙認は、当然、つまり、陰謀論とかでなくても、イスラエルロビーの影響があると見ていいだろう。そしてこれも当然のことだが、この殺害はブッシュ陣営に不利にはならないというわけだ。この先は陰謀論になるので立ち入らない。
 敬老国日本では車椅子の爺さんなんか殺すなよということだが、イスラエルにしてみれば、このテロリストの親分によって国民が何人も殺されたのだから、その責務で処刑するという論理だ。ちょっと物騒な言い方だが、その論理は、オウム事件で麻原を処刑するのとたいして変わらないようにも思う。
 和平や平和というのを、自己や自己の国家幻想に外化して語ることは、私には偽善感がつきまとう。今回のアハマド・ヤシン殺害はどこをどう見ても、是認されるものではないが、外野から正義を語る問題でもないだろうとは思う。

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コメント

ご無沙汰してます(^_^)
今回、ハマスを良いとは思わないし、彼らが過去に行ってきたテロ行為は許されざるものではないけれども、イスラエルが根源であることは確か。今回の問題で、もう少し中東情勢が正しく知れ渡るといいんですけれどもね(^_^;
ということで私も記事にしてみました…。
http://bakapon.way-nifty.com/kimaden/2004/03/post_53.html

投稿: バカぽん | 2004.03.23 12:29

バカぽんさん、ども。このあたりの歴史って、高校生くらいで知っておかないといけないって思いますよね。最近手頃な解説書ってないのでしょうかね。

投稿: finalvent | 2004.03.23 12:43

こんにちは。
この事件は、無知な私なりにも衝撃を受けました。
数年前からあやしかったけど、完全に火蓋が切られたのだ
という感じで。
続報では、暗殺者リストが作られているとか。

中東、イスラエルの事情は、一応高校の世界史でざっと
習うんですよね。(当方36歳)でも、現代史は受験に近い頃
になってしまうため、駆け足になって、あまり考える人は
いないのかな。ただの暗記事項になってしまうというか。

イスラエルは一体、どこにいこうとしているのか、
正直わかりません。
大昔の領土の完全復活? そ、そんな。
しかし、イラクにクルド系ユダヤ人を入植させる計画も
あるらしいし(ま、石油もあるし)、そうなのかも。

「D.I」という映画があって、それは主にイスラエル
国内のパレスチナ人が描かれるのですが、不自由やらテロが
日常になって長く、もはや失感情状態のような人々(でも
微妙にいらだってる人もいる)が
シュールに描かれていました。(凍りついた笑いって感じ)
で、ラストシーンの背景に、コンロに鍋がかかっていて(蓋付き)、
それが沸騰して蒸気をあげているんですよね。
沸騰しすぎて、今にも鍋の蓋が飛びそうでした。
この煮詰まった感じが、イスラエル内パレスチナ人の暗喩
ともとれました。

この、イスラエルにパレスチナ人がいる(不自由しながら)
といった情況にも、イスラエルはちゃんと対処すべきだと
思うし、パレスチナ領の人たちとの間でも、もうドライに
追い出したことへの慰謝料をバーンと払ってみるとかどうよ?
というのがとりあえずの私の考えだったんだけど、
シャロン首相は「ハァ?」としか思わないんだろうな。

まとまりなくてだらだらでスミマセン。では。

投稿: タマ | 2004.03.26 18:51

タマさん、こんにちは。この問題は歴史と政治と関係した難しい問題です。イスラエルでもシャロンがそれほど支持されているわけでもないとは思いますし、同じような状況はパレスチナにもあるのでしょう。話はずっこけますが、「パレスチナ人」ってなんか既存の概念のようですが、元来は「アラブ人」ですね。このあたりの部族、宗教、そして、もっと重要な商業慣習など、私自身、あれれ勉強が足らんぞという感じです。

投稿: finalvent | 2004.03.26 19:07

レスありがとうございます。
そう、勉強不足ですね。反省して勉強します。。。 まぁ、アホな事言っても、黙っているよりは勉強の契機になるだろう、てな無礼な感覚で書いてしまいました。でも実際そうなので。私の場合。
パレスチナ人という表現はおかしかったですね。しまった。アラブ人だというのは認識しています。失礼しました!

投稿: タマ | 2004.03.26 19:31

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