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2004.03.13

盧武鉉大統領の弾劾

 韓国ネタはしばし書くのを控えようと思ったが、少し書く。韓国の国会が盧武鉉大統領の弾劾訴追案を可決したことに関連した話だ。日本語で読める主要韓国紙は日々ざらっと追っているのだが、率直な感想をいうと、このどたばたはうんざり感がある。韓国人はなぜいつも大統領を屠るのだろうという感じもする。つまり、またかという感じだ。だが、そう思いつつも、私は韓国人の心情までわかるわけでもないとも思う。そこには距離を置くのが隣国民としての礼儀のように思う。
 が、礼儀を欠くやつもいる。朝日新聞社説「大統領弾劾――韓国の迷走を憂える」と標題に「憂える」としながら、ふざけたお笑いを書いていた。与野党をクサシてこう言う。


 どっちもどっち。双方が意地を張り合い、妥協の可能性を閉ざして、行くところまで行ってしまった。北朝鮮の独裁者、金正日総書記もびっくりの展開に違いない。何ともはやである。

 下品なお笑いだと思う。少し頭を冷やせば対岸の火事とばかりも言えなかろうに。産経社説は朝日のようにお笑いを取ってはいなかった。一番まともなのは毎日新聞社説「韓国大統領弾劾 対北外交への影響最小に」に思えた。

 大統領弾劾は、異例の事態である。だが非常事態になったわけではない。総選挙と弾劾審判という枠組みの中で、粛々と結論が出ることである。北朝鮮を含めた周辺国が韓国の混乱を過大に理解すべきではないだろう。

 またしても読売はネタを揃えてないのだが、各紙の社説を読みながら気になったのは、韓国大統領の任期が一期五年に限られるという補足がなかったことだ。
 韓国の大統領制にはシステム的な弊害もあると思う。一期しかないために、任期の後半には支援者が次期大統領への思惑に走ってしまうのだ。補足がてらに言うと、この限定は1987年に長期政権による独裁化を防ぐためにできたものだ。全斗煥7年さらには朴正熙18年の弊害の反省でもあった。
 社会システム的には、もう一点、韓国社会の世代間の分裂のようなことが気になる。先日、このブログでも反日法について扱ったが、実際に生の若い韓国世代に触れている人から見れば、反日といった社会トーンは若い世代にはそれほど及んでないとの指摘を受けた。たしかにそうだろう。日本でも2ちゃんねるの投稿を若い世代の意見と言われても、そりゃーねというものだ。
 関連して先日、ネタにするのはボツったのだが、中央日報に大前研一の韓国講演の要旨が掲載されていたのが興味深かった。「『韓国、このままでは所得2万ドルは夢』大前研一」(参照)だ。話の骨格は隊長こと山本一郎が大前を評して経営者がかかるおたふく風邪といったように、毎度毎度といった趣なのだが、個別の指摘は興味深かった。気になる指摘はこうだ。

 彼は「韓国は日本植民地時代の世代、韓国戦争(1950~1952)世代、1万ドル経済世代など、各世代間の認識があまりにも大きい」とし、世代間の葛藤克服が韓国の優先すべき課題だと指摘した。

 大前に言われるまでもないといえばそうだ。しかし、この問題の根は深い。また、もう一点だけ引く。

 彼は「大統領の権限が強く、官僚の認許可で企業の運命が左右される限り、韓国の慢性的な『政・官・財の三角癒着』は解消されない」と述べた。

 こう言うと批判される向きもあるだろうが、韓国は国の発展に日本モデルを採用している。日本と同型でもあるという意味で、こうした社会問題は日本の鏡でもあるだろう。
 ただ、「政・官・財」というとき、「政」が日本においては、自民党と地方を意味するのに対して、韓国ではそこに大統領が出てくる。日本の社会構造も今となってはろくでもないことになったが、大統領を持たないことのメリットもあるだろう。
 世代間のギャップについては、韓国の場合、第二次世界大戦後の戦史の影響も大きい。このあたりの話は、ベトナム戦争従軍の経験のない日本の本土人にはどうしてもわかりづらいものがあるのだろう。

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コメント

つらつら考えるに、韓国の政治闘争が相手が変わり、時代が変わっても、延々と続いていくのかは昔ながらの両班時代からの伝統じゃないかと思うのです。

李氏王朝の時代から朝鮮では政治闘争が常に繰り広げられてきました。しかもその原因が本の些細な相違に過ぎないのに場合によっては国論(但し、朝鮮の場合には特権階級である少数の両班階級の間のみ)が四分五裂し、政権をとった側は敗者を全てチェジュ島へ島流しにしてしまいます。

彼ら両班にとっては国益は二の次なのです。一番大事なのはどの論が一番筋が通っているかということであり、そのためには場合によっては自分の立場を危険にさらしてまで党派を組んで闘争に明け暮れるのです。
もちろんこれにアジア的な政治要素の悪弊である独裁政治の腐敗が加わり、行政は泥沼化していきます。

結局のところどうするんだべ。という結論ですが、どうしようもないんじゃないですが。
私個人の予想としてはこれが崩れるとしたら、韓国の優秀な人材が韓国の苛烈な受験戦争に(これも両班の科挙の名残にして未だに社会体制が続く原因)勝ち抜いて財閥企業に入ったり官僚になるとしても必ずしも得にならない体制。つまり自分でベンチャーやったほうが面白いという時代になったとき、初めてこの体制が崩壊するんじゃないかと思います。

投稿: F.Nakajima | 2004.03.13 12:20

F.Nakajimaさん、どもです。F.Nakajimaさんの意見はよくわかるように思います。というか、かなり的確な認識に思えます。

ただ、韓国の人は嫌がるでしょうし、日本人もそう理解するのは嫌なものかもしれませんが、両国民はまさに鏡のような関係にあるような気がします。

もちろん、日本には両班はありませんが、韓国の近代化の歴史を見ると、日本の近代化をよく見てその歴史の克服に苦戦されたかたも多いように見えます。しかし、そういう歴史は今の韓国はからはこぼれ、また日本でも取り上げづらい感じはします。

と、どうしようもないのでしょうが。

投稿: finalvent | 2004.03.13 13:47

こんにちは、初めてコメント差し上げます。

「大統領弾劾」などという字面はたしかに見た目ショッキングですが、ニュース(KBSをKNTVで見てると…)では、市民は大概に冷静、というか既に呆れてるし、プロ野球のオープン戦も予定通り始まる(笑)し、毎日新聞が見る通り、弾劾の影響は最低限なのではないかと思います。

韓国の世代間の葛藤、というか乖離の問題は、政治に限らず私も端々に感じます。
お二人のご指摘通り、韓国は伝統的に極端なトップダウン社会でありながら、実際には民主化以降世代の発言力が高まっているという矛盾が未だ並列的にあって、その葛藤が廬武鉉政権の是非という形で、一気に出て来たのではないかと思います。
だから、逆に総選挙ではっきりさせましょう、というのが、現在では一番みんなが納得いく解決法かも知れません。

面白かったのは、KBSのニュースの中で「建国以来大統領が弾劾されたのは今回で4回目」と、4.19革命の李承晩失脚から始まって、現在までの歴史のおさらいをしていたことです。
もしかして20代くらいの韓国人になると、20代の日本人に「ノーベル平和賞を貰った日本人首相は誰?」と聞いても分からない(笑)のと同じレベルで、30〜40年前のことなんか知らないのかもしれません。
確かに、そういう意味の世代間ギャップもかなり進んでいるかと…。

投稿: もんもんい | 2004.03.13 21:16

もんもんいさん、初めまして。ブログ拝見しました。現代韓国お詳しそうですね。いろいろ教えてください。

投稿: finalvent | 2004.03.14 09:32

finalventさま

いやいや、私はもともと、韓国の歴史とか政治とかきちっとした(?)話題より、アートとかジャズとか、ゆるい方の話しから入った人間ですので、そのうちあまりのゆるさに呆れられるかも知れません(苦笑)。
私もfinalventさんのblog拝読して、いろいろ勉強させていただきます。
これからもどうぞ宜しくお願いいたします。

投稿: もんもんい | 2004.03.14 20:43

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受信: 2004.03.13 11:54

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